[1位・KAI]
[2位・BYAKKO]
「……は?」
ゲーム画面に表示された文字列に、私は我が目を疑った。
何故、私のプレイヤー名が2位として表示されている?
why?私の目の錯覚かな?
私のお目々がおかしくなっちゃったのかな?
「えへへ、勝っちゃった。」
子供っぽい笑顔を見せつけてくるカイちゃんを余所目に、私は現実を受け入れられないでいた。
運要素の殆ど絡む事のないガチガチのレースゲームで、ガチの初心者に遅れをとるとは。
こんな事は有り得ない!私の輝かしいゲームキャリアにバケツで泥をぶっかけられたような気分だ。
「も、もう一回!こんなのただのマグレだからッ!
もう一回やって、私の真の実力を見せてやるんだからッ!」
[1位・KAI]
[2位・BYAKKO]
「何故じゃああァァァァッ!!」
「白狐ちゃんッ!?」
二度目の惨敗を前に、心身荒ぶる私がいる。
「えッ!?何!私はそんなクソザコ星人じゃないッ!
今日はたまたま、レースゲームの調子が人生で一番悪い日だったんだッ!
今度はこっち!こっちで勝負ッ!」
次に取り出したのは、格闘ゲーム。
これもゲームの経験差がモノを言う実力ありきのジャンルだ。
私もそんなに得意という訳でもないけど、こんな初心者程度は余裕でフルボッコに出来る筈だ!
「クックックック、カイちゃん!
アンタに分からせてあげるよ。どっちが上で、どっちが下かって事をなぁッ!」
「うん!分からせられたいー!ハァハァ!」
[player2・win!]
「おい!」
「また勝っちゃった。」
また、負けた…?
player2は、うん、カイちゃんの操作しているキャラクターのものだ。
で、その後に続くアルファベットが、wとiとn…?
winって確か、勝利を意味する英単語だよね?
うんうん、分かるよ。前に学校で習ったもんあははは。
「白狐ちゃん、しっかり!目が据わってるよ!」
「…ハッ!?あまりにも認め難い敗北を前に、つい現実逃避してた!?」
「白狐ちゃんは、負けず嫌いなんだねぇ。」
「うぅ〜、自分でも初めての感覚で驚いてる。」
もークソ、カイちゃんに負けるとすっごくモヤモヤする!何故だ!
いつも弟とゲームしてる時は、負けてもあんまり悔しくないのにー!
「もっかい!もう一回だ!」
「オッケー。」
[player2・win!]
「クソがー!」
[player2・win!]
「絶対に負けられない戦いが、ここにある!」
[player2・win!]
「負けちゃダメだ!負けちゃダメだー!」
[player2・win!]
「もうやだー!いやだよー!」
[player1・win!]
「チクショー!いつになったら勝て………た…?」
テレビ画面を何度も見直す。
うん、間違いない。player1の私が勝ってる。
ヤケクソになって無我夢中で戦ってたら、いつの間にか勝利していた。
「…ふ、フフフフ、フハハハハハ!やっぱり私が最強なのだ!
ねえカイちゃん、無様に負け散らかして地面に口付けして、今どんな気分?ねぇ?雑魚雑魚ざぁこ!」
「はひィ!絶対的勝者の白狐様に負けたクソ雑魚はアタシですぅ!どうか罰として土下座したアタシの頭を、その御御足でグリグリ踏み付けて下さいましぃ!」
がっつくように土下座して、踏まれるのを心待ちにしているカイちゃん。
よーし、そんなに欲しいのならお望み通りに……
……ん?なんか違和感を感じる。
まるで初めからカイちゃんが負けるのが決まってたみたいな、滑らかな動きでの土下座だ。
「ねえカイちゃん。」
「はい?」
「もしかして、わざと負けた?」
「ギクッ!?……な、何の事かな?」
「私に踏んで貰う為に、八百長したのかって聞いてんだよコラァ!」
結局、踏んだ。
踏んで踏んで罵声を浴びせて、カイちゃんは涎を垂らしてご満悦といった表情だった。
私は、どうやら負けず嫌いらしい。
それ故に、相手に手加減されて中途半端な勝利を得るのが許せなかったのだろう。
先程の格ゲーでカイちゃんの八百長が発覚してから、もう二度と手を抜くなと念入りに釘を刺したものの、お陰でそれ以降全然勝てなくなってしまった。
なんとも複雑な気分だ。
何度やってもどのジャンルでも、一向に勝てる気配が無いので、私は遂に…
遂に……ッ!
