「……んぅッ!」
右手で山岸の頭部を覆うように触れて、不変にな〜れと祈りを込めながら白い光を出す。
山岸はくすぐったいのか、何か妙に色っぽい声を出しおった。
やめろ、やりづらいわ!
「…えっと、これで完了、かな。」
不変力の効き目の強弱は、光を当てる時間によって変化するので、家での実験を踏まえた上で、スマホで正確な時間を計測しながら光を浴びせた。
恐らく、ジャストでレベル9になった筈だ。
「おお!何か特に体が変わったような感じしないけど、完了なんだね!」
確かに、見た目上は何の変化もない。
そりゃそうだ、不変の力なんだもの。
「今この瞬間から、山岸さんの体は成長しなくなったからね。
元に戻して欲しかったら、いつでも私に言って。」
「だから言わないってぇ。」
「ちなみにこの体になると、便利な事も多々ある。」
「そうなの?」
「髪が伸びないから美容院に行く必要が無くなるし、毎朝セットしたり化粧をする必要も無くなる。
髪に寝癖も付かないし、キューティクルや抜け毛も気にならなくなる。
生理や排泄も無くなるから、トイレに行く事もなくなるね。
あとは、お腹が空かなくなるから食べる必要も無くなる。
逆に、満腹になる事も無くなるから、食べ放題の飲食店で店側が赤字になるまで食べ続ける事も出来る。
今までとはだいぶ生活様式が変わると思うけど、慣れると結構快適だし、お金と時間にも余裕が生まれるよ。」
「なにそれスッゴイ!」
他にも色々あるけど、不変の体を手に入れるというのは、普通の人間の枠組みから大きく逸脱した存在になるという事だ。
良い事もあるけど、長い目で見れば不老不死なんてロクなものじゃないのだろう。
まだこの体になって数年の私にゃあ、まだ分からん事なのだけれど。
「ま、山岸さんも最初は慣れないと思うけど、頑張ってね。」
「……むぅ。」
「へ?」
なんだなんだ、山岸が急に頬を膨らませて、あからさまにかわいこぶった不機嫌フェイスをしているぞ。
怒ってるみたいだけど、可愛さの方が勝ってるぞ。
あざといぞ。
「なに、どうしたの?」
「カイちゃんって呼んでって言ったのに、呼んでくれない。」
「うえッ?いや、恥ずかしいし…」
「もう友達なんだから、苗字にさん付けなんてよそよそしいじゃん!
カイちゃんって呼んで!できれば耳元で囁くようにエロい感じで!」
「はいはい、カイちゃん。」
「うえーん!いけずー!」
全く、すぐ調子に乗りやがるな、この女は!
「そういえば白狐ちゃん、アタシに対して敬語じゃなくなったね!
素の白狐ちゃんと接してるみたいで嬉しいな!」
「あーそう。」
言われてみれば、自分でも気付かないうちに、緊張せずに喋れるようになっていた。
家族以外で普通に喋れる相手なんて殆どいないから、とても新鮮な気分だ。
「それじゃ、今からどこ遊びに行こうか?」
「は?やだよ。」
「ええッ!?初デートのお誘いがバッサリ断られたッ!?」
「デートって言うな!まだ恋人じゃないから!あくまでも友達だから!」
「でもでも、友達なんだからどっか遊びに行こうよぉ!
カラオケとか、ボウリングとか、カフェ行ったりとかさ!」
「ハハっ、どれも私には縁の無い、陽キャJKの溜まり場だね。
今日は親からお小遣い貰ったから、それでゲーム買いに行くから無理!」
山岸の提案を鼻で笑ってから、私は立ち去る。
だから、私とお前とじゃそういうとこの価値観からして違うんだから、恋人なんて無理なんだって。
「えっ、それなら一緒についてくよ!
白狐ちゃんと一緒にショッピング出来るだけでも幸せだしぃ。
そうだ!お買い物の後、白狐ちゃんの家に遊びに行ってもいい?」
「ええ〜、なにそれ。絶対つまんないでしょ。」
どれだけ拒絶しようとも、この女は私から離れるつもりは毛頭無いらしい。
まあでも、自宅に友人を招き入れるなんて、随分久し振りの事だ。
幼稚園の頃とか、小学校低学年くらいの頃以来、かな。
あの頃はまだ、幼いが故に人見知りになる前だったから、友達も少なからずいたしなぁ。
「でも、白狐ちゃんと一緒なら…ッ!」
「はいはい分かった、私と一緒なら何でも楽しいとか言うんだろ?」
そう言ってくれるのは純粋に嬉しい。
結構重めの愛情だけど。
「ほら、さっさと行くよ。
山岸さ…ッ!
