スペースシップ☆ユートピア

永遠の時を旅する2人の少女の愛の物語
千葉生まれのTさん
千葉生まれのTさん

181話・100億年目・最高に美味しいケーキ

公開日時: 2023年4月22日(土) 19:18
文字数:3,309




「これは、アタシの愛を具現化したもの。

このケーキこそが、アタシの中にある白狐ちゃんへの想いを可視化したもの。

いや、本当はこのくらいじゃ全然収まらないくらいのボリューム溢れる無限の愛、インフィニティラブ!なんだけどッ!

あんまり大きくし過ぎると、会場に入りきらなくなっちゃうので、取り敢えずはこの形で落ち着くこととなりました。」


うん、大人しく妥協してくれて良かった。

だって、このウエディングケーキ……









「す、すごぉ…」



何というか、そんな溜め息混じりの感想とも言えないような稚拙な感想しか、口から出てこないのだ。




巨大なケーキは兎に角派手で、色とりどり多種多様なデコレーションが数え切れないほど散りばめられている。

しかもただ背が高いだけではなく、一定間隔で何層にも分けられており、層ごとにチョコレートケーキだったり、キャラメルムースだったり、モンブランだったり、チーズケーキだったりと、ケーキ本体も器用なまでにバラエティーに富んでいる。




ハッキリ言って、めっちゃ美味そうだ。

蕩けるような甘い香りが鼻腔を刺激して、気付いたら涎が出そうになっていた。



「す、凄いケーキだ!

こんなの見たことないぞ!」


「フ、当たり前だろう。

何たって、私の嫁だぞ。」


興奮しているレンちゃんに、私はドヤ顔で言い放ってやった。

正直なところ、私も同じくらい興奮してるけども。




「それじゃ早速、ケーキ入刀といこうじゃないか。」


司会進行役のツジが音頭を取りつつ、ケーキ入刀の儀が始まるのであった。











カイちゃんと隣同士で並び、一緒に入刀用のナイフを手に取り、ケーキの前に立つ。



「……ん?ちょっと待て。」


「おや、どうかしたのかい?」


私は巨大ケーキを前にして、困った顔になってしまう。


「えっとさ、こんなデカ過ぎるケーキ、どっから入刀すれば良いんだ?」


「あぁ〜……そう言えばそうだね。

と言うか今更な問題だね。」


全員揃って首を傾げる。

ここまで規格外なサイズだとは思ってもなかったので、一体どうすりゃいいのか。

梯子でも使って、上から切ればいいのか?




「大丈夫だよみんな。

ちゃんと、その辺についても考えてあるから。」


隣のカイちゃんが、ドヤりながらそう言う。


「え、どういう事?」


「まあまあ、取り敢えずこっから入刀してみてよ。」


「ここ?」


カイちゃんが指差したケーキの位置は、ちょうど私の目線ぐらいの高さだった。

味は、チーズケーキか。

私が特に好きな種類のケーキだ。

まさか、そこまで計算ずくなのか?




「んー、じゃあいくぞ?」


「オッケー、いつでも!」


入刀箇所が決まったので、いざ入刀開始!

2人で一緒に、指定の箇所にナイフを差し込んでいく。


入刀用ナイフはゆっくりと美味しそうなケーキを裂いていき、チーズケーキの層の底辺まで両断した。




「ん?おおッ!?」


それと同時に、ケーキ全体に切れ込みが入る。


「いやいやどういう仕組みッ!?」


「その辺は企業秘密で。」


「ええ?」


まあ、細かい事はいいか。

お陰で、山のようなケーキが食べやすくなった。




「えっと…そうしたらお次は、ファーストバイトだね。

尾藤ちゃんと山岸ちゃん、2人がお互いにケーキを一口ずつ食べさせ合うんだ。いいね?」


「あ、はい。」


あまりにも美味しそうなケーキだったので、ついつい一口摘んでしまいそうになった。

ファーストバイト、そういえばそんなのあったな。

甘い香りの所為で、完全に失念していた。




「それじゃあ白狐ちゃん、お先にお願い出来ますか?」


「あぁ、オッケー。」


という訳で、最初に私がカイちゃんに食べさせる流れになった。





「白狐ちゃん、あーんお願いね。」


「はいはい、ほら、あーん。」


照れくさいけれど、折角の結婚式の場なので、しっかりあーんをしてやった。



「……んむっ、んぐんぐ……」


私の差し出したケーキを、じっくりと味わうようにして食べている。

そんなケーキを咀嚼するカイちゃんが妙に扇状的で、色っぽくて……



喉の奥まで出かかった何かを、ゴクリと飲み下した。



皆が見てる目の前で、カイちゃんの動作にエロスを感じてしまった。

いかんいかん、平常心平常心。




「コホン……えっと、カイちゃんの番は済んだから、今度は私が食べさせて貰う番だな。」


「うん!白狐ちゃんのあーん、最高だったよ!

