スペースシップ☆ユートピア

永遠の時を旅する2人の少女の愛の物語
千葉生まれのTさん
千葉生まれのTさん

37話・4年目・私に話して!

公開日時: 2021年7月18日(日) 21:58
更新日時: 2022年1月23日(日) 19:20
文字数:3,018



カイちゃんに絡んでいたあの女は、一体何者だったのか?

疑問に感じて間もなく、カイちゃんが席に戻って来た。

例の女は、もうどこにも見えなくなっている。


「白狐ちゃんお待たせー。」


「ああ、うん。」


カレーのトレイを持って帰って来たカイちゃんの表情は、笑顔だった。

でも私には分かる。これが偽物の笑顔だって事が。


「カレーめっちゃ美味しそう!」


「うん、確かに。」


「いただきまーす!」


カイちゃんが食べ始めたのとほぼ同時に、私の持っていた端末が鳴った。


「お、やっと私のも出来上がったか。行ってくるね。」


「どぞどぞ〜。」









「ご馳走様!」


私が注文した豚骨ラーメンを取りに行き、席に戻って来た頃には、カイちゃんのカレーは綺麗さっぱり消失していた。

何このマジック。


「いや、辛口の超大盛りでしょ?化け物かよ。」


「彼女に対して化け物は酷くないッ!?」


「さりげなく彼女になるな!まだ全然早いわ!

あとお前は正真正銘の化け物だ!ハングリーモンスターだ!」


「うひィ!」


化け物呼ばわりされて気持ち良くなっているカイちゃんは、どう見てもいつも通りのカイちゃんだ。

流石、子供の頃から大人社会で仕事してるだけあって、こういう時に自分の感情を隠すのが上手だな。










「ご馳走様。」


私も、豚骨ラーメンを食べ終わった。なかなか美味であった。


「白狐ちゃん、次はどこ行こっか?」


「……ねえ、カイちゃん。」


「ん?どうしたの?」


「さっきの女って、誰なの?」


「え゛?」


直球で聞いた。

あまりにも直球だったからか、カイちゃんが固まっちゃった。

だけど、私の真剣そうな眼差しを読み取ってくれたのか、カイちゃんは観念したように言葉を続けた。



「あぁ、やっぱりさっきの見られちゃってた?」


「まあね。あんまし話したくない事だったら、無理に話せとは言わないけど。」


カイちゃんは少しだけ黙考した後。


「…いや、白狐ちゃんには正直に話すよ。

将来の恋人に隠し事するのも、なんか嫌だし。」


「うんうん、殊勝な心がけだ。偉い偉い。」


将来の恋人、か。

そうなるには、あと96年頑張って貰わなきゃならんのだがな。


「あの人は、女優のかわら たまきさんって人なんだけど、知ってる?」


「かわら…?んーと、あぁ、名前聞いたら思い出したかも。最近テレビで見たな。」


バラエティ番組のゲストやドラマで出演していたのを、何度か見た記憶がある。

確か、2年くらい前に月9ドラマで鮮烈デビューして以来、各所で話題の美人過ぎる新人女優だそうだ。


「で、その絶賛活躍中の女優さんと、何か問題でもあったの?」


「…あー、うん、まあ、ちょっと、ね。少し、あの人とは相性が悪かったみたいで…。」


「相性ねぇ…。」


カイちゃん、今まで見た事もないレベルで、歯切れが悪い。

俯きながら、誰でも分かるような作り笑いで、誤魔化そうとしている。


「カイちゃん。」


「…なあに?」


「これ以上追求されるのは、嫌だ?」


「うーん、でも白狐ちゃんに迷惑掛けられないし。」


「いやいや、何言ってんの。カイちゃんになら、別にいくら迷惑掛けられても、私は気にしないよ。」


「…び、白狐ちゃん…!?」


驚きに目を見開いているカイちゃん。

私は、正直な自分の気持ちを吐露する。


「これまでもこれからも、私達はずっと一緒に居るんでしょ?

だったら、遠慮無く私の事も頼ってよ。

とは言っても、私に出来る事なんか限られてるけどな。

せいぜい、カイちゃんの愚痴を聞いたりする程度だけど。」


「……。」


返事が無いから不審に思ってカイちゃんの顔を見たら、めっちゃ泣いてた。号泣だった。


「…白狐…ぢゃん……ッ!ぞう言っでくれで!嬉じいよおぉぉぉ!!」


「なッ!?おいバカバカバカぁ!こんなとこで泣くなって!周りに沢山人いるんだぞ!」


「だっでぇぇ!」


周囲のお客さん達が数人、何だ何だとこちらを見ている。

やめてくれ!私が泣かせたみたいじゃん!実際そうなのかもだけど!


