カイちゃんと品川の水族館に行った、その1週間後。
「東京観光と言えばやっぱり、ここは外せないでしょ!浅草は!」
「ですよね〜。ド定番にして真理だよねー!」
「という訳で我々は今、浅草の玄関口でもあるあの、雷門の前にいます!」
「……白狐ちゃん、誰に向かって言ってるの?」
「いや、何となく言っといた方が良いような気がして。」
雷門の前は歩くのも大変な程に、人混みでごった返していた。
日本人だけでなく外国人旅行者の人達も多く、改めてワールドワイドに人気な観光地なんだなと実感させられる。
ちなみに、チョイスしたのは私だ。
「それで白狐ちゃん、まずはどこに向かうの?」
「フッフッフ、浅草と言えばやっぱりグルメ!
カイちゃんも大好きな〝食〟こそが、今回のテーマだッ!」
「やったー!アタシ食べるの大好きー!」
「そうだろうそうだろう、今日はとことん君の胃袋を満足させてあげよう。」
「楽しみ過ぎるー!」
ワッハッハと高笑いしながら私は、喜んでいるカイちゃんの背中をポンポンと叩く。
さて、まず最初に向かうお店は、と…
◆◆
「浅草グルメと言えば、やっぱこれだろう!」
「も、もんじゃ焼き!」
そう、もんじゃ焼き。
東京下町名物と言えば、この王道グルメは絶対外せないだろ。
「白狐ちゃん白狐ちゃん!アタシこの、明太子とかチーズとかお餅がミックスされてるやつ食べたい!」
「んあー、名前聞いてるだけで涎が出てくる!
早速注文だ!」
「あとこの豚肉たっぷりのやつと、ベビー◯ターラーメン入ってるやつと、なんかもう色んなメニューがごちゃ混ぜになってるやつ!」
「よしきた!片っ端から注文だ!」
注文してすぐに、お椀に入った大量の具材が私とカイちゃんが座る席に次々と運ばれて来た。
「アタシが焼くから、白狐ちゃんは見てるだけで大丈夫だよ。」
「オッケー!焼くのは鉄板番長のカイちゃんに任せた。
そして見るのは私に任せろ!」
カイちゃんがヘラを器用に扱い、鉄板の上の具材を器用に焼いてくれる。
「うん、そろそろ良いんじゃないかな。
白狐ちゃん、味見して貰ってもいい?」
「オッケー!味見係も私に任せろ!」
そう言って私は、綺麗な焦げ目の付いた水溶きされた小麦粉、そしてそれに乗った美味しそうな食材を掬い、パクッと頬張る。
「おおー、美味いなー!」
「そしたらアタシも一口!」
カイちゃんもヒョイヒョイパクパクと、どんどん口に運んでいる。
「うん、良い出来!」
もんじゃ焼き、来て大正解だった。
大量に注文していた具材も、無限の胃袋を持つ私とカイちゃんの手に掛かれば、ものの十数分で全て空になってしまうのでした。
◆◆
「ふいー、満足満足。」
「流石は白狐ちゃんのチョイスしたお店だね。
すっごく美味しかったー!」
「フッ、まだまだお楽しみはこれからだぞ?」
「よしよし、アタシはいつでも準備万端だよ。」
大量のもんじゃ焼きを腹に収めたばかりだと言うのに、もう既に次のお店の話をしている女子二人。
私の不変力の前では、カロリーも満腹中枢とやらも敵ではないのだ。
〜ラーメン〜
芸術的なまでに透き通った綺麗なスープに、丁寧に並べられた具材とツルシコな麺。
「これぞ、元祖日本の醤油ラーメン!」
「うーん、シンプルでいて実に美味しい!
アタシは基本塩ラーメン派だけど、醤油も良いものだねー!」
「そうだろうそうだろう。
私も普段は豚骨系ばっかだけど、ここのラーメンを食べて、改めて醤油ラーメンの良さを実感したなぁ。」
〜メロンパン〜
「ラーメン食べた後って、甘い物が欲しくなるよな?」
「分かる分かるー!人類の本能に刻まれた、原始的欲求だよねー!」
「そういったご要望にお応えして、じゃじゃんッ!
