アンチョビ教団とかいう怪しさ満点の宗教団体。
その教団員である4人の人達は、ジャイアント(略)コオロギを探して、更に森の奥へと行ってしまった。
追おうかとも思ったけど、下手に深追いするのは危険だと判断して、私達は彼らから距離を置きつつ、ジャイアント(略)コオロギの捜索を続ける事にした。
「にしても、アンチョビ教団ねぇ。」
アンチョビって確か、魚のイワシの事じゃなかったっけ?
なんでそれを教団の名前にしてるのやら。
「怪しい匂いがこれでもかってくらい、プンプン漂ってるよね。」
「全くだ。触らぬ神に祟りなしって言うし、下手に関わるのはよそう。
コオロギ捕まえて、教団から賞金だけ貰えればそれでいいし。」
「うん、そうだね。でも、どうしよっか?」
「ん?」
「アタシ達、ジャイアント(略)コオロギの手掛かり、殆ど見つけてないから、どうやって探そっか?」
「フッフッフ、その為の罠よ。」
「罠?」
「さっきも言ったけど、餌を用意して誘い出すのよ。」
ニヤリと微笑みつつ、私は持参していた小型のクーラーボックスを地面に置き、蓋を開ける。
中には、美味しそうな野菜や果物をはじめとした、コオロギを誘き寄せる為のご馳走がズラリ。
「美味しそうッ!」
「いやお前の餌じゃないから。」
食い意地の張り過ぎなカイちゃんを制止しつつ、私は更に持参した罠グッズで、ジャイアント(略)コオロギを捕まえる罠を作り始める。
「コオロギは雑食性で、ゴキブリ並みに何でも食うからな。
その中でも特に、野菜や果物が好物なんだよ。」
「ほへ〜。」
私は、前日にネットで見たコオロギ罠を参考に、簡単な罠をクラフトしていく。
「ここをこうしてこうやって、と…」
「…白狐ちゃん白狐ちゃん。」
「ん?今ちょっと集中してるから、用があるなら後にして。」
「いや、白狐ちゃん後ろ後ろ。」
「ん〜?後ろ後ろってそんな、古典的なギャグじゃあるまいし……」
カイちゃんにしつこく促されて、仕方なく後ろを向く私。
そんな私の目に映ったのは、すぐ背後の岩の上で、私と同じ目線の高さでこちらをじっと見つめる、黒光りする1匹の昆虫の姿が。
「うわッ!?ビックリした!って、まさかこいつ…ッ!」
デカい。
普通のコオロギに比べて、遥かにデカいのが一目で分かる。
大きめの靴くらいのサイズがあるぞこいつぁ!
「こいつだ!こいつがジャイアント(略)コオロギに違いないッ!」
私は製作途中の罠を放り出して、突如現れたジャイアント(略)コオロギを注視しつつ、ジリジリとにじり寄りながら少しずつ距離を詰める。
「逃げるな〜、逃げるな〜。」
呪いでも掛けるかのような剣幕で念を込め、微動だにしない巨大コオロギに近づいて行く。
カイちゃんが後ろから、ギリギリ聞こえるくらいの小声で「頑張れ白狐ちゃん〜。」と応援してくれている。
ジャイアント(略)コオロギは、何故か逃げる素振りを全く見せず、相変わらずの不動の姿勢だ。
「今だッ!ワイルドハンティングッ!」
私はジャイアント(略)コオロギに飛び付き、抱き締めるように捕まえた!
うーん、私ってば実にワイルド!
「やったー!捕まえたぞー!」
「おめでとう白狐ちゃん!
