お祭りを一頻り楽しんだ私達は、ドロテーアちゃんや鹿原さん達に別れを告げて、自宅へと帰って来た。
「はぁ〜!お祭り楽しかったー!」
帰って早々に、私の家の玄関先でカイちゃんがそう叫ぶ。
「うむ、実にスリリングでエキサイティングで、それでいてエンターテイメントに富んだ最高のイベントだったよ。
私はもうこの上なく満足だ。」
「…うん、ツジ姉に同意。」
そう感想を述べるのは、ツジとレンちゃん。
帰り際、私の家でお祭りの二次会をやるという流れになって、私達の町までついて来たのだ。
ついでに、しばらく泊まっていくらしい。
普段の2人きりで静かな暮らし(カイちゃんは色々と五月蝿いけど)も悪くないけど、こうして友人も加わった賑やかな日常も面白そうだ。
それに私の家は無駄に広いから、空き部屋もたまにはこうして使ってやらないとな。
「さて、折角尾藤ちゃんの家にお邪魔しているのだから、今日はゲーム大会と洒落込もうかな?」
ツジが挑戦的な表情で私とカイちゃんに視線を送る。
数十年前に2人にゲームをプレゼントしたら、2人とも見事にハマってしまったのだ。特にツジが。
まあ、プレゼントと言っても近所のお店から拝借してきた物だけど。
ほら、長い間放置されてた物だし、使ってあげなきゃ可哀想じゃん?
「いいね、受けてたとうじゃないのさ。」
「アタシも頑張るー!」
「…ツジ姉とチーム組む。対抗戦だ!」
「ハッハッハッハ、どうにも血気盛んな女子4人が揃ったもんだ。
そんじゃ早速二次会スタートぅッ!」
私の号令とともに、皆がダッシュで私の部屋へ向かった。
◆◆
ゲーム大会、熱戦を繰り広げるカイちゃんとレンちゃん。
私とほぼ互角の実力を持つツジ。
殆どがその二層での戦いになってたけど、結果的にはかなり盛り上がったし、楽しかった。
「ぐぬぅ……やっぱり海良はかなりの強敵だ!」
「そりゃあねぇ、カイちゃんは何度もゲームの大会で優勝してるし、昔はテレビのゲーム番組にも何度か出演した事あるもんな。」
「そだねー、懐かしいねー。」
「フッフフ、私もなかなかに楽しめたよ。」
ツジは射的とか色んな事が得意だけど、ことゲームに関してはそこまででもない。
下手って程でもないけど、凄く強い訳でもない。
私と同じくらいの強さってレベルだ。
「ふむ、ゲーム大会もひと段落着いたし、まだ寝るには少し早い。
次は何をしようか?」
「そうだなぁ……うーん…」
皆で考える。
真っ先に案が浮かんだのは、私だった。
「それじゃあさ、怖い話とかしない?」
「…怖い…話…?」
私の提案に一瞬だけ微妙な反応を見せたのは、レンちゃんだった。
ほほう?
「怖い話…ホラーか!良いね!
ホラーものの本も今まで何冊か読んだけれど、私は結構好きだよ。」
「さっすが白狐ちゃん!良いアイデアだね。」
ノリノリなのはツジとカイちゃん。
レンちゃんは目を逸らして押し黙っている。
分かりやすい子だな。
「あれ?レンちゃんは大丈夫?
