雲の、——向こう側へ。
彼女の子供の頃の夢は、世界を旅することだった。
彼女は「空」を見たことがない。
生まれながらにして、荒廃した世界の姿を目の当たりにしていた。
ゴーストタウンと化した街のそばで、かつて存在した世界の景色をいつも、想像していた。
空が青いということを知らなかった。
雨の降らない世界があるということを、知らなかった。
倒壊したビルの瓦礫を見て、そこに人々の暮らしがあったということを想像することもできなかった。
乗り捨てられた車が、どこに向かっていたのか。
ひび割れたアスファルトの道が、どこに続いていたのか。
いつも想いを馳せていた。
世界には豊かな緑が広がっていたと、おとぎ話のように聞かされてきた。
彼女には信じられなかった。
海を泳ぐ魚がいたということも。
夜空に輝く星が、無数に広がっていたということも。
いつか自分の目で、「世界」を見たいと思っていた。
雲の向こうにあるとされる「青」を、見たかった。
雨上がりの後に見える空の色を見たかった。
ずっと、その気持ちが変わることはなかった。
こうしてE・ゾーンの中腹を滑空していく、今も。
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