スペースシップ☆ユートピア

永遠の時を旅する2人の少女の愛の物語
千葉生まれのTさん
千葉生まれのTさん

11話・2年目・みんなで話し合おう

公開日時: 2021年4月23日(金) 12:12
文字数:3,025




修学旅行の行き先は、沖縄に決まった。

まあ、高校の修学旅行先としては、妥当な所だろう。

私もカイちゃんも沖縄に行くのは初めてなので、昨日ウチで遊んだ時は2人でその事について話し合っていた。


で、今日は学校で、当日の日程を班ごとに話し合って決めるらしい。

今まさに話し合いが始まるところで、私とカイちゃん、それに班内で唯一の男子である新藤丈。

そしてもう一人、4人目のメンバーである女子生徒の、野茂咲のもさき 柑奈かんなさん。


新藤君は普段から大人しくて、クラス内でも目立たない男子だ。

彼は特に私にとって脅威にはなりにくいだろう。


警戒すべきは、もう一人のメンバーである野茂咲さん辺りか。

彼女はまあ、突筆する事もないごく普通の女子高生だけど、そこがまた厄介なのだ。

どう動くか予測しづらい部分もあるので、常に注意しておく必要がある。



「さ、それじゃあまず1日目の予定から考えよっか。」


4人で机を向かい合わせて、自然な流れでカイちゃんが司会進行役になっている。

私は改めて、メンバーの顔をチラ見する。

新藤君は前髪で片目が隠れてて猫背気味な、いかにも私と同類の匂いがプンプンする男子だ。

同類っぽいからと言って、別にお互い干渉する事は無いんだけどね。話すの怖いし。


野茂咲さんは、茶色気味の髪を左右のおさげで纏めている、小柄でキュートな感じの女の子だ。

彼女は、なんというか可もなく不可もなく、普通に明るい人だ。

懸念すべきは、彼女がどれだけ空気を読んでくれるかによるな。

私の性格を考慮した行動を心掛けてくれる事を祈ってます。


「……さん?尾藤さ〜ん?」


「えッ!?はいッ!上から目線ですみませんッ!」


野茂咲さんに声を掛けられていたのに気付いて、心臓が飛び出る程ビックリした。

反射的に、心で思っていた事を謝罪してしまい、野茂咲さんに変な目で見られてる気がする。


「尾藤さん大丈夫?どっか体調悪いのかな?」


「あ、いや、大丈夫…です。」


「そっか、それならいいんだけど。

ところで尾藤さんは、海行きたい?」


「え?海?」


「あれれ?もしかして尾藤さん、話聞いてなかったでしょ?」


野茂咲さんが悪戯っぽく笑いながら聞いてきた。

あー、ヤバい、別の事考えてた所為で話聞いてなかったよもう!

出だしから失敗してしまった、裏で悪口言われる案件じゃないか、これ。


「……あ、うぅ、ごめんなさい。」


「いいのいいの、えっと今ね、1日目に海に行って泳ぐかどうかって話してるんだけどね。

ほら、水着に着替えるのとか、泳ぐのが嫌って人もいるだろうから、1人でも反対する人がいたらやめようって話してたんだけど、尾藤さんはどう?」


こちらに気を遣ってるのか分からないけど、野茂咲さんの口調は非常に優しい。

私の警戒はただの杞憂だったのか、彼女は思ってた以上に良い人っぽかった。


「…えっと、その…」


海水浴、か。

別に水着に着替えるのは問題ない。いつも部屋だとパンイチだし、そういった羞恥心は遠い昔にダストシュートした。

ただ、泳ぐとなると話は別だ。

私の運動神経は壊滅的で、川に水没した哀れな羽虫みたいになるのは、火を見るよりも明らか。


そして、私にも聞いてきたという事は、恐らくカイちゃんと新藤君は賛成なのだろう。

ここで私が空気を読まずに反対したら、たちまち全員から総スカンを食らい、陽キャグループからボコボコにいじめられて、暗黒の高校時代を過ごす事になってしまう。

それだけは何としても避けなければ!

歴史が真っ黒なのは、中学時代だけで充分だ!




