野茂咲さんに別れを告げて、私達は一旦、家に戻った。
私の部屋を、もう一度調査する為だ。
「取り敢えず、他に仕掛けられてる物が無いか、徹底的に探してみよう。」
「ラジャー!」
私とカイちゃんは、ショウからレンタルした盗聴器や監視カメラを発見する機械を駆使して、隅から隅まで探し回った。
その結果ーー
「ペン立ての中に見慣れないボールペンがあったと思ったら、実は超小型の監視カメラが仕込まれていました、と。」
「うん。」
私は部屋のテーブルの上に、問題のボールペン を転がす。
一見、なんの変哲もない普通のボールペンだけど、よく見るとキャップ部分に小さなレンズがあり、実はカメラだという事が分かる。
「更にはもう一つ、エアコンの送風口の隅に、超小型カメラが仕掛けられていた、と。」
「うん、キモいね。」
懸命な捜査の結果、見つかったのはその二つの隠しカメラ。
プラス、前に見つけた本棚の盗聴器。
カイちゃんと野茂咲さんを信じるならば、第三のストーカーとやらがこれらを仕掛けた犯人の筈だ。
「白狐ちゃん、また野茂咲さんの時と同じように、電波を辿って犯人を探そう!」
「勿論!私の聖域を侵す者には、制裁あるのみ!」
こうして、私のストーカー事件第3ラウンドが幕を開けた!
◆◆
「ここ、か。」
「うん、間違いないね。」
行き着いた先は、またもや近所の民家だった。
表札を見たら、『花輪』と書かれている。知らない苗字だ。
「くそぉ、やっぱ知らない人の家のチャイム押すのは、メッチャ怖いな。
これで、ヤバさ全開のスーパーウルトラ変質者が出てきたらどうしよう。怖過ぎる。」
「…まあ、ストーカー行為をするような人だろうから、可能性は無くもないよね。
アタシもモデル仲間で、ストーカー被害に遭ったって知り合いもいたけど、犯人が本当に病んでるような人でヤバかったって言ってたもん。」
「なにそれこっわぁ…!本番直前にそんな話するなよぉ。」
不変力のお陰で、襲われても怪我とかをする心配は無いけれど、それは物理的な怪我の話。
不変力でも補えない精神的なダメージを受ける危険性は、充分にある。
「白狐ちゃんは押しづらいだろうから、アタシが行くよ。」
「カイちゃん、本当ありがとう。」
「白狐ちゃんの為なら、このくらいは何ともないよ!」
うう、カイちゃんと知り合ってからの3年間の中で、今この瞬間が一番彼女に感謝してるかもしれん。
ピンポーン!
「ごめんくださーい!」
と、カイちゃんが花輪家のチャイムを鳴らし、中の人へと呼び掛ける。
1秒ごとに、緊張で私の心臓がバクバクと激しく鼓動しているのが分かる。
ただ、しばらく待ったけど誰も出て来ない。
「カイちゃん、この家の駐車場に車停まってないから、どっか出掛けてるんじゃないの?」
よくよく考えたら、今は平日の昼過ぎだ。
大抵の大人は、仕事に出掛けている時間帯だろう。
「うーん、じゃあもう少し時間経ってから出直す?」
「そうだな。」
私達が諦めて立ち去ろうとした瞬間、花輪家の扉の奥から、階段を降りて来るような足音が聞こえた。
「…誰か来るみたいだね。」
「……ゴクリ。」
ガチャリと、扉が開かれる。
出て来たのは、いかにもそれっぽい男性だった。
「ほむほむ、我がマイハウスに何用ですかな?」
歳の頃は30代前後だろうか、背は高くて痩躯、鼻の辺りまで伸びきった前髪の隙間から、薄っすらと両目が確認出来る。
ちゃんとに手入れされていないであろう無精髭に、着ているTシャツには『働かざるもの沢山食うべし』と格言みたいな格言じゃない言葉が書かれている。
そのおじさんは、私達の顔を確認するなり、ギョッとしたような顔つきになって明らかに動揺していた。
「なあッ!?ただ今マイハウスには拙者しかおりませんので、ご用がお有りなら書簡にてお願い致したく候ッ!」
男性は、珍妙な昔言葉を使いながら、逃げるように扉を閉める!しかし!
