スペースシップ☆ユートピア

永遠の時を旅する2人の少女の愛の物語
千葉生まれのTさん
千葉生まれのTさん

105話・124年目・カイちゃんカッコいー!

公開日時: 2022年3月15日(火) 20:31
文字数:3,044



アタシ、山岸海良。

現在、敵の拠点と思われる地下スラム11番街、元駅長室近くの物陰に隠れて、敵地を観察中。

駅長室の扉の前にはやっぱり見張りが立っている。

禿頭に刺青を入れた強面の男が、退屈そうに足を崩しながら突っ立っている。

ふむふむ、これなら楽にいけそうだ。


アタシは、ポケットからコインを取り出し、少し離れた位置へと投げた。


「…ん?………おお!ラッキー。」


見張りの男は怪しむ素振りも見せずに、コインへと一直線に歩いてくる。




(今だッ!)


ギリギリのタイミングで飛び出したアタシは、男の背後に回って素早く羽交い締めにした!


「ぐぅッ!?」


そのまま一瞬の早業で締め落とし、気絶させる。

良かった、白狐ちゃんを守る為に色んな格闘術を学んでた甲斐があった。

気絶した見張りを放置して、アタシはすぐに元駅長室に向かう。

出来るだけ慎重に扉を開けて中の様子を伺ってみる。

中には見張り同様強面の男達が数人、奥の方にはリーダー格のような男が、駅長の執務机の上にふんぞり返って脚を乗せながら座っている。

その傍らには……いた!エリザベちゃんが両手両足をロープで拘束されて、口にガムテープを貼られた状態で椅子に縛り付けられている。

取り敢えず、良かった。生きてるみたいで安心したよ。

…さて、問題はここからなんだけど…




「…ん?オイ!そこにいるの誰だ!?出て来いッ!」


「えっ!?」


リーダー格の男が、めざとくアタシを見つけた。

ほほう、意外と敏感な男だね。


「うーん、バレちゃったならしょうがない、かぁ。」


アタシは扉を蹴破って、元駅長室の中へと突入!

ならず者達の視線が、一気にアタシへと集中した。


「オイオイオイ、誰だお前?

なんでこんな可愛らしいお嬢ちゃんが、こんな所まで来てんだ?」


「…見張りの奴は何やってんだ。」


「しかも、見た感じスラムの住人でもなさそうだ。

まさか、目当てはエリザベスちゃんかぁ?」


リーダー格の男が、囚われのエリザベちゃんを一瞥する。

この下品な声からして、エリザベちゃんママに脅迫の電話を寄越したのはこの男で間違いないと思う。


「用件が分かってるなら話は早いね。

すぐにエリザベちゃんを返して。」


「いやいや、お前頭湧いてんじゃねえの?

こちとらこの子は大切な人質ちゃんなんだからよぉ、みすみす手渡す訳がないだろうが…」


「とぉうッ!」


「ぐおッ!?」


その直後、リーダー格の男の背後、天井に近い壁部分の通気ダクトの蓋が蹴破られて、そのまま落下した蓋がリーダー格の男の後頭部に直撃!

