スペースシップ☆ユートピア

永遠の時を旅する2人の少女の愛の物語
千葉生まれのTさん
千葉生まれのTさん

102話・124年目・名探偵のお仕事

公開日時: 2022年3月5日(土) 22:13
文字数:3,059



「よし!早速通気ダクトを調べてみよう!」


エリザベちゃんの誘拐に使われた可能性が高い通気ダクト。

ここを調べれば、新たな手掛かりが見つかるかもしれない!


「だったら、アタシが行くよ!

肉体労働なら任せて!」


カイちゃんがそう意気込むも、冷静な私が制止する。


「まあ待ちなさい。

あの通気ダクトは見た感じかなり狭そうだ。

カイちゃんが突っ込んだら、確実にその贅沢な胸がつっかえる!」


「ええッ!?……た、確かに!」


私と佳奈子さんの視線が、カイちゃんの胸に集中する。


「…確かに贅沢ね。引っ掛かる可能性が高いわ。」


佳奈子さんまで羨ましそうにそう呟いている。

うーん、つくづく罪なおっぱいだ。けしからん。


「だから、今回は一番小柄な私が行く事にする。

肉だらけのカイちゃんと違って、スリムな私なら楽勝だしな。」


「うひィ!贅肉まみれでごめんなさいッ!

白狐ちゃんならエリザベちゃんと体型も近いから、大丈夫だよね。」


ふん、私は別に体が小さい事を指摘されても特に気にしないからな。


「じゃあ、カイちゃん肩車して。」


「イエッサー!」


文字通りカイちゃんの肩を借りて、通気ダクトまで手を伸ばす。

結構ギリギリの高さだったけどなんとか蓋を外す事に成功して、中へと侵入する事が出来た。


「むぐぅ、暗いな。」


当然だけど中は暗くて殆ど何も見えないので、狭いダクト内で器用に体を捻って、懐からスマホを取り出し、ライト機能を使って視界を良好にする。


「ん?これは…!?」


照らした直後、ダクト内の少し先の場所に何かが落ちているのに気が付いた。

よく見てみるとそれは、さっき個室トイレで発見したのと同じ物、エリザベちゃんのシューズのもう片方だったのだ!


「よっしゃビンゴ!こっからもっと先に進んでみよう。」


よじよじと芋虫みたく通気ダクトを這っていき、やがてゴールに辿り着いた。

そこは、レストラン裏手の駐車スペースの一番端っこだった。

すぐそこにはフェンスがあり、ちょうど人一人通れるくらいの穴がこじ開けられている。


「こいつぁ臭うな。犯罪の臭いがプンプンだぜぇ!」


取り敢えずカイちゃん達を呼んで、成果を報告する事にした。









◆◆



「……白狐ちゃん、汚いね。」


「おおうッ!?」


電話で呼び出し、レストランから出て来たカイちゃんと、エリザベちゃんのママ&パパ。

そしてカイちゃんの開口一番の台詞が、言いにくそうな「汚いね」だった。


「へ?なんで汚い?」


「ほら、自分の服見てみて。」


「うん?……あぁ。」


自分の着ていた探偵コスプレセットを見て、納得した。

所々が煤や変な汚物がこびり付いて変色している。

オマケに匂いもキツい。

それもこれも、通気ダクトなんか通ったからだ!

しかもこの探偵コスプレセット、滅多に着るもんじゃないから不変力を使うのを忘れていた。

こりゃあ、クリーニングに出さないと駄目だな。


「いやでも、この服を汚しただけの成果はあったぞ!

ほら、見てみ!」


私は通気ダクト内で発見したエリザベちゃんのシューズの片割れと、犯人はフェンスに開けられた穴の先に逃げた可能性が高いという手掛かりを報告した。


「それじゃあ、事は一刻を争う訳だし、早速フェンスの先に行こう!」


そうカイちゃんが息巻いていた、その時である。


ビーガシャン!ビーガシャン!

と、独特な怪音が鳴り響いた。

まるで、巨大な機械工場でピストン運動する巨大機械の駆動音みたいな音だ。


「え?これ何の音?」


「あらごめんなさい、アタクシのスマホの着信音だわ。」


原因は佳奈子さんだった。

随分と癖のある着信音だこと。


「全くこんな時に電話なんて………って、まさかのエリザベスからだわ!」


その一言に、私達の空気が張り詰める。

エリザベちゃん本人からの電話か?

それとも……!


