「よし、これぞこの地底湖を探索するに相応しい服装よ!」
「服装……というか水着だよね。」
カイちゃんの言う通り、私達は今水着を着ている。
5人全員テント内で着替え終わり、初めてこの洞窟を探索しに来た時と同じ水着を着ている。
洞窟内の涼しい空気が肌に当たり心地良い。
トンネルを開通させても外の熱気が入り込まないよう工夫したので、洞窟内の涼しさは変わらない。
洞窟内の生態系に影響を与えない為の配慮だったりする。
「まあ、当てもなく探索しても仕方がないので、ワタクシが事前に計測器を使って、何かありそうな箇所に当たりをつけておきました。
こちらがこの周辺の3Dマップになります。」
リグリーが取り出したノーパソみたいなデバイスの画面に、地底湖のマップが表示される。
俯瞰視点の2次元マップに加え、断面的に見た3次元マップが同時に見れる便利な代物だ。
結構な広範囲が表示されてるけど、それでもこの地底湖の常識外れな広さからすると、ほんのごく一部でしかないのだろう。
「おおー、凄い!見やすくて分かりやすいね。」
「ええ、これを見る限り、どうやらここから200メートルほど先の水中に怪しい横穴があるみたいですね。」
「他にも横穴がいくつかあるっぽいけど?」
気になったので聞いてみた。
「それが、殆どの横穴が行き止まりのようなんです。
先程の水中の横穴だけ、どうやらどこかに繋がっているようなんです。
でも、何か奇妙な物体が邪魔をしていて、計測器が先に進めないみたいで…」
「へぇ、それは気になるなぁ。」
興味深い報告に、胸が高鳴ってくる。
未知の場所、そこにはロマンがある!
「よし!それじゃあまずは、その横穴目指して行こう!」
「おー!」
潜る前にまず、計測器が撮影した例の横穴の映像を確認する。
水深5メートル程の深さの岩壁に、直径3メートル程の丸い穴がぽっかりと空いている。
光る苔が生えてるお陰で割と奥の方まで見えるけど、水中での歪んだ視界では何があるのかまではよく見えない。
つまり、実際に行ってみてこの目で確認するの必要があるのだ!
「皆、準備は出来てるか?」
これから戦場にでも向かうかのような真剣な表情でそう聞くと、全員無言で頷く。
「じゃあ、未知なるロマンを求めてゴー!」
急にテンションぶち上げモードになった私に続いて、皆が順番に地底湖へと入水する。
それはもう、盛大にジャンプしてザバーンと!
そんなにはしゃいでしまうくらい、私達は未踏の地での冒険を楽しんでいた。
地底湖の中は、それはもう凄かった。
水が澄んでいるお陰で水面の上からでもある程度は見えてたけど、実際に潜ってみるとまた格別なのだ。
人間への警戒心の薄い魚達は私達のすぐ傍を素通りしていくし、淡水なのに所々に色鮮やかな珊瑚礁のような物体が群生している。
この洞窟での照明代わりである光る苔も生えていて、まるで水中版の不夜城と言っても過言じゃない。
静かな筈なのに賑やかな雰囲気が漂っていて、魚達が忙しなく泳ぎ回っている。
魅惑的な光景に気が緩みがちだけど、中にはウツボやワニみたいな見た目の凶暴そうな生物もたまに見かけるので、そういうのはなるべく避けるように気を付けよう。
楽しいだけが冒険じゃないからな。
(さて、横穴横穴……と。)
似たような横穴がいくつもあるので、ハズレを引かないように事前にプリントアウトしておいた写真を手掛かりに、探す。
とは言っても、大体の位置も3Dマップで把握していたので、時間を掛けずにすぐ見つけることが出来た。
(うんうん、完璧だなぁ。)
周辺で泳いでいた他の皆を誘導して、横穴へと入る。
横穴内部は思っていたよりも長くて、障害物も特に無いのでどんどん進んでいく。
でも、リグリーが言っていた一言がちょっと引っ掛かる。
途中で邪魔になる物体があって、計測器が先に進めなかったと。
しかしてその正体は、直後に身をもって知ることとなる。
「おぶぉッ!?」
