「それで、白狐ちゃん。この先進むの?」
絶望の荒野を眺めている私に、カイちゃんが聞いてきた。
「いや、今日は別に眺めに来ただけだって。」
「いつか、この世界を生きてる人達と会ってみたいね。」
「んー、少しは興味ある気がするようなしないような。
でも、会ったところでどうしようもないけどな。
私達はただの、歴史の傍観者な訳だし。」
そう、特に苦労もせずにのんびりと平和に暮らしている私達の干渉なんて、この世界の人は受け入れ難いだろう。
元より私らは生命の理から外れた存在なのだから、それなりに立場を弁えておくべきだと私は思う。
「でも、折角だし廃墟散策とかはしてみたくない?」
「ほほう、それはちょっと楽しそうだな。」
目の前には、確かに探索しがいのありそうな廃墟が広がっている。
探してみれば、お宝の一つや二つ見つかりそうな雰囲気だ。
「でも、何か遺物的な物を発見しても、汚染されてるだろうしなぁ。」
「そっか、既に汚染されてる物は、不変力でも戻しようが無いもんね。」
「ま、あと何百年か待って、汚染物質が消えるのを待つしかないな。」
「長いなー。」
とは言っても、私達は汚染の影響を受けないから、汚染された物質を所持していても特に問題は無い。
無いんだけど、なんか嫌なんだよな。
見た目とか気持ち的な問題です。
「どっちみち、この先の世界は地面が凸凹のグッチャグチャだから、自転車で行くのなんて無理だしな。
大人しく私達の町の中でサイクリングの続きを楽しもうか。」
「そうだね。でも、いつか探索したいね。」
「いつかな。」
ま、そのうち妙案でも浮かぶだろ。
◆◆
「…んっと、確かこの辺にあったような気がするんだけどなぁ。」
サイクリングを終えてカイちゃんと別れ、家に帰ってからというもの、私は自宅の庭の隅にある倉庫の中を一人で漁っていた。
目当ての物は、かなり昔にチラッとこの倉庫で見た気がする物だ。
霞のように朧げな記憶を頼りに、懐中電灯片手に探し続ける。
「あーもう埃っぽいな!
……って、もしかしてこれか?」
探し始めて約1時間、ようやくお目当てのアイテムを戸棚の奥の方から発見した。
「よし、昔懐かしいラジオだ。昭和を感じさせるな。」
私は平成生まれだけど、このラジオ機器から溢れ出るレトロでノスタルジックな空気は感じ取る事が出来る。
「さて、問題は動くかどうかだな。」
不変力の影響で昔のままに残ってはいるけど、不変になる以前に壊れてしまっていたらどうしようもない。
試しに幾つかあるボタンを押してみたら、ラジオから砂嵐のような音が聞こえる。
…これは、壊れてるのか?大丈夫なのか?
全然詳しくないので、いまいちよく分からん。
まあでも、私よりも人生経験豊富で物知りで賢いカイちゃんなら、何かしら知ってるだろ。
明日聞いてみるとしよう。
◆◆
さて、まずはどうして私がラジオを探していたのか、その答え合わせをしようじゃないか。
ラジオを見つけた翌日、私は朝イチから意気揚々とカイちゃんの家へ向かった。
改めてカイちゃんの家を見てみるけど、随分と立派な家だ。
私と初めて会った頃はまだ普通の家庭の子だったカイちゃんだけど、会社経営をし始めて懐が潤ってきてから、実家とは別のマイホームとして和風の豪邸を私の家の隣に建ててしまったのだ。
そして私の家は洋風な豪邸というだけあって、なんかこの一帯だけ、田舎なのに嫌な感じのブルジョワ感が溢れ出ている。
「おーす!カイちゃんおーす!」
インターフォンを連打してから、カイちゃんを呼び出す。
しばらく待ったら、パジャマ姿で寝ぼけ眼のカイちゃんが玄関から出てきた。
いつもとは全く逆の立場だから、とても新鮮だ。
「…どうしたの〜白狐ちゃん?随分朝早いね。」
「フッフッフ、本日はカイちゃんに朗報を持って参った。」
「……朗報?」
「ほらコレ!」
私は、例のラジオをカイちゃんに見せた。
カイちゃんも多少は目が覚めたのか、物珍しそうにラジオを見つめている。
「へえ〜、ラジオ!凄いね。懐かしいねー。」
「だろう?コレ、カイちゃんにプレゼントしようと思って、家の倉庫から探し出したんだ!」
フフンと胸を張る私に対して、カイちゃんは不思議そうな表情を浮かべていた。
「……えーと、白狐ちゃんからプレゼント貰えるのは物凄く嬉しいんだけど、なんでラジオなのかな?」
「フッ、よくぞ聞いてくれた。
最近カイちゃん暇そうだったから、昔の充実してた頃を少しでも思い出して貰う為に、こいつを使ってラジオ配信するんだ!」
「………え?」
カイちゃんの不思議そうな顔の度合いが、倍ぐらいに強まった。
どういう事だ?
