カイちゃんは何でも出来る。
重機の操縦だって、爆発物の扱いだってお茶の子さいさいだ。
それらの技術を駆使して、トンネルを作ることだって簡単なのだ!
「白狐ちゃーん!遂に開通したよー!」
「おおー!流石はカイちゃん!お疲れ様!」
ひと仕事終えたカイちゃんが、私の部屋へとやって来た。
いつものお洒落な服装ではなく、力仕事をしやすい作業着でだ。
結構大変な作業だったのか、3日前から例の地底湖のある洞窟に赴いて、重機や少量の爆薬を用いてトンネルを掘っていたのだ。
「それにしても、1人で作業させて悪かったな。
私にはああいう仕事は不得手だし、カイちゃんが向いてたとはいえ、ちょっと心苦しいな。」
「いやいや、そんなの気にしなくていいよー!
アタシがやりたくてやってたんだし、たまには力仕事するのも割と楽しかったよ。
それに……」
ニコニコ上機嫌に笑いながら、意味深な感じで言ってくるカイちゃん。
「……それに?」
「ひと仕事終わって疲れた体には、白狐ちゃんの美味しい手料理が一番染みるからねー!」
「ん、分かったよ。
とびっきりのご馳走を食べさせてやろう。
待ってなさい。」
「イエーイ!やったー!」
「ご飯作ってる間に、着替えてお風呂入ってきちゃいなよ。
正直、めっちゃ汗臭いぞ。」
「え、ウソ!?自分じゃ気付かなかった!」
カイちゃんは自分の体の匂いを嗅ぎ、そして微妙な表情になる。
「それじゃあ、お風呂頂いてきまーす!」
「はいはい。」
さて、カイちゃんはお風呂に行ったし、何を作ってやろうか。
ここ数日カイちゃんには頑張って貰ってた訳だし、アイツの好物でもサクッと作ってやろう。
「白狐ちゃんお待たせー!
良い匂いのする山岸海良だよー!」
「おー、ベストなタイミングだな。
ちょうど今、出来たとこだぞ。」
お風呂で身を清め、薄いピンクに白い水玉柄のパジャマに身を包んだカイちゃんが、食事の席に着く。
私はその前のテーブルに、手作り料理を置いていった。
「おおー!白狐ちゃんの作ったモツ煮だー!
すっごい美味しそう!」
私が作ったのは、牛のモツ煮込み。
お洒落美少女なカイちゃんだけど、好きな食べ物はモツ煮という割と渋めなチョイスなのだ。
この好みは、私達が初めて出会った時から変わっていない。
「ついでにモツ煮に合う私特製のスパイス、白狐ちゃんオリジナルスパイスもオススメだぞ。」
「うん、試してみるー!」
よしよし、満足そうに食べてくれてるな。
作った甲斐があるってもんよ。
「そうだ、コイツも良かったら食べてよ。」
「こいつ?」
「ほら、こないだ地底湖で釣った魚。
余ったやつを煮付けにしてみたからさ。」
「おおー、美味しそうだね!
食べたい食べたい!」
カイちゃんが興味を示しているので、昨夜作っていた黄緑色の魚の煮付けを鍋から取り出し、皿に盛り付けてカイちゃんに出した。
地底湖で釣った大量の魚達は、結局のところ、半分以上が食べられなかった。
身の部分が極端に少なかったり、毒があったり、吐き気を催すほど不味かったり、骨がやたらと多かったりで、食用になりそうなのは一部だけ。
ツジが、釣った魚を全て写真に撮り、今後の参考の為にとオリジナルの図鑑を作成していたりもしていた。
でも、一部の食べれる魚というのは、実に美味しいものだった。
身がプリップリで、味も食感も素晴らしく、地球産の魚とはまた違った旨味が楽しめる絶品だったのだ。
まあ、その多くが身が毒々しいケミカルカラーなのに目を瞑れば、だけどな。
「うーん、うまうま♪
ケミカルなお刺身やケミカルな海鮮丼も美味しかったけど、ケミカルな煮付けも美味しいものだねー!
最高だよ白狐ちゃん!」
「ご満足頂けたようで何よりです、お嬢様。」
わざと、礼儀正しく言ってみる。
カイちゃんも、満更でないような表情だ。
「さて、美味しいものをカイちゃんの胃袋に詰め込んだ訳だし、明日にでも出来たてほやほやのトンネルに行ってみようか。」
ツジとレンちゃんとリグリーを招集して、今度はより範囲を広げた探索を行おう!