まさか、怖いの苦手とか?」
ニマニマ笑いながら、レンちゃんに聞いてみる。
「……はあァ?んな訳ないっつーの!全然平気だし!」
「え?でもレンちゃん確か……」
「ツジ姉は黙ってて!平気だってば!」
「…あ、はい。」
格好悪くも引き下がるツジ。
どうやらレンちゃんは、怖がりなのを周囲に知られたくないご様子で。
こうなったら、多少意地悪したくなるのが道理というものでしょう。
「そっか、レンちゃんが平気なら怖い話しても大丈夫だな。」
「あッ!?……うん、もう全然ヨユー!」
明らかに目の焦点が合ってないけれど、本人が大丈夫って言ってるんだから大丈夫だろう。
「よーし、それじゃあ雰囲気出す為に部屋暗くして、蝋燭持ってこよう!」
本格的な怖い話をするのは私も初めてだから、ちょっとワクワクしてたりする。
ま、レンちゃんがマジで駄目そうだったら終了って形にするか。
◆◆
「えー、では僭越ながら、この私が一番手を務めさせて貰おうかなッ!」
最初のストーリーテラーはツジ。
鼻息を荒くしていかにも楽しそうな雰囲気で、どう考えても怖い話を語るようなテンションではない。
折角部屋の明かりを消して、蝋燭一本の照明を4人で囲むという最高のムードを準備したというのに、なんかぶち壊しだ。
レンちゃんはその横で、下唇を噛みながらプルプル小刻みに震えている。
いつもの強気な態度が一転、まるで小動物のようだ。
「え〜、コホン…」
珍しく空気を読んだのか、咳払いをして真剣な表情を作るツジ。
「そうだね、あれは確か3年ほど前の夏の夜だったか。
部屋はエアコンが効いていて快適だったのに、何故か妙に寝苦しかったんだ。
だから、一旦部屋から出て気晴らしに散歩でもする事にしたんだ。」
「そんな事あったの!?」
驚いたのはレンちゃんだった。
「ああ、同じ部屋で気持ち良く寝ていたレンちゃんを起こすのは、忍びないと思ってね。こっそりと。」
「うぅ…」
レンちゃんは複雑な顔を見せる。
あれか、起こして貰いたかった気持ちが半分、そうじゃない気持ちが半分ってとこか。
起こして貰えば大好きなツジと一緒に散歩出来たけど、怖い話をしている手前、この後すぐに怖い目に遭うのはほぼ確定してるというジレンマよ。
「それで、私は一人シェルター内の巨大図書館を当て所なく彷徨っていた訳だけども、10分ほど経った頃だったか。
あの場所ではまず有り得ない現象に遭遇したんだ。」
「…ゴクリ。」
「……霧が出たんだよ。真っ白で、1メートル先も見えないような濃すぎる霧がね。」
「……霧?」
確かに、屋内で霧は考えにくいな。
レンちゃんは初耳なのか、目を丸くして驚いている。
「当然私も驚いたさ。危険を感じたから戻ろうとも思った。
しかし生憎、霧があまりにも濃くてね。」
「壁伝いに戻ったら?」
私の意見に、ツジは首を横に振る。
「勿論真っ先に試みたさ。
でもね、不思議な事に、いくら前進しても後退しても、いつまで経っても壁や本棚に当たらないんだ。」
「えぇ…」
成る程、いよいよオカルトな話になってきたな。
レンちゃんはもう既に顔が青白くなっている。
大丈夫かこの子?もうあのシェルターに帰れなくなるんじゃ…?
「数分したら、今までずっと私の周囲を包んでいた霧が嘘のように晴れたんだ。
ほっとしたのも束の間、恐怖はここからが本番だった。」
「と言うと?」
「私が立っていたのは保全シェルターの図書館ではなく、見た事もない墓場のど真ん中だった。」
ゴクリと、私も唾を呑む。
そんなヤバい経験をしていたのか。
「昔、私とレンちゃんが暮らしていた村にも墓地はあったが、これは規模がその比じゃなかった。
果ても見えないくらい延々と墓石と卒塔婆が並び、まるで迷宮のように入り組んでいたんだ。」
そんな大きな墓場、見た事も聞いた事も無いぞ。
「流石の私も狼狽したよ。
一体ここは何処なのか、どうすれば帰れるのか。
しばらく悩んでいたら、背後から声らしきものが聞こえたんだ。」
「ひッ!?」
ツジの隣から小さな悲鳴が聞こえる。
「その声は、私が最も聞き慣れた………そう、レンちゃんの声だった。
『こっちにおいで』と私を誘っていたんだ。」
「なにそれ知らない身に覚えない!」
頭を抱えて否定するレンちゃん。
「でもね、私はそこで違和感を感じた。
根拠は無いが、その声はレンちゃんの声に似せた嘘っぱちだと、本能的に判断したんだ。」
「えぇッ!?」
「だから私は、声のする方とは反対方向に駆け出した。
やがて再びあの白い霧に包まれて、気が付いたらシェルターの中に戻っていたんだ。
未だに、もし声の方に向かっていたらと思うと、ゾッとするよ。」
そう締め括ったツジ。
「ワタシ、ツジ姉がそんな怖い目にあってたなんて知らなかった。」
二重の意味でショックを受けるレンちゃん。
大好きな人が、そんな大事な事を教えてくれなかったなんて、衝撃だよな。
そんなレンちゃんへ更に、ツジが追い打ちをかける。
「そりゃそうだよ。
全部、私の好きなホラー小説の引用だからね。」
「…………へ?」
「登場人物を私達に置き換えただけで、まるっきりフィクションさ。」
「…………。」
その直後、レンちゃん怒りのコークスクリュー腹パンがツジに炸裂したのは言うまでもない。
いや、別にツジは何も悪い事してないけどね。
⚪︎2人に質問のコーナー
カイちゃんが好きな芸術作品は?
「アタシは絵……特にフェルメールの作品が好きかなー。」
読み終わったら、ポイントを付けましょう!