スペースシップ☆ユートピア

永遠の時を旅する2人の少女の愛の物語
千葉生まれのTさん
千葉生まれのTさん

3話・1年目・心の壁

公開日時: 2021年4月2日(金) 22:27
更新日時: 2021年6月15日(火) 16:33
文字数:3,114



「尾藤さん、おはようッ!」


山岸に告白された翌日、教室に入るなり馴れ馴れしく山岸に元気よく挨拶された。


「…あ、うん、おはようございます。」


他のクラスメイトからの、妙な視線を感じる。

なんであの山岸さんが尾藤なんかに挨拶してんだ、的な感じの懐疑的な視線だ。


それが嫌で、私は消え入りそうな小さな声で挨拶し返した後、そそくさと自分の席へと向かった。



良かった、空気を読んでるのか知らないけど、ついて来たりはしなかった。

クラスで目立つなんてのは、私みたいな人種には命取りに他ならない。







そして放課後。


結局、今日は山岸からは何のコンタクトも無かった。

なのに、私の足は自然と、あの体育館裏まで来ていた。



いや何故だ!

気付いたらここに来てしまっていた!

昨日に引き続き、今日の授業中も休み時間中もホームルーム中も、ずっとずーっと山岸事件の事で頭がいっぱいだった。

一刻も早くこの悪夢を払拭しなければならないのに、クラスでの立場上、こっちから山岸に話し掛けるのは難易度がベリーハード中のベリーハードだ。

アイツの周りには常に人がいるから、その結界を破ることがまず、人見知りな私には無理ゲー過ぎる。



「クソクソクソぉ…、一体どうすればいいんだコンチクショー!」


「あ、尾藤さん!やっぱりいたんだ!」


「あひェッ!?」


体育館の壁にアホみたいに唸っていたら、背後から忌まわしい声が聞こえてきてビビる!

反射的に振り向いたら、声の主は案の定、山岸海良その人だ。



「あ、あああ、あ、あの、聞いてましたの?」


キョドり過ぎて、お嬢様もどきみたいな喋り方になっちまった!


「うん、ごめんね。尾藤さんが可愛すぎてつい。」


「はいぃ?」


何だそれ、お世辞か?

お前みたいなキラキラモテカワ女子にそんな事言われても、嫌味にしか聞こえないっつーの!









……まあ、ちょっとは嬉しいけどさ。




「それで、尾藤さん。ここに来たって事は例の件、ちゃんと返事を貰えるって事だよね!?」


「あッ!あぅ……それは…」


うっわ、なんか期待に満ちた眼差しが、ビームみたいに私の心臓を抉ってくる…!

コイツ、自分が人気者だからって、相手が告白を断るなんて有り得ないとか、思い上がってるんじゃないのか?

こうなったら、その鼻っ柱をへし折ってくれる!

私のお断りスキルでなッ!



「あの…その…、えっと、その事、なんで、しゅが…」



吃り過ぎた上に噛んでもうた。

しまった、私のお断りスキルは底辺オブ底辺で、ファミレスで店員さんが注文と全く違う料理を持って来ても、何も言えないレベルでした。


「うんうん。」


「うぅぅ…、その、凄く、嬉しくて。だけど、えっとぉ…」


「う、嬉しかったのッ!?じゃあ、OKなんだね!」


「ええェェ!?いや、だから…!」


マズい、都合の良い方向に解釈しやがった!


「やったぁ!今日が人生最高の日だよぉ!」


「…あの、ちょっと…!」


「それじゃあ、晴れて恋人同士になった訳だし、早速この後デートにでも行こっか。

ショッピング行く?それとも…」


「人の話聞けやこのアンポンタンッ!」


「おぶッ!?」


私の秘奥義、カタストロフィ平手打ちが、山岸の頬にクリーンヒットしてしまった。

しまった、これは対弟用にとっておいた、私の秘密の必殺技だったのに!


やらかしてしまってから、後悔の大波が私の心に押し寄せる。

どうしてだ、普段の私はこんなに暴力的じゃないし、実際他人に暴力を振るったのなんて、昨日に引き続き山岸が初めてだ。

なのにどうしてだろう、山岸にだけはどうも、その辺のリミッターが緩くなってしまっているみたいだ。


コイツの顔を見てるとこう、何というか、ウズウズしてくるんだよな…。



必殺の威力でビンタされた山岸は尻餅を突いてしまい、私に見下される形になる。

ええい、こうなったら行けるとこまで行ってしまえ!


