スペースシップ☆ユートピア

永遠の時を旅する2人の少女の愛の物語
千葉生まれのTさん
千葉生まれのTさん

51話・15年目・尾藤探検隊、上陸!

公開日時: 2021年9月2日(木) 18:52
文字数:3,072



むーーん!!せいッ!

我流の型で拳を固めて、全身に気力を漲らせる!


今日の私は、珍しくやる気だ!

外に出る用事でここまでやる気になったのは、私的にもかなり珍しいぞッ!ふんッ!





「白狐ちゃーん!お買い物行こ……って、どうしたの?」


部屋に入って来たカイちゃんが、やる気モードの私の姿を見てギョッとしている。


「私は今、精神統一していたのだ。」


下着姿で。


「精神統一?急にどうしたの?」


「よしカイちゃん!今から旅に行くぞ!」


「ええッ!?急過ぎない!?」


カイちゃんは、今日から一週間くらい、夏休みという名目で仕事はお休みの筈だ。

……言い換えれば、仕事が無くなってきていると言ってもいい。


「何を言うか。それもこれも、カイちゃんの為だぞ。」


「えぇ?どういう事なの?」


全く状況を飲み込めていないカイちゃんに、私は一言で分かりやすく説明してやった。






「虫、捕まえに行こーぜ!」


虫カゴと虫取り網を手に持ち、決めポーズと共にそう言った。








「…………??」


カイちゃん、余計に混乱。

どうしてだ、これ以上無いくらい、分かりやすく言った筈だぞ。




「…えっと、順を追って説明して貰ってもいいかな?」


「もう、仕方ないなぁ。これだよ、これ。」


私は、一枚のチラシをカイちゃんに見せた。

昨日、買い物に行ったコンビニの前で、配布されてたやつだ。




「えっとなになに、東京都の某島に伝説のジャイアントジャンボクソデカビッグオオコオロギの目撃情報が複数報告された!

捕まえた人には、賞金300万円……!」


「東京の港から、船に乗って片道5時間!

絶海の孤島に突如として、伝説の巨大怪虫が現るッ!

山岸隊員!今すぐそこから離れるんだ!そう叫ぶ尾藤隊長の視線の先には、草むらから覗く二対の赤く禍々しい眼光が…ッ!?」


私はシュババッと機敏に動き、クローゼットの影に身を隠す。




「んーと、白狐ちゃんどうしたの?また、テレビ観て影響されちゃった?」


「あれはもはや、ただのテレビ番組ではない。映像化された人生の教科書である。」


「もしかして、昨日やってた昔の番組の再放送?

あの、怪しい探検隊が未開のジャングルとかに探検しに行くやつ。」


「……そうとも言う。」


「それで、たまたまこのチラシを手に入れたから、賞金目当てに捕まえに行く、と?」


「……確かに賞金も魅力的。だけど、それ以上にこれは、カイちゃんの為を思っての行動なのだよ!」


「…どういう意味なのかな?」


カイちゃんはいまいち理解出来てないようだ。

仕方ない、私がもっと分かりやすく説明してあげよう。




「カイちゃん、最近仕事減ってきてるだろ?」


「あ、うん……それは、まあ……」


あの生放送乱入事件から10年以上の時が経ち、流石に世間様から忘れられてきた今日この頃、カイちゃんをテレビ画面越しに見る機会は明らかに減ってきた。

まあ、若いタレントは入れ替わりが激しいからな。

こればっかりは、どうしようもない。


「だからこそ!もう一度カイちゃんをテレビ業界に返り咲かせる為に、革新的な手を打つしか方法は無いのだよッ!」


「革新的……でありますか。」


「具体的には、珍虫ジャイアントジャンボクソデカビッグオオコオロギを捕獲して、SNSでバズらせる!

そうすれば自然と、テレビへの出演依頼も激増するってお話よう!」


「……成る程。でも、そんな簡単にいくのかな?

