豪華客船の旅が始まった翌日、まずは最初の目的地である中国の大都市、上海に着いた。
時刻は早朝にも関わらず街は多くの人々で賑わい、周囲にはホログラム映像による広告ビジョンが至る所に映し出されている。
世界有数の先進国である中国は、特にホログラム技術にも力を入れていて、このように街中で積極的にホログラム映像を映すように取り組んでいるんだとか。
ツアーの中には街中を自由に見て回れる時間もたっぷりと設けられている為、私達はこうして自由にほっつき歩いているのだ。
ただし、自由行動中に犯罪に巻き込まれてもクルーズを企画した企業側は責任を負わないという契約なので、基本的には自己責任となる。
なので、政府によって定められた治安レベルの高い安全な地域を回るのが普通だそうだ。
この治安レベルというのは世界共通のもので、1〜10の段階分けをされており、数値が高いほど安全という意味。
今の時代の上海は、中国政府が治安維持に積極的に力を入れているので、最高レベルの10だ。
勿論これはあくまでも指標であって、絶対に安全という訳ではないので、常に観光客を狙った犯罪者には警戒をしなくちゃいけないのだけども。
「いやー、朝っぱらから派手な街だねぇ。」
「そうだね、朝の時点でこんなに凄いんだから、夜になったらもっと凄い事になるんだろうねー。」
「お、そこの広告によると、今日の夜は結構大規模な花火大会が開催されるみたいだぞ。
それも、ホログラム花火の。」
「いいねー、是非見てみたい!」
テレビで見た知識に過ぎないけど、中国のホログラム花火は、日本のものよりもかなり派手で大々的に行われるらしい。
日本のはまた侘び寂びがあって良いんだけど、たまには派手さ重視のも見てみたいからな。
それにホログラムだから、どんなに派手な花火でも火薬を使う本来の花火と違って、危険性はゼロなのだ。
火薬のも良いけど、ホログラムの花火も良い。
みんな違ってみんな良い!
「それじゃあ、夜になるまで色々回って時間潰そっか。」
「はいはーい!アタシショッピング行きたいなー!
欲しかったブランドの洋服とかバッグとか、見て回りたい!」
「ほほう、カイちゃんらしくていいな。
私も付き合おう。」
「他にも、中華料理沢山食べたいよねー!
あとあと、動物園行ってパンダ見に行きたいかも!」
興奮して矢継ぎ早に意見を繰り出すカイちゃんに対して、私はウンウンと納得したみたいに首肯をする。
「よしよし、どれも良い意見だ。
時間はたっぷり有るんだし、順々に巡って行こう。」
「イエーイ!ヤッホー!」
私は冷静っぽく装っているけど、実際のところは初めての海外旅行に内心ウズウズしっぱなしだった。
◆◆
まず私達は、カイちゃんの第一希望通りにショッピングに来た。
上海が誇る、かなり巨大なショッピングモールだ。
地元のデャスコじゃ比較にならないほどの規模で、目眩がしそうになった。
「うわー!すっごい色んな海外のブランドが入ってて充実してるねー!
日本じゃなかなかお目にかかれないようなのばっかりだよー!」
カイちゃんは目眩どころか、瞳を爛々と輝かせている。
「そんなもんなの?
私にゃ全然分からないんだけど。」
相変わらずオシャレに縁の無い私には、カイちゃんがどうしてこんなに興奮しているのか理解が出来ない。
「そんなもんだよー!
良かったら白狐ちゃんも、オシャレにコーデしてあげる!」
「んー、まあ別に構わんけど。」
オシャレに興味は無いけど、可愛い服を着るのは嫌いではない。
若干矛盾してる気もするけど、まあそんなもんだよ。
◆◆
「……とは言っても、これはちょっと可愛過ぎなんじゃないのか?」
カイちゃんが着せてきたのは、薄ピンク色のヒラヒラしたドレスっぽい洋服。
まるで西洋人形が着てるような、貴族のお嬢様みたいなファッションだ。
いつか着た、甘ロリファッションに近いかもしれない。
そして、あまりにも女の子女の子している。
「いやいや、白狐ちゃんは宇宙誕生レベルで可愛さ全振りの女の子なんだから、こうやって女の子らしさを全開にした、可愛い系ガーリーなファッションで攻めていかないと!