突然、全身に鈍い衝撃を受けて岩壁に叩きつけられた。
状況を理解出来ずに呆然とする私達の眼前に、横穴の通路を塞ぐ巨大な物体が現れた。
それは灰色で、ウネウネと軟体な体を持つナマコのような不思議な生物だった。
きっと、コイツが道を塞いでた所為で計測器が先に進めなかったのだ。
「ッッ!!」
私はようやく状況を把握した。
どうやらこの巨大ナマコは横穴通路内部の更に横穴の中に潜んでいて、通りかかった私に体当たりしてきたのだ。
どうやら相当に獰猛で喧嘩自慢な性格らしいけど、私に危害を加えたことでコイツは、買ってはいけないものを買ってしまった。
カイちゃんの怒りだ。
カイちゃんはまるで推進器でも付いてるかのような動きで巨大ナマコに飛び付き、人間離れした身体能力でナマコを引っ掴んで岩壁に叩きつけた。
よくもまあ、水中でここまで動けるもんだ。
多分本人に言ったら、「愛の力の前では水圧など無力!」とか言い出しそう。
兎に角、怒れるカイちゃんのラッシュ打撃を連続で叩き込まれた巨大ナマコは、反撃も出来ずに私達が来た方向へと逃げて行った。
まだ怒りの収まらないカイちゃんが追撃しようとしたけど、流石に私が止めておいた。
不変力のお陰で私は怪我してないし、これで充分だろう。
カイちゃんは私の制止に素直に従い、気を取り直して先に進んでいく。
巨大ナマコ出現地点から程なくして、横穴通路のゴールへと辿り着いた。
プハッと水面から顔を出して周囲の景色を確認する。
そこで私達は、揃って絶句した。
「うわぁ……」
感動のあまり、溜め息にも近い驚嘆の声を上げる。
そこには、視界いっぱいを埋め尽くす程の色とりどりのクリスタルが、洞窟内にこれでもかと言うほど生えていたのだ。
小さい物は私の身長よりも小さいのから、大きいと2階建ての家一軒分くらいありそうなサイズの巨大クリスタルまで、全てがバラバラのカラーリングで岩壁から突き出している。
しかも全部が淡く発光していて、目がチカチカしてくる程だ。
そんな光景が大空洞の奥の奥まで続いていて、一体どこまで広がっているのやら見当もつかない。
「綺麗だね…。」
カイちゃんが、うっとりしながら呟く。
「うん……鍾乳洞って言えばいいのか、コレ?」
「まあ、そうだね。
我々の知っている鍾乳洞に比べたら、随分とカラフルだけどね。」
確かに、カラフル過ぎてどこか作り物みたいにも感じる。
派手なテーマパークのアトラクションみたいなさ。
「どうやら、温度や空気にも異常は無さそうですね。」
いつの間にデータを取ったのか、リグリーがお馴染みの計測器とデバイスを使って教えてくれた。
なんて優秀な人なんだ。
「それにしては、妙だぞ。」
レンちゃんが眉を顰めながらそう言う。
「妙って、何が?」
「この鍾乳洞、生き物の気配が全くしない。
普通、このくらいの環境なら、多少は虫とか小動物とかがいるものなのに、そんな感じが全くしないんだ。」
確かに言われてみれば、物音ひとつしない完全なる静の世界だ。
生命の気配が欠片も感じられない。
一度そう意識してしまうと、無音世界に恐怖すら覚えてしまう。
きっと、見た目の華やかさとのギャップが、不気味さをより煽っているのかもしれない。
「ん〜、じゃあその点も含めて、この鍾乳洞の探索をしてみようか。」
「うん!奥に進めば何か分かるかもしれないしねー!」
カイちゃんは相変わらず元気だ。
他の皆も、特に変わった様子はない。
もしかして、ビビってるの私だけ?
かっこわる!
「いやビビってねーし!」
「…白狐ちゃん?」
「……あ、いや、何でもない。何でもないから。」
マジでかっこ悪い。
⚪︎2人に質問のコーナー
カイちゃんの好きな家電は?
「炊飯ジャー!炊き立てご飯が無限に食べれる夢の家電!」
おいおい無限に食べれる訳……いや、不変力があればいけるのか。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!