スペースシップ☆ユートピア

永遠の時を旅する2人の少女の愛の物語
千葉生まれのTさん
千葉生まれのTさん

132話・2300年目・帰って来たぞー!

公開日時: 2022年7月29日(金) 20:52
文字数:3,111



アンチョビ教団の先代教祖であるドロテーアちゃんのお母さんは、相当な暴君だったらしい。

いや、その人だけじゃなく、ここ数百年の間、教団は教祖に恵まれなかったそうな。


初めは、タチの悪い妄想に取り憑かれた人物だったらしく、世界を滅ぼして人類をリセットする計画を真面目に企てていた。

結果、彼女の計画は成功して、人類史上最悪の世界戦争を引き起こす事になった。

そこからずっと教団の教祖は、その狂った思想を引き継ぐ素質を持った者が選ばれた。

世界を支配した教団は、荒廃した世界で生き残った民を掻き集め、集落を形成した。

そして支配者として、ガンガン搾取していったそうな。


「だから、本部はあんなに悪趣味にゴテゴテしてたんだねー。」


「ああ、典型的な悪王だよ。

自分の力を見せびらかしたいタイプのな。」


帰りのスーパーキャンピングカーに乗りながら、私とカイちゃんは会話している。


「それで最近になって、反アンチョビ教団思想を持つドロテーアちゃんが教祖になった。

最初は不自然に思ったよ。

先代の指名とはいえ、そんな思想の子が教祖になれるのかってね。」


「多分、器用に隠して上手く立ち回ってたんだろうな。

で、教祖に選ばれる為に狂った思想を引き継いだフリをしていた。

ほら、あの子演技上手かったじゃん!」


経験豊富で勘の鋭いカイちゃんですら騙されてしまうレベルの演技だ。

生まれる時代さえ違えば、名子役にでもなってたかもしれないもんな。

ちなみに、彼女の部屋に不自然な空きスペースが散見出来たのは、元々あった〝無駄な置き物〟を全て売り払い、民へと還元したかららしい。

立派な話だ。



ふと外の景色に目をやると、汚染された大地を映す車窓のその先に、見慣れた町が薄っすらと見える。

ほんの数日ぶりだというのに、色々と濃いめの日々だった所為か、やたらと懐かしく感じてしまう。







さて、ドロテーアちゃんから頼まれた、大集会への参加。

そして、アンチョビ教団の解散宣言はどうなったか。

それらは、私達が想定していたよりも遥かに順調に、つつがなく受け入れられた。



『我らが神の御言葉は絶対。

あらゆる事象に優先される至言也。』



というアンチョビ教団の戒律により、最初は戸惑っていたものの、割とすんなり話が通った。

2つか3つ、私の不変力による奇跡の力を見せたら、みんなが神だと信じてくれた。

教祖様のお墨付きでもあるしな。


「これで私達も安心して暮らせるし、あの巨大蜘蛛も無事に元の縄張りに帰れるってもんだ。」


「でも、ドロテーアちゃん一人で大丈夫かな?

集会では上手くいったけど、これからどんどん問題が出てくる筈だよ。」


そう、アンチョビ教団を解散させたドロテーアちゃんは、勿論それで終わりではない。

むしろこれからが始まりでもある。


彼女は、新しい国を作ると言っていた。

当然、アンチョビ教団のような支配色の濃いものではなく、民主主義で国民達が自ら考え、行動するような国だそうだ。

まあ、かつての日本みたいな感じだな。


「あの子なら大丈夫だろ、多分。

それに、困った時には私達を頼れって言ってあるし。」


「そうだけど、建国するのってかなり大変だと思うよ?

