スペースシップ☆ユートピア

永遠の時を旅する2人の少女の愛の物語
千葉生まれのTさん
千葉生まれのTさん

136話・2306年目・恐怖の夜

公開日時: 2022年8月19日(金) 23:16
文字数:3,303



お祭りを一頻り楽しんだ私達は、ドロテーアちゃんや鹿原さん達に別れを告げて、自宅へと帰って来た。


「はぁ〜!お祭り楽しかったー!」


帰って早々に、私の家の玄関先でカイちゃんがそう叫ぶ。


「うむ、実にスリリングでエキサイティングで、それでいてエンターテイメントに富んだ最高のイベントだったよ。

私はもうこの上なく満足だ。」


「…うん、ツジ姉に同意。」


そう感想を述べるのは、ツジとレンちゃん。

帰り際、私の家でお祭りの二次会をやるという流れになって、私達の町までついて来たのだ。

ついでに、しばらく泊まっていくらしい。


普段の2人きりで静かな暮らし(カイちゃんは色々と五月蝿いけど)も悪くないけど、こうして友人も加わった賑やかな日常も面白そうだ。

それに私の家は無駄に広いから、空き部屋もたまにはこうして使ってやらないとな。




「さて、折角尾藤ちゃんの家にお邪魔しているのだから、今日はゲーム大会と洒落込もうかな?」


ツジが挑戦的な表情で私とカイちゃんに視線を送る。

数十年前に2人にゲームをプレゼントしたら、2人とも見事にハマってしまったのだ。特にツジが。

まあ、プレゼントと言っても近所のお店から拝借してきた物だけど。

ほら、長い間放置されてた物だし、使ってあげなきゃ可哀想じゃん?


「いいね、受けてたとうじゃないのさ。」


「アタシも頑張るー!」


「…ツジ姉とチーム組む。対抗戦だ!」


「ハッハッハッハ、どうにも血気盛んな女子4人が揃ったもんだ。

そんじゃ早速二次会スタートぅッ!」


私の号令とともに、皆がダッシュで私の部屋へ向かった。











◆◆



ゲーム大会、熱戦を繰り広げるカイちゃんとレンちゃん。

私とほぼ互角の実力を持つツジ。

殆どがその二層での戦いになってたけど、結果的にはかなり盛り上がったし、楽しかった。


「ぐぬぅ……やっぱり海良はかなりの強敵だ!」


「そりゃあねぇ、カイちゃんは何度もゲームの大会で優勝してるし、昔はテレビのゲーム番組にも何度か出演した事あるもんな。」


「そだねー、懐かしいねー。」


「フッフフ、私もなかなかに楽しめたよ。」


ツジは射的とか色んな事が得意だけど、ことゲームに関してはそこまででもない。

下手って程でもないけど、凄く強い訳でもない。

私と同じくらいの強さってレベルだ。




「ふむ、ゲーム大会もひと段落着いたし、まだ寝るには少し早い。

次は何をしようか?」


「そうだなぁ……うーん…」


皆で考える。

真っ先に案が浮かんだのは、私だった。


「それじゃあさ、怖い話とかしない?」


「…怖い…話…?」


私の提案に一瞬だけ微妙な反応を見せたのは、レンちゃんだった。

ほほう?


「怖い話…ホラーか!良いね!

ホラーものの本も今まで何冊か読んだけれど、私は結構好きだよ。」


「さっすが白狐ちゃん!良いアイデアだね。」


ノリノリなのはツジとカイちゃん。

レンちゃんは目を逸らして押し黙っている。

分かりやすい子だな。


「あれ?レンちゃんは大丈夫?

