「今日は白狐ちゃんと一日デート!デートッ!デートッ!で・え・とッしゃああァァァッ!!」
異様にテンションの高いカイちゃんが、早朝からリビングで舞い上がっている。
というか、舞っている。変なキモいダンスを。
「朝っぱらからテンション高いなー。私にゃとても真似出来んよ。」
ふああ、と大きな欠伸をかました私は、のっそりと下着姿のままベッドから起き上がり、寝惚け眼のままカイちゃんが踊っているリビングへと足を運び、朝食のジャムパンを食べる。
「だってだって、白狐ちゃんとデートなんだから、そりゃテンションの一つや二つ上がりまくるよー!
うはー、楽しみ過ぎるー!」
「いやだから、デートじゃないって昨日言っただろ。
そもそも、近場のショッピングモールに買い物しに行くだけじゃん。
普段から食料品の買い出しなんかで、ちょくちょく一緒に行ってるのに。」
「でもでも、今回はデートなんだよッ!?
いつもよりお得感満載で、ポイントも通常の5倍貯まります!」
「ハハ、それはお得感あるな。何のポイントか分からんけど。
あと、デートじゃないって何回言えば分かるんだ。」
脳内真っピンクお花畑なカイちゃんに呆れつつ、ジャムパンを食べ終わった私は外出用の洋服に着替える。
ベージュのフード付きパーカーと白いキュロットパンツという、以前から気に入っているカイちゃんオススメコーデで身を固めている。
というか、外出する時は殆どの場合、この格好だ。
動きやすくて楽だし、着る服を統一しとけば、服を選ぶ際にかかる時間が節約出来る。
対するカイちゃんの服装はというと、英語のロゴ入りの白いTシャツにデニムという、若干ボーイッシュ且つシンプルな感じ。
シンプルだけど、それ故にカイちゃんの素材の良さ的なのを引き立てているといったところか。
ま、美少女が着れば何でも似合うってか。
「カイちゃんはほんと元気で良いねぇ。私なんか、まだ眠くてしんどいってのに。」
まあ、その原因は深夜まで夜更かしして、ゲームしてた所為なんだけども。
「不変力で、眠気とおさらばっていうのは、出来ないの?」
「寝なくても健康に問題は無いけど、眠気は普通にくるんだよね。
体内時計や生活サイクルも不変になるっぽいから。」
「でもそうしたら、お腹減らなくなるのは謎だよね。」
「ああ、確かに言われてみれば。
ま、考えたところで、不変力自体が謎だらけだからな。今更考えるだけ無駄無駄。」
不変力については、目下研究中ではある。
私達の地元を不変にするという目標のもと、私の気が向いた時に色んなものを実験台にして不変力の事を少しでも知ろうという努力はしている。
とは言っても、成果なんて全くと言っていいほど無いのが現状なんだけども。
「そうだね!今はそんな事より、目の前のデエトに集中すべきだよね!デエトに!」
「はいはい、分かったから落ち着きたまえ。深呼吸深呼吸。」
「スーハー、スーハー!よっしデートぉぉ!!」
「……はあ、駄目だこりゃ。」
◆◆
私達の住んでいるアパートから20分ほど歩き、辿り着いたのは既に何度か通っている大型ショッピングモール。
平日なのに、人の多さはかなりのものだ。
ずっと田舎暮らしプラス半引きこもり生活で、人混みは大の苦手だった私だけど、流石に東京で数ヶ月も暮らしてれば、そうも言ってられなくなる。
カイちゃんの代わりに一人で買い出しに行く事も少なくないので、学校に行っていた時間を除けば、学生の頃よりも外に出ている時間は確実に増えた。
地元とは違って、東京には色んなお店が其処彼処にあるので、外出もそんなに悪くないと思い始めてきた今日この頃。
「白狐ちゃん、まずはどこから行こっか?」
「え、決めてなかったの?」
「白狐ちゃんの好きな所に行きたいなー、と思いまして。」
「んー、それじゃあ、ゲーセン行きたい、ゲーセン。」
「お、白狐ちゃんならそのチョイスでくると思ってたよ!」
「私のゲーム力を見せてやろうぞ!」
なんだか、私までテンション高くなってしまった。
いつも家でのゲーム対戦は負け続きだったけど、ゲーセンならばいける気がする!