「白狐ちゃん大好きぃぃ!優しいぃぃ!!」


「ったく、分かったから、落ち着きなさい。」


「キスしてぇぇぇ!!」


「調子に乗るなお馬鹿ッ!」


「あひんッ!」


頭をスパパンと引っ叩いた。

それ自体はいつもの光景だけど、TPOが絶妙に悪かった。

周りの人達が、「ちっこい子が大きい子を虐めてる。」とか、「ママー、あれなにー?」とか言ってる。

ヤバい恥ずかしい居た堪れない!


「カイちゃん、ご飯食べ終わったなら、早く移動しよう。」


「え?うん。」


私達は、逃げるようにフードコートを後にした。












◆◆



「…ふぅ、ここなら取り敢えず、落ち着いて休めるだろ。」


私達が辿り着いたのは、ショッピングモールの屋上。

その隅にある、鉄製のベンチに隣り合って腰掛けていた。

ここなら人目も少ないし、休憩するには最適だろう。


「しっかしまさか、カイちゃんにも悩みがあったなんてなぁ。」


「白狐ちゃん酷い!アタシにだって、悩みの一つや二つはあるよぅ!」


「そうだね、ごめんごめん。」


プクッと頬を膨らませて、不服そうに訴えるカイちゃんを宥める。

可愛いもんだな、全く。

とても悩みがあるようには見えんぞ。




「…じゃあ、白狐ちゃんには全部話すね。」


「うん、お願い。」


周囲をクルリと見渡し、人がいないのを確認してから、カイちゃんは意を決して話し始めた。













◆◆



「成る程、そういう事か。」


「…うん、これで全部。」


カイちゃんの語った話の内容は、私の予想以上に深刻なものだった。

あの磧とかいう女優の父親は、巷では有名な敏腕の私立探偵らしく、芸能界で活躍する娘の為に、娘の商売敵となり得る人間の素行を調査して、入手したスキャンダルを娘に提供しているらしい。

そうして手に入れた情報を、娘である磧環が濫用し、脅しのネタに使ったり、業界から追い出す為の凶器にしているのだそうだ。


カイちゃんは運悪く、そんな悪女のターゲットにされてしまったらしく、〝ある物〟を脅しのネタにされてしまい逆らえなくなり、度々嫌がらせを受けているという。


「とんでもない女だな。いい歳して親の力を悪用するとは、恥を知らんのか、恥を。」


「え、それ白狐ちゃんが言っちゃう?」


「え?」


「え?」


「…なんだこの空気は。」


いや、そりゃ確かに私はカイちゃんと出会ってなかったら親に養って貰ってたかもしれないけど、それは悪用とは違う!きっと!

それに、今はカイちゃんに養って貰ってるから大丈夫だ、問題ない。


「そんな事よりカイちゃんさ、脅しに使われてるネタって、一体何なの?」


磧について話している間、その部分だけ特に口籠もっているように見えたので、気になってたのだ。


「…あ、うん、正直話しにくいけど、白狐ちゃんも知ってなきゃいけない事だもんね。」


「なぬ?それってどういう事?」


私が知ってないといけないって、どういうこったい?


「…これ、なんだけど。」


カイちゃんが見せてくれたのは、スマホの画面に映し出された写真だった。


「何これ?…って、これまさか私達の住んでるアパート?

よく見たら、私達も写ってるじゃん。」


「うん、その通りだよ。しかも、沢山。」


私とカイちゃんがアパートの前で話している写真や、扉を開けて自宅に入って行く写真、出て行く写真などなど、様々なシチュエーションの写真がいくつも出て来た。

どれも、私とカイちゃんがセットになって写っている。


「キッモ!これって全部…?」


「うん、磧さんのお父さんが隠し撮りしたの。」


「マジか…。」


今まで全然気付かなかった。

流石は、凄腕の探偵といったところか。


だけど、この写真のどこが、カイちゃんを脅すネタになるんだ…?



⚪︎2人に質問のコーナー


白狐ちゃんの得意なスポーツは?


「え?いや、そもそもスポーツなんてした事無いけど?」

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