宇宙を彷徨う私達の大地が、初めて漂着した惑星。
そこの探索を開始し始めた訳なんだが。
「……まあ、何も無いわな。」
「だね〜、歩いても歩いてもひたすらに荒野だね〜。」
多少の高低差があったり、隕石が衝突したクレーターがあったりはするけど、それ以外には特に大したものはない。
と言うか何もない。
ちなみに酸素も当然無いので、拠点である町から出る前に私達の周囲の大気を不変にする事により、無酸素の環境下でもちゃんと呼吸出来るようにしている。
「なんか寂しいよなぁ。」
「白狐ちゃん、ちょっとおセンチ?」
「いや、別にただ、殺風景で退屈な場所だなぁと思って。」
「確かに……そうだね。」
見渡す限り、ずっと同じ風景が広がっている。
「……そろそろ帰ろっか。」
「そうだね、2時間以上探索してるのに、何の成果も………ん?」
唐突に、カイちゃんの台詞が途切れた。
「どうしたん?」
「白狐ちゃん、あれ…!」
カイちゃんが、遠くの方を指差す。
でも、結構遠くにあるのか、カイちゃんより視力の劣る私にはよく見えない。
「え?向こうになんかあるの?」
「……あっちに蓋みたいなのがある。」
「ふた?」
よく分からないので、取り敢えずカイちゃんの言う方へと向かってみる事にした。
◆◆
「ほほーう、なるほど!確かに蓋だ!」
これはもう、まごう事なき蓋だ!
THE・HUTA!
正方形で鋼鉄製、大きさは私の部屋にある60インチのテレビくらい。
そんな鉄の蓋が、地面に栓をするように嵌っていた。
「まるで、この星のヘソって感じだな。」
「そうだねー、どっからどう見ても不自然だよね。」
何の模様も無いし、所々風化はしてるただの蓋だけど、真四角な形状からしてこれは明らかに人工物だ。
「しっかし、困ったな。
開けて確認したくても、取っ手が無いから開けられないぞ。」
「すっぽり嵌ってるから外せないし、分厚いから力づくでどうにかなりそうもないよね。」
カイちゃんがゴンゴンと手の甲で蓋を叩いてみせる。
確かに、人間の力じゃ太刀打ち出来ないレベルの硬度だ。
カイちゃんやレンちゃんみたいな武闘派女子でも、これは流石に無理だろう。
「うーん、早くも手詰まりか?」
私も何か解決策はないかと、蓋をペタペタ触ってみる。
でもやっぱり何も……
「……ん?」
「どうしたの白狐ちゃん?」
「あ、この部分凹むようになってて………おお!取っ手になったッ!」
蓋の一部分が、手で押すと凹むようになっていて、それが取っ手となるギミックだったのだ!
「何でこんな不便な仕掛けが作られたのか謎だけど、これで中を確認出来るようになったぞ!」
「凄いよ白狐ちゃん!お手柄だよ!」
「フッフーン!これぞ世紀の探検家たる私のスペシャルなスキルよ!
よーし、早速開けてみるぞー!」
期待に胸を躍らせながら、私は取っ手に手を掛けて、慎重に開けていく。
いや、開けるつもりだったんだけど。
「……か、固くて開かん。」
長い間放置されていたのか、蓋はガッチガチで非力な私の腕力じゃとても開きそうにない。
「カイちゃんチェンジ!」
「よし来た任せて!」
力仕事なら任せろと言わんばかりに、カイちゃんが私に代わって取っ手を引っ張った。
「ふぎぎぎぎぎィィ!!」
パワー系のカイちゃんの膂力を持ってしても、かなりキツそうだ。
でも、少しずつ蓋の方もズレてきている。
「カイちゃんファイト!」
「うぐぐぐゥ……白狐ちゃんの愛があればもっといけそう!」
「あーじゃあほら、カイちゃん大好き愛してる。」
雑にそう言って、背後から雑にハグをした。
「はうッ!?
…………アタシも愛してるゥゥゥゥゥッッ!!」
一気に解き放たれしカイちゃんの真の力が、鉄の蓋をぶっこ抜いた!
