「…山岸ちゃん、大好きですッ!」
「………えーと…?」
「……。」
アメリカでの誘拐事件が解決した後、クルーズ主催側の安全管理なんかが問われて、このまま旅行を継続するかどうか問題になったけど、被害者であるエリザベちゃんの強い要望もあって、一応継続する形に落ち着いた。
とは言え、残る場所は最後のハワイのみなんだけどな。
んで、なんで上記のような告白をカイちゃんが受けたかというと、ギャング達をやっつけた時のカイちゃんの大立ち回りが、エリザベちゃんの目には自身を救ってくれたヒーローとして映ったらしく、すっかり惚れられてしまった。
で、ハワイ滞在中、ロマンチックな夕日が沈む海岸をカイちゃんと歩いていたら、そこで出会したエリザベちゃんから告られたのだ。
にしても、私がカイちゃんの恋人だって知ってる筈なのに、本人を前に告白するなんて、物凄い胆力だなぁ。
「…山岸ちゃんと尾藤ちゃんが恋人なのは、勿論分かってるよ?
だから、敵わない恋だと分かってはいるんだけど、それ以上に想いを伝えられずにはいられなかったの!」
なるほど、そういう事か。
別にカイちゃんを寝取ろうとか、そういう意図がある訳じゃなく、断られるのは百も承知で純粋に想いを伝えたかっただけなのか。
まあ、どっちにしろカイちゃんが私以外に靡く可能性なんざゼロだろうから、元より心配はしてないけどさ。
「……そっか、そうなんだね。
ありがとう、その気持ちはすっごく嬉しい。」
「…うん。」
「でも、やっぱりごめんね。
アタシの恋人は白狐ちゃんしかいないから、その気持ちには応えられないの。」
「……うん。」
エリザベちゃんの表情が暗くなる。
この世界一周旅行でエリザベちゃんとはよく一緒になったけど、こんなに落ち込んだ彼女は初めて見た。
私が振った訳でもないのに、なんか罪悪感を感じちゃうな。
「…でも、大丈夫だよエリザベちゃん。
エリザベちゃんはとても良い子だから、絶対にいつかアタシ以上に良い人と出会える筈だから。
もしエリザベちゃんに恋人が出来たら、アタシにも紹介して貰えたら嬉しいな。」
カイちゃんの素晴らしいアフターケアというか、その励ましの言葉を受けて、エリザベちゃんの顔が少しだけ明るくなった。
「それじゃあ私、いつか必ず素敵なお嫁さんを見つけるからね!
山岸ちゃんみたいに、おっぱい大きい女の子見つけてみせるからッ!」
「おっぱ……えぇ…?
まあ、とにかく頑張ってね。楽しみに待ってるから。」
「うん!頑張るッ!」
まあ、そんな形で落ち着いた。
エリザベちゃんも、100%振られると分かっていたからか、カイちゃんのフォローのお陰でそこまでへこまずに済んだみたいだ。
「私も、陰ながらエリザベちゃんを応援してるよ。頑張って。」
「うん、2人ともありがとう!」
◆◆
楽しかった世界一周旅行も、遂に終わりの時を告げた。
こうして久し振りな日本の地に降り立ってみると、これまでの旅行の日々が長かったような短かったような、不思議な感覚に陥る。
でも確実に言える事は、凄く充実していたという事。
私の今後に人生に於いて、かなり大きめな思い出になったかもしれない。
「うーん、終わっちゃったね白狐ちゃん。」
「ああ、なんて言うか、久々の我が家に帰れる喜び半分、慣れ親しんだ船とお別れする寂しさ半分って感じだなぁ。」
横浜港に降りて振り向いてみれば、すっかり見慣れたキングオブクイーンwithプリンセス&プリンス号の姿が。
最初に見た時はあんなにビビっていたのに、今じゃ第二の故郷のように感じる。
「旅行の間、食事がずっと船の中のレストランとか、外国のお店ばっかりだったから、久々に白狐ちゃんの手料理食べたいなー。」
帰路につきながら、カイちゃんがニコニコ笑いながらそう言ってきた。
「んー?あぁ、仕方がないな。リクエストは?」
「それじゃあカレーで!」
「よし、任された!」
カレーは特に得意な料理だ。
私自身もしばらく料理してなくて腕が鈍ってるかもしれないから、今日は大盤振る舞いだな!
◆◆
「家だーーッ!」
「イエーイ!」
家だけにか?つまらんぞカイちゃん。
つまらないから敢えて突っ込まない。
それよりも、我が家だ我が家!久々の我が家!
不変力で常に買った当時のふかふか感を保っているソファにダイブし、クッションに顔を埋め、嗅ぎ慣れた我が家の香りを堪能する。
「んぅー!我が家最高!最高我が家!
我が家我が家わーがーやー!フゥー!」
「…こ、こんなにテンション高い白狐ちゃん久し振りに見た。」
「そりゃあもう、テンションも高くなるってもんだろ!
今宵は宴じゃー!ゲームやるぞ!
カレー作ってカレー食ってゲームするぞー!」
「はいはい、アタシも付き合うねー。」
世界一周旅行も楽しかったけど、やっぱり我が家が一番だな。
そう、しみじみ思う今日この頃でした。
◆◆
「カレー♪カレー♪かっれっえ〜♪
ウヘヘヘ、私の特製カレーでカイちゃんを最高の笑顔にしてやんよぉ〜♪」
「…び、白狐ちゃんが歌を歌いながらカレー作ってる…!?
え?なにこれ?新手の天変地異の前触れかな?」
「んな訳ないだろ〜!
ほい出来た!」
テンションが高まっている私は小躍りしながらカレーをカイちゃんの元へ配膳していく。
私の特製カレーがよっぽど嬉しかったのか、カイちゃんはカレーを見ながら硬直しているぞ。
「…あの〜、白狐ちゃん?」
「ん?どうかした?」
「えっと、アタシのカレーだけものスゴ〜く真っ赤っかで刺激的な香りがするんですけど、これは何味のカレーなのかな?」
カイちゃんが引き攣ったような笑顔で聞いてくる。
どうしたんだ?喜びのバロメータが振り切れて、顔面の筋肉が断裂したのか?
「そりゃあ白狐ちゃん特製の超激辛昇天カレーだよ。」
「…昇天…激辛カレー…?」
「ほら、世界一周旅行の時に、ブータンにも寄ったじゃん?
ブータンと言えば、名物は唐辛子を使った激辛料理。
で、刺激に飢えてるカイちゃんには最適かな、と。」
カイちゃんへのサプライズの為に、ブータンで最も辛いと言われ、現地の人でも食べれる人は少ないという伝説の超激辛唐辛子を、こっそり買っていたのだ。
それでカレーを作ってみた結果、想像以上にヤバ目な見た目と臭いになったけど……まあ、カイちゃんなら大丈夫だろう。
「…で、でも白狐ちゃん、これは流石に人類には早過ぎるんじゃ…」
「え!?カイちゃん、食べてくれないの?
私、一生懸命作ったのに…」
「をほぐゥッ!?」
わざとあざとい感じに、上目遣いプラス猫撫で声で言ってみる。
「…そっか、下手くそな私が作ったカレーなんて、舌の肥えてるカイちゃんの口には合わないもんね。
ごめん、私が調子に乗って激辛カレーなんて作っちゃったばっかりに……」
「ままままま待ってッ!
アタシ、辛いの大好きだからー!」
私が激辛カレーを下げようとすると、カイちゃんが引ったくるように取り上げてきた。
「…う、うぐ…!」
でもまだ、食べるのを躊躇っているみたいだ。
ならば、私自らトドメを刺してやろう。
「私の愛情も、た〜っぷり込めてあるからねっ♪」
「ゴートゥーヘブンッ!!」
カイちゃんが、激辛カレーにがっついた!
彼女を襲う脳と喉を焼くような猛烈な刺激に悶絶しながらも、その表情はどこか嬉しそうだった。
◆◆
「うッ、うぐ…うぅ…」
カイちゃんが泣いてしまった。
「ご、ごめんカイちゃん、ちょっとやり過ぎた。」
「いいの白狐ちゃん。辛かったけど、白狐ちゃんの愛の味が具現化したものだと考えたら、むしろ快感だったから!」
「うーわ…」
まあ、カイちゃんが嬉しそうだからいっか。
⚪︎2人に質問のコーナー
カイちゃんの好きな寿司ネタは?
「大トロだね!あの柔らかい食感が、白狐ちゃんの唇と似た柔らかさで…」
流石に理由がキモ過ぎる!
読み終わったら、ポイントを付けましょう!