詳しくは知らないけど、ジャイアント(略)コオロギって、物凄く珍しい生き物なんでしょ?」


「珍しいというより、ほぼUMAだな。生きて捕獲どころか、死骸を見つけたって報告も皆無。

オバケコオロギとも言われるリオックよりも遥かにデカい、全長20センチ越えの超特大コオロギさ。」


「……に、20センチ……」


ゴクリとカイちゃんが息を呑む。


「どうだ、興奮してくるだろ!ロマンを感じるだろう!」


「……ハイ、ソダネー。」


カイちゃんはどこか青ざめたような顔色で、私から目を逸らしている。

カイちゃんが私から目を逸らすなんて、只事ではないぞ。






「……もしかしてカイちゃん、虫苦手なの?」




「……はい。」


バツが悪そうに首肯するカイちゃん。




…マジか、初めて知ったぞ。

今まで家で蜘蛛やゴキブリが出る度にワーキャー騒いでいたのは、喜んでいた訳じゃなかったのか!?



「て言うか白狐ちゃんは、虫好きだったんだね。」


「おうともよ!なんたって虫は、ロマンの塊だからな!」


フン!と自慢げに胸を張る私。


「まあでも、カイちゃんが虫苦手なのも無理ないか。

世の中の女子は、大半が虫苦手らしいからな。」


「……まあ、そういう事だね。」


私も女子だけど、昔から虫が好きだ。

まだまだ少数だけど、そんな女子もいるのだ。






「………で、来るの?最悪、一人でも行くけど。」


「いや、行く!行くよ!白狐ちゃんとなら何処へでも!」


「んー、別に苦手なら無理しなくても…」


「無理してでも行くッ!

それに、白狐ちゃんが好きなら、アタシも出来る限り理解したいし、好きになる努力をしたい、から……。」


「……お、おぉ……!」


ええ子や。

なんてええ子なんや。

私は今、猛烈に感動している!


「よーし!そうと決まれば早速船の予約するぞー!」


「おー!」












◆◆



そして翌日。



「うぃ〜、ようやく着いた〜。」


「長かったねー。」


早朝から家を出て乗船したというのに、現地の島に着いた頃にはお昼を過ぎていた。

私とカイちゃんは現在、船を降りた港の待合所でお昼御飯のお弁当を食べながら話し合っていた。

ちなみに私の格好は、昔から愛用しているベージュのフード付きパーカーに、丈の短めな白いキュロットパンツ。

この服装はオシャレで可愛い上に、動きやすくて非常に高いフィット感を誇る、マイベストコーデ!

対するカイちゃんは、白いTシャツにショートパンツという、至ってシンプルで動きやすさを重視したスタイル。


「さてと、白狐ちゃん、まずは地元の人から話を聞いて情報収集しよっか?」


「それはカイちゃんに任せた。」


「……まあ、白狐ちゃんには難易度高めだもんね。」


「そゆこと。」


知らない人に声掛けるの無理!


「私は私で調べられるものを調べとくから。」


「うん、ラジャー!」


こうして、手分けして情報収集をする事になった訳でして。












◆◆



30分後。



「白狐ちゃん、お待たせー!」


「おぉ、おかえり。成果はどうだった?」


「まあ、それなりってとこだねぇ。」


二手に別れていた私達は、再度港の待合所で合流して、お互いに得た情報を共有しあった。

美人なカイちゃんは、さぞかし仕事も捗った事だろう。



「どうやら、ここから西の方に向かった先にある森の中で、目撃情報が特に多いみたいだね。」


「ほほう、それは有益な情報。

あと私の案としては、餌で誘い出すのも効果的かもな。食欲旺盛らしいし。」


「ただ、白狐ちゃん。一つ、気になる情報が。」


「ん?どったの?」


「アタシ達以外にも、ジャイアント(略)コオロギを捕まえに来てる人が何人もいる……っていうのは分かるよね?」


「ああ、当然そうだよね。」


船に乗った辺りから、ジャイアント(略)コオロギについて話してる人や、探索に適した服装をしてる人を、何人か見かけている。

きっとその人達も、私達と目的が一緒なのだろう。

ライバルは少なくない、という事だ。


「その中でも、変な宗教団体の人達が、ここ最近頻繁にこの島に出入りしてるらしくって、島の住民さん達が迷惑してるんだって。

なんでも、ジャイアント(略)コオロギを捕獲する為に、手段を選ばず過激な事をしてるとかなんとか。」


「うっわ、何それ怖ぁ。」


「一応、気を付けないとだね。」


そんな妙な連中が紛れ込んでるのか。


「目を付けられないように、ステルスミッションも検討せねばな。」



⚪︎2人に質問のコーナー


白狐ちゃんの好きな魚は?


「カレイかな。見た目がイカす!」

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