というか、トンネルが開通したらそうしようと、事前に皆で話し合っていたのだ。
◆◆
「おおー、トンネルすげー!便利ー!」
「いやホント、大したものだよ山岸ちゃん。
こんな立派なトンネルを、こんな短期間で、手掘り且つたった1人で仕上げてしまうなんてね。」
「うん、凄い。ワタシでも出来るかどうか。」
「確かに素晴らしいですね。
完璧な仕事ぶりですよ。」
トンネルを抜けて、いつも釣りをしているスポットに出る。
トンネル開通の功績を受けて、カイちゃんは私達4人から賞賛の嵐だった。
本当に凄いと思ってる。
例のトンネルは個人で掘ったとは思えないほど出来が良くて、ビックリした。
「でもさ、この名前だけはどうにかならなかったのか?」
トンネルの出入り口のすぐ横に、トンネルの名前を示す銘板が飾られている。
そこには、『白狐ちゃんへの抑え切れない愛によって掘られた白狐ちゃん好き好き愛してる今すぐチューしたいよトンネル』と書かれている。
「いや流石にこれは恥ずいわ!
無駄に長いし!」
「えー?アタシの正直な気持ちを、トンネルの名前を借りて表現しただけなんだけどなー。」
「やり過ぎだっつーの!」
思いっ切り引っ叩いてやりたい。
でも今回は、カイちゃんにトンネル掘りを一任して、全部やって貰ってる以上、あまり強く言いにくい。
まあ、コイツは引っ叩いても逆に喜ぶんだろうけど。
「まあまあ、いいじゃないか。
別に誰に見られる訳でもないし、山岸ちゃんの想い溢れる素敵なネーミングだと私は思うよ。」
「ぬうぅぅ!」
ツジの奴、他人事だと思って好き勝手言いおってからにー!
「フフフ、ワタクシもいつかは、そんな風に想える相手が欲しいですね。」
リグリーも完全に他人事だ。
むしろ面白がってる。
「相変わらず熱々だな、ヒューヒュー!」
レンちゃんに至っては茶化してきやがる。
「くっそー、私に味方はいないのか!」
もういいや、こういう時はスッパリ諦めよう。
確かに、誰かに見られたりはしないもんな。
それにまあ、カイちゃんの愛を感じない訳でもないしさ。
「まあいい、取り敢えず今はトンネルの名前なんかより、洞窟の探索だ。
各々しっかり準備はして来たよな!?」
「勿論、抜かりないよ。」
ツジが言う。
「まあ、今日は探索というより、拠点の設営がメインになりそうだけどね。」
そう言うカイちゃんの背中には、大きな荷物が背負われていた。
これは、近所のホームセンターから拝借してきたテントの設営セットだ。
つまり、洞窟のスタート地点であるこの場所にテントを建てて、そこを拠点にするのだ!
ちなみにこれレンちゃんの提案。
「よーし、それじゃあ早速始めよう!」
おっと、先に言っておくとこの私、尾藤白狐は、テントの設営生まれて初めての体験でございます。
という訳で、皆で協力してテントが出来た。
よくキャンプなんかで見かけそうなやつが、二張り。
テント張り未経験の私は殆ど役に立たず、指を咥えて皆の仕事を見学していた。
あ、いや、応援してた!
ちゃんと貢献してたぞ!
出来上がったテントは、そこそこの大きさだった。
それぞれが4人用のテントだから、2つもあればだいぶ余裕が出来る。
余ったスペースには、探索用の荷物を置くのだ。
「しっかし、私がテントの中にいるなんて、違和感しかないな。」
「え?そうかな?」
私の呟きに反応するカイちゃん。
「だってさ、私みたいな超が付くほどのインドア派が、アウトドアの象徴たるテントの中にいるなんてなぁ。
寿司屋のメニューにナシゴレンがあるレベルの違和感。」
「えぇ…よく分からないけど、お米を使ってるって点しか共通点がないね。」
「だろ?違和感の塊よ。」
テント……微妙に居心地が悪いな。
⚪︎2人に質問のコーナー
白狐ちゃんが好きな家電は?
「テレビとゲーム!最低限これさえあれば生きていける!」
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