ケーキが4億倍は美味しくなった!」


「そりゃ良かった。」


カイちゃんが、一口サイズのチーズケーキをフォークに刺す。




「はい、あーん。」


「ん、あむっ。」


目の前に出されたそれを、一息に頬張る。

チーズケーキ独特の旨味と甘味が一気に口内を満たして、幸福感が溢れてくる。




「あぁ、これは本当に美味いな!

素材も一級品のを使ってるのが分かる!

今まで食べた全てのケーキの中で、一番美味いと断言出来るぞッ!」


「ホントっ!?」


「こんな所で嘘なんて言わないって。

カイちゃん、スイーツ作りの腕めっちゃ上がったじゃん。」


「えへへ〜、実を言うとね、もう何百年も前からこっそり練習してたんだ。

いつか、白狐ちゃんが喜ぶ最高で最強のウエディングケーキを作ってやるんだってね!」


成る程、確かにこんなにも手の込んだウエディングケーキ、いくら天才肌のカイちゃんといえど、一朝一夕に作れるようなもんじゃない。

相当な努力や研鑽の賜物なのだろう。




「よーし、それじゃあそろそろ、皆でケーキ食べるとするか!」


ツジもレンちゃんもリグリーも、いい加減我慢出来なさそうな顔をしている。

まあ、こんなに美味しいケーキを目の前にしてお預け食らってたら、誰だってそうなるわな。



「それでは皆さん、アタシ特製のスーパーウエディングケーキのお味を、どうぞご賞味あれ!」









◆◆





ケーキの評判は上々だった。

上々どころか、最上級だった。

リグリーに至っては、こんなに美味しいスイーツは初めて食べたと言いながら、感動の涙を流していたほどだ。


それから披露宴は順調に進行し、残ったイベントや行程も全てが滞りなく完了して、宴もたけなわだが終了のはこびとなったのだ。




「いやー、今日は最高の一日だったねー!」


「ああ、ホントにな。

そうだ、二次会にでも行く?」


「いいねー!アタシは行くよー!」


私の提案にカイちゃんはノリノリだ。

まさか、本来なら宴会とか苦手な筈の私が、自ら二次会を提案するなんてな。

それだけ、この仲間達の事を好きになってるって証なのかな。




「フッフフ、尾藤ちゃんに誘われるなんて機会は滅多にないからね。

私も付き合うよ。」


「ワタシもワタシもー!

美味しいものもっと食べさせてくれー!」


「あ、ワタクシもご一緒させて貰いますね。

ウエディングケーキもまだまだ残ってますから、いくらか持ってって続きを食べましょう。そうしましょう。」


他の皆もノリノリだ。

リグリーはカイちゃん特製ケーキに大ハマり中で、さっきからずっとケーキばっかり貪っている。

見てるだけで胸焼けしそうだ。




「あはは……それじゃあラーメン行くかラーメン!」


「いいねー!甘いもの食べた後のラーメン最高!」


こうして、私達の最高に盛り上がった結婚式は幕を閉じた。



いや、正確には翌日の昼くらいまで馬鹿騒ぎしてたから、それまで続いた。












◆◆




馬鹿騒ぎをして、ウエディングドレスのまま帰宅し、ヘロヘロのままドレスを脱ぎ捨てて、全裸のまま気絶するように部屋のベッドで寝た。

そんな夜、私は夢を見た。


宇宙空間に漂い、地球を見下ろしている夢。

以前ならここで影人間が出て来る筈だけど、もうそれはない。

奴の正体はリグリーだった訳だしな。


そんな訳で無重力体験を自由に楽しんでいたら、突然地球が小さくなった。

いや違うな、私が急速に地球から離れているんだ。

見えない力で引っ張られるように太陽系から離され、グングンと訳の分からない空間に飛ばされる。


ようやく止まったかと思ったら、もう既に太陽系は見えないほど遠く、宇宙全体を見渡せる距離にまで来ていた。

つまりは宇宙の果てだろう。

周囲は宇宙以外真っ暗闇だ。



「ほえ〜。」



感心して見ていたら、いきなり宇宙が空気の抜けた風船のように小さく萎んでいき、爆裂したかと思ったら、ビー玉サイズの小さな新宇宙が、再び少しずつ膨らみ始めた。



私は一体、何を見せられているのか。

宇宙の終わりと始まりってやつなのか?




何かが、分かった気がした。





〜宇宙編・完〜









⚪︎2人に質問のコーナー


白狐ちゃんが好きなケーキは?


「やっぱチーズケーキでしょ!

あー、考えたら食べたくなってきた!

カイちゃんのウエディングケーキ、また食べたいなぁ。」


そっかー!

言ってくれたらいつでも作るよー!

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