「中国料理うんめー!」
「うまうま♪本場の中国料理うまうま〜♪」
夕方まで動物園を堪能した後、私達は花火大会が始まるまでの間、中国料理店で食事をしていた。
やはりと言うか、店員さんも他のお客さん達も、カイちゃんの底無しの食欲に驚きの表情を浮かべている。
……まあ、流石にもう私も慣れたもんだよ、こういう好奇の視線には。
「…ふぅ、美味しかったね白狐ちゃん。」
カイちゃんの目の前では、最後に食べた大皿の麻婆豆腐が見事に空になっている。
本場なだけあってかなり辛かったけど、それだけに美味しかった。
「あぁ、やっぱり日本で食べる中華料理とはまた違って良いな。
本場のは初めて食べたけど、辛味が強くてそこが美味しい!」
「そう言えば前から気になってたんだけど、中国料理と中華料理って何か違うのかな?」
「確か、日本人の舌に合わせてアレンジされてるのが中華料理らしいぞ。
日本で食べる麻婆豆腐とか、大体がマイルドな味付けだろ?」
「あー、確かにそうだよねー。
全然辛くなくて、逆に甘いのもあるからねー。」
「私はやっぱ、刺激が強くて辛味をしっかり感じられる方が好きだけどなぁ。
ま、そこは完全に人それぞれの好みの話だな。」
「アタシは辛口派!」
「うんうん、私も同感。」
「ていうか白狐ちゃん、逆に甘口の麻婆豆腐食べれないよね?」
「麻婆豆腐は辛味があってこそなんだよ!」
私の好みはそうなのだ。
中華料理はやっぱ辛味こそが真骨頂なのだ!
あくまでも個人的な意見です!
「この花椒塩の効いた刺激が堪らないッ!」
「アタシも白狐ちゃんほどじゃないけど、刺激的なのは好きだなー。」
「そうだろうそうだろう。」
お食事タイムは、2人で話しながら盛り上がって、結構楽しかった。
◆◆
食事を終えてお店を出たら、夕焼けが空を支配していた。
まだ花火大会には早かったので、もうちょい街中をウロウロほっつき歩いて時間を潰す。
ウィンドウショッピングをして、屋台で売られていた特製肉まんを頬張った頃には、ようやく辺りが暗くなってきた。
「さて、そろそろ例の花火大会が始まる時間だけど…」
「…人、すっごいね。」
カイちゃんの言う通り、どこもかしこも人混みで凄い事になっている。
さっきの動物園でのパンダ人混みが、何百倍にも膨れ上がったかのようだ。
動物園の場合はどうにかなったけど、果たして私はこの人の波に耐えられるのだろうか?
うーん、無理な気がする。
「正直、ここまで人が多いとはお思ってなかったわ……うっぷ!」
人混みで酔って気持ち悪くなってきた。
「白狐ちゃん大丈夫ッ!?」
「どっか人の少ない所ってない?」
「そうだね…えっと…」
カイちゃんは少しの間考えて、ハッと何か思いついたように私の手を引いた。
「取り敢えず、あそこ行ってみようよ!
まあ、入れればの話だけど。」
カイちゃんが指差す先は、近くの雑居ビルの屋上だった。
もうこの際、人がいなければどこでもいいや。
◆◆
「お、良かった空いてたよ。」
雑居ビルの屋上。
6階建ての何の変哲も無いビルには、問題も無くすんなりと入れた。
屋上の入り口にも鍵は掛かってなくて、特に立ち入り禁止の表示も無かったから、遠慮なく入らせて貰った。
別に悪い事する訳じゃないし、大丈夫だよね?
「…あぁ、ここは確かに穴場だね。」
屋上には、人っ子一人いなかった。
先程まで煩わしかった地上から聞こえてくる喧騒が、今じゃ遠い世界の出来事のようだ。
「うん、こっからちゃんと花火が見えるかどうかは、また別問題だけどね。」
「ハハ、それが出来なかったら本末転倒だもんな。」
「でも、多分問題無いと思うよ。
花火が上がるのはアッチの海沿いの方みたいだし、その方面には高いビルも少ないからね。」
「そっかそっか、それならいいんだ。」
「お、噂をすれば。」
ドォン!と一発、大きな花火が上がった。
続けて二発、三発と立て続けに夜空を彩り、花火大会開始の合図を告げた。
「おおー!凄いよ見て見て白狐ちゃん!
