「カイちゃんが私の事大好きなのは重々承知してるけど、もうこんな事しないでよ。
結構、本気で怖かったんだからさ。」
「はい、本当にごめんなさい。もう二度としないと誓います!」
カイちゃん、どうやら本気で後悔して、反省しているみたいだ。
まあ、私も別にそこまで怒ってないし、カイちゃんとの関係を悪くしたくないから、すぐに許す事に決めたのだ。
私って大人だな、うん。
「それにしても、部屋はともかく、スカートの中に盗聴器なんて、いつ仕掛けたのよ?」
「え?いや、それはさっきも言ったけど、アタシのじゃないよ?」
「……は?」
カイちゃんの言っている意味が理解出来ず、私の頭の中は一瞬、真っ白になった。
「アタシが仕掛けたのは白狐ちゃんの部屋だけだから、スカートのはアタシじゃないよ。」
「…な?あ?いやいやいやいや、ちょい待てって。
なにか?それってつまり、もう一人ストーカーがいるって事か?」
「……うん、そうなっちゃうね。」
「マジか。」
何という展開だ。
カイちゃんの他にストーカーがいるとか、全くもって想定外だぞオイ。
「犯人を探したいけど、手掛かりがこれだけじゃあなぁ。私達だけじゃ無理ゲーだぞ。」
「アタシも出来る限り協力するよ!だから絶対、犯人を突き止めよう!」
「有り難いけど、一体どうすれば…」
その時、私の部屋の扉をゴンゴンと雑に叩く音が聞こえた。
この脳筋み溢れる叩き方は、間違いなく愚弟のものだ。
「あー?なに?」
半裸の姉が部屋にいるというのに、愚弟は躊躇う事なく入って来た。
まあ、さっき会った時もパンイチだったし、いつもの事だからお互いに気にしてないんだが。
「あ、ショウ君。お邪魔してます。」
「山岸さん、どうも。いつも愚姉がお世話になってます。
で、バカ姉貴。これ貸すから、取り敢えず使っとけ。」
ショウの奴が、小さな画面付きのトランシーバーみたいな機械を手渡してきた。
「何だこれ、通信機?」
「ちげーよ、盗聴発見機ってやつ。
前に、市販のやつを改造して、使いやすくしたんだよ。」
「お、お前…!
ったく、素直じゃない奴め!
私の力になりたいのなら、なりたいですって正直に言えばいいのに!」
「調子に乗るな。」
「ギャアアアア!!」
脇腹小突き攻撃をしていたら、必殺のコブラツイストで百倍返しされた。
コイツは、実の姉が相手でも躊躇無く、手加減無しのプロレス技を掛けてくるような卑劣漢なんだった!
「いだいいだいいだいいだぁい!ギブギブギブぅ!」
「白狐ちゃんとショウ君は仲が良くて羨ましいなぁ。
アタシももっと、白狐ちゃんと仲良くなる努力しなきゃ。」
「だってよ姉貴。姉貴は幸せもんだな。」
「ぐ、ぐううぅぅぅ!!カイちゃんの目は腐ってる!ぶべッ!」
地獄のコブラが終了するなり、ボロ雑巾のように床にポイ捨てされる私。
とても尊重すべき姉に対する態度ではない。
不変力のお陰で怪我はしないものの、痛みは普通に感じるからマジでやめて欲しい。
どこでこいつの教育を間違ってしまったのか、甚だ疑問である。
「それじゃ姉貴、あとで発見機のレンタル代よろしくな。」
「金取るのかよッ!」
何という愚弟だ!
たまには良いところあるじゃんと勘違いしたさっきの私を、全力で殴り倒したい!
「あと、追加料金を支払えば、更に便利なオプションも付きますが、いかがなされますか?」
「急にビジネス口調になるな!取り敢えずお願いします!」
「よしきた!」
くそ、金の亡者め!
弟も私同様、親からお金に関しては昔からうるさく言われている為、結構がめつい性格になってしまったのだ。
一旦自分の部屋に戻ったショウは、見たことのない謎の機材を持って戻ってきた。
見た目はさっきの盗聴発見機に、似てなくもない。
「なにそれ?」
「金属探知機、みたいなもんだな。
この部屋とか家にも、もしかしたらまだカメラやら盗聴器やら、仕掛けられてるかもしれないだろ?
