帰宅してからというもの、私は自らの能力について色々と試してみた。
不死身になった黒猫。動物に効くのなら非生物はどうかと、私の部屋にあるメモ帳を使ってみた。
一枚のメモ紙に例の光を当ててみたら、実験は見事に成功した。
紙をいくら切っても、切ったそばから瞬時にくっついて再生してしまうのだ。
「うっわ、すっごい…!」
部屋で一人、パンイチで歓喜している私。
他にも色々試してみたけど、どうやら有機物無機物問わず、あの光を浴びた物質は無限再生能力を得てしまうようだ。
実験を進めるうちに、更なる事実も判明した。
この光を、10秒間くらい長時間照射した場合についてだ。
「おお!これはヤバいな!」
光を長時間浴びたメモ紙は、破こうとする以前にいくら力を込めても切れ込みすら入れる事が出来なくなっていた。
質感は普通の紙と変わらないのに、不思議なもんだ。
1時間くらい夢中になって実験を続けた結果、私はある一つの仮説に行き着いた。
この能力は、単に不死身になる力などではなく、物体の状態を不変にし、固定させるものではないのかと。
更には光を当てる時間によって効き目の強弱も調節出来て、弱くすれば状態が変化しても自己再生する程度。
強くすれば、外部からのあらゆる影響を無効化してしまうような、完全に不変の状態に出来る事が判明した。
よし、便宜上強弱のレベルを数値化して、分かりやすくしよう。
一番弱い状態がレベル1で、最大がレベル10といった具合でいいんじゃないかな。
「今の私の状態が、大体レベル9くらいなのかな。」
他に何か試せる事はないか。
そういえばまだ右手でしか試してなかったけど、反対の手だとどうなるのかなと、ふと思った。
なので、今度は右手同様、左手に力を込めてみる。
「うおッ!?」
いやー、驚いた。
右手の光が白い光なのに対して、左手のは黒い光だったからだ。
「何だこれ、右手のとは違うのか?」
試しに、最初に無限再生状態にしたメモ紙に、黒い光を当ててみる。
見た目上は特に変わった点は見受けられないけど、取り敢えず手に取ってビリッと裂いてみる。
「あれ?戻らない。」
さっきまで切っても再生していたメモ紙が、普通の紙と同じように切られたままになる。
成る程、そういう事か。
「黒い光は、白い光の効果を打ち消す効果があるって事か。」
続けて実験しようと、お次はレベル10まで白い光を浴びせたメモ紙に、黒い光を当てる。
すると今度は、黒い光の効果が無かったのか、いくら切ろうとしてもびくともせず、不変のままだ。
「もしかして、レベル10までにしちゃうと、黒い光でも元に戻せなくなるのか。」
これは危ない。
下手に自分をレベル10にしてたら、後戻り出来なくなるところだった。
うん、それにしてもこうやってレベル分け出来たのは非常に大きい。
これで、あの女の私への愛が本物かどうか、試す事が出来るじゃないか。
そして翌日。
例によって放課後に体育館裏に来たら、既に山岸が待っていた。
ただし今回は偶然ではなく、昨日連絡先を交換したのでそのお陰だ。
私が『話があるので明日、放課後に体育館裏まで来て下さい。』とメッセージを送ったら、がっつくような速さで既読になり、秒で返信が来おった。
軽く引いた。
「尾藤さんッ!」
まるで満開の桜でも一斉に開花したみたいな、輝きに満ちた笑顔が私を襲う。
やめろこのッ、私みたいな陰の生物には、あまりにも眩し過ぎる。
「話って何かな?気になり過ぎて、昨夜はいつもの半分しか睡眠時間とれなかったよ!」
「えぇ…、病的だよ、それ。」
「うん!アタシの尾藤さんへの想いはまさに、恋の病!なんちゃって!」
なんちゃってじゃないよもう。
あざとく照れた仕草も可愛くって、いちいち絵になる女だなぁオイ。
「…それで、今日山岸さんを呼び出した理由なんだけど…。」
まずは、と続けて、私は自分の持つ能力について山岸に全て教えた。
