「えっと……これが隠し通路?」
「そうみたいだね。」
怪訝そうな表情を浮かべるレンちゃんの質問に、カイちゃんが答える。
私の華麗なるパスワード入力によって開かれた扉は、これまた広い地下施設の隅の方にあり、パスワード入力した端末から離れていたので探し当てるのに少し苦労した。
しかも、通路の曲がり角を曲がった先の床にいきなり穴が空いていて、そこが隠し部屋への入り口の下り階段になっていたので、危うく第一発見者のツジが転げ落ちそうになった。
『こんな危険な位置に隠し通路を作るなんて、非常識にも程がある!
責任者を出したまえ!』
と、怒り心頭のご様子だった。
全く、責任者なんていやしないってのに。
いや、いるのか?
この先に何があるのかなんて分からない筈なのに、〝何か〟が待っているというのは何となく感じる。
むしろ何となくってより、いる筈だという確信に近い。
これも、夢の中で影人間に脳内に直接変な情報を送られた影響なのか?
「よし、進んでみよう。
この先に何かがある筈だ。」
「うん!」
「ああ!」
「分かった!」
私の言葉に、3人が応える。
そのまま私が先陣を切り、隠し通路の階段を慎重に降りて行った。
◆◆
隠し通路の内部もやはり不変力らしき力の影響下にあり、全面汚れ一つ無い真っ白な下り階段がひたすらに続いていた。
しかも、等間隔に照明用のランプが点灯していて、懐中電灯要らずだ。
「どこまで続いてるんだろうね?」
「あんまり長くない事を祈ろう。」
階段は、思ったよりも長くはなかった。
ホッと胸を撫で下ろす間もなく、私達の目の前に立ちはだかったのは、クソデカい半月状の鉄の扉だった。
階段が終わり、急にスペースが広くなったかと思ったら、そいつが出てきたのだ。
なんか、昔観たアメリカの銀行強盗の映画で出てきた、銀行の地下の巨大金庫みたいだ。
「さて、どうしようか。
これだけ分厚くて巨大な扉だと、流石にレンちゃんや山岸ちゃんのスーパーパワーを持ってしても、無理がありそうだね。」
「というか、こんな扉を力づくで破壊出来る生物なんていないだろ。
そもそも、不変力がかかってるだろうから壊せないし。」
今回の鉄の扉は、やたらめったらデカい。
20メートルくらいはありそうな分度器みたいな形をしている。
ラスボス感があって、こいつはなかなか骨が折れそうだ。
「どうしよっか白狐ちゃん?」
「うーん、そうだなぁ…」
私はそれとなく、デカい鉄の扉に触れてみる。
「あ……」
「どうしたの?」
「開け方、分かった気がする。」
「ええッ!?」
またまた3人がビックリする。
ふむ、見てて面白いリアクションだな。
もうちょい驚かしてみるか。
「…カイちゃんの今日のパンツの色も、分かった気がする。」
「ええッ!?」
めっちゃ真剣な表情で言ってみた。
「ちなみに、何色だい?」
まさかのツジが聞いてきた。
「そうだな……水色。」
「なんで分かったのッ!?」
どうやらビンゴらしい。
「55億年も一緒にいるんだから、カイちゃんの穿くパンツの傾向は何となく分かるのさ。」
「凄いね、流石はパンツのプロでもある尾藤ちゃんだ。
私も見習って、レンちゃんの穿いているパンツを当てられるように……」
「ならんでいいッ!」
レンちゃんの痛烈なチョップを脳天に喰らって悶絶しているツジを尻目に、私はデカ扉を探る。
この扉のどこかに、開く為のスイッチが隠されている筈なのだ。
そしてその隠しスイッチの場所も、私の深層意識に何となくインプットされている。
「えーっと、多分この辺だと思うんだけどなぁ。」
5分くらいずっと探しているけど、上手く隠蔽されているようでなかなか見つからない。
何となくこの辺にあるってのは分かるんだけど、具体的なビジョンが湧いてこない。
もっとハッキリとしたヒントをくれと、影人間のやつに文句を言いたい気分だ。
「んー、分から…」
言いかけたその瞬間、手で触れた部分がガコッと音を立てて凹んだ。
「おおッ!?」
「これは……ッ!」