愛の力は時に、人類の限界をゆうに超えてしまうものなのだと、私はこの時、しみじみと実感した。
「よし、これで無事に開いたぞ。」
「あ、うん、開いたね。白狐ちゃんラブパワー凄い!」
謎のパワーについては置いといて、私は蓋の下を確認してみる。
「穴だ。」
「穴だね。」
「深いな。」
「深いね。」
「そして暗い。」
「真っ暗だね。」
感想はそんな感じだった。
人一人が通るには充分なくらいのサイズの穴が空いていて、そっから先は真っ暗で何も見えない。
ただの穴としか言いようがない。
「そう言えば、カイちゃんの家にすっごい強力な懐中電灯が無かったっけ?」
「あぁ、あるある!確かキャンピングカーの中にしまったままだった筈だから、取りに行ってくるよ!」
「じゃあ私も一緒に行く。」
流石に何も無い異星の荒野で一人待ち続けるのは、ちょっと嫌だ。
なので、カイちゃんと一旦私達の町まで戻る事にした。
◆◆
「すぐに見つかって良かったねー!」
「ああ、私が管理してたら半日は出てこなかったかもしれん。」
最後に使ったのはだいぶ昔だったけど、しっかり者のカイちゃんが片付けていてくれたお陰で、懐中電灯はすぐに見つかった。
そして探索用のヘルメットも2人分持って来て、謎の蓋があった場所まで戻って来たところだ。
ちなみにこの懐中電灯、普段はスティック状で手で持つタイプの懐中電灯だけど、変形させてヘルメットに取り付ける事も出来る便利なやつだ。
光度も調整可能で、最大出力にするとどんな暗闇でもたちまち昼間のように明るくなるという優れ物!
しかも、不変力の恩恵でバッテリーは無限!
本来は高性能故に、燃費の悪さが問題だったのだ。
取り敢えず試しに、蓋の穴を照らして中を見てみた。
「んん?何だこれ、段差みたいになってるぞ。」
「段差というか、階段っぽいね。」
「確かに。」
ボロボロで朽ちてる感はあるものの、穴の中は石の階段になっているようだ。
しかも螺旋状に作られているようで、いくら懐中電灯が明るくても先の方が見えないようになっている。
「これはまたワクワク感が増してくるな。
行ってみよう!」
「気を付けてね白狐ちゃん。
老朽化が激しいみたいだから、踏み外したりしないようにね。」
「うん、そうだな。」
こうして私達は、謎に満ちた惑星内部の調査を開始したのであった。
◆◆
「ったくもー、えらく長い階段だなこれは!」
「白狐ちゃんファイトだよ!」
階段を降り始めてから、かれこれ10分以上経つ。
とにかく長い。
入ってからずっと、狭い石の螺旋階段という味気ない景色が、延々と続いている。
降りるのがただの作業と化していて、ロマンの欠片も存在しない。
「……ハァ…ハァ……こんな事なら、前もって不変力で疲れないようにしておくべきだったな。」
「アハハ、疲労も探索の醍醐味だよ。」
「あ〜〜………確かに一理あるかもな。」
苦労無くしてロマンは得られずってか。
そうだな、私の中にはまだまだ甘えがあったのかもしれない。
「よーし、いっちょ気張って行きますかー!」
「おー!」
〜10分後〜
「あーもー疲れたー!もーやだー!」
「白狐ちゃん気張って!あともう少しだから!
……………多分。」
「多分ってあとどのくらい!?
何分後?何秒後!?」
この時の私は、長い階段がだる過ぎて駄々を捏ねる子供みたいになっていた。
「きっとそろそろだと思うから頑張ろ、白狐ちゃん。」
「…………うん。」
カイちゃんはワガママを言う私にも優しいなぁと思っていたら、唐突に苦難は終わりを告げた。
「あ、ほら、白狐ちゃん!これで階段終わりみたいだよ!」
「よ、ようやくかぁ…」
終着点には、入り口の穴を塞いでいた鉄の蓋に似た材質の扉があった。
また開かないんじゃないかと不安に思ったけど、それは杞憂に済んだ。
扉にはちゃんと取っ手があったし、少し固いけど私の腕力でも開けられそうだ。
「よし、じゃあ開くぞ?」
「うん、やっちゃって。」
私は息を呑んで、ロマン溢れる鉄の扉を力いっぱい押し開いた。
⚪︎2人に質問のコーナー
白狐ちゃんが好きな野菜は?
「んー、多分ピーマンかなぁ。
意外かもしれないけど、野菜は結構好きだぞ。」
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