そういうのの電波なんかを察知して、見つける為の物だよ。
さっき渡したのは、盗聴器の発信源を辿るやつで、こっちはすぐ近くに仕掛けられてるのを探す用って言えば分かるか?」
「ほへ〜、何でこんな物持ってるのかとか、今更突っ込みはしないけどさ、有り難く使わせて貰うわ。」
「金。」
「はいはい。」
私は渋々と、提示された金額を支払う。
これも、私の生活を守る為の必要経費だと自らに言い聞かせながら、守銭奴にお金を支払った。
「毎度ありー!」
臨時収入が手に入ったからか、愚弟は機嫌良さそうに私の部屋から出て行った。
全く、大事な家族の危機だというのに、なんという輩だ!
「まあいいや、まずは取り敢えず、私の部屋の中を探知機で探ってみようか。」
「うん、そうだね。」
「って言っても、流石に出てくるとは思えないけどね。
私の事ストーキングする奴なんて、よっぽどの事じゃないと…」
ピーピーピー!
と、カイちゃんがスイッチを入れた探知機が、早速けたたましい程のピーピー音を発しやがった。
「え?いや、いきなり過ぎない?」
「えっと、本棚の方から反応があるみたいだね。」
本棚だと?
私が頑張って集めた珠玉の漫画達に、まさか不純物が取り付けられていたのか?
「クソッ、早急に見つけねば!」
私の聖域が、何者かによって侵食されている!
まずはその魔手から、愛する漫画達を守らなければ!
「ぬぬぅ、一体どこに隠れてる…!」
「あれ?白狐ちゃん、これじゃない?」
カイちゃんが発見したのは、普段読む事のないような百科事典。
その事典に対して、発見機がピーを通り越してビービー音を発している。
これは多分、この百科事典が相当に怪しいということだろう。
「でかしたカイちゃん!」
「やったー、えへへ。」
「ていうかよく見たら、こんな百科事典、私の部屋に無かったぞ。
見覚えも買った覚えも無いし、外部から持ち込まれたのか?」
本棚の奥深く、極めて目立ちにくい所にさりげなく置いてあったので、今まで気付く事が出来なかった。
私の気付かないうちに、こんな不純物が紛れ込んでいただなんて、まだちょっと信じられないぞ。
「よし、開けてみようか。」
「う、うん。」
意を決して開けてみると、中身は想像以上だった。
百科事典の立派な装丁は完全なるフェイクで、中は小物入れのようになっており、そこに盗聴器がガッチリとテープで固定されていた。
「うっわぁ、マジであったじゃんよ。キモい〜。」
「本当だね、ドン引きだよ。」
「お前も同じ事してただろ!」
「そうでした!」
カイちゃんの頭を引っ叩いた後、私とカイちゃんは盗聴器を調べた。
「カイちゃん、これをどう見る?」
「うーんと、ちゃんと電源は入ってるようだから、今も現在進行形で盗聴されてる筈だよ。
それに、気になる点が一つあるんだけど。」
「気になる点とは?」
「この盗聴器、遠隔操作でスイッチを切れるタイプのやつなんだよね。電波を探られない為に。
アタシ達の会話が漏れてるのにスイッチを切らないって事は、多分犯人は、今は盗聴出来てない状況なんじゃないかな?
きっと、外出中とか、寝てたりとか。」
「ほほう、さすがカイちゃん。これ系の事柄には随分とお詳しい。」
「ウヘヘ、それ程でも〜。」
「照れちゃ駄目な事だぞ。」
「はい、猛省してます。」
「まあ、それは置いといてだ。そうと分かれば、早速電波を辿って犯人を探すぞ!」
「おー!」
私とカイちゃんは、意気揚々とストーカー犯人を探しに行く旅へと出発した。
この先に待つ、驚愕の結末を目の当たりにするとは、まだ知らないまま。
⚪︎2人に質問のコーナー
カイちゃんの好きな音楽は?
「アタシは、クラシックとか好きかなぁ。あと、ジャズとかも落ち着くよね。」
読み終わったら、ポイントを付けましょう!