「ー〜ーー〜ーーー!」
久々に会ったイカ人達は、快く私達を歓迎してくれた。
服を着てたり装飾品を身に付けてたりする訳でもないし、表情も分かりにくいから個体識別もしにくく、正直誰が誰だかよく分かってないんだけど、まあその場のノリに任せときゃなんとかなるだろ。
イカ人達は歓迎の証として、彼ら特製の料理を振る舞ってくれると言う。
普通ならピクニックのお弁当があるから断るところだけど、私達には不変力がある。
入れようと思えば胃袋にはいくらでも食べ物は入るから、折角だし食べていくとしよう。
カイちゃんも嬉しそうにしてるし。
「すげー!まるで満漢全席!」
「見た事の無い料理がいっぱい!」
イカ人の住んでいる家は、その中も外観と同様に全てがビッグサイズだ。
木製のテーブルは私達が使っている物の何倍も大きく、彼らは椅子を使わない為、立ったまま食べる。
料理も全てが未知の食材で作られた彼ら特有の食べ物で、その巨大さは言わずもがな。
毒々しい見た目の物から、グチャッとしてたりモコフワしてたり……たまに普通に美味しそうな物まで、実に様々だった。
以前にもこの集落には来た事はあるけど、彼らの料理を本格的に食べるのはこれが初めてだ。
私達の舌に合うのかどうか不安だけど、食べてみなくちゃ分からないという訳で、実際に食べてみる。
まずは、黒と緑の毒々しい彩りのポークソテーみたいな料理からいってみる。
我ながら、初っ端から冒険したもんだ。
「……ん、んぐ………お、美味しいッ!」
奇妙な見た目に反して、味は濃厚でトロットロな食感の、豚の角煮っぽい肉料理みたいでかなりの絶品だ。
「これ、何の肉なんだ?」
イカ人に、ジェスチャーを交えて聞いてみる。
「ーーーーーー〜。」
「えっと、この辺りによく出るお化けカマキリの脳味噌だって。」
「………お、おおぅ……」
まさかの昆虫、しかもブレインだった。
まあ、美味しいから気にせずにいこう。
でも、お化けカマキリって何者なんだろう。
気になるし、今度暇な時にでも捕まえに行こうかな。
「ふい〜、美味かったー!」
「ホントホント!すっごく美味しいよねー!」
満漢全席、完食完了!
イカ人達の料理は大抵見た目がアレだけど、味はどれも頬っぺたが落ちるくらい絶品極まりない。
ただ、食材の正体についてはこれ以上追求しないようにしよう。
世の中には、知らない方が幸せな事もあるって事よ。
「さて、なんか一方的に押しかけて、ご飯だけ頂いて立ち去るってのも悪いから、なんかお返ししないとな。」
「それもそうだねー。」
「と言っても、ちょうどお礼になりそうな物を持ち合わせてないんだよなぁ。」
一応、カイちゃんがイカ人にお礼したいと伝えると、イカ人は嬉しそうに触手を振りつつ、答える。
「ーーーー〜ーーーーー!」
「友人に喜んで貰えただけで満足だ、だって。」
成る程、素晴らしい人格者……もとい、イカ格者だ。
かつての人類もこういう人達ばかりだったら、争いも起こらず、今も滅んでなかったんじゃなかろうか。
「そっか、それじゃあまた今度来た時にでも、手土産を持って来るよ。
そうだカイちゃん、ひとつイカ人に聞いて欲しい事があるんだけど。」
「んー何を?」
「この辺で、ピクニックするのに良さそうな場所。」
「いいねー!」
◆◆
「おおー!こいつはなかなか。」
「凄い!一面花畑!」
イカ人が教えてくれたのは、集落から1キロ程歩いた場所にある、険しい獣道の先にあった秘境の花畑だった。
昔、大規模な地殻変動で出来上がった大穴を一望出来る崖沿いにそれはあり、底の見えない奈落の恐ろしさと、ファンシーな花畑のギャップがなんとも言えない絶景感を出している。
花畑で咲き誇っている花達も、殆どが見た事ないような新種ばかりだ。
「こんな所に、こんな大穴があったなんてな。」
「新発見だね!」
「ちょっと怖いけど、ワクワクもするな。」
こんな大穴、落ちても不変力で死にはしないけど、脱出するのにめっちゃ苦労しそうだな。
