スペースシップ☆ユートピア

永遠の時を旅する2人の少女の愛の物語
千葉生まれのTさん
千葉生まれのTさん

63話・25年目・地元ドライブ

公開日時: 2021年10月10日(日) 15:19
文字数:2,959



カイちゃん、今日は遅くなるのかな?

うーん、そこまでは言ってなかったから分からん。


「……早く帰って来いよぉ。」


リビングのソファの上で一人、パンイチのままクッションを抱き締めつつ、小さな声でそう呟く。

一度カイちゃんの不在を意識してしまうと、そればかりが気になりだして他の事に集中出来なくなってしまった。


よって、このようにゲームも何もせず、ひたすらグダグダしている。


「う〜!んんん〜!」


意味も無く唸り声を上げていたら、外から妙な音が聞こえた。


「ん〜?」


アパートの外の階段を、大急ぎで駆け上がるような音。

音の主は、相当焦っているように思える。


「誰だろ?めっちゃ焦ってるな。」


疑問に思ったのも束の間、数秒後に私はその音の正体を知る事になる。






「…白狐ちゃんッ!お待たせ!ただいまッ!待った!?」


「んぇッ!カイちゃんッ!?」


今まさに求めていた人物が、酷く焦った形相で扉を開け放ち、靴を脱ぎ捨ててリビングへ飛び込んで来た。


「び、白狐ちゃんがアタシを求めてると思ってッ!」


「んなッ!?」


図星。

だけど、素直に認める訳にはいかない。


「…そ、そそそんな訳無いだろ!お馬鹿!

それより、帰って来るの早くない?まだお昼ちょっと過ぎだぞ!」


「白狐ちゃんが、アタシを必要としてると思って!直感でそう感じて!

仕事をマッハで終わらせて来ました。」


「そんな馬鹿な…!」


やっぱヤバいなコイツ。

サイキックでも使えるのかよ?




「よし、ちょっと待ってな。」


「え?」


私は押し入れの中から、過去に弟から貰った盗聴発見機を取り出して、部屋中を捜索する。


「何してるの白狐ちゃん?」


「いや、カイちゃんの事だから盗聴器でも仕掛けてるのかなと思って。」


「そんな事してないよぉ!」


「いや、前科があるから。」


捜査の結果、カイちゃんはシロでした。

つまり、本当に直感だけで私の不安を感じ取ったという事か!?


「カイちゃん、もしかしてサイキッカーなのか?」


「いや、サイキッカーじゃないけど…

でも、白狐ちゃんがそう思ってるって事は、アタシの直感が当たってるって事だよね!?

それすなわち、白狐ちゃんは本当にアタシの事を求めて…ッ!?」


「……そりゃ、ちょっとだけ物足りなさは感じたけどさ。

けど別に問題なく過ごしてたからな!本当だからな!」


嘘です。

ほんの数分前まで、アホみたいに気にしまくってました。


「むふ…ムフフフフ!ムフフのフ〜!

白狐ちゃんがアタシの事をそんなに気にして……ムフフフフ!」


「キモい笑い方するな!」


クソッ、実にムカつく笑顔をしやがる。

いやでも、今はそれよりも大事な事がある。




「カイちゃん、私の事なんかより、もっとデカいニュースがあるぞ。」


「ええ?そんなの嘘だよ。

白狐ちゃんに関するニュース以上に重要な事なんて、この世に存在しないよ。」


「真顔で恐ろしい事言うな。

一応、私にも関わるニュースだから、大人しく聞いてなさい。」


「はーい!」


カイちゃんは私の言葉に素直に従い、笑顔で床に正座する。

別に正座しなくてもいいのに、本人が自分からそうしたからスルーしておこう。






「コホン……、え〜、単刀直入に言うけど、不変力で私達の地元を不変にする方法が分かりました。多分。」


「えッ!ホント!?」


お、やっぱ食い付くな。

まあ、カイちゃんから言い出した事だから、食い付いて当然か。


興味津々なカイちゃんに私は、影人間から聞いた方法を説明する。

ちなみに、影人間の存在はカイちゃんには伏せてある。色々と説明が面倒だし。




「ふむふむ、成る程。地図みたいなのがあればオーケーなんだね。

意外と簡単なんだね。」


「あ、それ私も思った。

もっと色々と複雑な手順を踏むものかと。」


「それじゃ、近いうちに軽く帰省でもして、サクッと不変にしちゃう?」


「そんなスナック感覚で言うとは…。

そうだなぁ、週末辺りでいいんじゃない?」


「了解しましたー!予定空けとくね。」


うーん、一つの土地を永遠に不変にするとか、よくよく考えるとやってる事はかなりエグくて、倫理的にも問題ありそうな行為なのに、こんな軽いノリで良いんだろうか?


