「うまうま♪」
「……。」
うーん、デジャヴ。
「うまうま♪」
「……。」
私の目の前で、カイちゃんが大量の料理を食べている。
食べている、というよりは爆食している。貪っている。吸収している?
なんと表現すればいいのやら。
現在、ホテルでの夕食の時間で、私達は豪華で美味しいホテルバイキングに舌鼓を打っている真っ最中だ。
とにかく美味い!沖縄料理最高!
私もついつい食べ過ぎそうになる。
というか、周りにバレないようにこっそり沢山食べたりしている。
でも、私の向かいの席で食べているカイちゃんは、サーターアンダギーの時同様、我を忘れて桁違いの爆食劇を繰り広げている。
そこで、私は考えた。
もういっその事、カイちゃんを大食いキャラとして定着させてしまえば、私はその影に隠れて沢山食べれるのではないかと。
実際、私も人並みの倍くらいは食べているのに、皆がカイちゃんに注目している所為で、私なんかに誰も目をくれていない。
そうだな、そうしよう。
カイちゃんの食欲を我慢させるのも悪いし、逆に私が利用してやるのだ。
それに、幸せそうに食事しているカイちゃんの顔を見るのも、これはこれで悪くはない。可愛い。
「山岸さん凄いねー。昼間にサーターアンダギー60個食べたばっかりなのに、どういう胃袋してるんだろ?」
「…さ、さあ?」
隣の席の野茂咲さんが私に聞いてきたけど、私が答えられる訳ないやろ。
不変力の事を他の人に教える気は毛頭無いし、あれは私とカイちゃんだけの秘密だ。
それにもし不変力の事が明るみになったら、良からぬ連中が狙いに来るのは簡単に想像出来る。
あの力は便利である反面、周囲にバレた時のリスクもモチのロンで存在する。
永遠に生きていられる能力というのは、一部の人間にとっては何よりも魅力的なものなのだ。
それはそうと、相変わらず料理を暴食し続けるカイちゃんの元に、遂に担任の先生が近付いて来た。
「ねえ、山岸さん。私がこんな事言うのもなんだけど、ちょっと食べ過ぎじゃないかしら?
貴女の仕事にも悪影響だし、何より山岸さんの健康が心配だわ。」
「大丈夫ですぅ、アタシ太らない体質なんで!」
「…そ、そういう問題じゃ…」
先生、押しが弱い!
こういうお馬鹿には、思いっ切りガツンと言ってやらないと!
それでも分からないようなら、体に分からせてやらないと!
と、心の中で思うも、あくまでも心の中で思うだけで行動に移さないのがこの私だ。
でも、新米で生徒をなかなか叱れない担任の先生が、困ってオロオロしている姿を見るのも忍びない。
まあ、暴走する生徒を止められない教師というのも問題有りかもしれんけど、ここはひとつ手を貸してやるとしよう。
そういう訳で、私はスマホをスイスイっと操作して、カイちゃん宛てにメッセージを送る。
「うまうま♪うまうグッ!?」
カイちゃんのスマホの着信音が鳴ると同時に、その持ち主は料理を喉に詰まらせながらも反射的に自身のスマホを取り出し、素早い動きでメッセージを確認する。
カイちゃんは私からメッセージが届いた際の着信音を私専用のものにしている。
つまり、それが鳴り響くイコール、私からのメッセージが届く。
私からのメッセージが届くイコール、なによりも優先して真っ先に確認する必要がある。
そうして、カイちゃんは一時的に食事の手を止め、メッセージを確認したのだ。
んで、肝心の私からのメッセージには、こう書かれている。
『おい、このお馬鹿!周りをよく見てみろ!
先生困ってるだろ。そろそろ食べるの終わりにしなさい。どうせ明日の朝と夜も同じバイキングなんだから。』
私からのメッセージを目にしたカイちゃんは、まるで時が止まったかのように硬直して、左手に持ったスマホを、そして右手に持ったフォークをテーブルの上に落として、体は固まったまま静かに泣き出してしまった。
「うえッ!?」
私も周りの皆も、一様にギョッとする。
カイちゃんが、泣いた?どうして?