勢い良くダクト内から飛び出てきた白狐ちゃんが、捕まっているエリザベちゃんを抱き締めるような形で確保した。


「白狐ちゃんナイス!」


「おおー!我ながら上手くいったー!」


作戦成功で歓喜する白狐ちゃん。

まるで、もう全てが終わったみたいだ。


まあ、実際そんな感じなんだけども。


「チクショー、痛えなこのヤローがよぉ。」


リーダー格の男がよろめきつつも立ち上がった。

なかなかタフな男だね。


「おい!もうそいつら全員撃ち殺せ!」


激昂したリーダーが、部下達に命じる。

部下達は一瞬だけ逡巡するような様子を見せるも、銃火器を取り出してアタシ達目掛けて乱射してきた。


「キャアアアアアッ!?」


エリザベちゃんが絶叫する。

でも、アタシと白狐ちゃんは至って冷静だ。

銃弾を避ける動作も必要無い。

全て正面から堂々と喰らっていく。





「…ん?はああッ!?」


少しして、今度はギャングのメンバー全員が絶叫する羽目になった。

本来なら蜂の巣になってる筈のアタシ達が、平然としているのを見てしまったからしょうがないね。

あ、勿論白狐ちゃんの不変力のお陰です。

エリザベちゃんも、白狐ちゃんが確保するのと同時に不変力でダメージを受けないようにしてるから、ちゃーんと無事だよ。


白狐ちゃんの不変力は、人間相手だと対象に触れる必要があるから、わざわざ通気ダクトに忍び込んで、不意打ちみたいな形でエリザベちゃんを奪還する必要があったって事。

まあ、当のエリザベちゃんはそんなの知る訳も無いから、ポカンとして状況を飲み込めてない訳だけども。


「オイオイオイオイ!なんなんだよコイツら!なんで効かないんだよォ!?」


再び一斉掃射してくるも、勿論効き目がある訳ない。

しばらく銃弾の嵐も止みそうにないから、アタシ達は全員が弾切れするまでスマホをいじっていた。







「…ハァ…ハァ…、クッソぉ…!」


完全に全弾撃ち尽くして、持ってた機関銃を床に投げ捨てるリーダー。


「そろそろ気が済んだかな?」


「なら、今度はこっちのターンだな。

カイちゃん、やってしまいなさい。」


どっかの黄門様みたいに、アタシに指示をしてくれる白狐ちゃん。

よっし、今こそ白狐ちゃんの為に鍛えたこの肉体の真価を発揮する時!


「イエッサー白狐ちゃん!」


アタシは、銃火器を捨てて金属バットやナイフを取り出したならず者達へと突っ込んでいった。













◆◆



カイちゃんはすげーなー。

屈強で強面の極悪ギャング達を、もうちぎっては投げ、ちぎっては投げ。

カイちゃんは元々運動神経抜群だったうえに、昔々モデルの仕事をやってた頃から、裏で格闘技を習っていた。

なんでも、私に纏わりつく悪い虫を撃退する為らしい。

まあ、別にそんな虫は今までいないんだけども(むしろカイちゃんの方にいっぱい来る)、素質のある人間が100年以上も鍛え続けた訳だ。

そりゃあもう、達人の域ですら追い越してる程のレベルまで昇華されていて、もうとにかくめっちゃ強い。

空手もボクシングもテコンドーも柔道も剣道もお手の物で、なんて言うか性能がチートだ。

こんなんで公式の試合とかに出たらもう滅茶苦茶だろう。

パワーバランスが崩壊するのは良くないから、カイちゃんは自らそういうのに出場するのは自粛しているけど。


改めて、不変力ってヤバいなと思う。

こういう武術にしても、老化の衰えを無視して若いまま永遠に鍛え続けられる訳だしなぁ。

ま、私は別に鍛えないけど。


「ぐへぇ!」


「がはぁ!」


「ぬがぁぁッ!?」


誰一人としてカイちゃんのスピード、パワーに対抗出来ずに、あっという間にギャング共が全滅する。

全員見事に気絶していた。


「さっすがカイちゃん!やるー!」


「エヘヘ!」


まるで映画のアクションシーンでも見てるようで楽しかったけど、もうお開きの時間だ。

エリザベちゃんを連れて、こんな危険な場所さっさと撤収しよう。

あと、警察にも連絡しとこう。


「あっ、あの……山岸ちゃん!尾藤ちゃん!」


「ん?どしたの?」


今まで大人しくしていた囚われのお姫様、エリザベちゃんが話しかけてきた。


「…助けてくれてありがとうッ!

正直もう駄目だと思ってた。

身代金を奪った後は、私を連れて海外に逃げて売り飛ばすとか言ってたから、すっごく怖くて…!

…本当に、本当に良かったよぉ…!」


今までずっと我慢してきたのか、エリザベちゃんは堰を切ったかのように大粒の涙を流していた。

この若さで、あんな怖い思いをしたんだから、当然だわな。


「よしよし、怖かったね。

大丈夫、もう安全だから、一緒に帰ろうね。」


「う゛ん、帰りゅ…!」


涙と鼻水だらけで泣きじゃくるエリザベちゃんを、カイちゃんは優しく抱き止めて、頭を撫でて落ち着けている。

やっぱカイちゃんの包容力すげーな。


あと、やっぱりフェルナンドさん達の力は必要無かったな。

カイちゃんが暴れてた最中、ずっとポカーンと見てただけだしな。

私と一緒で。




この後、私達はなんとか無事に地上へと戻り、警察にもすぐに通報して気絶していたギャング共はもれなく全員逮捕された。

うんうん、めでたしめでたし。



⚪︎2人に質問のコーナー


白狐ちゃんが好きな寿司ネタは?


「カレイのえんがわだな!」

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