根拠は無いけど!
◆◆
「ぬぐわあぁぁぁッ!?」
初戦のエアホッケー、完膚なきまでの惨敗。
あまりにも無様に負けてしまい、オッサンみたいな野太い叫び声を上げてしまった。
そう言えばカイちゃん、運動神経抜群なんだった。
「…アハハ…、白狐ちゃんも結構良い線いってたと思うよ?」
「どこがだよッ!?一点も入れられてないんだぞ!
そういう変に気を遣ったフォローは逆に人を傷付ける場合もあるんだからな!?」
「ごめんごめん。」
「そもそも、高校卒業してから何も運動なんてしてないのに、なんであんなに動けんの?」
「うーん、きっと高一の時に不変にして貰ったから、その時からずっと身体能力が変わってないんだと思うよ?」
「あ!そうだった!」
勝負事に熱中するあまり、不変力の事を完全に忘れていた。
不変ということはつまり、永遠に埋まることの無い差が生じてしまっているという事でもある。
「チックショー!もうこういう体動かす系はヤメだヤメ!
もっとこう、頭を使うインテリゲームで決着を付けてやる。」
それなら勝つる!と意気込んで、次に選択したのは対戦型クイズゲーム。
クックック、確かに肉体や技術を必要とするゲームにおいては、カイちゃんに軍配が上がるのかもしれない。
だが、ほぼ100%己の頭脳を駆使するゲームならばどうだ!
これならば、私の圧勝は約束されたも同然よのう!アーッハッハッハッハー!
YouLose…
私の画面には、暗転した背景に白文字でそれだけ書かれていた。
「…ど、どうしてこんな……って、そう言えばカイちゃん頭も良いんだったなッ!」
普段から馬鹿っぽい事ばっか言ってる所為で忘れてたけど、高校の頃は学年トップクラスの成績だったよコイツ!
やる気が無くて落ちこぼれ気味だった私とは雲泥の差!月とスッポン!
あ゛ー!!劣等感で悲しくなってくるわ!
「劣等感で悲しくなってくるわ!」
声に出てしまった。
「ごめんね、白狐ちゃん。」
「いや、カイちゃんが謝る必要なんてない。
私は正面からカイちゃんとの勝負に挑み、そして散ったんだ。悔いは無い。
ただ、負ければ負ける程、劣等感を感じるのと同時に、次こそは一矢報いてやると、私の熱きゲーム魂に火がつくんだよ!」
私は、滾る闘志を真っ赤に燃やし、グッと拳を握り締め、熱き双眸をメラメラと燃え上がらせた!(イメージ)
この私をここまで熱くさせるのは、やはり後にも先にもカイちゃんだけだ!
まあ、カイちゃん以外には弟としかゲームした事ないんだけど!
「び、白狐ちゃんが燃えてる…ッ!?」
「…次こそは、絶対に負けにゃいッ!」
「噛んだッ!?可愛い!」
そしてその後は、私はめげずに何度も勝負を挑み続けた。
レースゲーム、シューティングゲーム、バスケットボールをシュートするゲームに、音ゲー、格ゲー、メダルゲーム、あらゆるゲームで勝負を挑むも、やはり結果は惨敗。
決して、私が弱い訳ではない。
この女が、異常なまでに強過ぎるのだ!
この卓越したゲームセンス、改めて危険極まりない。
「…クソ、今回も勝てなかった。」
最後にダンスのゲームで完敗した頃には、華麗なダンスを披露するカイちゃんを目当てに、私達の周囲に人集りが形成されていた。
コイツ、朝は変なキモいダンス踊ってたクセにッ!
一方の私は衆人環視の中、パーフェクトに躍るカイちゃんの横で、寿命を迎えて地べたでのたうち回る蝉みたいなダンスもどきを晒してしまい、人々の失笑を買っていた。
死ぬほど恥ずかしくて、生きてる心地がしなかった。
⚪︎2人に質問のコーナー
白狐ちゃんの好きな恐竜は?
「恐竜?エラスモサウルス!」
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