「よーしそれじゃあ、恒例の戦果報告会といきますか!」
「いよッ!待ってました!」
ピクニックから帰ってくるなり、私達はお互いに採集してきた獲物を確認する、毎度恒例の報告会を始める事にした。
私んちの庭のど真ん中にピクニックでも使ったブルーシートを敷き、フリーマーケットみたいに採ってきた食材を並べている。
「んーと、まずはタリョウバッタにブヨブヨウリ、それと今回新発見の緑のケミカルなキノコだな。」
小さな虫籠に入った黒っぽくて肉厚で大きいバッタに、スライムみたいにブヨンブヨンの瓜、どちらも以前に私達が見つけ、勝手に名前を付けた新種の生物と植物だ。
そして、両方とも食べたら美味しいものだ。
「このキノコ、どうするかなぁ。」
「アタシが一口食べてみよっか?」
「お、いっちゃう?気を付けろよ。」
とは言うものの、こういう新発見の食材を発見した時は、大抵カイちゃんが実験台になる場合が多い。
以前それで何日もお腹を壊して地獄を見た事もあったけど……
まあ、どんなにヤバい毒が含まれてても私らは死にはしないから、何とかなるのだ。
人体実験、ドンと来い!
いや、やっぱ痛いのやだから、私は遠慮しとこう。
「じゃあ、まずは一口舐めてみるね。」
「よし、頑張れ!」
昔観たサバイバル番組か何かで、毒の有無を調べるにはまず軽く舐めてみるのが良いとか聞いた覚えがある。
毒がある食材だと、舌が痺れたりするらしい。
「ペロリ。」
カイちゃんが舐めた。
「………どうなん?」
「んー、どうなんだろう。
痺れたりとか不味かったりはしないけど、仄かに甘味と酸味を感じれるような…
例えるなら、苺に近い風味がするかなー。」
「ほほう、それはもしかすると当たりっぽいな!」
「でも、普通に苺の方が美味しいよ。
このキノコはちょっと味が薄いし。」
「そっか、じゃあ苺食おう。」
「だねー。」
冷蔵庫の中にたまたま苺があったので、それを食べた。
美味しかった。
◆◆
「白狐ちゃん白狐ちゃん!大変だよ!」
翌朝、カイちゃんが慌てた様子でウチに飛び込んで来た。
「あーん?どうしたの。」
上半身パジャマ、下半身は下着の状態で部屋から出て来た私は、寝ぼけ眼を腕で擦りながら、玄関で騒いでいるカイちゃんを出迎えた。
「寝起きのだらしない格好の白狐ちゃん最高ッ!」
鼻血を抑えて悶えるカイちゃん。
「朝っぱらから忙しい奴だなぁ。
何が大変なのよ?」
「うん、それが大発見なんだよ!
ほら、昨日食べた新種のキノコ、覚えてる?」
「あぁ、あの緑色の変なキノコ?」
「そうそれ!あれについて大発見!」
「ふーん?」
一体どういう事なんだろう?
あのキノコは肝心の味が微妙だったし、味見したカイちゃんにそのままあげた筈。
まさか、食べたら特殊能力が身に付いたとか!?
いや、流石にそれは漫画脳過ぎるわ。
「あのキノコ、表面は微妙な味だったけど、芯の部分が物凄く美味しかったんだよッ!」
「え?それだけ?」
「それだけだけど、本当に美味しかったんだよ!
想像を絶する美味しさだから、是非食べてみて!」
「そうは言っても、またジャングル行くの面倒だなぁ。」
「白狐ちゃんならそう言うと思って、昨日の夜のうちに採ってきました!」
「うおッ!?」
カイちゃんが、手持ちのポーチの中身を見せてきた。
その中には、例のキノコがパンパンに詰まっている。
「いやいや、いくら何でも採り過ぎだろ。」
「群生してる所を見つけたんだ。
それに夜だと光ってるから見つけやすかったしね。」
「そうなんか。
ま、玄関じゃなんだし、取り敢えずあがんなよ。
カイちゃんがそこまで推す訳だから、ちょっとそのキノコの事も気になるし。」
「わーい!お邪魔しまーす!」
という訳で、2人でキッチンテーブルを挟んで座り、器に盛られたキノコを生のまま頂く。
まずは表面をひと齧り。
「んぐ……あぁ、これは確かに、水で薄めた苺みたいな味だなぁ。
そこまで美味しくはないや。」
「うん。でも、最後まで全部食べてみて。」
「りょーかい。」
言われた通り、残りのキノコを一口で一気に食べる。
すると……!
