「私達の沖縄旅行、首里城の次は〜!」
「沖縄の海で、レッツスキューバダイビングぅ〜!」
ドンドンパフパフ〜♪
首里城観光の後、近場の港までやって来た私達。
並んで立っているツジとレンちゃんの前で、私とカイちゃんは場を盛り上げる為にテンション上げて次の予定を発表した訳なのだが…
「はえッ!?ダイビングですとッ!?」
首里城の次は〜!とか言っておきながら私は、カイちゃんの発言に驚きの表情を浮かべた。
少し前に2人でした打ち合わせでは、皆で船に乗って海釣りをするという予定だった筈。
ツジとレンちゃんの前で改めて発表したその時に、急に予定を変更されてしまった形になっている。
「そうだよー!
あ、正確にはダイビングの後、白狐ちゃん提案の海釣りしようかなーと。」
「どうして急にそんな!」
「いや、ついさっきそこのスキューバダイビングのお店の前を通った時に、チラシが目についちゃったもんで…
それで衝動的にやりたくなっちゃった!」
「いやいや、やりたくなっちゃったってアンタ…」
「いいね!やろう!」
「ダイビング!?初めてだぞ!」
消極的な私に比べて、ツジとレンちゃんの2人はやけに積極的だ。
「でもさ、ほら……スキューバダイビングって、あの……」
「……白狐ちゃん、イヤなの?」
「ゔッ!」
カイちゃんがしゃがんで、媚びるような上目遣いで聞いてくる。
いつも私が使ってる技を、こうやって悪用してくるとは!
想像以上に破壊力が高くて困る。
「白狐ちゃんがダイビング苦手なら、無理にとは言わないけど…」
「うぅ、苦手というか何というか…
あのさ、スキューバダイビングって、陽キャしか出来ないやつだろ?
パリピ専用アクティビティだろ!?」
「……はい?パリピ……?」
私の発言に、3人とも目を点にしている。
何だこの反応は。
「スキューバダイビングって、あれじゃん。
リア充が徒党を組んでウェイウェイ言いながら海に潜って、その浮かれた姿をSNSとかに晒して自己満足する遊びだろ?
そんなん怖くて出来ない!」
「……うわ〜、久々に出たね、白狐ちゃんの謎陰キャ持論。」
「悪いかよ!
スキューバダイビングには、昔からそういうイメージしか無いんだよ!」
3人とも、呆れた様子で私を見てくる。
いたたまれない気分だけど、陽キャ専用の遊びには生まれつき体が拒否反応を示すのだ。
そういう体質だから仕方がない。
「…えっと、白狐ちゃん。
別にダイビングしたからってSNSに写真をあげなきゃいけないって決まりは無いし、そもそも今の時代SNSなんて無いよね?
あと、スキューバダイビングは陽キャ専用でもなんでもないし、誰でも普通に楽しめるものだよ。
それに……」
「それに?」
珍しく真剣な眼差しでこちらを見つめるカイちゃんに、私も少し緊張する。
「白狐ちゃんの好きな四字熟語って、何だっけ?」
「は?四字熟語だって?」
急に変化球な質問を投げ掛けられて戸惑う。
「確か、〝虚心坦懐〟って言葉だったよね?
意味は、先入観を持たずに平常心で物事に取り組む事。」
「うぐッ!
……わ、分かったよ、やるよ。」
「そうだよね!それでこそ白狐ちゃんだよ!」
四字熟語の話なんて、いつしたっけ?
私自身よく覚えてないのに、カイちゃんはちゃんと覚えている。
まあ、今回ばっかりはカイちゃんの言う通りかもしれないな。
何事も挑戦あるのみ、未経験なものほど経験するべきだと、昔は親にも言われたものだ。
◆◆
今、私の目の前には、壮大な沖縄の海が広がっている。
上も下も左も右も前も後ろも、どこを向いても360度全てが海の中。
それも驚く程に澄んでいて、珊瑚礁や魚達が海中を彩る様を、鮮明に見れている。
専用のウェットスーツに着替えた私達は、カイちゃんの指示のもと、スキューバダイビングを楽しんでいた。
やはり、挑戦するのは良い事だ。
あのまま妙な偏見を持って避け続けていたら、この素晴らしい体験を味わう事は出来なかっただろう。
海というのはずっと身近なものだったのに、今まで海面より下を直接見る機会なんて殆ど無かった。
こうして沖縄の綺麗な海に潜り、宇宙めいた無重力感に身を委ねていると、私のちっぽけな精神なんて一瞬で持ってかれそうだ。
それ程までに、海という存在はデカい。
母なる海とも言うし、文字通り赤ちゃんに戻ってしまいそうな気分だ。
「ゴボ…ゴボボ…」
マスクをしてるし、そもそも水中だから喋るのは無理だけど、この感動を言葉にして表したくてしょうがない!