「待って!」
その反応を予期していたのか、カイちゃんがすかさず自分の足を扉に挟んで、それを阻止した。
ナイスカイちゃん!
「こおおォォォ!!き、君達は拙者に何の用があるのかねッ!?
すまないが、拙者の知り合いリストの中には、君達のような三次元美少女はおりませぬ故ぇ!
というか生まれてこの方32年、家族以外の女性と話した事など片手で数えるくらいしかありませぬ故ぇ!」
「あーもう、聞いてて悲しくなるような事言ってないで、大人しくアタシ達の話を聞いてよッ!」
カイちゃんが扉をガシッと掴み、力任せにオープンザドア!
あまりに力が強かったからか、男性は吹っ飛ばされて玄関で尻餅をついてしまった。
「ぐへッ!」
初見でこんなに拒絶的な反応を見せるという事は、この男にやましい事があるという裏付けになる。
私とカイちゃんは、威圧感たっぷりに男の家の玄関に上がり込んだ。
「ヒエッ!?」
地べたに座り込む男は、私とカイちゃんの怒りの形相を前に、完全に怖気付いている。
「…じゃあ、不躾ながらお邪魔しますねぇ。
大丈夫、ちょこっとお話伺うだけですからぁ。」
「ヒヒィッ!?」
笑顔だけど、目は笑ってないカイちゃん。
怒らせると実は怖い人ってのは、案外こんなに身近に潜んでるもんなんだな。
◆◆
私達は、男にリビングへと案内されて、食堂テーブルに向かい合うように座った。
男の名前は花輪 善次。普段は近所のコンビニでアルバイトをしているフリーターだそうだ。
親との3人家族で、両親は仕事に出ているらしい。
「…はい、そうです。全部、拙者が仕掛けた物です、ごめんなさい。」
花輪は、拍子抜けする程にあっさりと自白した。
「…罪を、認めるんだな?」
私がそう聞くと、花輪は力無く首肯する。
「はい。」
「私を知ったきっかけは?」
「バイト中に、何度かお見かけした故。」
「成る程、確かにアンタのバイトしてるコンビニは、私の家からも最寄りだから、よく利用させて貰ってる。」
「…確かに、白狐ちゃんみたいな超絶かわゆい美幼女がお客さんとして来たら、ストーキングしたくなる気持ちは分かるけど、本当に実行しちゃったら駄目でしょ。」
「はい、本当にすみません。」
「カイちゃん、説得力無いなぁ。」
「はい、アタシも人の事言えなかったです。」
「ともかく、仕掛けたのは本棚の盗聴器と、あとボールペンとエアコンの隠しカメラで全部なの?」
「はい、その通りです。」
「他に発見機の反応は無かったから、多分本当だよ。」
カイちゃんがそう言うので、信じる事にしよう。
「で、バイト中に買い物に来た私の容姿が目に付いて、ストーカーを始めた訳だ。」
「あ、いや、それもあるのでありまするが…」
途端に歯切れが悪くなる花輪。
「ん?何か言いたい事でもあるの?」
「尾藤殿には、拙者と同族の可能性を感じ取ったので候。」
「……はい?」
私が、目の前のストーカーおじさんと同族だと?
いやいや、意味が分からん。
「どゆこと?」
「それは、拙者の部屋に来て頂ければ、即座に理解して頂けまする。」
花輪は私達を案内する為か、スッと立ち上がる。
「どうするの白狐ちゃん?」
「…罠の可能性もあるかも知れないけど、この人の言ってる事も気になるしなぁ。」
罠だとしても、我々には不変力があるから、最悪の事態には陥らないだろう。
地味に身体能力の高いカイちゃんもいる訳だし。
それに何より、私を同族と宣ったのがどうにも引っ掛かる。
この人と私とで、何か共通点があるというのか?
「…こちらです。」
案内された花輪善次の部屋の前に立つ。
扉は至って普通。この先に、どんな真実が隠されているというのか。
花輪が扉を開いたその瞬間ーー
「……なッ!?こ、これは…ッ!」
私の目は、驚愕に見開かれた。
⚪︎2人に質問のコーナー
カイちゃんの好きな飴の味は?
「桃かなー。ピーチピーチ!」
読み終わったら、ポイントを付けましょう!