まさか、怖いの苦手とか?」


ニマニマ笑いながら、レンちゃんに聞いてみる。


「……はあァ?んな訳ないっつーの!全然平気だし!」


「え?でもレンちゃん確か……」


「ツジ姉は黙ってて!平気だってば!」


「…あ、はい。」


格好悪くも引き下がるツジ。

どうやらレンちゃんは、怖がりなのを周囲に知られたくないご様子で。

こうなったら、多少意地悪したくなるのが道理というものでしょう。


「そっか、レンちゃんが平気なら怖い話しても大丈夫だな。」


「あッ!?……うん、もう全然ヨユー!」


明らかに目の焦点が合ってないけれど、本人が大丈夫って言ってるんだから大丈夫だろう。


「よーし、それじゃあ雰囲気出す為に部屋暗くして、蝋燭持ってこよう!」


本格的な怖い話をするのは私も初めてだから、ちょっとワクワクしてたりする。



ま、レンちゃんがマジで駄目そうだったら終了って形にするか。











◆◆



「えー、では僭越ながら、この私が一番手を務めさせて貰おうかなッ!」


最初のストーリーテラーはツジ。

鼻息を荒くしていかにも楽しそうな雰囲気で、どう考えても怖い話を語るようなテンションではない。

折角部屋の明かりを消して、蝋燭一本の照明を4人で囲むという最高のムードを準備したというのに、なんかぶち壊しだ。

レンちゃんはその横で、下唇を噛みながらプルプル小刻みに震えている。

いつもの強気な態度が一転、まるで小動物のようだ。


「え〜、コホン…」


珍しく空気を読んだのか、咳払いをして真剣な表情を作るツジ。


「そうだね、あれは確か3年ほど前の夏の夜だったか。

部屋はエアコンが効いていて快適だったのに、何故か妙に寝苦しかったんだ。

だから、一旦部屋から出て気晴らしに散歩でもする事にしたんだ。」


「そんな事あったの!?」


驚いたのはレンちゃんだった。


「ああ、同じ部屋で気持ち良く寝ていたレンちゃんを起こすのは、忍びないと思ってね。こっそりと。」


「うぅ…」


レンちゃんは複雑な顔を見せる。

あれか、起こして貰いたかった気持ちが半分、そうじゃない気持ちが半分ってとこか。

起こして貰えば大好きなツジと一緒に散歩出来たけど、怖い話をしている手前、この後すぐに怖い目に遭うのはほぼ確定してるというジレンマよ。


「それで、私は一人シェルター内の巨大図書館を当て所なく彷徨っていた訳だけども、10分ほど経った頃だったか。

あの場所ではまず有り得ない現象に遭遇したんだ。」


「…ゴクリ。」


「……霧が出たんだよ。真っ白で、1メートル先も見えないような濃すぎる霧がね。」


「……霧?」


確かに、屋内で霧は考えにくいな。

レンちゃんは初耳なのか、目を丸くして驚いている。


「当然私も驚いたさ。危険を感じたから戻ろうとも思った。

しかし生憎、霧があまりにも濃くてね。」


「壁伝いに戻ったら?」


私の意見に、ツジは首を横に振る。


「勿論真っ先に試みたさ。

でもね、不思議な事に、いくら前進しても後退しても、いつまで経っても壁や本棚に当たらないんだ。」


「えぇ…」


成る程、いよいよオカルトな話になってきたな。

レンちゃんはもう既に顔が青白くなっている。

大丈夫かこの子?もうあのシェルターに帰れなくなるんじゃ…?


「数分したら、今までずっと私の周囲を包んでいた霧が嘘のように晴れたんだ。

ほっとしたのも束の間、恐怖はここからが本番だった。」


「と言うと?」


「私が立っていたのは保全シェルターの図書館ではなく、見た事もない墓場のど真ん中だった。」


ゴクリと、私も唾を呑む。

そんなヤバい経験をしていたのか。


「昔、私とレンちゃんが暮らしていた村にも墓地はあったが、これは規模がその比じゃなかった。

果ても見えないくらい延々と墓石と卒塔婆が並び、まるで迷宮のように入り組んでいたんだ。」


そんな大きな墓場、見た事も聞いた事も無いぞ。


「流石の私も狼狽したよ。

一体ここは何処なのか、どうすれば帰れるのか。

しばらく悩んでいたら、背後から声らしきものが聞こえたんだ。」


「ひッ!?」


ツジの隣から小さな悲鳴が聞こえる。


「その声は、私が最も聞き慣れた………そう、レンちゃんの声だった。

『こっちにおいで』と私を誘っていたんだ。」


「なにそれ知らない身に覚えない!」


頭を抱えて否定するレンちゃん。


「でもね、私はそこで違和感を感じた。

根拠は無いが、その声はレンちゃんの声に似せた嘘っぱちだと、本能的に判断したんだ。」


「えぇッ!?」


「だから私は、声のする方とは反対方向に駆け出した。

やがて再びあの白い霧に包まれて、気が付いたらシェルターの中に戻っていたんだ。

未だに、もし声の方に向かっていたらと思うと、ゾッとするよ。」


そう締め括ったツジ。


「ワタシ、ツジ姉がそんな怖い目にあってたなんて知らなかった。」


二重の意味でショックを受けるレンちゃん。

大好きな人が、そんな大事な事を教えてくれなかったなんて、衝撃だよな。

そんなレンちゃんへ更に、ツジが追い打ちをかける。




「そりゃそうだよ。

全部、私の好きなホラー小説の引用だからね。」


「…………へ?」


「登場人物を私達に置き換えただけで、まるっきりフィクションさ。」


「…………。」


その直後、レンちゃん怒りのコークスクリュー腹パンがツジに炸裂したのは言うまでもない。




いや、別にツジは何も悪い事してないけどね。



⚪︎2人に質問のコーナー


カイちゃんが好きな芸術作品は?


「アタシは絵……特にフェルメールの作品が好きかなー。」

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

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