などと考えながら、花畑と大穴がよく見える位置に持参したブルーシートを敷き、手頃な石を重しにして2人で座った。
「いよいよ本日のメインディッシュだね!」
「丹精込めて作ってきたから、よーく味わって食べるんだぞ。」
「勿論だよ!一回の咀嚼に10分はかける!」
「そうしたら置いて帰る。」
「手厳しい!」
そんな風に戯れ合いながら、私は3段重ねのでっかい弁当箱を広げる。
それぞれの層からは、唐揚げやサンドイッチ、卵焼きなどの定番メニューから、塩焼きそばやカイちゃんの好物であるモツ煮など、多種多様なご馳走が顔を覗かせている。
ちなみに、全部不変力を隠し味に使っているので、食べても減らない上に温度も出来たての状態を保っている。
この力にはこういう使い方もあるって事だ。
「……じゃ、じゃあもう食べていい?いいよね?食べちゃうよ?」
「んあ?いいから食べろって。」
何故か弁当を食べるだけで緊張しているカイちゃん。
「よしよーし、それじゃあいきますよー!」
「はいはい。」
「いっただっきまーす!」
まずかぶりついたのは、卵焼き。
まるで貴重な宝石を取り扱う宝石商の如く、ただの卵焼きを丁寧に箸で摘み、口の中に頬張る。
「んぅ〜〜ッ!」
なんとも幸せそうな表情だ。
これだけで作って良かったと思わせてくれる。
「大袈裟だなぁ、カイちゃんは。」
「そりゃ大袈裟にもなるよ!
白狐ちゃんの手作りお弁当だからね!国宝級だよ!」
「私、今までどんだけ国宝作ってきたんだよ。」
そんな冗談を言いつつ、私も一口。
うん、美味しい!
流石は私だ、国宝級!
「ふぃ〜、ごちそうさま。」
「ごちそうさまー!最高に美味しかったよ白狐ちゃん!」
「それはどうも。綺麗に食べてくれて、私も作った甲斐があったよ。」
カイちゃんは、本当に綺麗に食べた。
小さな食べカス一つすら残っていない。
別にここまで丁寧に食べなくてもいいのにな。
「さて、お腹もいっぱいになったし……」
私は、周りの景色を一度見渡し…
「もうちょいここでゆっくりして行かない?」
「さんせーい!」
私とカイちゃんは並んで花畑の傍で仰向けになった。
背中と後頭部には土と草の感触と匂いを感じ、目の前には見渡す限りの青空。
引きこもりがちな私じゃ、滅多に目にすることのない光景だ。
「いやー、平和だねー白狐ちゃん。」
「そうだなぁ。
今は争うような人間達が居ないからな。
文明の無い世界こそが、結局一番平和なんだろうな。」
「この平和な世界が、永く続いて欲しいね。」
「どうだろうなぁ、難しいかもなぁ。
あのイカ人達だって、人間と同じ知的生命体だからな。
今はまだ平和だけど、アイツらもいつか争いを始めるやもしれんのよ。」
「うーん、儘ならないね。」
「そーゆーもんよ、世の中は。
生き物は知恵を持つと、同族と争い始めるんだよ。
意見の食い違いだとか、思想の違いとか、そんなしょうもない事でな。
私はみんな同じな画一化された世界よりも、多種多様な人がいる世界の方が楽しくて好きだけど、そうじゃない人も一定数いるって訳よ。」
「うんうん、分かるよ。
ていうか、白狐ちゃんもたまにはそういう真面目な事言うんだね。」
「私はエブリデイ真面目だぜ?
日々真面目に堕落し続けてる。」
「カッコ良くカッコ悪い事言ったね。」
知恵を得たばかりで、未だ本格的に文明を築いていないイカ人達は平和そのものだ。
かつての原始時代の人間達も、きっとこんな風に平等で、醜い同族との争いなどとはほぼ無縁だったのだろう。
「私達は、喧嘩なんてしないもんな。」
「勿論だよー!罵声を浴びせられるのは大好きだけど!」
「うん、カイちゃんは世界一平和な人間だわ。」
間違いないよアンタ。
⚪︎2人に質問のコーナー
白狐ちゃんが好きな宝石は?
「宝石かぁ……あんまり気にした事無かったけど、アクアマリンとかかな。
名前が好き。」
読み終わったら、ポイントを付けましょう!