浅草グルメ紀行から、約2週間後のある朝。
「この間は水族館行ったからな。今度は動物園だ!」
「おおー!天気も良いし白狐ちゃんもいるし、最高の動物園日和だねー!」
東京観光3回目の舞台となったのは、多摩市にある有名な動物園。
何気に私もカイちゃんも初めて来る場所だ。
その入り口で2人、話していた。
「そう言えばアタシ達って色々出掛けてるけど、動物園ってあまり来たことなかったよね。」
「ああ、それは私に原因があるかもしれないな。」
「え?白狐ちゃんに?なんで?」
「いやほら、動物園ってやたら広いじゃん?
コンパクトに纏まってる水族館と違って滅茶苦茶歩くから、どうしても億劫になっちゃうんだよね。
動物自体は好きなんだけどさ。」
「そっかー、確かに言われてみれば広いね!
園内バスが走ってるくらいだし。」
動物園は敷地面積がとにかく広い。
沢山の動物を飼育している都合上仕方の無い事なんだろうけど、もし私に不変力が無かったら、行くという発想自体湧きづらかっただろう。
「ちなみにカイちゃんは、動物は何が好き?」
「アタシは、爬虫類とか好きかな。」
「ほう、なんか意外。
でも、この動物園に爬虫類っているのかな?」
「哺乳類だと、お猿さんが好きだよ。」
「ふむ、それならいっぱい見れそうだな。」
私は園内マップを確認しながらそう告げた。
「白狐ちゃんは、どんな動物が好きなの?
やっぱり狐とか?」
「人の好みを名前で判断すな。
私はセイウチが好きなんだよね。」
「えー、それこそ動物園にいないよね?
どっちかって言うと、水族館な気がする。」
「うん、だから私も二番手に好きなサイを見たい。」
「サイかー、セイウチもそうだけど、白狐ちゃんの好みって渋いよね。」
「…そうなのかな?」
〜タヌキ〜
「おっ、タヌキがいるよ白狐ちゃん!可愛いねー。」
「いや、タヌキなんて地元に戻ればいっぱいいるじゃん。」
「でも、生きてる姿をこんなに間近でじっくり見れる機会ってあんまり無いでしょ?」
「…まあ、確かにそうだなぁ。
地元だと、大体が車に轢かれて死んでるのばっかだもんな。」
「か、悲しい…!」
〜猿〜
「おおー!お猿さんだよ白狐ちゃん!可愛いねー!」
「あーもう、腕を引っ張るなって!
猿なんて、地元に戻ればそこらじゅうにいるじゃんさ!」
「なんかそれ、さっきも言われた気がする!
あ、ほら!あの子こっちを見てるよ!」
カイちゃんが興奮しながら指差す先には、こちらをじっと見ているお猿が1匹。
こっちに興味があるのか無いのかよく分からない、感情の読み取れない表情だ。
「きっとあのお猿さんも、白狐ちゃんの可愛らしさに見惚れちゃってるんだろうね。」
「何言ってるんだお前は?」
〜サイ〜
「おおッ!サイだサイ!かっこいー!」
「良かったね白狐ちゃん、サイ見れて。」
「うん!もう70%くらい満足した!」
「そんなに!?」
今日のお目当ての一つであるサイを見れた。
これはデカい!