離れた場所で、ツジとレンちゃんが泳いでいて、そこから少し離れた所でカイちゃんが1人、魚達と戯れ合っている。
泳ぐのが不得手で1人のんびり揺蕩っている私に気を遣って、カイちゃんは今、別行動をしてくれているらしい。
1人になりたい気分をさり気無く察してくれる、本当に良く出来た自慢の彼女だわ。
◆◆
私達は時間を忘れて、思う存分スキューバダイビングを楽しんだ。
時間を忘れていた所為か、気が付いたらもう、夕暮れ時だった。
「はぁ〜、夕陽が綺麗だなぁ〜。」
「そうだね〜、綺麗だね〜。」
私達4人とも水着を着たまま、船上に出したビーチベッドに寝転がり、海上の特等席で沈みゆく夕陽を眺めていた。
「さて、これからどうしようか?」
ツジが聞いてくる。
「このまま夜通しこうしていたいけど、流石に夜になったら真っ暗で何も見えなくなっちゃうからなぁ。
という訳で、ここから次のお楽しみスポットへゴー!」
「お楽しみスポット?」
私の言葉に、レンちゃんが疑問符を浮かべた。
「そう、次なるお楽しみこそ、今回の沖縄旅行に於いて最大の贅沢!
超高級ホテルに泊まりに行こうの巻ぃ〜!」
「ち、超高級ホテルだってーッ!?」
ツジとレンちゃんが、驚きのあまりビーチベッドから転げ落ちた。
何ともわざとらしいリアクションだなオイ。
「そうです、事前に白狐ちゃんと下調べした結果、沖縄で最もロイヤルでエレガントで、宿泊費の高いホテルが判明したのです。
それも、ここから近くなので、この船で今から直接向かいます。
それでは、アタシの左手をご覧下さいませ。
彼方に見えますのが、沖縄が誇る五つ星高級ホテル『オーシャンユートピア那覇』でございます。」
ノリが良いのか分かんないけど、何故かバスガイドっぽい口調で話すカイちゃん。
ツジとレンちゃんは興味津々で聞いている。
カイちゃんの左手の指す方向を見てみると、確かに陸地の方にバカでかい建物が確認出来る。
まだだいぶ離れているのにも関わらず、余裕でその規模が分かる程にだ。
「……す、凄い。
あんなに大きな建物に泊まるのか?」
レンちゃんは驚き半分、興奮半分といった感じでソワソワしている。
「フッフッフ、驚くのはまだ早いぞ。
中に入ってから、存分に驚きたまえよ!」
私のその言葉に、ツジとレンちゃんはゴクリと息を呑んだ。
◆◆
「はえ〜。」
「ほえ〜。」
ホテルのロビーに入るなり、ツジとレンちゃんの2人は語彙力を完全に失っていた。
それもその筈、保全シェルター以外の大きな建物に入る経験なんて、2人にはほぼ無い。
しかも、このホテルの豪華絢爛さは、保全シェルターの更に一回りも二回りも格上だ。
贅を尽くした豪奢極まる調度品の数々、ゲームでしか見た事ないような巨大過ぎる空間に、天井から見るだけで目がチカチカしそうな金ピカのシャンデリアが幾つもぶら下がっている。
「…凄いね、まるで絵物語のようだ。」
「お城だ!ツジ姉、お城だ!」
語彙力が3割くらい戻ってきたようで、2人は興味深そうにホテルの観察を始めた。
このホテル、実は以前に私とカイちゃんで目を付けていた場所でもある。
昔から沖縄最高級のホテルとして有名だったからな。
という訳で、本当は私もカイちゃんもソワソワしてたり。
進行役なので、何とかクールさを保ってはいるけどな。
⚪︎2人に質問のコーナー
カイちゃんが得意なトランプゲームは?
「ポーカーとか得意だよ!
こう見えて、心理戦とかポーカーフェイスは得意なんだー!(白狐ちゃんが側にいない時に限る)」
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