「…ま、参りましたァ!私の負けですッ!完膚なきまでに私の完全敗北ですゥゥゥゥうわアアァァァァッッ!!」
嗚呼、感情が暴走して涙が溢れて思いっ切りシャウトを決めてしまった。
家に家族が居なくて本当に良かった。ほんっとーに良かった。
「白狐ちゃん。」
「ふえ?」
「完璧に負けて、分からせられて号泣してる白狐ちゃんも可愛いなぁ。」
「うっさいバカぁ!」
「ンフフ、ねぇ白狐ちゃん、今どんな気持ちかな?」
「うっせーんだよ馬鹿ッ!立場逆転させんなァ!」
クソッ!クソクソクソッ!
なんでこの私が、初心者のカイちゃんにここまで負けなきゃいけないんだ!
これが才能の差ってやつかよ!
今まで私がゲームに捧げた時間は、努力は、血と汗と涙は、一体なんだったんだ!
ちっぽけな私のプライドが、巨大圧搾機でグシャグシャのズタズタにでもされた気分だ。
私がドン底までヘコんで膝と両手を床についていると、カイちゃんが私の肩をポンと叩いた。
「白狐ちゃん、アタシがこんな事言うのもなんだけど、ゲームは実力が全てじゃないと思うよ。
確かにアタシが少しばっかり勝ち越しちゃったかもしれないけど、遊んでた時間はすっごく楽しかったよ。
白狐ちゃんも、なんだかんだで楽しかったんでしょ?」
「…楽し…かった…?」
……そっか、私は勝ちに拘り過ぎるあまり、大切なものを見失っていたのかもしれない。
あんなに心がバッキバキにへし折れる程の敗北を喫していても、友達と一緒にワイワイはしゃぎながらゲームが出来た。
この事実だけで、充分に有意義で楽しい時間だったんじゃなかろうか。
「いや、ねーよッ!」
「あひィ!」
もっかい踏んだ。
今度はケツを蹴っ飛ばし、そのままグリグリしてやった。
「良い雰囲気出して誤魔化そうとしてんじゃねーよ!このッ!このォッ!」
「うひィィ!もっと!斜め45度の角度でグリグリして下しゃいィィ!!」
「黙れ!命令すんな下僕がァ!」
「はひィ!この下劣な下僕めにご褒美をくださりありがとうございましゅゥゥゥ!!」
その後は、ゲームを終えてお菓子を食べて、そろそろ親が帰って来ると連絡があったので解散となった。
大好きなゲームという土俵で初心者のカイちゃんにボロ負けして、ついついカイちゃんに八つ当たりしてたけど、多分原因は私の実力不足にもあるのだろう。
ゲームマニアであるという事実だけにかまけて、腕を磨く事を怠っていた私の自業自得だ。猛省しよう。
それにしても、カイちゃんの天才っぷりは凄かった。
もっと鍛えてプロゲーマーとしてデビューすれば、かなり稼げるんじゃないのかな?
「ふぅ…」
カイちゃんが帰った事で、しんと静まりかえった自分の部屋で、私は一人ベッドに横たわる。
まるで嵐でも過ぎ去った後かのように、部屋の中は散らかっていた。
「片付けんのめんどぉ…」
のっそり立ち上がろうとしたけど、やっぱりやめた。
明日またカイちゃんを呼んで、一緒に片付けさせよう。
あの子なら多分、喜んで来るだろう。
そして、また一緒に遊ぼう。
「また一緒にゲームしたいな…。」
ポツリと呟いた自分の発言に自分で驚いた。
カイちゃんと出会ってからのこの短い数日間で、私は既に彼女の事を求め始めていたのだ。
ダメだな、アイツといると調子が狂う。
⚪︎2人に質問のコーナー
白狐ちゃんの好きなお菓子は?
「飴とかガムみたいな、ゲームやりながら摂取出来るものかな。」
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