師匠の顔面は、面白いくらいに引き攣っていた。
まあ、そうなるのも無理はないわな。
見た目小学生の女の子と、有名モデルの女の2人組が、揃ってバカでかいカレーを一心不乱に爆食しちゃってるんだから。
もし私の立場が師匠と逆だったら、同じように引き攣った笑みを浮かべてる事だろう。
早速店内に響めきが起こり、他の大勢のお客さん達の注目が集まる。
以前は注目されるのが苦手でカイちゃんの暴食をストップさせる事もあったけど、何年も付き合っているうちにいい加減人目にも慣れてしまった。
「…す、すっご、あの美少女2人組。」
「俺でさえ挫折したあのカレーを、ペースを崩す事もなく、あっという間に…。」
「ってか、あの子山岸海良だよね?あんなに食べる人だったの?」
「一緒に食べてる小学生もヤバいな。」
「白狐ちゃん、周りの人達に色々言われてるけど?」
「あー、オーディエンスにいちいち構ってる暇はない。
今は食べるので忙しいんだ!」
「だね!ん〜、やっぱカレーにはカツだねぇ。うまうま♪」
「おっほォ…、尾藤殿も山岸殿も、随分と食欲旺盛でありますな。」
食べる。貪る。口に運ぶ。喰らい尽くす。
目の前に出された美味なる料理を、ひたすらに味わい、胃袋にガンガン運んでいく。
美味い、美味過ぎる!
無心になって食べ続け、気付いた時には皿は綺麗に空になっていた。
「うっそ……」
「まさか、フードファイターの人?」
「え、テレビの撮影なのか?」
再び湧き上がる響めき。
私とカイちゃんは、美味しきカレーを堪能出来て実に満足。
「凄いでござるな、お二人共。
でも、初っ端からこんなに食してしまっては、もう食べ歩く事は出来ないのでは?」
「いや、甘いな師匠。まだまだ腹一分にも満たないぞ。
次はそうだな、さっきまで油そば食べたかったし、油そば行きたい!」
「2連チャンでまた重たいですなッ!?」
「油そばいいねー!アタシあんまり食べた事無いから、楽しみー!」
「山岸殿もノリノリ!?」
ビックリし過ぎて椅子から転げ落ちそうになる師匠。
他のお客さん達も、私達の会話を聞いてドン引きしている。
化け物だとか、人間じゃないとか、メッチャ可愛いとか、色々な声が聞こえてくるけど、無視無視。
「了解致しました。男、花輪善次。一度奢ると言ったからには、とことん奢らせて頂きまするぞ!
いざ行かん、アキバ一の油そば店へッ!」
「おー!」
師匠もノってきたみたいだし、今日はとことん食いまくる日にするぞ!
◆◆
美味しい食べ物は、人生を充実させてくれるピースの一つだ。
だから、人間は死ぬまでに出来る限り色んな食べ物を沢山食べて、新たな味に挑戦し、一喜一憂すべきだと私は思う。
「油そばうんめー!」
「あー、この罪を感じる油感、最高にも程があるよぉ!」
私とカイちゃんは、あまりの美味しさに感動しながら超大盛りの油そばをズルズルと啜る。
トッピングも出来る限りてんこ盛りにして、麺の量も油の濃さも最上級の最強装備だ!