「おい、そこの頭緩そうなデクの棒女!」


「は、はひィ!」


「いいか、お前みたいな駄目雌豚にも、一応耳ってモンが付いてんだからよーく聞けよ!」


「き、聞きます聞きましゅうぅ!」


「私はな、お前と付き合う気なんてこれっぽっちも無いからなッ!」


「……え?」


あ、ちょっと言い過ぎたか?

本気でショックを受けてるみたいな顔になってしまった。




「……あ、その、ごめんなさい。言い過ぎました…。」


「…どうして?」


「……私はこれ以上、大事な人を増やしたくないから。」


「それって、どういう意味なの?」


山岸が、心配そうな顔をしながら聞いてくる。


「どうもこうも、言葉通りの意味だよッ………です。

わ、私の事を好きになってくれたのは、し、正直に嬉しいです。

でも、私なんかと一緒にいてもつまらないだろうし、どうか諦めて…下さい。」


歯切れ悪く、目も合わせられずに私はそう告げる。


そのまま立ち去ろうとしたら、ふと、何か温かいものに体を包まれたような感覚を覚えた。

包まれたっていうか、抱きつかれた!?山岸に!


「うぇッ!?」


「…良かったら、話せる範囲でいいから、教えて欲しいな、尾藤さんの事。

アタシだって、初恋なんだもん。簡単には引き下がれないよ。」


ぐぬぅ、なんという強引な女。

しかし何だろう、バブみがあるというか、温かくてあまり悪い気はしない。


…でもこうなったら仕方ない、彼女には完全に私を諦めて貰う為に、あの〝奥の手〟を使うしかない、か。

家族しか知らない、私の〝秘密〟を。


「そこまで言うんだったら、ちょっと待ってて。」


「??」


私は山岸の抱擁を解き、周辺をキョロキョロと見渡す。




あった、草むらの中に手頃な感じのガラス片を発見し、手に取る。

何のガラス片かはよく分からないけど、こういうのって何故かよく落ちてるよね。


「尾藤さん、何してるの?」


「いいから見てて。」


私はガラス片の切れ味鋭そうな先端を下向きにし、唾を一飲み、思い切り自分の左腕へと突き刺した。


「あっ痛ぅ…ッ!」


「尾藤さんッ!?何やってるのッ!」


左腕は鮮血と激痛に染まり、痛いのには慣れている私も思わず顔を顰める。

山岸が血相を変えて近寄るも、すぐにその勢いは失速した。



「…あ、れ……?」


山岸が私の左腕を覗き込んだ頃には、既に真っ赤な血は霧のように霧散して消滅し、深かった傷口も何事も無かったかのように塞がっていた。

私が感じていた激痛も、嘘のように引いている。


「…え?今の何?マジック?」


「そんな特技、私には無いよ。このガラスも勿論本物。



……私さ、死ねないんだよ。」




「……え?」


あぁ、遂に話してしまった。

家族には流石に隠し通せないと思って以前打ち明けたけど、それ以外の人間には初めて話す、私の〝秘密〟。

これさえ話せば、いくら山岸といえど諦めるだろう。


「ほら、漫画とかアニメとかでよくある、不老不死ってやつ。

小5の時にこうなって以来、成長もストップしたし、いくら怪我しても一瞬で治っちゃうんだよね。」


「……不老…不死?」


ほうら、やっぱりショック受けてる。

さっき私に振られた時以上のショックだろ、これは。


山岸、ごめんね。

私みたいな人外よりも、もっとお前にお似合いな相手を探して……


「本当に不老不死なのッ!?」


山岸が急に、顔をゼロ距離に近づけて食い入るように聞いてきた。


「…あ、はい、本当です。」


「本当の本当の本当に本当ッ!?」


「本当の本当の本当に本当、です、はい。」


何だコイツ、まさか私の秘密をネタに揺する気か?






「やあったあああァァァァッッ!!

うおおおォォォォォッッしイイィィッッ!!

最高だァ、今日はやっぱり人生最高の日だッッしゃああアアアァァァァッッ!!

イエスッイエスッイエェェェェェッッス!!」


何度もガッツポーズをしながら、キャラ崩壊も厭わずに奇声を上げて狂喜乱舞している山岸。


えッ?えッ?

何これ、なんか変なスイッチ押しちゃった?私。

怖い怖い怖いってェ…!




⚪︎2人に質問のコーナー


白狐ちゃんの嫌いな食べ物は?


「落花生。小さい頃に食べたら歯が欠けて、それからトラウマになってるんだよ。」



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