すっごい迫力!綺麗!」
「はいはい見てるって。
……確かにこれは、圧巻の一言。」
子供みたいにはしゃぐカイちゃんの視線の先には、今まで見た事ないようなカラフルで巨大な花火。
しかもこれが全部ホログラムだって言うんだから驚きだ。
こんなに巨大なホログラムを投影するだけでもかなりの予算が掛かりそうだし、何よりクオリティが非常に高い。
本物の花火と、殆ど遜色の無い鮮やかさだ。
無論、この屋上から花火はしっかりと見えている。
「今まで地元の……田舎の花火大会くらいしかマトモに見た事なかったから、こんなに凄いの見るとやっぱ、感動しちゃうもんだなぁ。」
「東京暮らししてた頃は、住んでたアパートの立地が悪くて花火見れなかったもんねー。
見に行こうって誘っても、白狐ちゃんが人混み嫌だし面倒臭いって言って行かなかったし。」
「あんな人混みに私を放り込むなんて、鬼畜の所業だ。」
「でも、今回は来てくれたじゃん!」
花火をバックに、カイちゃんが悪戯っぽい笑顔を私に向ける。
クッソ、花火が絵になる美少女だな、オイ!
めっちゃ可愛いじゃんかよぉ。
「…まあ、今回は気が向いたからな。
海外の花火大会なんてそう見れるもんじゃないし、人のいない穴場スポットもあった訳だしな。」
「そっか、白狐ちゃんは優しいもんね。」
「………うっさい。」
変に褒められて顔が紅潮するのを、軽く俯いて誤魔化す。
「そんな事より、花火をちゃんと見ろ花火を!」
「はいはーい!」
それからは、たまにちょっとした事で言葉を交わす程度になり、殆ど無言に近い状況で花火が打ち上がるのを眺め続けていた。
なんだろう。
ただ黙って花火を見てるだけなのに、こうしてカイちゃんの隣りにいるってだけで、妙に居心地が良い。
カイちゃんも楽しんでいるようで、さっきからずっとニコニコしている。
「良かったなカイちゃん。」
「うん?」
「こうやって、2人きりで見れてさ。」
「うんッ!」
◆◆
「ん〜、お寿司美味しー!うまうま♪」
本日の夕食は、豪華客船のレストランエリアにあるお寿司屋さん、『スシバー・タツミ』に決定した。
早速カイちゃんがエンジン全開でガツガツ食べまくっている。
私も結構な量食べてるんだけど、どうしてもカイちゃんの圧倒的食欲の影に隠れて目立つ事がない。
まあ、その方が助かるんだけど。
「えんがわうっま!えんがわ美味すぎ!」
先程からえんがわばかり食べてる私を、カイちゃんが奇異の目で見てくる。
「白狐ちゃん、えんがわ好きなの?渋いね。」
「このコリコリとした食感が堪んないんだよ!」
「アタシは全部のネタが好き!」
私も別に嫌いなネタは無いけど、特にえんがわが好きなのだ。
「寿司は良いよなぁ。
やっぱり日本を感じられるというか、生魚美味しいというか。」
「だねー、外国じゃなかなか食べれないからねー。」
「こうなったらいっそ、外国のなんちゃって日本料理店でも探す旅しようか。」
「……ちょっと面白そう。」
「寿司にとんでもないネタを乗っけたり、名前は日本料理なのに実際は全くの別物だったりするやつとかさ。
一周回って新しい発見がありそうじゃね?」
「うん、一理あるかも。」
テレビでたまに見たりするけど、実際ああいうのはどんな味がするんだろう。
気になるな。
「グルメに於いては、私達は最強だからな。
なんたって、不変力のお陰でどんなにゲテモノ料理や不衛生なものを食べても、絶対に体調を崩す心配が無いからな!」
「……出来れば、あんまりそういうのは食べたくないけどね。」
ごもっともです。
⚪︎2人に質問のコーナー
カイちゃんが好きな漫画のジャンルは?
「百合漫画全般!良いよね〜!」
読み終わったら、ポイントを付けましょう!