「これは、アタシの愛を具現化したもの。
このケーキこそが、アタシの中にある白狐ちゃんへの想いを可視化したもの。
いや、本当はこのくらいじゃ全然収まらないくらいのボリューム溢れる無限の愛、インフィニティラブ!なんだけどッ!
あんまり大きくし過ぎると、会場に入りきらなくなっちゃうので、取り敢えずはこの形で落ち着くこととなりました。」
うん、大人しく妥協してくれて良かった。
だって、このウエディングケーキ……
「す、すごぉ…」
何というか、そんな溜め息混じりの感想とも言えないような稚拙な感想しか、口から出てこないのだ。
巨大なケーキは兎に角派手で、色とりどり多種多様なデコレーションが数え切れないほど散りばめられている。
しかもただ背が高いだけではなく、一定間隔で何層にも分けられており、層ごとにチョコレートケーキだったり、キャラメルムースだったり、モンブランだったり、チーズケーキだったりと、ケーキ本体も器用なまでにバラエティーに富んでいる。
ハッキリ言って、めっちゃ美味そうだ。
蕩けるような甘い香りが鼻腔を刺激して、気付いたら涎が出そうになっていた。
「す、凄いケーキだ!
こんなの見たことないぞ!」
「フ、当たり前だろう。
何たって、私の嫁だぞ。」
興奮しているレンちゃんに、私はドヤ顔で言い放ってやった。
正直なところ、私も同じくらい興奮してるけども。
「それじゃ早速、ケーキ入刀といこうじゃないか。」
司会進行役のツジが音頭を取りつつ、ケーキ入刀の儀が始まるのであった。
カイちゃんと隣同士で並び、一緒に入刀用のナイフを手に取り、ケーキの前に立つ。
「……ん?ちょっと待て。」
「おや、どうかしたのかい?」
私は巨大ケーキを前にして、困った顔になってしまう。
「えっとさ、こんなデカ過ぎるケーキ、どっから入刀すれば良いんだ?」
「あぁ〜……そう言えばそうだね。
と言うか今更な問題だね。」
全員揃って首を傾げる。
ここまで規格外なサイズだとは思ってもなかったので、一体どうすりゃいいのか。
梯子でも使って、上から切ればいいのか?
「大丈夫だよみんな。
ちゃんと、その辺についても考えてあるから。」
隣のカイちゃんが、ドヤりながらそう言う。
「え、どういう事?」
「まあまあ、取り敢えずこっから入刀してみてよ。」
「ここ?」
カイちゃんが指差したケーキの位置は、ちょうど私の目線ぐらいの高さだった。
味は、チーズケーキか。
私が特に好きな種類のケーキだ。
まさか、そこまで計算ずくなのか?
「んー、じゃあいくぞ?」
「オッケー、いつでも!」
入刀箇所が決まったので、いざ入刀開始!
2人で一緒に、指定の箇所にナイフを差し込んでいく。
入刀用ナイフはゆっくりと美味しそうなケーキを裂いていき、チーズケーキの層の底辺まで両断した。
「ん?おおッ!?」
それと同時に、ケーキ全体に切れ込みが入る。
「いやいやどういう仕組みッ!?」
「その辺は企業秘密で。」
「ええ?」
まあ、細かい事はいいか。
お陰で、山のようなケーキが食べやすくなった。
「えっと…そうしたらお次は、ファーストバイトだね。
尾藤ちゃんと山岸ちゃん、2人がお互いにケーキを一口ずつ食べさせ合うんだ。いいね?」
「あ、はい。」
あまりにも美味しそうなケーキだったので、ついつい一口摘んでしまいそうになった。
ファーストバイト、そういえばそんなのあったな。
甘い香りの所為で、完全に失念していた。
「それじゃあ白狐ちゃん、お先にお願い出来ますか?」
「あぁ、オッケー。」
という訳で、最初に私がカイちゃんに食べさせる流れになった。
「白狐ちゃん、あーんお願いね。」
「はいはい、ほら、あーん。」
照れくさいけれど、折角の結婚式の場なので、しっかりあーんをしてやった。
「……んむっ、んぐんぐ……」
私の差し出したケーキを、じっくりと味わうようにして食べている。
そんなケーキを咀嚼するカイちゃんが妙に扇状的で、色っぽくて……
喉の奥まで出かかった何かを、ゴクリと飲み下した。
皆が見てる目の前で、カイちゃんの動作にエロスを感じてしまった。
いかんいかん、平常心平常心。
「コホン……えっと、カイちゃんの番は済んだから、今度は私が食べさせて貰う番だな。」
「うん!白狐ちゃんのあーん、最高だったよ!
