私のスカートに付着していた、小さな謎の機械。
これは一体何なのか、私が考えてもよく分からないので、もっと詳しい〝アイツ〟に聞いてみる事にした。
「おーい、ショウ!ちょっと聞きたい事あるんだけどー!」
私は、私の部屋の隣の部屋の扉をガンガン叩いて、部屋の主を呼んだ。
少しすると、扉がゆっくりと開いていく。
「ったく、うっせーな。何の用だよバカ姉貴。」
「偉大なるお姉様に対して、その物言いはなんだ!
可愛げの無いゴリマッチョめ、少しは私を敬え!」
私が頼ったのは、我が可愛くない弟だった。
名を白狐 狸貴といい、年は私の一個下。
レスリング部所属で男子校に通う男臭いやつな上に、将来の夢はプロレスラー。
何も知らない人に、「こいつが私の弟です。」と紹介しても、到底信じてもらう事は出来ないくらい、私とは正反対の見た目をしている。
身長は180センチ長の高身長で、ガタイはゴリゴリマッチョの筋肉ダルマ、髪型はこれまた男臭くて時代錯誤な角刈りに、服は黒いタンクトップにジーンズを履いていて、とても未成年には見えない。
暇な時はひたすら筋トレしてるという脳筋っぷりだ。
我が弟ながら、そのアグレッシブさは全く理解出来ない。
「は?姉貴がバカ過ぎて敬える要素がゼロなんだから仕方ないだろ。」
しかも、私に対して反抗的で、ロクに尊敬もしてくれない。何故だ。
「つーか、何の用だよ?パンイチのままスカート持って来て。
あぁ、遂に頭に蛆でも湧いたか?」
「口の減らない筋肉野郎め。
いいからこれ見て、これ!」
「ん?」
弟の狸貴(通称ショウ)は、この見た目で驚くべき事に、知能指数が高い。
学校では明るく真面目で成績優秀な生徒として通っているらしく、姉としては恨みしかない。
きっと、私が持つべきだった全ての才能を、こいつが奪い取ったのだろう。
まあ、それは置いといて、こいつは意外かも知れないけど、私以上に機械に詳しい。
手先も器用で、機械関係のあれこれは、不本意だけど大体こいつが何とかしてくれる。
という訳で、私はスカートに付いていた謎の機械を手渡して、見て貰った。
「何だこれ?随分と小型だけど、もしかして盗聴器か?」
「盗聴器ッ!?」
まさかの展開に、思わず悲鳴に近い声を上げてしまった。
急に物騒な話になってきたなオイ!
「え、なに?もしかして姉貴、ストーカーとかいんの?」
「す、ストーカーッ!?いや、そりゃあね、私はストーカーされるのも無理ないくらいキュートなのかもしれないけどさ!
でも、心当たりとか全然無いんだが。」
「あ、そう。」
それだけ言い残して、ショウは興味無さそうに部屋の中に引っ込んでしまった。
「おい馬鹿!この愚弟が!愛らしいお姉様の為に、このストーカー問題を解決してくれよ!
今こそその頭脳と筋肉を役立たせる時だろ!」
「……。」
閉じられた扉の向こうから、返事が返ってくる事は無かった。
何という薄情な男だ。これでも一応、血の繋がった肉親だというのに!
「くそぉ、人でなしめ!もう頼れるのはカイちゃんしかいない。」
そう思った私は、カイちゃんにメッセージを送った。
『ストーカーがいるかもしれない。怖い。』
この文面で送信した1分後。
「白狐ちゃんッ!ストーカーってどこッ!?