中にアイスクリームの入ったメロンパン〜!」
「むはー!食べる前から美味しいという確固たる事実が伝わってくるー!」
デカくてひんやりとしたメロンパン。
ビスケット調のサクサクした食感と、中に封入されたアイスクリームとの相性は言わずもがな。
絶品の一言に尽きる。
「ん〜、美味いッ!後世に伝えていきたい美味しさ。」
「カイちゃんなら、絶対気に入ってくれると思った。
よし、食べ終わったら次行くぞ!」
「イエッサー!」
〜天丼〜
「甘い物食べた後って、ガッツリした物食べたくなるよな?」
「超絶分かるー!無限ループってやつだよねー!」
「という訳で、浅草老舗の天麩羅屋さんで、最高に美味しい高級海老天丼を喰らうッ!」
「いいねー!サイコー!」
私とカイちゃんの前には、こんがり狐色に揚がった海老天がまるまる3つご飯の上に乗った海老天丼が君臨していた!
圧倒的な存在感!
まさに王者の風格!
「…ゴクリ……ねぇ白狐ちゃん、アタシ、こんなに美味しそうな天丼を前にしたら、理性が崩壊しそうだよ。」
「どうどう、落ち着けカイちゃん。
一気にかぶり付かず、上品に一口一口味わって食べるんだ。」
私の言った通り、ゆっくりと舌で転がすように食べるカイちゃん。
サクッと軽快な音が、私の耳にも届いてくる。
「ふへぇ〜、カリッフワッじゅわぁ〜の3連コンボが、五臓六腑に染み渡るよぉ〜。」
「そうだろうそうだろう。
幸せそうに食べてくれて、見てるこっちも嬉しくなってくるよ。」
〜ラーメン〜
「またラーメン!?」
「フッフフ、何を驚いている。
カイちゃん、君はラーメンなら何杯でもいけるクチだろう?」
「……うん、いけちゃう。」
「なので、今度はさっきのラーメンとは打って変わって、めっちゃ濃厚な鶏白湯ラーメンです!」
「イエーイ!しかも実はアタシ、鶏白湯ラーメン初めてー!」
「結構結構、最高の初体験をカイちゃんにお届けしよう。」
どうも、私達は美味しいグルメを巡り過ぎた所為か、変にテンションが上がっているらしい。
道行く人から好奇の視線を向けられ始めたので、程々にしておこう。
ただでさえ、有名人のカイちゃんは目立つんだから。
「…という訳で、今度はこちらのお店にお邪魔だ。」
声のトーンを普通に落として、私はオススメのお店にカイちゃんを招き入れた。
「おおー!」
注文してやってきたラーメンを見て、カイちゃんが分かりやすく感嘆の声を上げる。
一見、豚骨ラーメンのスープにも似た白いスープは、ドロリとしているようで澄んでいるようにも見え、なかなかに食欲を唆る見た目だ。
「い、いただきます。」
「さあ、たんとおあがり。」
私とカイちゃんは、ほぼ同時に一口目の麺を啜った。
「……なッ!?」
「どう?美味しい?」
たった一口、口にしただけで、カイちゃんの全身が小刻みに震えているのが見えた。
「…お、美味しい…!
なんでアタシは、こんなに美味しいラーメンを今まで食べてこなかったんだろう。」
「そこまで言うか。」
「そこまで言うよ!」
そこまで感動してくれたか。
私が作った訳でもないのに、こっちも気分良くなってくるじゃないか。
「スープが濃厚過ぎるお陰で、もはや海苔を浸しただけでも充分なおかずになるレベルだよ!」
「そうだろうそうだろう。この濃厚さこそが、鶏白湯の売りでもあるからなぁ。」
◆◆
「っあーッ!満足したー!」
一通りお店を回り、浅草寺にお参りした後、境内で体を伸ばしながらカイちゃんがそう叫んだ。
「うんうん、その一言が聞けて良かった。
案内した甲斐があったってもんよ。」
「ついでにここ出店の屋台がいっぱいあるから、色々食べない?」
「お、いいねぇ。
今日はもう、とことん食って食って食いまくるぞ!
そういう日だ!」
「…うん、アタシもそろそろ本気出すよ…!」
「え?」
その後、爆食の嵐と化したカイちゃんはあらゆる浅草グルメを喰らい尽くし、それが終わりを見せたのは、私達の財布の残金が5円玉1枚のみになった時だった。
⚪︎2人に質問のコーナー
カイちゃんの苦手な果物は?
「特に無いねー。フルーツなら何でも食べるよ。」
読み終わったら、ポイントを付けましょう!