「佳奈子さん、念の為スピーカーモードでお願いします。

犯人が仕掛けた罠の可能性もあるので、私らにも聞こえるようにしときたいんです。」


「ええ、分かったわ。」


思わず電話に出そうになった佳奈子さんだったけど、私にそう言われて冷静になり、スマホを少し操作してスピーカーをオンにしてから通話を始めた。


「エリザベスッ!?エリザベスなの!?

お願い返事をちょうだい!アナタは今無事なの!?

お願いだから答えて…」


『おっとそこまでだ!アンタはエリザベスちゃんの母親で間違いないな?』


向こうから聞こえた声は、エリザベちゃんの愛らしい声とは似ても似つかない、低くて下卑た感じの声だった。

当たって欲しくない予想が当たってしまったか。

これでもう、エリザベちゃんの誘拐は決定的なものになった。


「…そうですけど。」


『よーし!ならこっちの用件は分かってるよなぁ?』


「お金ですか?お金なら幾らでも払いますから、どうかエリザベスだけは…!」


『うんうん、やっぱ偉い人は話が早くて助かるぜぇ!

エリザベスちゃんから聞いたぜ!

アンタ、あのトレジャーピッツァの社長さんなんだってなぁ!?

たんまり弾んでくれるのを期待してるぜ!』


なんとも下品な男だ。

マジモンの犯罪者に初めて会うけど、ここまで低俗なものなのかと逆に感心するわ。

カイちゃんが横から口を挟みたそうにウズウズしてるけど、流石に今は我慢だ。

下手に犯人を刺激しないよう、今は佳奈子さんに任せなければ。


『現金1000万ドルを今から指定する口座に振り込め。

そうすりゃ娘さんは返してやるよ。』


随分とアバウトな指示だ。

特に、いつどこでエリザベちゃんを返すのかが分からない。


「ちょっと、もう少し具体的に…」


『おっと、そっちからの質問は無しだからな。

こっちの要求さえ素直に聞いてくれたら、エリザベスちゃんは無事に帰ってくる。

シンプルにただそれだけだ。』


交渉に不確定要素を極力混ぜ込ませないよう、自分達の意見を一方的に押し付けてきている。

この男、かなり手慣れているな。

恐らく、こういう身代金目的の誘拐を何度も繰り返しているのだろう。

で、成功して味を占めてる。そんな感じだろう。


『今、口座番号をそっちのスマホに送っておいた。

いいか、分かってるとは思うが絶対に口外無用だ。

期限は今日の15時まで。それじゃ。』


好き勝手言っておいて、こちらの話を一切聞かずに切りおった。

エリザベちゃんの安否も分からないうえ、あと3時間足らずの時間で1000万ドルという大金を用意しなければならない。

大企業の社長とはいえ、すぐにそんな大金を出すのは容易ではないだろう。


「1000万ドル、ね。

ウチの可愛いエリザベスにそんなはした金の価値しか見出せないなんて、犯人もえらく小物だわね。」


佳奈子さんが変な部分で怒っていた。

どうやら、1000万ドルはすぐに問題無く用意出来るらしい。

さっすがブルジョワ!


「このまま1000万ドルを犯人に渡せば、恐らく事件は解決か。」


「…白狐ちゃんはそれで満足?」


カイちゃんがそう聞いてきた。


「はぁ?する訳ないだろ!

ここまで手掛かりを掴んだんだ、犯人は絶対に見つけて警察に突き出してやる!」


犯行から大して時間も経ってないし、まだ犯人はこの近くに潜んでる筈なんだ。

今逃したら、捕まえるのはどんどん難しくなってしまうだろう。


「…そうね、アタクシがお金を渡したら、彼らはつけ上がってまた誘拐を繰り返すでしょう。

こんな悲劇は、ここで止めるべきだわ。」


「その通りデス!犯人は即刻引っ捕えて打ち首獄門デス!」


佳奈子さんとビルさんも賛同してくれた。

ビルさんは若干物騒な事言ってるけど。


「フフ、白狐ちゃんならそう言うと思って、今回は強力な助っ人に協力を要請しておいたよ。」


「…助っ人だと?」


何だそりゃ?

カイちゃんの不敵な笑みが、妙に心強く思えた。



⚪︎2人に質問のコーナー


カイちゃんの幼い頃の夢は?


「アタシの事を虐めてくれる理想の幼女と結婚する事かなー!

つまり白狐ちゃんとー!」

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