ただ、70%は言い過ぎたか。
他にもお目当てはいるというのに。
「サイのツノって、立派だよね。
あれってやっぱり骨なのかな?」
「フフン、甘いなカイちゃん。
サイのツノってのは実は、毛と同じ成分で出来てるんだよ。」
「ええッ!?じゃああれって毛の一種なの!?」
「そうだよ。
サイのツノには滋養強壮だとかで漢方に使われてて、その所為で密猟のターゲットにされちゃうんだ。
実際には毛だから、栄養があるなんて迷信なのにな。」
「ま、また悲しい話だ…。」
〜モグラ〜
私達は、モグラが飼育されているという小屋の中に入った。
小屋の内部は至る所にガラス製のケースや透明なパイプが設置されていて、その中には土がびっしり。
その土の中を、時折小さな黒い影が蠢いている。
「おー!あの黒い影みたいなのが、モグラなんだね!」
「うーん、モグラがいるのは分かるんだけど、土が邪魔でよく見えないな。」
「あ、ほら!あそこ!結構はっきり見えたよ!」
「んー?そう?ダメだよく見えん。」
「そうだ!モグラなら地元にもいっぱいいるから、今度一緒に捕まえようよ!」
「ええ…、別にそこまでしなくても…」
「ねぇ白狐ちゃん?」
「ん?」
「…モグラって、食べれるのかな?」
「突然何言ってんの!?」
カイちゃんの情緒がおかしくなってました。
〜オオカミ〜
「オオカミだ、やっぱり迫力あるねー!」
「かつては日本にも、オオカミはいたんだけどねぇ。
あの頃が懐かしいや。」
「えッ!?白狐ちゃんってそんな昔から生きてる人だったのッ!?」
本気でビックリしてるっぽいカイちゃん。
「んな訳ないだろ。
冗談だよ冗談、ジャパニーズジョーク。」
「ふぅ、そっか驚いた〜。
なにしろ不変力があるから、ワンチャン有り得ると思って。」
「あぁ……、でも私にはちゃんと家族もいるし、バリバリの平成生まれだからな。」
妙な誤解を生んでしまう前に、きちんと訂正しておかねば。
〜昆虫〜
「ねぇカイちゃん?」
「え?どうしたの?」
「ここが、今日この動物園に来た私にとって、一番のお楽しみポイントだと知ったら、驚くかな?」
「…えぇ?いや、別に?
昆虫の資料館なら、白狐ちゃん喜ぶよね?」
「あーもう、ノリ悪いなぁ!
そこは『ま、まさか貴様ッ!?』って必要以上に驚いて、後ずさった勢いで盛大に尻餅つく場面でしょうに!」
「そこまで要求されてたの!?」
「まあ、冗談はともかく、中入ろ。」
「うん!」
私が今回この動物園をチョイスしたのは、前述の通りこの昆虫の資料館が存在するからである。
実際、ここに来る直前までどんな所なのだろうと胸をときめかせていた。
「おおー!想像以上!素晴らしい!」
「どこもかしこも虫だらけ…。」
「楽園じゃないか!」
至る所に虫、虫、虫!
虫好きな私の心を踊らすには、充分過ぎる場所だった。
「おっと、こいつはナナフシだ!本物初めて見たなぁ。ややっ、あそこにいるのは日本じゃまず見れないハキリアリ!この蟻を見れただけでも、ここに来た価値はあったってもんだな!そしてあれは、世界最大級のゴキブリでもあるブラベルス!?いやー凄いなーカッコいいなー!タガメやゲンゴロウみたいな、田舎じゃ定番の虫もいるんだ!おおッ、これはハナカマキリ!?こいつも実物見るのは初めてだ!やっぱり綺麗なんだなぁ!」
「白狐ちゃん、いつになく元気で饒舌だね。」
「え?」
振り向くと、カイちゃんが面白いものでも見つけたかのような表情で、私を見ていた。
「なんだよ、悪い?」
「いや、そうじゃなくって。
やっぱり、好きなものを前にして活き活きとしてる白狐ちゃんが、一番素敵だなって、そう思っただけ。」
少しの沈黙の後、カイちゃんの言っている台詞を飲み込んだ私は、途端に恥ずかしくなった。
「お、お馬鹿ッ!何恥ずかしい事言ってんだよ!」
「ごめんごめん。」
「私の事はいいから、カイちゃんも色んな虫を見て、是非とも勉強するんだな。」
「はいはーい。」
◆◆
「すごーい!蝶がいっぱいいる!」
「…これはまた、圧巻の一言。」
先程の施設のすぐ隣、ドーム状の施設にやって来た私達は、中に入ってすぐに呆気に取られていた。
それもそのはず、この施設は2000匹以上の蝶が放し飼いにされていて、至る所に蝶、蝶、蝶!
無数の蝶が飛び交う蝶の楽園なのだ。
「凄い景色だねー、見惚れちゃうよ。」
「ああ、うん。思わず多摩市ごと不変にしちゃいそうだ。」
「うーん、なんとなく気持ちは分かるよ。」
私とカイちゃんは、しばらくの間その光景に魅入っていた。
今日はここに来て良かったなと、心の底から思える。
そんなひと時だった。
⚪︎2人に質問のコーナー
カイちゃんの好きなアニメのジャンルは?
「アタシの白狐ちゃんと同じで、日常ものが好きかなー!」
読み終わったら、ポイントを付けましょう!