私の予想だと、この辺りでカイちゃんが「白狐ちゃんありがとチュッチュー!大好きー!」とか騒いでアホみたいに喜ぶのを期待してたんだけど。
「うん?どしたのカイちゃん?なんかリアクション薄いじゃん。」
「…えっと、白狐ちゃんはそのラジオを使って、配信をするつもりなの?」
「あーいや、私じゃなくてカイちゃんにやって貰おうと思ってさ。
それで、操作方法がよく分かんないから教えて貰おうと思って。
そんでさ、配信のボタンってどれなん?」
「うーん……面白そうな案だとは思うんだけど……うーん……。」
「んー?さっきからどうしたんだよ?」
カイちゃんがずっと苦笑いしながら変な様子だから、私は我慢出来ずに聞いた。
「……えっとね白狐ちゃん、ちょっと言いづらいんだけど……ラジオって、その本体だけじゃ配信出来ないんだよ?」
「……………ほへ?」
カイちゃんの放った衝撃的な一言に、私は己の耳を疑った。
「…ちょっとカイちゃん、どういう事?」
「えっと、ラジオの配信には色々と専用の機器を用意しないといけなくてね。
ネットとスマホが普及してる時代だったら、アプリで簡単に配信出来たけど、今の時代じゃなかなか厳しいと思うよ?」
「…そ、そんな……ってか、私めっちゃ勘違いしてたんじゃん!恥ずかしいわ!」
自分の無知さ加減に顔が真っ赤になる。
やんなるわー。
「だ、大丈夫だって!勘違いなんて誰にだってある事だから!」
「うぐぅ……でも、カイちゃんのラジオ久し振りに聴きたいよぅ。」
まあ、これも一つの本音である。
過去にこだわり過ぎるのは良くないけど、たまには懐かしい空気も味わいたくなるものなのだ。
「うぅ…そんな風に白狐ちゃんに頼まれたら、アタシ何でもしちゃいそうで怖いよ。」
「じゃあ、ラジオ何とかして!」
「オッケー!何とかする!」
明らかに無茶振りである。
私もカイちゃんもラジオの知識なんてろくすっぽ無い筈なのに、こんな妙なクエストを受けてしまった。
自分から言っといてなんだけど。
「しっかし、ラジオ一台じゃ配信出来ないなんてビックリしたねぇ。
いや、スマホが便利過ぎたんかな?
こんな時代じゃラジオの配信なんて誰もやってないし、今のところは役に立たなそうだな。」
私は何気なくラジオのスイッチを弄っていた。
三角が横倒しになったマークのスイッチ……恐らく再生ボタンを押して、適当にチューニングを合わせていた……その時だった。
「…………ザー…ザー………ぅも……ザー……んき…ザー…」
「ッ!?」
私とカイちゃんは、勢い良く同時にラジオに注目した!
「…今、人の声したよね?」
「うん、絶対した!
女の人の声っぽかった!」
ノイズが混じり過ぎて殆ど聴き取れなかったけど、確かに何者かの声が聞こえたのだ。
「って事は、誰かがどっかで配信してる。
そしてそこには、ラジオの配信設備がある…!」
なんという僥倖!
「これはもう、探すしかないな!」
「うん!」
⚪︎2人に質問のコーナー
白狐ちゃんが苦手だった科目は?
「数学かな。数字は苦手なんだ。」
読み終わったら、ポイントを付けましょう!