「……うん?おぉッ!?………う、美味いッ!」
「でしょ!?」
確かにカイちゃんの言う通り、キノコの芯の部分に美味しさのエキス的なのが凝縮されていた。
非常に濃厚な甘酸っぱさに、口内に広がるさっぱりとした旨味。
味にしつこさが無く、これならいくらでも食べれそうだ。
「確かに、苺に似た味がするな。
外側は薄味だけど、中の方はぶっちゃけ苺よりも美味いぞ!」
「だよねー!練乳とか付けて食べると更にいけると思うよ。」
「そうだな。
色んな調理法を試して、ベストな食べ方を模索してみよう。」
「良い料理が出来たら、イカ人さん達にもご馳走しようよ!」
「おぉ、いいねそれ!」
◆◆
そして1週間後。
例のキノコの所為で、私の料理スピリットに火が点いた。
という訳でこの1週間、キノコ料理に没頭していた。
ちなみにこのキノコ、私とカイちゃんで『アマウマキノコ』という名前を付けた。
そのまんま過ぎるって?
ほっとけ。
兎に角、私はアマウマキノコを色々調べた結果、美味さの秘密を見つけたのだ。
「しかしまさか、比喩表現で言った筈の美味しさのエキスってやつが、マジであったとはな。」
アマウマキノコを包丁で縦真っ二つに切ってみたら、切断面からトロリとした薄緑色の練乳みたいな物体が出てきた。
試しに舐めてみたら、案の定あの極上の甘酸っぱさが口の中に広がったのだ。
「で、試行錯誤した結果、出来上がった料理がコイツよ!」
ドヤ顔で腕を組む私の前には、カイちゃん、ツジ、レンちゃんの3人が並んでテーブルの前に座っている。
そう、ここはツジとレンちゃんの住む保全シェルターの食堂。
私の新作料理発表会という事で、保全シェルターの厨房を借りて調理し、3人に振る舞う事になったのだ。
「尾藤ちゃんの新作料理、想像するだけで心が躍るよ。」
「…白狐は、料理の腕だけはピカイチだから。」
「むぐぅ、なんか棘のある言い方だな。
まあいいや、これを食え!」
私は出来上がった料理、特製のラーメン3人前を3人の前に出した。
「これは……緑色のラーメン?」
カイちゃんが不思議そうな顔をしながら言う。
他の2人も同様だ。
そう、私が作ったのはスープも麺も緑色のラーメン。
「見た目はエグいけど、味は最高だぞ。」
「なんか昔、こういうラーメン流行ったよね?
確か、ミドリムシラーメンとか。」
「あぁ、懐かしいな。
でも、これは全然別物だからな。」
「…まあ、まずは食べてみよう。
どんな食べ物も、口にするまで味は分からないからね。」
そう言うツジが先陣を切る。
インパクトの強い見た目に一瞬躊躇するも、ズルズルと一息に麺を啜った。
「……ズルズル。………ん?
んんッ!?んんぅー!?」
変な呻き声を上げつつも、麺を啜るスピードがグングンと加速していく。
「ツジ姉、どうなの?」
「…こ、これは美味いッ!
このラーメンの緑色は、例のキノコだね?」
「当然!
スープは勿論、麺にもエキスを練り込んだ!
名付けて、『アマウマキノコ超絶盛り盛り激ウマ白狐ちゃんラーメン』!」
「ネーミングセンスはカスみたいだけど、やっぱり白狐の料理はめっちゃ美味い!何杯でもいける!」
「あのさぁレンちゃん、褒めるのか貶すのか、どっちかにしてくれない?」
まあ、皆が嬉しそうにしてくれて良かった。
自信作だし、この笑顔が見れただけで私は満足だ。
ちなみにこのラーメン、後日巨大なサイズのを作ってイカ人達にお裾分けしたところ、非常に好評で何度もおかわりをねだられた。
私の料理が、人間以外にも通用すると証明された瞬間だった。
⚪︎2人に質問のコーナー
カイちゃんが好きな宝石は?
「アタシはオパールが好きかなー。」
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