思ってたよりもあっさり捕まった上に罠を仕掛けるまでもなかったけど、取り敢えずおめでとう!」
「うおー!デカい!こんなコオロギ見た事ないぞー!」
私は、右手で鷲掴みにしたジャイアント(略)コオロギを確認する。
大きめのペットボトルくらいのサイズがあって、明らかに規格外の存在感を放っている。
「にしても、ホンット大人しい子だな。
捕まえたってのに抵抗一つしないなんて、ちょっと変じゃない?」
「確かに変だね。もしかして、オモチャなんじゃない?」
「いや、ちゃんと生きてるよ。偽物とかじゃない筈。」
ジャイアント(略)コオロギは、不自然な程に落ち着いたままで、私の顔を見つめている。
まるで私の事を値踏みするかのような視線で、どうにも奇妙な感じがする。
気になる部分はあるけど、考えても仕方ないし、とっとと教団の人に渡してお金に…
「…ああそうだ、こっちの方から捕まえたぞー!って声が聞こえたんだよ。」
離れた場所から人の声と、こちらに近づいて来る複数の足音が聞こえた。
それと同時に、今まで借りてきた猫みたいに大人しかったジャイアント(略)コオロギが、突如として俊敏な動きで私の着ているパーカーの中に潜り込んできたのだ。
「うわっぷ!何だこいついきなり!?」
巨大コオロギはもぞもぞとパーカー内を這い回り、フード部分を引っ掴んで私に無理矢理被せると、そのままフードの中に隠れてしまった。
つまり現状は、フードを被った私の頭の上に、これまたフードを被った巨大コオロギが乗っかっているという、おかしな状況だ。
ていうか、知能高いなこのコオロギ。
「白狐ちゃん大丈夫!?」
「あぁ、大丈夫だけど。」
「おーい、君達!もしかして、ジャイアント(略)コオロギを捕まえたのかい?」
岩影から姿を現したのは、2人組の男性。
年齢は両者共に20代後半くらいだろうか、揃ってあの魚のイラスト入りの服を着ている。
よく見たら、その魚もどことなくイワシっぽい面構え。アンチョビだし。
「あ、いや、その…」
しまった!知らない人に声を掛けられて、私の人見知りスキルが自動発動してしまった。
このスキルは一度発動しちゃうと、制御するのが難しいんだよなー。
「ハハ、まさか君みたいな小さな子供が捕まえちゃうなんてね。ほら、見せてごらん?」
男性は笑顔で優しい口調で話し掛けてくるけど、不自然なまでの作り笑いっぽくてキモいし怪しい。
こんなにも胡散臭さ満点な人達に、果たしてジャイアント(略)コオロギを渡してしまって良いのだろうか?
そもそも、さっきジャイアント(略)コオロギが私の服の中に隠れたのは、この人達の声が聞こえた直後の出来事だ。
それってつまり、この子がアンチョビ教団から逃げてたって事じゃないか?
で、私達の事を警戒しないであっさり捕まったのは、この人達から逃れる為に、私達に保護して貰おうとしてたんじゃなかろうか?
この仮説が事実だとしたら、なんて頭の良いコオロギなんだ!脱帽!
だとすると、いくら賞金が貰えるとはいえ、こうして助けを求めてきた無辜の虫を、むざむざ怪しい連中に引き渡す道理は無い!
…でも、人見知りがッ!
「あのー、すみません。捕まえたと思ったら、勘違いだったんです。
ほら、そこの太めの木の枝と間違えちゃって。」
私が言いあぐねて困っていると、空気を読んだカイちゃんがフォローしてくれた。
ナイスファインプレー!カイちゃん!
「ああそっか、こっちも早とちりしちゃって悪かったね。」
「いえいえ。」
「あれ、そこの君、頭が変に膨らんでるけど、どうしたのかな?」
ギクッ!
私のこんもりと不自然に盛り上がった頭頂部を、ツッコまれてしまった!
ヤバい、コオロギが動かないとはいえ、フードの中を確認されたら困るぞ!
「もし良かったら、中を確認させて貰っても良いかな?」
「えと、あの…!」
マズい、怪しまれてる!
私は一体、どうすれば…!?
「あの、それはですね、でっかいチョンマゲなんです。」
「チョンマゲ?」
「へ?」
え、ちょい待って。
カイちゃん、何そのフォロー。無理有り過ぎるだろ。
「あ、ご存知無かったんですか?
最近、若い女の子達の間で、チョンマゲファッションが流行してるんですよ。」
いやいや、ファッションに疎い私でさえ、その言い訳は無理だって分かるぞ!
「…そうだったんだ。最近の若い子は、なかなか斬新なファッションを好むんだねぇ。」
いや通じてるし。
通じてるしー!
つ、つ、つ、通じてるしー!(エコー)
⚪︎2人に質問のコーナー
白狐ちゃんの苦手な魚は?
「強いて言えばウツボ。顔怖いじゃん。」
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