「おっはよー!白狐ちゃーん!」
「最低だなお前わーッ!」
バチコーン!
「おぅぶッ!?」
朝から元気良くウチの玄関を開けたカイちゃんに、出会い頭に全力のビンタを炸裂させる私。
「…な、なになに何なの白狐ちゃん!?
朝からいきなりご褒美だなんて、サービス精神旺盛過ぎないッ!?」
「うっさいわボケぇ!
お前、遂にやってはいけない事をしでかしてくれたなぁ!」
「え?……え!?
ちょっと待って、何の事か全然意味が分からないよ。」
カイちゃんはしらばっくれているみたいだが、私を誤魔化すなんて事は出来ないぞ。
容赦無くとことんまで追求してやる!
「カイちゃん、今の私の格好を見て、何も思う事はないのか?ん?」
「……へ?格好?」
そう言われてカイちゃんは、私の全身を上から下までじっくりと眺める。
「うーんと、普通にパジャマを着てて………
…………え?普通にパジャマ?」
「ようやく違和感に気付いたか。
これが、お前の犯した大罪の代償だ。」
「……う、嘘だ……!
び、白狐ちゃんが普通にパジャマ着てるーーッ!?」
上半身着てるなら別に珍しくない。
しかし、私が自宅に居ながらちゃんとズボンを穿いているのは、私自身過去の記憶を辿ってもすぐには思い浮かばないレベルの大事件だ!
「ちなみにパジャマの下はノーパンだ。」
「ほォォんッ!?」
鼻血を噴き出しながら興奮して卒倒したカイちゃんが、側頭部を下駄箱に思いっきりぶつけた。
痛そう。
「カイちゃんだろ?犯人は。
早く白状した方が、楽になれるぞ。」
「……い、いや、だから意味が分からないって。
犯人って何?どういう事なの?」
「だからとぼけるなよ!
カイちゃんしかいないんだよ!私のパンツ全部丸ごと盗むようなアホンダラはッ!」
「……え?ええーーーーッ!?」
今朝、起きたら部屋にあった筈の私のパンツが、一着残さず全て消えていた。
私が穿いていたのも含めてだ。
だから、私は起きた瞬間素っ裸だった。
という事情を、相変わらずすっとぼけてるカイちゃんに言って聞かせた。
「さあ、分かっただろ?
大人しく自白すれば、ケツ百万叩きの刑で許してやらんでもない。」
「あぁ〜、それはすっごく処されたい刑だけど、でもアタシじゃないよー!」
「ふーん、そこまで否認するのなら証拠はあるのか?」
「証拠………それならあるよ!」
自身有り気にそう宣言するカイちゃんに、私は怪訝な目付きで返す。
「ほほう、それはどんな?」
「アタシがもし白狐ちゃんのパンツを脱がしたら、その場で興奮のボルテージが最高潮に達して気絶してるよッ!」
「う……ッ!」
言ってる事は最低なのに、やたら説得力がありやがる!
「だから、アタシが犯人だったら、白狐ちゃんが朝起きた時には、目の前に気絶したアタシが横たわってて、しかも布団はアタシの鼻血で真っ赤に染まってる筈だよ。
そもそも、寝てる白狐ちゃんから無理矢理下着を奪うなんて事、したいとは思うけど、絶対に実行はしないよ!
白狐ちゃんが困るような事はしたくないもん!」
「むぐぅ…!
キモい台詞とカッコいい台詞を織り交ぜながらそんな事言うとは、器用な奴め。」
「だから、アタシの事を信じて。」
カイちゃんの言葉からは、嘘をついている気配は微塵も感じられなかった。
「………はぁ、分かったよ。
カイちゃんがそういう人間だってのは、私も長年の付き合いで理解してるつもりだからさ。
冷静に考えたら、私も安直にカイちゃんを疑ったりして悪かったよ。ごめん。
私自身、証拠も無いのにカイちゃんを疑ってたからな。」
お気に入りのパンツ達を盗まれた怒りで我を忘れていたからか、私も冷静さを欠いていたようだ。
ここは素直に謝罪する。
「いいのいいの、気にしないで。
誤解も解けたんだし、真犯人を探そ?」
「…うん、そうだな。
でも、真犯人なんて見当も付かないぞ。
パンツを盗むなんて時点で、少なくとも犯人は人間だろ?