「…凄い、あのカレーを食べた直後でござるのに。」
師匠は絶句していた。
その後は、実に色んな飲食店を渡り歩いた。
牛丼屋、洋食屋、豚骨ラーメン、トンカツ屋、ファストフードに和食、ケバブ、そしてまたカレー。
胃袋も体力も無限大な私とカイちゃんは、ひたすら欲望の赴くままに、秋葉原のグルメというグルメを食い漁った。
夕焼け空が秋葉原の街を照らし始め、師匠が少し半泣きになってきた頃、ようやく私とカイちゃんの気が収まってきた。
「ふいー、食った食った。」
「うん、色んなもの食べれて、すっごく楽しかった。」
「ハ、ハハ…、お二人が幸せそうで何よりでござるよ。」
師匠は、精魂尽き果てた様子で、最後に立ち寄った焼き肉屋の前で立ち尽くしていた。
うーん、師匠が奢ると言ったとはいえ、ちょっと食い過ぎたか。
ここは一つ、心ばかりのお礼をしておくか。
「ところで師匠、今日ゲーム持って来てる?」
「んん?……まあ、電車での移動中にやる為に持って来たのなら。コラアドも持って来てますぞ。」
最新の携帯ゲーム機に移植された、コーラルアドベンチャーズ。
師匠はそれを、バッグの中から取り出した。
「それ、ちょっとだけ貸して貰ってもいいかな?」
「…はぁ?別に構わないでござるが。」
私の意図がいまいち読めずに、訝しむような表情を浮かべている師匠。
それに構わず、私は師匠から渡して貰ったゲーム機を手に取ると、師匠にバレないように、こっそりと不変力の光を右手から放出した。
「はい、返す。」
「え?一体何だったのですかな?」
「んー、ちょっとしたおまじない的な?」
「おまじない、でござるか?」
「師匠が永遠にコラアドを楽しめるようになる、おまじない。」
「ほほう、それはまた嬉しいおまじないでござるな。」
ハッハッハと、先程までの落胆ぶりはどこへやら、師匠は私の言葉を聞いて一笑に付していた。
十中八九、私の言葉をただの冗談だと思ってるだろうけど、実際にはガチだ。
ガチで不変力を浴びせておいたので、あのゲーム機は永遠に壊れないし劣化もしなくなるだろう。
同じゲーマーだからこそ分かる。
ゲーマーにとって、ゲームが壊れなくなるのは、最上級のご褒美なのだ。
「今日、色々食べさせてくれたお礼。多分、何年か経ったら意味が分かると思うよ。」
「ふむう、それでは気長に待つとしますかな。」
師匠、良い人だな。
私の言う事をただの世迷い言だと頭ごなしに否定せず、ちゃんと肯定してくれてる。
最初はストーカーとかいう最悪な出会い方だったけど、この分ならこれからも良き友人兼師匠として、長く付き合っていけると思う。
◆◆
「さて、そろそろ日も暮れてきましたし、解散のお時間ですかな。」
師匠の言う通り、時間はもう午後の6時を回っていた。
現在東京在住の私達はともかく、地元から遊びに来ている師匠はもう帰る時間なのだ。
秋葉原駅の前で、私とカイちゃんは師匠を見送りに来た。
「師匠、今日はありがと!メッチャ楽しかった!」
「アタシも、美味しい物沢山食べれて良かった。ありがとうございます。」
「いえいえ、拙者も充分楽しませて貰ったでござる。
お二人の食べっぷり、実に爽快で見事なものでしたぞ。
……まあ、拙者の財布の中身は少々寂しくなりもうしたが。」
「あ〜、それに関しては、ごめん。」
「申し訳ない!」
私とカイちゃんが謝り、師匠が気にするなとばかりに微笑んでいる。
「そんな、気にしないでくだされ。
それよりもまた今度、熱きコラアドトークを繰り広げましょうぞ!」
「うん、それじゃ、また!」
「また今度〜!」
師匠は手を振りながら、秋葉原駅の雑踏の中へと消えていった。
「さて、師匠も帰った事だし、私達もそろそろ帰るとするか!」
ふとカイちゃんの方を振り向いたら、立ちすくんだままニコニコ笑っていた。
帰るって言ってんのに、何してんだ?
「どうしたのカイちゃん、帰るよ?」
「ん〜、折角なんだし、もうちょっと2人で遊んでいかない?」
「…さては、師匠が帰るのを待ってたな?」
「だって、白狐ちゃんと2人きりが良かったから。」
「…はいはい、全く仕方のない子だよ、ったく。
了解、そっちがその気なら、とことん付き合ってやるよ!」
「うえーい!」
奢ってくれた師匠にはちょこっと悪いけど、私も内心カイちゃんと2人でアキバ巡りをしてみたいと思っていた。
「どうせなら、少し大人なお店でも寄ってみない?」
「大人なお店ってなんだよ!そもそも私の見た目じゃ無理だろ。」
「そんな事ないよー!年齢は成人してるんだから、法律的にも合法だって。」
「んー、確かに。」
こうして私とカイちゃんも、夜の秋葉原に消えていった。
ちなみにこの後、警察の人に未成年と間違えられて補導されたのは、ここだけの話だ。
⚪︎2人に質問のコーナー
白狐ちゃんが苦手な飲み物は?
「んー、紅茶?」
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