スペースシップ☆ユートピア

永遠の時を旅する2人の少女の愛の物語
千葉生まれのTさん
千葉生まれのTさん

85話・100年目・野茂咲邸にて

公開日時: 2021年12月26日(日) 13:31
更新日時: 2022年4月28日(木) 21:38
文字数:3,043



野茂咲柑奈さん。

彼女は私の高校時代の同級生であり、私の数少ない友人の一人でもある。

というか、カイちゃんの次に交流が多かった人物だと思う。

新藤君も同じくらいだったかな。


野茂咲さんは高校を卒業後、上京して警視庁の警察官になる。

それからは努力に努力を重ねてグングン地道に出世コースに乗っていって、遂に捜査一課の刑事にまで上り詰める。

60代になって定年退職してからは、刑事時代の経験とコネを活かして警備会社を設立。

それがまた成功したらしく、こうして東京郊外の立派な場所に豪邸を建てられる程になったそうな。

今は会社経営も引退して、隠居生活を送っているという。

見た目は皺だらけのお婆ちゃんになってるけど、まだ枯れてはいなくて、老いた身にも関わらずどこか若々しさも感じられる。


「にしても、野茂咲さん相当長生きだよねー。

今115歳でしょ?」


私達は客間へと案内されて、そこで出されたお茶を啜りながら会話していた。

お茶を出されたと言っても、野茂咲さんは車椅子なので、お手伝い用の人型ロボットが汲んでくれていた。

どうやら野茂咲さんは一人暮らしで、家事全般をロボットに殆ど一任しているらしい。

今の時代はこのようなホームヘルパーロボットがかなり普及していて、普通の人間とほぼ遜色の無いレベルで仕事をこなしてくれるのだ。


「フフ、最近は医療技術も凄く進歩してるから、年齢が100歳を越えるなんてそんな珍しくもないでしょう?

それに私は、大金を注ぎ込んで延命手術もしたから、こうしてスラスラはっきりと喋れるし、足以外はまだまだ元気なのよ。」


延命手術、か。

何十年か前から実用化された最先端技術でその名の通り人為的に人の寿命を伸ばすらしいけど、その手術を受けるには途轍もない額のお金が必要な筈だ。


「凄いね、延命手術受けたんだ。

でも、どうしてまた?」


「やだもう、昔言ったじゃない。

学生の頃、修学旅行で行った沖縄の海で、2人の結婚式を見るまで死ねないって。」


「うん?」


思い出す。

昔の記憶を脳内の引き出しから引っ張り出して、頑張って記憶を捻り出す。






「ああ!確かにそんな事言ってたような。」


「でしょう?

2人のイチャイチャラブラブゆ〜りゆりを見るために、今までずっと頑張って生きてきたの。」


「…う、嘘でしょ?」


俄かには信じられない。

まさか、私達のイチャイチャを見たいが為に、ガチで長生きしてしまうとは。

野茂咲さんの執念を甘く見ていた。


「それにしても、2人って子供の頃から全く姿が変わらないのね?

前から不思議に思ってたけど、流石に100年経っても変わらないなんてねぇ?」


あっ、やっぱりそこ突っ込まれたか。


「えっと、それは…」


「アンチエイジング!滅茶苦茶すっごいウルトラスーパーミラクルアンチエイジングで若さを保ってるの、アタシ達!」


カイちゃんが苦しい言い訳をするのを、野茂咲さんはクスクスと笑って聞いている。


「アンチエイジングって……フフ…

私も出来るだけ長生きする為に、最先端技術でアンチエイジングしてたのよ。

それでもこんなにお婆ちゃんになっちゃったのに、貴女達は時間が止まったみたいに1ミリも見た目が変わってないじゃない。」


「うーんと…」


大河内先生の時はカイちゃんの気迫によるゴリ押しで押し通せたけども、長い付き合いである野茂咲さんの目をそれで誤魔化すのはまず不可能だ。

あのカイちゃんでさえ、困った顔を見せている。


「まあいいわ、貴女達には貴女達の事情があるのだろうし、折角遊びに来てくれた友人に、これ以上野暮な詮索はしたくないもの。

〝そういうもの〟として、納得しておくわね。」


「野茂咲さん…ッ!」


「それに、貴女達を見てるだけで、なんだか懐かしいあの頃に戻ったような気分になれるんだもの。」


おお、流石は私達の友人!なんて物分かりが良い人なんだ!

彼女の優しき心配りに、私達は感動を覚えた。




「それで、今日はどうしていきなり私のところへ来たの?

きっとなにか、用事があるのでしょう?」


「あ、はい。」


そう、今回野茂咲さんの元へ訪れたのは、あの件について報告しなければと思ったからだ。




「カイちゃん、いい?」


「うん!

実はアタシ達、この度正式にお付き合いする事になりました!」


カイちゃんが私の手を取り、運動会の選手宣誓みたいに高らかに言い放った。

ちょっと恥ずかしくなっちゃったぞオイ。




「……お、お付き合い?」


「うん、ほんの数日前だけど、ね。」


私がそう付け加える。

野茂咲さんは驚きで目を丸くしたと思ったら、次の瞬間には一筋の涙を流していた。


「ちょっ、野茂咲さんッ!?」


「大丈夫!?体調悪いの!?」


心配する私とカイちゃんを、野茂咲さんが片手を前に出して制した。


「ええ、大丈夫。

ちょっと感極まって泣いちゃっただけだから、平気よ。」


「マジで!?」


「マジで。」


私達の報告だけでここまで感動してくれるとは、なんだか複雑な感じだ。

素直に嬉しくもあるし、小っ恥ずかしくもあるし、100年も待たせて悪かったなという気持ちもある。

いや、別にこれは私達の問題だから、野茂咲さんに気を使う必要は無いのだけども。


「これでもう、私の人生に一片の悔いは無いわ。

ありがとうね、わざわざ報告に来てくれて。」


「あ、いや、やっぱり野茂咲さんには言っといた方が良いかなと思って。」


「フフ、私は本当に良い友達を持ったのね。

そうだ、良かったら今日はウチでご飯食べて行かない?

とびっきりのご馳走を用意するわよ。」


「「お願いしますッ!」」


私とカイちゃん、ご馳走と聞いて反射的に叫んでいた。

そんな私らを見て、更に面白そうに野茂咲さんが笑う。



私もカイちゃんも、同じ意見だよ。

野茂咲さんと友達になれて、本当に良かった。












◆◆



「ふいー、食った食った美味かった。」


「アタシも満足!

ちょっと食べ過ぎたっぽいから、野茂咲さんには悪かったけどね。」


野茂咲さんは、私とカイちゃんが大喰らいなのを知ってたからなのか、片っ端から出前を大量に取りまくった。

その結果、パーティー会場みたいな野茂咲邸の大食堂をフルに使う程の料理が運ばれてきて、全部喰らい尽くすまで流石にそこそこの時間が掛かった。

で、今はその帰りでタクシーの中だ。


「野茂咲さん、喜んでたみたいで良かったね、白狐ちゃん。」


「うん、そうだな。

まさか、私達の惚気を聞いただけであそこまで喜んでくれる人がいたなんてな。

野茂咲さんは今も昔も、変わらず面白い人だよ。」


「アハハ、そだねー。」


「そう言えば結局、結婚式を見せる事は出来なさそうだな。

野茂咲さんには悪いけど。」


「け、結婚式…!

きゃー、憧れるー!」


カイちゃんが、ウブな女子みたいに顔を隠して黄色い声を上げている。

なんじゃこりゃ。


「学生の頃ならいざ知らず、今の時代なら私達でも一応結婚出来るっちゃ出来るわな。」


もう何十年も前に日本の法律は変わり、同性婚はOKな国になった。

法案が可決された直後から色んな著名人が同性婚をしていったお陰か、今ではごく普通の事として受け入れられている。


「白狐ちゃん、結婚しようよ!」


「あーもう、話が早い!

まだ流石に結婚は早い!」


「ちぇ〜。」


「それに、恋人って距離感の方が、私はなんかしっくりくるんだよね。

私達の場合はさ。」


そう言うと、カイちゃんはニカっと笑う。


「確かに!アタシと白狐ちゃんにはちょうど良いかもね!」


「だろう?」


私はこれからもずっと、この心地良い関係のままカイちゃんと過ごして行きたい。

どうせ時間は無限にあるのだから、のんびりまったりとやって行こうじゃないか。


そう、私達らしく。



⚪︎2人に質問のコーナー


白狐ちゃんが好きな楽器は?


「んー、ピアノの音色は好きかな。」

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート