スペースシップ☆ユートピア

永遠の時を旅する2人の少女の愛の物語
千葉生まれのTさん
千葉生まれのTさん

171話・57億年目・感動するしかないッ!

公開日時: 2023年2月16日(木) 22:10
文字数:2,971




「……これはッ!?」


水中を潜って行った計測器のカメラ越しの景色をモニタリングしていたリグリーが、驚愕したような表情を見せる。


「なになに、なんか凄いの映ってたん?」


私達4人はリグリーの元に群がりモニターの画面を確認しようとしたのに、リグリーが急いで画面を閉じてしまったので見れない!

何故に!?


「何故見せてくれない!」


抗議する私の声を受けても、リグリーは首を横に振るばかり。




「皆さん、一旦戻って水着を持って来て下さい。

これは、実際にその目で見て確認した方が良いでしょう。」


そこまで言って、驚いていたリグリーの顔は、にっこり笑顔に変わる。


「きっと、その方が面白いですから。」


「???」


私達は訳が分からずも、素直にリグリーの言うことに従うようにした。

だって、その方が面白いなんて言われちゃったら、ねぇ?

面白さに飢えてますから、我々は。











◆◆




私達は一旦町に戻って、水着を用意して洞窟の水溜まりへと再集合した。

戻ったとは言っても、ツジとレンちゃんはいちいち群馬まで戻るのは手間なので、私達と一緒に近所のショッピングモールの水着売り場まで行って、共に選ぶ事になった。

今回は単なる海水浴ではなく、探索用に泳ぎやすい水着を準備しといた方が良いという結論に至ったので、全員揃って水着を新調しようという流れになったのだ。


そして、私が着ているのは水色に白い水玉模様が入っただけの、シンプルなビキニ。

カイちゃんは、大胆に背中が開いた青い競泳水着。

ツジは、紫色のこれまたシンプルなビキニ。

レンちゃんは、紺のスクール水着。






「スクール水着ッ!?」


「ん?どうかしたのか?」


私のツッコミに対して、疑問符を浮かべるレンちゃん。


「いや〜、アハハ……いくらレンちゃんの見た目が幼いとはいえ、まさかスク水をチョイスしていたとは…」


今回は動きやすさ重視なのでシンプルな水着が多いけれども、まさかスク水を着てくるとは思ってなかった。

てか、実物のスク水なんて久々に見たな!

しかも、胸の名前書くところにちゃんと『3年1組れんか』って書いてある。

間違いなくツジが書いたな。

3年1組って何だよ。


「うん?なんで変なリアクションするんだ?

シェルター内の図書館にも、昔は教育機関の授業でも使われてた、機能面に優れてる動きやすさに特化した水着だって書いてあったぞ。

今回の探索に於いて、一番合理的な水着だろ。

むしろなんでワタシ以外誰も着てないんだ?」


「そうだよ!白狐ちゃんも着ようよ!」


「五月蝿い!それはお前の単なる欲望だろうがッ!」


「皆さん、お待たせしました。」


少し遅れて、リグリーがやって来る。

彼女が着ていたのは、黒に黄色のラインが入ったウェットスーツだった。

ほら、ダイビングとかでよく着用するやつ。

ちゃっかりシュノーケルも付いてるし。







「……一番本格的な装備が来たな。」


「あ、いえ、今まで水中を泳いだ事がなかったので、どういう装備で臨めばいいのかよく分からなかったもので。

それで、ちょこっと調べてきました。」


「え、泳いだことないの!?」


カイちゃんだけじゃなく、皆で驚く。


「ええ、金星ではそもそも、地球に比べて水場が少なかったもので、泳ぐという概念自体があまり定着していなかったんです。

だから今まで、どうしても泳ぐという行為に抵抗があったのです。」


少し俯き気味にそう言うリグリー。


「だったら、無理しなくても大丈夫だよ?」


気を遣ってそう声を掛けるカイちゃん。


「いえ、これは逆に良い機会です。

この探索をキッカケに、泳げるようになれればと!

何事もチャレンジです!

それに、この水溜まりの先にあるものを、ワタクシ自身の目でも確かめたいですから!」


若干興奮気味にそう訴えるリグリー。


「まあ、そこまで言うなら止めはしないよ。」


にしても、普段は冷静なリグリーを、ここまで興奮させるほどの〝なにか〟が、この先にあるというのだ。

一体何なのだろう?

私も胸がドキドキしてきたぞ。




「あれ、でもさ?」


不意に、ツジが聞いてきた。





「リグリーちゃん、泳げるの?」




「え?」










◆◆




私は元々運動音痴で、泳ぐのもダメダメだったけれど、流石に海沿いの町で50億年以上暮らしてきたからなぁ。

何度もカイちゃん達と海水浴に行く機会はあったし、昔と比べて最低限人並みには泳げるようになった。

運動神経抜群なカイちゃん、レンちゃんは言わずもがな。

ツジも結構泳ぐのはお上手なこって。




「はい、じゃあ次は10秒間、息を止めて水中に顔を沈めてみましょうねー。」


「は、はははは、ハイッ!」


狭い水溜まりを使って、カイちゃんがリグリーに潜り方をレクチャーしていた。

水への本能的な恐怖心を克服して貰う為に、カイちゃんが講師役を買って出たのだ。

まるで、学校の水泳の授業のよう。


ド初心者のリグリーは、これでもかってくらい緊張している。

ちなみに、水溜まりに入らせるだけでも10分弱掛かった。








それからもう少し練習して……





「もう完璧です!」


自信満々に胸を張ってそう言い切るリグリー。

本当かどうか不安だけど、取り敢えず今は行くしかない。

水圧や、息継ぎ周りの問題を不変力で一挙解決して、準備は完了!

まず最初に潜った切り込み隊長は、レンちゃんだった。

それに続いてツジ、私、リグリーの順に潜り、最後にカイちゃんが殿を務める。

リグリーがもし溺れてもフォロー出来るように、後ろから見守っててくれるらしい。



「………。」


実際に潜ってみて、その水の透明度に改めて驚いた。

今まで見てきたどの水よりも澄んでいて、まるで地上と同じように懐中電灯で照らされた先の様子が分かる。

しばらくは狭い道が続いたけど、20メートルほど潜った辺りでカーブが入り、その先から急に道が明るくなり、頭に装着していた懐中電灯が不要になった。

明るさの原因は、壁に大量に生えている苔だ。

金色に光る苔が四方八方に群生していて、夜の繁華街みたいにやたらめったら明るい。

思わず目を瞑ってしまいそうだ。



その眩さにも目が慣れて、しばらく真っ直ぐに進んで行くと、今度は上に向かって道が曲がる。

相変わらず道は狭いので一列になって進んでいき、そしてすぐにゴールへと辿り着いた。

入って来た水溜まりと似たような出口から顔を出して、プハっと息を吸ってから地上に上がる。


この間、約1分。

思ったより短かった。



「着いたけども……これは!」


周囲を見渡して、目を見開くツジ。


「凄いね、大発見だよ白狐ちゃん!」


「ああ、こいつは確かに凄い発見だよ。」


私達の眼前には、とても現実とは思えないような光景が広がっていた。

そう、一言で表すならば、超巨大な地底湖。

湖というよりもほぼ海みたいなスケールで、水平線まで見えるレベルで先が見えない。

天井や壁にはさっきも見た光苔がびっしり生えていて、昼間のように明るい。


ちょいと湖の中を覗いてみると、地球では見たことないような、色鮮やかな体色の魚みたいな生き物が、群れを成して泳いでいた。

その他にも、似たような魚類めいた生物がちらほら見えて、うつぼやウミヘビに似たニョロニョロした生き物も泳いでいる。




「おお、おおおぉぉ〜!」




宇宙に出て、初めて生き物を発見した!(リグリー除く)

それも、こんなに沢山の生態系がひしめき合う、生命の坩堝を!


これは、感動するしかない。

この幻想的な洞窟内の光景!

私達を出迎えてくれた水棲生物達!


気付いたら、私の頬を涙が伝っていた。



⚪︎2人に質問のコーナー


白狐ちゃんが好きな模様は?


「んー、和な雰囲気の青海波模様とか好きだなぁ。」

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート