「それでねー、その時白狐ちゃんが……!」
「へぇ〜、それはまた意外な一面ね!」
カイちゃんとエリザベちゃんは、すぐさま打ち解けて仲良くなった。
今、私の目の前で2人仲良くハンバーガーを食べていてくれて、少しホッとした。
私とエリザベちゃんが一緒にいるのを見て、嫉妬に狂ったカイちゃんがヤンデレ化!
手に取った包丁で私を……!
いや、それは無い無い。
カイちゃんは元々コミュ力の塊みたいな人間なんだし、私と出会ってからは私とばっかり一緒にいるけど、こうして色んな人とフランクに接する事が出来る事こそが、カイちゃん本来の持ち味なのだから。
つまり、これぞカイちゃんのナチュラルな姿!
多分、会社では基本こんな感じなのだろう。
「それにしても、山岸ちゃんと尾藤ちゃんって、結局どういう関係なの?
シンプルに考えて、友達同士で世界一周旅行とか?」
「あッ……それは……」
カイちゃんが困ったような表情で、私の方を見てくる。
恐らく、どう返事をすれば良いのか私の考えに合わせようとしているのだろう。
まあでも、今の時代は特にそういうのを気にする必要もない。
カイちゃんの反応は、昔の名残みたいなもんだ。
「私とカイちゃんは、付き合ってるんだよ。
いわゆる一つの、恋人ってやつ。」
「白狐ちゃぁん!」
カイちゃん、嬉しそうだ。
エリザベちゃんも、予想外な恋人宣言に一瞬驚きつつも、すぐに上品な笑顔を浮かべた。
「あらあらまあまあ、そうだったのね。
確かに2人とも、お互いの事を心から信頼してるみたいだもの。
知り合ったばかりの私でも、すぐに分かるくらいだわ。」
「え?……そ、そうかな?」
私達って、そんなに分かりやすいのかな?
それとも、エリザベちゃんの人を見る目が卓越してるからなのか?
落ち着いてて上品な喋り方も相まって、なんだかエリザベちゃんが年上の大人な女性に見えてくる。
「そうだよー、アタシと白狐ちゃんは、世界一のラブラブカップルなんだよー!」
「ちょ、お馬鹿!こんな所で抱き付くなって!」
TPOを弁えず迫り来るカイちゃんの頭を鷲掴み、その暴走を止める。
「フフ、本当にラブラブね。」
「んー、まあ好きなように受け取って下さい。」
「それじゃあ、アタシ達の事は一旦置いといて、今度はエリザベちゃんの事を教えてよ。」
あぁ、そう言えばこの子の事、なんも知らなかったな。
カイちゃんがそう切り出したので、エリザベちゃんは笑顔のまま語った。
「私のママは、大きな会社を経営してる社長なの!
ほら、『トレジャーピッツァ』ってご存じかしら?」
「ご存じも何も、私がよくお世話になってるピザチェーン店の最大手じゃん!
まさか、エリザベちゃんって……ッ!?」
「そう、その社長の娘なの。」
胸を張って自慢げに語るエリザベちゃんを前に、私もカイちゃんも驚きを隠せなかった。
トレジャーピッツァと言えば、日本全国に多くの店舗を持ち、ファストフード的に気軽に食べれる安価設定や、革新的且つ最先端の技術によってホールサイズのピザ1枚をたった10秒で焼き上げてしまう通称〝トレジャーカマド〟の開発によって、世界的にも知名度の高い日本有数の大企業だ。
実際に、最近は海外にも試験的に進出してるとニュースにもなってた。
私の地元でも出前をやっているので、よく注文して配達用ドローンで家まで届けて貰っている。
「ははー!いつもお世話になっております!」
なんか、頭を下げてしまった。
「アタシも、いつも白狐ちゃんがお世話になってますー!」
何故か、カイちゃんまで頭を下げる。
カイちゃんだってよく何枚も纏めて食べてるクセに。
「そんな、むしろ頭を下げるのは私の方よ。
いつもご贔屓にしてくれてるんでしょ?」
「それはもう!」
「フフ、ありがとうね。
まあ、娘であるだけの私が言うのも変だけど。」
それからカイちゃんが大量のハンバーガーを食べ終わるまでの間、なんだかんだで気の合った私達は談笑に花を咲かせた。
「ねぇねぇ、2人ともこの後暇かしら?」
カイちゃんが充分満足した頃、エリザベちゃんがそう切り出した。
「んー、次の目的地までまだ時間あるみたいだし、アタシは暇だけど。
白狐ちゃんはどう?」
「えっと、カイちゃんがどっか行くなら私もついて行くけど。」
それを聞いて、エリザベちゃんの表情がパッと明るくなる。
「それならそれなら!3人で屋外プールに行かない!?
この船のプール、すっごく長い流れるプールがあるらしくって、楽しみにしてたの!」
身体をバネのように弾ませて、年相応に喜んでいるエリザベちゃんを見て、私は思った。
この子はきっと、この船旅に退屈し始めていたんだろうな、と。
そりゃそうだ、この船の乗客に於いて、子供の比率はかなり少ない。
彼女と同年代でここまで気が合う私達と、偶然隣りの部屋になれたのだから、はしゃぐのも無理はないだろう。
え?同年代じゃない?100歳以上年離れてるだろうって?
いやいや、そこは肉体的な年齢の話じゃないんだよ。
精神的な年齢って事でヨロシク!
「うん、私は大丈夫だよ。行こっか。」
私が即答したのを見て、カイちゃんが目を見開いて驚いていた。
なんじゃコイツ。
「何?私なんかした?」
「…いや、まさか白狐ちゃんがアタシよりも先に即答するとは思ってもみなかったから。」
「…あぁ…ハハ、そういう時もあるって。
それに、なんて言うんだろうな。
なんかこう、エリザベちゃんを見てるとさ…」
「?」
「私とカイちゃんの間に子供がいたら、きっとエリザベちゃんみたいなのかな?って思って。
なんか、ホッコリしたから。」
そんな私の台詞を聞いて、エリザベちゃんはクスクス笑い、カイちゃんは顔を真っ赤に紅潮させていた。
「……こ、ここここ、こっこ……子作りしよう!白狐ちゃんッ!ねぇッ!今すぐッ!」
「アホウ!」
「ぅごふッ!?」
私の華麗な逆水平チョップが、欲情するカイちゃんの喉元に突き刺さった。
◆◆
約束通り、プールに来た。
確かに豪華客船のプールらしく、今まで見た事ないような煌びやかさだ。
エリザベちゃんの言ってた通りに、陸上競技場のトラック一周分くらいありそうな巨大な流れるプールを、既に他の乗客が何人か楽しんでいる。
カイちゃんは白いビキニに赤いハイビスカス柄のパレオ、私は上下黒のフリル付きフレアビキニ。
少し遅れてやって来たエリザベちゃんは、子供らしい白いワンピースの水着だ。
いや、子供らしいだなんて、私もあんま人の事言えないわな。
「2人ともお待たせ!
うわぁ、2人とも可愛い水着ね!」
エリザベちゃんが、心底感心したように、まじまじと私とカイちゃんの水着を見ている。
うーん、流石にちょっと恥ずかしい。
「でしょでしょ!折角の世界一周旅行だし、お気に入りのやつ持って来たんだー!」
カイちゃんはどんなに見られてもノリノリみたいだ。
やっぱ、かつてグラビアアイドルやってただけあって、見られ慣れてるんかな?
「でも、アタシの水着よりも白狐ちゃんの方が全然可愛いよー!
ほらもう、今すぐお持ち帰りして全身くまなくチュッチュしたいもーん!」
「どうエリザベちゃん?
私の彼女、めっちゃキモいでしょ?」
「えぇッ!?いや、アハハ…」
答えづらい私の質問に、苦笑いして誤魔化すエリザベちゃん。
「白狐ちゃん、後で部屋に戻ったら、思う存分チュッチュしようね?」
「今日のカイちゃん、いつも以上にキモ過ぎるからヤダ。」
「ひぎィ!?抑えとけば良かった!」
「エリザベちゃんの教育にも悪いからな。」
「シンプルにごめんなさい!」
私達のいつものやり取りを見て、エリザベちゃんは面白そうに笑っている。
うん、マジでこの子の親になったような気分だ。
悪くない。
⚪︎2人に質問のコーナー
カイちゃんの好きな星座は?
「こぎつね座!白狐ちゃん!」
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