「…は、はい、賛成です。」


俯きながら、おずおずと挙手しつつ、そう言った。

助けを求めるようにカイちゃんの方を見たら、意外な事態が起こっていた。


いっつも笑顔のカイちゃんが、眉を顰めてムスッとした顔になっていたのだ。

どういう事だ?カイちゃんのこんな表情、初めて見るぞ。


「…あえ?うぅ…」


私が訳も分からずにあたふたしていたら、カイちゃんがジッと私の目を見つめながら、口を開いた。



「びゃっ……尾藤さん、本当にそう思ってるのかな?」


「え?」


「海水浴が嫌なら嫌で、正直に言ってくれてもいいんだよ?

無しになったらなったで、別の予定を組み込むだけだから、アタシ達に気を遣う必要も無いし。

何より、4人全員が楽しかったって言える修学旅行にするのが一番だからさ。」


うう!カイちゃんの優しさが胸に刺さる!

私は普段、こんなに優しい子を踏んだり罵倒したりしてるのかと思うと、罪悪感に苛まれる!


でも…!


「あ、いや、そう言ってくれるのは嬉しいけど、海水浴に行きたいのは本当だから。

学校の水泳の授業みたいなのは苦手だけど、海で遊ぶ分にはいいかな、なんて。」


海で泳ぐのなんて小学校の低学年以来だけど、今言った事は本当の気持ちだ。

特にカイちゃんと一緒なら、こんな私でもどんな事でも楽しめるような、そんな気がする。

そんな私の心中を察してくれたのか、カイちゃんの顔はいつの間にやら、通常通りの笑顔に戻っていた。


「そっか、それが尾藤さんの正直な意見なら、尊重しなきゃね。」


おおぉ、カイちゃん、優しい、ありがとう!

こういう時には頼りになるな!

あ、ちなみにカイちゃんが私の事を苗字で呼ぶのは、学校や人前ではそうするように言ってあるからだったりする。

私達の関係が知られたら、とんでもなく厄介な事になりかねないし。

カイちゃんは「気にしすぎだよ〜。」と呑気な事を言っていたけど、私にとってはとても重大な問題なのだ。




「あのさ、前々から気になってたんだけど、尾藤さんと山岸さんって、仲良いよね?どういう繋がり?」


「うえッ!?」


「あ、それ、僕も気になってた。意外な組み合わせだよね。」


「えええッ!?」


突如として、野茂咲さんが爆弾を投下してきおった。

しかも、今まで殆ど喋らなかった新藤君まで何故か追い討ちを仕掛けてくる。


「…あ、いや、そんな…!」


「尾藤さんって、山岸さんと話してる時は結構饒舌だし、さっきも山岸さんが尾藤さんの事を下の名前で呼びかけてたし。

それに、2人が一緒に帰ってるとことか、デャスコでご飯食べてるとことか、何度か目撃した人がいるって噂なんだよね〜。」


「なああァァッ!?」


なぁんだとォゥッ!?

まさか、カイちゃんとの密会がバレてた!?

そりゃあ、デャスコは地元の人間の憩いの場だから、同級生がいても不思議じゃないけど。


…まあ、そりゃそうか、バレるのも無理ないわな。


「…あの、その…」


「ああ、その事かぁ。

アタシと尾藤さんは、実は親戚同士でね、昔からの付き合いなんだ。」


なんと!カイちゃんのナイスフォロー!


「へー、なるほどね〜。」


私とカイちゃんとの間に何かを感じ取ったのか、野茂咲さんがニヤニヤ笑っている。

カイちゃんに引き続き、勘の鋭い女第二号かよ!


「…あぅ、そんな事より、早く予定を決めよう。」


「うんうん、分かってるよ。」


ぬうう、野茂咲さんは多分、変な勘違いをしてるな。

カイちゃんのフォローを言葉通りに受け取っておけ!


なんだかんだあったけど、それからの予定決めは順調に進み、意見が対立したりする事もなく、すんなり終わった。

野茂咲さんも新藤君も嫌な人じゃ無さそうだし、中学の時の修学旅行よりはマシなものになりそうだ。

そう思うだけでも、だいぶ気が楽になってくる。





修学旅行、か。

今まで私にとっては嫌な思い出製造旅行でしかなかったけれど、カイちゃんと一緒なら、もしかしたら考えが変わったりするのかな?

そうだとすると、ちょっとだけ…


…ほんのちょっとだけ、修学旅行が楽しみになってきた。





⚪︎2人に質問のコーナー


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「なんてったってゲーム!ゲームでしょ!」

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