……か、カイちゃんがモタモタしてると、ゲームに割く時間が減っちゃうから。」
「……ッ!うんッ!」
下の名前で呼んでやった瞬間、またあの満開花咲き笑顔が狂い咲いた。
変態だけど、笑顔だけは一級品で見てて飽きないな。流石はモデルやってるだけある。
◆◆
と言う訳で、やって来た。
近所のショッピングモールのデャスコ。
誰かとここに来るのも、相当久し振りだ。
主に、ゲームや漫画なんかを買うのに利用してるくらいだしなぁ。
多くの同年代の女子高生が、学校帰りにデャスコ寄ってタピったりだのお洒落なパフェの写真をSNSに投下したりだの、花のJKライフを謳歌しているのを横目に、同様の立場である筈の私はと言うと、同じ建物内のゲームショップで中古ゲームが満載されたカートの中を漁ったり、漫画の品揃えの悪さに小声でブツブツ文句を言ったりしている。
フフフ、これこそがパンピーどもには分からない、私なりの青春なのだよ。
「白狐ちゃん、買うものは決まってるの?」
「んーん、特に決まってない。」
「えッ!?まさかの無計画!?」
「フッフフ、分かってないなぁ。
限られたお小遣いの範囲内で、安売りされている中古ゲームを漁り、その中から名作ゲームを発掘するのが醍醐味なのだよ。」
私は慣れた手つきでカートの中や棚に置かれたゲームをチェックしていき、目ぼしいブツを幾つかピックアップしていく。
こんな光景見てても絶対つまらないだろと思いながらカイちゃんの様子を見てみると、ニヤニヤとニコニコの中間みたいな笑顔を浮かべて私を見つめていた。
これはこれで変な感じだ、やりづらい。
「ねえ。」
「なあに?」
「そんな見られてると、変な感じするんだけど。」
「でも、好きな事に夢中になってる白狐ちゃん、超可愛いから。見てるだけじゃなくて食べちゃいたい。」
「ちょっ、馬鹿ッ!こんなとこでなに変な事言ってんだよッ!」
自重しないカイちゃんの頭を、思わず引っ叩いてしまった。
周囲をキョロキョロと確認する。
よし、近くに誰もいないな。良かった。
「ご褒美ありがとうございます!」
「だから黙れっての!
ていうかそもそも、私とお前が一緒にいるのが、学校の連中に見られるの自体マズいんだからな。
私は学校で目立ちたくないんだから、カイちゃんも大人しくしてて。」
「うぅぅ、ごめんなさい。
でも、白狐ちゃんともっとラブラブしたいなぁ。」
ダメだコイツ本当に。
まだ恋人じゃないって、何度言ったら理解するんだ!
仕方ない、ちょっと力技で黙らすか。
「ねえねえカイちゃん。」
「フフフ、なあに?」
「…お願い、黙って♪」
限界まであざとく、精一杯の上目遣いで、親指を自分の唇に当てて、きゃるるん♪みたいな効果音が聞こえてきそうな、山岸海良専用悩殺ポーズを決めてやった。
ゲーム売り場の棚と棚の間で、誰にも見られてない筈だ。
「…おごふッ!?……はひ、黙りまふぅ。」
カイちゃんが鼻血を噴き出しながら、顔を真っ赤にして私の命令に従った。
よしよし、効果は的面だな。恥ずいからなるべくやりたくないけど。
「…ヤバい、可愛いが過ぎる。上目遣いとか、破壊力エグいって……。」
一人でボヤきながら悶絶してるよ。
まあそれからというもの、借りてきた猫みたいに大人しくなったカイちゃん。
調教されるのが大好きなドMなだけあって、ご主人様の命令には従順なようだ。
「ん?いやいや、私はご主人様じゃないから。
カイちゃんとはただのお友達だから。」
「ほえ?」
でもなんか逆に、ここまで大人しくされると、これはこれで落ち着かないなぁ。
この子はこう、元気な方がしっくりくる、うん。
⚪︎2人に質問のコーナー
カイちゃんの好きなゲームのジャンルは?
「う〜ん、ゲームってあまりした事ないんだけど、パズル系のゲームとか結構得意だよ!」
読み終わったら、ポイントを付けましょう!