ケーキが4億倍は美味しくなった!」
「そりゃ良かった。」
カイちゃんが、一口サイズのチーズケーキをフォークに刺す。
「はい、あーん。」
「ん、あむっ。」
目の前に出されたそれを、一息に頬張る。
チーズケーキ独特の旨味と甘味が一気に口内を満たして、幸福感が溢れてくる。
「あぁ、これは本当に美味いな!
素材も一級品のを使ってるのが分かる!
今まで食べた全てのケーキの中で、一番美味いと断言出来るぞッ!」
「ホントっ!?」
「こんな所で嘘なんて言わないって。
カイちゃん、スイーツ作りの腕めっちゃ上がったじゃん。」
「えへへ〜、実を言うとね、もう何百年も前からこっそり練習してたんだ。
いつか、白狐ちゃんが喜ぶ最高で最強のウエディングケーキを作ってやるんだってね!」
成る程、確かにこんなにも手の込んだウエディングケーキ、いくら天才肌のカイちゃんといえど、一朝一夕に作れるようなもんじゃない。
相当な努力や研鑽の賜物なのだろう。
「よーし、それじゃあそろそろ、皆でケーキ食べるとするか!」
ツジもレンちゃんもリグリーも、いい加減我慢出来なさそうな顔をしている。
まあ、こんなに美味しいケーキを目の前にしてお預け食らってたら、誰だってそうなるわな。
「それでは皆さん、アタシ特製のスーパーウエディングケーキのお味を、どうぞご賞味あれ!」
◆◆
ケーキの評判は上々だった。
上々どころか、最上級だった。
リグリーに至っては、こんなに美味しいスイーツは初めて食べたと言いながら、感動の涙を流していたほどだ。
それから披露宴は順調に進行し、残ったイベントや行程も全てが滞りなく完了して、宴もたけなわだが終了のはこびとなったのだ。
「いやー、今日は最高の一日だったねー!」
「ああ、ホントにな。
そうだ、二次会にでも行く?」
「いいねー!アタシは行くよー!」
私の提案にカイちゃんはノリノリだ。
まさか、本来なら宴会とか苦手な筈の私が、自ら二次会を提案するなんてな。
それだけ、この仲間達の事を好きになってるって証なのかな。
「フッフフ、尾藤ちゃんに誘われるなんて機会は滅多にないからね。
私も付き合うよ。」
「ワタシもワタシもー!
美味しいものもっと食べさせてくれー!」
「あ、ワタクシもご一緒させて貰いますね。
ウエディングケーキもまだまだ残ってますから、いくらか持ってって続きを食べましょう。そうしましょう。」
他の皆もノリノリだ。
リグリーはカイちゃん特製ケーキに大ハマり中で、さっきからずっとケーキばっかり貪っている。
見てるだけで胸焼けしそうだ。
「あはは……それじゃあラーメン行くかラーメン!」
「いいねー!甘いもの食べた後のラーメン最高!」
こうして、私達の最高に盛り上がった結婚式は幕を閉じた。
いや、正確には翌日の昼くらいまで馬鹿騒ぎしてたから、それまで続いた。
◆◆
馬鹿騒ぎをして、ウエディングドレスのまま帰宅し、ヘロヘロのままドレスを脱ぎ捨てて、全裸のまま気絶するように部屋のベッドで寝た。
そんな夜、私は夢を見た。
宇宙空間に漂い、地球を見下ろしている夢。
以前ならここで影人間が出て来る筈だけど、もうそれはない。
奴の正体はリグリーだった訳だしな。
そんな訳で無重力体験を自由に楽しんでいたら、突然地球が小さくなった。
いや違うな、私が急速に地球から離れているんだ。
見えない力で引っ張られるように太陽系から離され、グングンと訳の分からない空間に飛ばされる。
ようやく止まったかと思ったら、もう既に太陽系は見えないほど遠く、宇宙全体を見渡せる距離にまで来ていた。
つまりは宇宙の果てだろう。
周囲は宇宙以外真っ暗闇だ。
「ほえ〜。」
感心して見ていたら、いきなり宇宙が空気の抜けた風船のように小さく萎んでいき、爆裂したかと思ったら、ビー玉サイズの小さな新宇宙が、再び少しずつ膨らみ始めた。
私は一体、何を見せられているのか。
宇宙の終わりと始まりってやつなのか?
何かが、分かった気がした。
〜宇宙編・完〜
⚪︎2人に質問のコーナー
白狐ちゃんが好きなケーキは?
「やっぱチーズケーキでしょ!
あー、考えたら食べたくなってきた!
カイちゃんのウエディングケーキ、また食べたいなぁ。」
そっかー!
言ってくれたらいつでも作るよー!
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