いやでも、白狐ちゃんのプラチナブロンドの髪に合わせるには、もっとシックな感じの色にした方が良いかもね。
その方が白狐ちゃんの魅力がもっと引き立つかも?
そしたら、このブラックのリボンとグレーのワンピースも悪くないし、このベレー帽とさっきのブーツもマッチするかな。
あーん!どれも可愛くて絞れないよー!」
「……ふーん。」
変な悲鳴をあげているカイちゃんを、私は冷めた目で見ている。
とは言え、この可愛い服装は悪くない。
目立つのは好きじゃないけど、どうせ街に出るなら可愛い服を着て出たい欲もある。
これもまた矛盾してるなぁ。
「白狐ちゃんは、どれがいーい?」
「それじゃあ、この灰色っぽい感じので。」
私が選択したのは、少しセーラー服っぽい見た目の、白と灰色の落ち着いた色合いの洋服。
シックな割に結構可愛いし、私にはちょうど良い具合だと思ったのだ。
ていうかぶっちゃけ、かなり好みかもしれない。
「いいねー白狐ちゃん!良いセンスしてますねー!
早速試着室行って、着替えてみよー!」
「はいはい、分かったから押すなって。」
私を着せ替え出来るからだろうか、カイちゃんはさっきからずっとご機嫌なご様子。
私の恋人が楽しそうでなによりだよ。
それで、試着室に押し込まれて着替えてきた訳だけども。
「……ど、どうかな?」
「……ウッス!か、可愛いッス。」
私が着替えた姿を見て、カイちゃんは顔を真っ赤にしながら目を剥いて、明らかに変質者寄りの表情で私を見ていた。
「可愛過ぎて、自分めっちゃ感動ッス!
今すぐ白狐ちゃんペロペロして、裸にひん剥いてお持ち帰りしたいッス。」
「やめろ!服買う意味が無くなるだろ!
あと、なんかキャラがブレてるかんな。
運動部の後輩みたくなってるから、落ち着け。」
「……あ、はい。」
カイちゃんが冷静さを取り戻してから、試着した服をそのまま購入したのであった。
◆◆
ショッピングの後は、動物園までやって来た。
先程のショッピングモールから歩いてすぐの場所にあって、どうやら最近出来たばかりの上海の新名所らしい。
中国でも最大級の動物園として売り出しているらしく、その名に恥じない敷地面積の広さ、動物の種類の多さ、レストランや移動用バスなどなど、その他サービスの充実度。
どれを取っても文句の付けようが無いほど、完璧と言えるレベルだった。
「いやー、ホント凄いなぁ!」
「うん、想像以上だねー!
あ!あっちにパンダいるみたいだよ!」
イラストのパンダが矢印と共に描かれているホログラム立て看板の先に、大きな人だかりが出来ていた。
「うえ〜、あんなに人いんの?」
どんなに文明が発展しても、人混み問題というのはなかなかどうして解決出来ないものだ。
あの量の人混みに突っ込むなんて、人見知りで人混み苦手な私にゃあ、ちと難儀な話になってくる訳ですわ。
「…白狐ちゃん、いや?」
「あぁ、う〜ん…」
返答に悩む。
「白狐ちゃんが嫌なら、無理はしなくて良いからね?」
「うぐッ!?」
カイちゃんが、表情を暗くしながらそう言った。
そんな言い方、反則だろ。
「……この状況で、嫌なんて言えないだろ。
好きなカイちゃんの為なんだから、私だってたまには一肌脱ぐよ。」
「……白狐ちゃんッ!」
喜ぶカイちゃんと一緒に、人混みという名の巨大な悪魔に戦いを挑んだ。
悪戦苦闘しながらも、結果的には勝利!
最前列でパンダを眺めるカイちゃんは、満面の笑顔だった。
私はと言うと、パンダよりもカイちゃんの笑顔を横から見てる時間の方が長かった気がする。
⚪︎2人に質問のコーナー
白狐ちゃんが好きな漫画のジャンルは?
「基本バトル漫画系好きだけど、日常系とかも好きだな。」
読み終わったら、ポイントを付けましょう!