でも、この辺にゃ人間なんて私達以外住んでないし、そもそも人類は私とカイちゃん、ツジちゃんとレンちゃん、その4人以外はいない筈なんだよ。」
まさか、私達以外に生き残ってる人類がいるとでも?
しかし、新種の生き物は沢山発見したけども、人類の生き残りなんて今まで1人も見た事ないぞ。
仮にいたとして、ずっと私達に見つからないように過ごしてきた連中が、わざわざリスクを犯してまであんな大胆にパンツなんて盗むのか?
どうにも腑に落ちないな。
「チッチッチ、まだまだ甘いよ白狐ちゃん。
まずは先入観を捨てて物事を見ないと、立派な名探偵にはなれないよ。」
「…………ハッ!?」
……そうか、そうだな。
虚心坦懐をモットーとするこの私とした事が、勝手な決め付けに囚われてしまっていたとは。
「あぁ、カイちゃんの言う通りだ。ようやく目が覚めたよ。
名探偵白狐ちゃん、久々のお仕事だ!」
「イエーイ!まずは事件の現場を調査しに行こー!」
「現場百遍!」
◆◆
「起きた時は気が動転しててあんま部屋をよく見なかったけど、改めて見てみたら色々と発見がありそうだな。」
「そうだね。手掛かりも結構残ってるみたいだし。」
私の部屋は、何者かによって荒らされていた。
まあ、元からそんなに綺麗な部屋とは言えないような部屋だったけど、衣類が入っているタンスは片っ端から開けられてたり、窓ガラスが開けっ放しだったり、足跡らしき土の痕跡が幾つも残されていて、元々汚部屋だったのが、更に惨状と化していた。
「タンスは荒らされてるけど、パンツ以外の衣類は全部無事みたいだね。
犯人はあくまでも、白狐ちゃんのパンツだけが目当てだったと。」
「そうみたいだな、とんだ変態ゲス野郎め。
窓が開いてるって事は、外からこの部屋に直接侵入して来たのか。」
「うん、しかも見てよこの足跡。
人間っぽい足跡に見えるけど、違うようにも見えるよ。」
確かにカイちゃんが言うように、土に出来た足跡は人間のそれよりもかなり大きく、歪に見える。
「つまり、犯人は人間じゃないって事か。
まさか、未発見の新種の生き物とか?」
「その可能性も、視野に入れといた方がいいね。
人間だったら、ここまであからさまに証拠を残していかないもん。」
「よし、それじゃあこの足跡を辿って行こう!
絶対に犯人を追い詰めてやる!」
◆◆
「ほほう、下手人は私の家の壁を登って部屋に侵入したか。
犯行後は、あっちの方に走って逃げて行ったようだな。」
庭に出てみたら、犯人の足跡が庭の地面にくっきりと残されていて、あっさりと逃走経路を割り出せた。
足跡を辿ってみたところ、庭から北西の方向に続いているみたいだ。
「そうみたいだね、行ってみよう!」
行ってみた。
と簡単に言ってはみたものの、足跡を追うだけで相当苦労した。
その理由は、足跡の残されている場所がかなり特殊だったからだ。
普通に地面を歩いているかと思ったら、民家の壁や屋根の上に足跡の泥が付いていたり、途切れた足跡を探すのに一苦労したりと、予想以上に時間が掛かった。
「あーもう、しんどッ!
でもこれで、犯人が人間じゃないってのが、ほぼ確定したな。」
「そうだね。こんな滅茶苦茶な逃走ルートを選ぶなんて、人類には無理だもん。」
「もしくは、超人的な身体能力を得た新人類………ってのは、流石に漫画の読み過ぎか。」
「でも一応、その可能性も頭の片隅に入れておこう。」
「一応、な。」
さっきカイちゃんに言われた通り、常に考えをアップデートしながら行動しなければ。
しかし、超人的な力を持った人間、か。
どうせなら会ってみたい気もあったりなかったりする。
⚪︎2人に質問のコーナー
白狐ちゃんが好きな木は?
「木かぁ……やっぱ日本人だし、桜かな。」
読み終わったら、ポイントを付けましょう!