私に注意されたのが、そんなにショックだったか?少し言い過ぎだったか?
いや、もっとハードな罵倒なんてしょっちゅうしてるからそれは無い筈だ!
おかしい、カイちゃんが泣いたのなんて初めて見たぞ!
「…ぁ、うぅ、ご、ごめんなさいッ!」
それだけ言い残して、カイちゃんは食べかけの料理を残したまま、どこかへ走り去ってしまった。
「山岸さんッ!?」
先生は驚きのあまり頭の中が真っ白になっているみたいだ。
でも、私の頭はもっと真っ白だったのかもしれない。
気付いたら、カイちゃんを追いかけて私も走っていた。
◆◆
運動神経抜群なカイちゃんの足に、超絶もやしっ子で体育の授業ではいつも足手纏いな私が、本来なら追いつける筈が無い。
でも、パニックになってフラフラと変なふうに走ってるカイちゃんを追うのは楽勝だった。
お陰で、人気の無い客室廊下の隅で2人きりになれた。
「カイちゃん、落ち着いた?」
廊下の壁側に設置されている長椅子に並んで腰掛けながら、私は優しめなトーンでカイちゃんに聞いてみた。
「…白狐ちゃん、追いかけて来てくれたの?」
涙声でそう聞き返してくるカイちゃんは、少しだけ驚いているようだった。
「当たり前じゃん、あんな急に泣かれたりして。
私はこれでも、お前の事をいつも心配してるんだからさ。友達だし。」
あれ?私今、恥ずかしい事言わなかった?
「う、うううゥゥッ!!白狐ちゃぁぁんッ!!」
涙と鼻水だらけの顔面で、カイちゃんは私の胸に飛び込んでくる。
「あーもう、人気モデルも台無しの顔面だな、コレは。」
「でも、でもでもでも!白狐ちゃんがアタシの事心配してるって言ってくれてェェ!」
「はいはい、カイちゃんは私の唯一の友達だからね。
気になるのは当たり前でしょ。」
私の胸の中で泣きじゃくるカイちゃんを宥める為にも、カイちゃんの頭を柔らかく包み込むようにナデナデしてあげる。
効果は覿面だったのか、カイちゃんの状態はすぐに落ち着いてきて、私の胸から申し訳なさそうに顔を離した。
「白狐ちゃん、アタシの事嫌いになった?」
なんか、しおらしいお嬢様みたいな雰囲気になったカイちゃんが、唐突にそんな事を聞いてきた。
「はあ?嫌いになる訳ないでしょ、このお馬鹿!
カイちゃんにとって私が特別な存在であるのと同じように、私にとってもカイちゃんは特別なの。
あんな些細な事件だけで、嫌いになる訳ないでしょ!お馬鹿!」
うわ〜、恥ずかしい台詞第二弾を口にしてしまった。
思わず周囲を見渡して、誰にも見られていないのを確認する。
「ホント?」
「うん、本当。」
「結婚して?」
「調子に乗るな。」
私がカイちゃんの頭を引っ叩いてツッコミを入れると、カイちゃんの顔にいつもの笑顔が灯った。
良かった、元気を取り戻してくれたみたいだ。
「ねえカイちゃん?」
「うん?」
「もしかして、私に嫌われたと思って、あんなに泣いちゃってたの?」
「……はい、その通りです。すみませんでした。」
カイちゃんは、深々と頭を下げて謝罪の意を示している。
「これから、今回みたいな事は二度と起こさないと誓うので、アタシを嫌いにならないで、白狐ちゃん。
本当にごめんなさい。」
「いや、私の事はもういいから、まずは迷惑掛けちゃった先生に謝りに行こう?」
「…うん。」
私とカイちゃんが一緒に立ち上がったその時、廊下の曲がり角に誰かが隠れるような人影らしきものが一瞬だけ見えた。
「え?」
まさか、私とカイちゃんのやり取りを、誰かに盗み見られてた?
いやいや、マジっすか?
⚪︎2人に質問のコーナー
カイちゃんの好きなテレビ番組は?
「バラエティ番組とか好きかなー。特に深夜帯のやつ。」
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