ガコッ音の後に、ゴゴゴゴゴと重々しい金属の塊が動く音がする。
つまり、扉が開いているのだ。
「やった!」
「凄いよ白狐ちゃん!本当に凄い!」
重い音を地下空間に轟かせながら、半円形の扉はゆっくりと左右に分かれて開いていく。
少し待って、扉は完全に開いた。
「おぉ……ここが最深部……なのか?」
そーっと中に足を踏み入れると、そこは四方八方を謎の機械に囲まれたような部屋だった。
部屋の広さは、学校の体育館くらいか。
そんなスペースに、至る所に機械の端末や資料が溢れかえっている。
しかも、書類や明らかにゴミっぽい物が床やテーブルの上に散乱していて、部屋の使用者の性格が何となく読み取れるような部屋だった。
いや、そんなどうでもいい情報よりも、一際私達の目を惹く物が、部屋の奥にあった。
「……なに……あれ……?」
〝それ〟を見たカイちゃんが、口を開いたまま目を見開き、絶句している。
カイちゃんだけじゃなく、私もツジもレンちゃんも同様に、部屋の奥の大きなカプセルから目が離せないでいる。
そのカプセル自体は、上階で影人間達が入れられていたカプセルと同じ物だ。
しかしながら、中に入っているのが別物だった。
影人間と違ってきちんとした輪郭があり、ちゃんと人の形をしている。
体はまるで、硝子細工のように半透明で、淡い薄紫色の肌だ。
髪は真紅のルビーのように煌めくロングヘアーで、衣服の類は一切身に付けていないように見える。
でも、人間の体だと色々と規制対象に当たりそうな部分が軒並み見受けられない。
そして身体的特徴からして、一応女性っぽく見える。
この人の種族に、性別という概念があればの話だが。
「すっごい綺麗だな。」
「うん、まるで宝石から生まれたみたい。」
私とカイちゃんの感想。
頭に思った事がそのまま口から溢れた。
「なんとまぁ…長生きはしてみるものだね。
実に興味深いよ、ハァ…ハァ…」
「明らかに人類とは違うし。
確かに興味深いのは分かるけど、ツジ姉ステイ!」
「あ、はい!」
知的好奇心をゴリッゴリに刺激されたツジを、レンちゃんが制御しているの図。
興奮する気持ちは私にも分かる。
でも今は、興奮するよりも何かこう……
何て言えばいいのかな。
ちょっと懐かしさみたいなのを感じるというか。
そんなのを、カプセルの中の人に対して感じていた。
恐怖なんて勿論無いし、なんなら若干親近感すら湧いてくるような、そんな感じだ。
「それにもし、この人がこの部屋の主だとしたら…」
私は後ろを振り返り、汚部屋と化している残念な機械部屋を見渡す。
もしもそうなら、こんなにも人間味溢れる部屋の主だったら、少し笑えてくる。
めっちゃ神秘的な見た目なのにな。
ギャップ萌えってやつか。
「そう言えば、夢の中の影人間は、この部屋にある何かを解放してくれって頼んでたな。」
「それって、どう考えても〝これ〟だよね?」
私達は一斉に、カプセルの中身に注目する。
その中ではやはり、例の宝石のような女性がピクリとも動かないまま、生きてるのか死んでるのかも分からないような状態で眠っている。
「でも、いきなり解放なんて言われてもな。
白狐、分かるか?」
レンちゃんにそう聞かれたので、私は腕を組んで考えてみる。
「うーん、どうだろうなぁ。
まだ何も感じるものは無いし、一度探索してからじゃないと……」
そう言いながら、カプセルの前まで歩いてみた。
「……これじゃね?」
カプセルの下に、赤いスイッチの台座があった。
ご丁寧に、スイッチにはカプセルが開いているようなイラストまで描かれている。
「……ここに来て、急に難易度が急降下したね。」
ツジの言う通りで、探索しようと意気込んでいた矢先に思い切り肩透かしを喰らってしまった。
まあ、すぐに見つかったのは良いことだけどね。
⚪︎2人に質問のコーナー
カイちゃんの新しい趣味は?
「最近はお絵描きとかかなー。」
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