まあ、いっか。

細かい事は気にしちゃ駄目だ。













◆◆



という流れで、週末になり約束通り2人で千葉県の地元へやって来た。


「いやー、東京に出て20年以上経つけどさ、東京と違って田舎の風景は全然変わらんな〜。」


「うんうん、安心感があって良いよね。」


「いっそ、不変にする必要も無いんじゃないかって思えるレベルで変わらんな〜。」


「だね〜、まあ時々帰って来てはいたけどね。

……それで、どこでやるの?」


私は顎に指を当てて、少しの間考える振りをする。

あえて振りなのは、答えが既に決まっているからだ。


「私の部屋でいい?」


「もっちろん!久し振りに白狐ちゃんの部屋に行きたいッ!」


「よしよし、そんなカイちゃんを案内してしんぜよう。」











◆◆



「去年は来れなかったから、2年ぶりかな?私の部屋。」


おお、懐かしの我が聖域へと今、帰還せり。

妙に片付いているのは、荷物を殆ど東京のアパートに持って行ってしまったから。


「スゥー、スゥー、スゥゥゥー、ゴックン。

うん、アタシも久し振りに白狐ちゃんの部屋に入れて嬉しいよ。」


「おい、なんだ今の台詞前半の、不穏なオノマトペは?」


「白狐ちゃんの部屋の神聖な空気を鼻から吸入して、よーく味わってから飲み込んだだけだよ?」


「あたかも当然のように言うな、サイコ女め。」


人の部屋でキモさ撒き散らしてる変態は置いといて、早速始めようと思う。

スマホのマップアプリで地元を大まかにイメージしながら、右手に意識を集中させる。


「おおっ、白狐ちゃんの不変力の光、久々に見た気がする。」


「最近あんまり使ってなかったからね。」


私の右手から、普段不変力を行使する時と同じ、白い光が溢れてくる。

町一つを不変にしているというのに、ビジュアル的にはいつものそれと変わらないな。







「んー、よし。多分これで出来たと思う。」


10秒前後経過して、なんとなく感覚的に完了したのを感じたので、白い光を引っ込めた。


「おや、思ってたより終わるの早かったね。」


「ああ、確かに。不変にするのにかかる時間と、対象の大きさは比例しないって事か。」


「そうなのかもねぇ。」


「取り敢えず、外に出てちゃんと影響が出てるか、確認しに行くか。」


「オッケー!」













◆◆



「よし、大丈夫みたいだな。成功成功!」


私とカイちゃんは、市内の端から端まで巡り、ちゃんと不変になっているかの確認作業をして来た。

その辺の雑草の葉一枚まで、ナイフで切ろうとしても切れない。

これは、不変力の影響がしっかり表れている証明だ。

ちなみに、移動手段はレンタカーを借りて、運転免許を持っているカイちゃんの運転で市内をドライブした。

私とドライブ出来たお陰か、カイちゃんは終始上機嫌だ。


んで、市内を一日中くまなくチェックしたところ、ちゃんと他市との境界線ピッタリのラインまで効果が及んでいた。

確かに正確さを重視してスマホのマップを使いはしたけど、こんなにもピッタリになるものなのか。


「無事に成功して良かったね!」


「うん、良かった。」


これで、影人間の言ってたやり方が正しかったと、実証された訳だ。




「カイちゃん、運転お疲れ様。」


「いえいえ〜、白狐ちゃんとのドライブ最高だったよ!」


「んじゃ、このままご飯食べに行こっか?」


「ウェーイ!やったー!」



⚪︎2人に質問のコーナー


白狐ちゃんの好きなアニメのジャンルは?


「んー、日常モノ良いよね、日常。平穏無事最高。」

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