似たような経験があるから、アタシには少し分かるよ。」


カイちゃんは元・大企業の社長だしな。

会社経営と国の運営が似てるのかは知らんけど、大変なのは一緒なんだろう。

果たして、私達でどれだけ彼女の力になれるのやら。




「ま、なるようになるか。」


無責任に聞こえるかもしれないけど、流れに身を任せるしか今は出来る事がない訳だ。


「そうだね、白狐ちゃんらしい。」


「んー、そうなんかな。」


私達の町に着いた。

ここだけはいつも変わらない、安住の地。

今回みたいなトラブルはそうそう起こらないと思うけど、ここを守る為ならば、さしもの私も労力を惜しまないぞ。











◆◆



「うえー、やっぱ臭い!ホンット臭い!」


「…ここの臭いは、何度来ても慣れないね。」


私とカイちゃん、そしてジャイアント(略)コオロギは、地元へ帰還するなり早速、3人(正確には2人+1匹)揃って例の激ヤバスメルの漂う禁断の地へとやって来た。

そう、あの巨大な蜘蛛さんが占拠している倉庫である。

相変わらずネバネバの糸だらけで、途轍もなく臭い。





でも、私は気付いた。


「あれ、でも何かよく見たら、ネバネバの量減ってない?」


「本当だ。臭いも酷いけど、前に来た時よりは少しマシかも?」


「もしかして、あの蜘蛛が私達に気を遣って減らしといてくれたとか?」


冗談半分の発言だったのに、カイちゃんは真面目な顔をして


「その可能性も、ゼロじゃないかもしれないよ。

なんて言っても、凄く知能高かったっぽいもん。」


「…まあ、あんまり深く考えないでおこう。」


道を塞ぐ糸が減っていたぶん、前回に比べ倉庫の奥まで格段に速く辿り着いた。


「よっ、お久しぶり。

って言っても、ほんの数日だけど。」


あの大蜘蛛ちゃんが鎮座していた。

言葉は流石に通じてないだろうけど、私達には友好的な様子だ。

敵対的な態度も、怯えている様子も見えない。

うんうん、心を開いてくれてるようで結構結構。

そもそもコイツは、イカつい見た目に反してかなり臆病な性格だしな。


「さてと、それじゃあ事の次第を蜘蛛さんに伝える訳だけども…

通訳さん、どーぞお願いします!」


私は頭を下げて、ジャイアント(略)コオロギに頼んだ。

虫語(?)を話せるコミュニケーターはこのお方しかいないからな。

優秀なジャイアント(略)コオロギは私達の意を汲んだのか、何も聞かずに前へと進み、巨大蜘蛛と会話をし始めた。

触角や脚を動かすジェスチャー的なもので意思疎通しているみたいだけど、こんなん私ら人類にはさっぱりだ。


少しして、ジャイアント(略)コオロギが此方側に戻って来て、前脚で器用にグーサインらしきものを作った。

その様子から、上手く伝わったのだろう。

巨大蜘蛛はこっちを一瞥して、感謝の意を示すようにペコリとお辞儀した。

言葉は通じずとも、何となく意思は伝わる。

随分と手間が掛かったし、色々と大変な事態にはなったけど、こうして正面から感謝されると気持ちの良いもんだな。

あんまりこういう経験が無いから、温かい気持ちが胸に沁みるぜ。フフ。




「…白狐ちゃん、凄いニヤけてるね?」


「うえ!?恥っず!」


「エヘヘ、親切して感謝されたのが嬉しかったんだね。」


「…うっさい。悪臭問題を解決したかっただけだし。」


ったく、調子狂うなぁもう。


その後、汚染地帯に帰って行く巨大蜘蛛を見送った後、糸と悪臭まみれの倉庫をどうするかという問題にぶち当たった。

カイちゃんとの協議の末、もう面倒なので放置しておく事にした。

長い時間が経てば、自然と綺麗になるだろう。多分。







◆◆



「数日ぶりのゲーム!

数日ぶりの我が部屋!

数日ぶりの自堕落な生活!ただいまー!」


部屋に戻って真っ先に私は服を脱ぎ捨て、パンツ一丁でベッドに飛び込んだ。


「数日ぶりの白狐ちゃんの部屋、アタシも堪能するー!」


私に続いて入室するなり、部屋の空気をスーハースーハー吸入し始めたカイちゃん。

コイツも安定のキモさで逆に安心したわ。


「アンチョビ教団の所に行った時、私の最大の失敗はゲームを持って行き忘れた事だ。

想定外の事態だったとはいえ、お陰で何日もゲーム出来なかった。

だから今日は徹夜でやり込むぞー!」


「イエーイ!お菓子の準備も万全!」


ノリの良いカイちゃんが、いつの間にか持ち込んでいた大量のお菓子の袋をテーブルに広げた。


「よっしゃ!準備は上々!後はゲームをプレイしろってねぇ!」


久々のゲームでテンション爆上がりな私は、宣言通りカイちゃんと徹夜ゲームに興じるのであった。

夜中でも近所迷惑を気にせずどんちゃん騒ぎが出来る。

これぞ不変力を持つ者の特権よ。



⚪︎2人に質問のコーナー


カイちゃんが好きな私の身体の部位は?


「おっぱい!」


………え?


「おっぱい!」


………………そう。



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