白い光と黒い光、レベルと強弱について等、私の知る限りの事を全て、実践も交えて。
突然こんな事を教えた私に、山岸は何の疑念も不満も抱いている様子はなく、ただただ面白そうに、興味深そうに何度も相槌を打ちながら聞いてくれていた。
コイツ、本当に聞き上手だなぁ。
話し下手で、所々噛んだり呂律が回ってない私のダメダメトーク術でも、山岸は心底楽しそうに聴き入ってくれた。
優しいなぁ、コイツ。
こんなにも面白そうに私の話を聞いてくれる人なんて初めてだよ。
んで、取り敢えず説明はなんとか終わりを迎えた。
「それで、こっからが本題なんだけど。」
「本題?」
そう、本題。
つまりは山岸が、最も興味を示すであろう、あの話題。
「…昨日言った試練について、なんだけど。」
「……うん。」
お?思ったより冷静だな。
てっきり、興奮して狂戦士化でもするのかと思って身構えてたけど、どうやらまだ大丈夫なようだ。
そして私は、山岸にとって最も過酷で、最も私と一緒になる上で必要不可欠な試練の内容を告示した。
「私の側に100年間、一緒にいられたら恋人になってあげるよ。」
「……100年?」
山岸は、目を丸くして驚いていた。
そりゃそうだろう、交際する為に100年間も必要だなんて、普通の人間にはとても思い浮かばない。
「私は、これからずっと不老不死の状態のまま、地球が滅亡するまで永い永い時間を過ごしていくつもりなんだけどさ。
そんな私に連れ添うってつもりなら、たった100年ぽっち一緒に過ごせない事には、話にならないよね?」
よし、こんな無茶苦茶な条件付けてやれば、流石のコイツも諦めるだろ。
これこそが、私が考え出した山岸への試練。
「100年、か…。」
「具体的に説明すると、100年の間、山岸さんの不変力(私が考えた名前)をレベル9に設定する。
その状態なら、山岸さんが途中で諦めても元に戻せるから。」
私みたいなつまらない人間と一緒にいたら、ものの数ヶ月ももたないだろう。
だから…
「え?最初からレベル10でいいよ。」
「…は?」
「だって、アタシが尾藤さんと離れたくなるなんて、考えられないし。
それに、たった100年でいいなんて、尾藤さんは優しいんだね!」
「は?はあァァァ!?」
山岸に不意打ちハグされ、また激しい頬擦りをされる。
クソッ、コイツの神経はどうなってんだ!
私はどうやら、目の前の変態の底力を甘く見ていたようだ。
「それじゃ、早速アタシにその光をちょうだいな!
あ、それと正式に友達になるんだし、アタシの事はカイちゃんって呼んでねッ!
アタシも、今から尾藤さんの事、白狐ちゃんって呼ぶから!」
「ちょ、ちょっとォ!?
100年だよ100年ッ!そんな軽くていいのッ?」
「え?いやいや、白狐ちゃんと一緒になれるなら、100年でも100万年でも、全然余裕だよ!」
「家族も学校の友達も、みんな先に死んじゃうんだぞ!耐えられるの!?」
「んー、確かにそれは辛いかもだけどさ。
でも、それ以上に白狐ちゃんと恋人になりたい欲の方が強いかな!」
「なッ!?」
あーもう、クソクソクソぉ!
だからその屈託の無い笑顔をやめろ煩悩だらけのクセにィ!
なんだよもう、私までおかしくなってしまいそうだ。
「分かったよ、アンタの熱意はよーく分かった!
でも、不変力はレベル9にさせて貰うからね。
後で責任取れって言われても困るから。」
「そんな事言う可能性はゼロだけど、白狐ちゃんがそうしたいなら任せるよ。
ウフフフ、嬉しいなぁ。これで白狐ちゃんと一緒にいられる…!ムフフのフ。」
うわ、やっぱやめようかな。
⚪︎2人に質問のコーナー
白狐ちゃんの好きなゲームのジャンルは?
「ハッ、それを私に聞くとは。
私は基本的にオールラウンダーだけど…(長過ぎるので中略)…どちらかと言うと、RPGが好きかもね。」
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