アタシが守りに来たよッ!」
流星の如き勢いで、カイちゃんがウチの玄関から突っ込んで来た。
「相変わらず早くて助かるよ。
早速で悪いんだけど、これ見てくれないかな?」
「んん?何これ、オモチャ?」
私は、謎の機械について知り得た事を、カイちゃんに伝えた。
「…そんな、白狐ちゃんにストーカーが付き纏ってたなんて…。」
「私だって信じられないよ。まさか、自分が当事者になるなんてな。」
ハァと深い溜め息を吐きつつも、まずはカイちゃんを自室へと招いた。
カイちゃんは例の盗聴器と思しき物体を手に取り、しかめっ面で睨めっこしている。
「それにしても、随分と小型だね。これじゃあ、気付かなかったのも無理ないよ。
しかもこれ、防水機能付きのだから洗濯されても問題無いし、物凄く性能の良いやつだね。」
カイちゃんの分析っぷりに、私は一瞬呆気に取られてしまった。
「…カイちゃん、随分と詳しいね。」
「えッ!?そ、そうかなぁ。普通だと思うけど。」
「う〜ん、そうなの?」
「うんうん、普通普通!アタシ達の業界ではよくある事です!」
「業界って…」
明らかに様子のおかしいカイちゃんを不審に思うも、取り敢えずその言葉を信じておく事にする。
「にしても、今までストーカーなんて、私には関係の無い他人事だと思ってたけどさ。
いざ自分が被害に遭ったとなると、想像以上に怖いものなんだな。
得体の知れない誰かに、自分のプライベートが筒抜けって事実が、背筋が凍るほど怖いわ。」
「う、うん、そうだね。」
やっぱり、カイちゃんの歯切れの悪い相槌が、どうも引っ掛かる。
「…ねえ、カイちゃん。」
「ん?どうしたの?」
「正直私は、こんな事言いたくない。
カイちゃんは変態だけど、流石に犯罪行為にまでは手を染めないと、信じてる。
でも、さっきから挙動不審なカイちゃんを見て、私の胸の中の疑念がどんどん膨れ上がってるんだよ。」
「……。」
「まさかとは思うけど、この盗聴器って、カイちゃんのじゃないよね?」
「ちッ、違うよッ!アタシのじゃない!そもそもメーカーが違うし!」
「そっか、疑ってごめん。カイちゃんが私に嘘つく訳ないから、それは本当……」
ん?
「…ちょっと待て、メーカーが違うって、どういう意味?」
「え?……あッ!」
「あ?」
◆◆
どうも、アタシの名前は山岸海良。
白狐ちゃんの事が大好きな、ごく普通の女の子です。
早速ですが、アタシは人生最大の過ちを犯してしまいました。
大好きな人の心を、裏切って、深く傷付けてしまったのです。
アタシにはもう、彼女を大好きと言う資格すら無いのかもしれません。
「…カイちゃん、だったの?」
「…あぁ、う…」
白狐ちゃんが、蔑むような目付きでアタシを見据えている。
いつもなら喜ぶべき事なのに、何故だろう。
今回に限って、モヤモヤした嫌な気分にしかならない。
「ごめんなさい、白狐ちゃん。本当にごめんなさいッ!」
「…どこに仕掛けてるの?」
無表情な白狐ちゃんにそう言われて、アタシは正直に全てを告白した。
前に遊びに来た時に、白狐ちゃんの部屋に仕掛けた隠しカメラの位置、盗聴器の位置。
洗いざらい、全てを吐いた。
「どうして、こんな事したの?」
「…アタシ、いつでも白狐ちゃんを見ていたくって。
白狐ちゃんの声も、いつでも聞いていたくて、つい出来心で仕掛けちゃったんです。」
「いつから?」
「1年くらい前から、です。」
白狐ちゃんの前で正座していたアタシは、恐る恐る顔を上げて、白狐ちゃんの様子を伺う。
そこでようやく、無表情だった白狐ちゃんの顔が緩んだ。
「…全く、もういいよカイちゃん、許したから。
どっかの知らない誰かならともかく、カイちゃんだったら怖くないし。
ほら、そんな正座ばっかしてないで、いつも通り元気にしなよ。」
「び、白狐ちゃんッ!?
白狐ちゃん!白狐ぢゃぁぁんッ!!」
「いやいや泣くなって!抱き付くなー!」
白狐ちゃんの器の大きさに感動したアタシは、感極まって泣き出してしまった。
白狐ちゃん、なんて優しいんだ!
アタシみたいな最低な事をした人間を、許してくれるなんて!
「白狐ちゃぁぁん!一生ついていきますぅぅ!!」
「あーもう、分かった!分かったから、離れろって!」
白狐ちゃんの体がアタシの涙と鼻水まみれになって、その所為で改めて怒られた。
⚪︎2人に質問のコーナー
白狐ちゃんの好きな音楽は?
「うーん、ゲーム音楽を抜きにしたら、雅楽とか好きかな。意外とか言うな。」
読み終わったら、ポイントを付けましょう!