「先生すみません、ご迷惑お掛けしました!」
バイキングレストランの入り口前で立っていた先生を見つけるなり、カイちゃんはすぐさま謝りに行った。
「…や、山岸さん。もう大丈夫なの?
さっきは急に様子がおかしくなって、心配してたのよ?」
先生も先生なりにカイちゃんを気にしていたみたいで、あちこち探し回っていたらしい。
「ええ、もう大丈夫です。
ちょっと食べ過ぎで気持ち悪くなっちゃったみたいで。
これからは自重出来るように、少しずつ努力します。」
「そっか、それなら先生も応援するわね。
でも、もうすぐ夕食の時間も終わっちゃうから、出来れば食べかけの分だけは食べちゃってね。」
あ、そっか。
カイちゃんは食事の真っ最中なのに、放り出して逃げたんだったな。
「尾藤さんも、山岸さんを介抱してくれてありがとうね。
本来なら私がするべき事なのに。
確か2人は、親戚同士なのよね?どういう繋がりなのかしら?」
「えッ!?…えぇまあ、親の従兄弟の息子さんの知り合いの隠し子、的な!?」
「白狐ちゃんッ!それどういう関係性ッ!?ていうか他人!」
うぐぅ、いきなり先生に聞かれたから、テンパって滅茶苦茶な事を言ってしまった。
カイちゃんにツッコミ入れられるとは、屈辱!
「ウフフ、2人は仲が良いのね。」
「はいッ!大親友ですッ!むしろその先ですッ!」
「その先とか言うなお馬鹿ッ!」
ヘラヘラ笑っているカイちゃんの頭に、思わず平手打ちをかましてしまった。
勿論、先生の見ている目の前で。
「あらあら。」
「…あ、あの、この事はどうかご内密に…。」
「フフ、分かったわ。
クラスでは正反対で話してるとこなんて見た事無いのに、意外な2人が仲良しだったのね。
大丈夫、今のは誰にも見られてないから。」
先生はそれだけ言い残して、レストランの中へ戻って行った。
理解のある先生で良かった。
「全くもう、バラすなよ。」
「えへへ、ごめんごめん。
でも先生、あんな事言ってたけど、私達の関係に前から薄々勘付いてたよ。」
「えッ!?そうなの?」
「うん、結構前から。」
うっわ、マジかぁ。
卒業までに、他の人間にバレなきゃいいんだけどなぁ。
◆◆
「…びびびびびゃ、白狐ちゃんッ!
お、おおおおふふおふおふお風呂、いいいい、一緒に入ろうッ!ハァ、ハァ。」
「え?いやだ。」
「なんでッ!?」
「キモいから。」
修学旅行1日目の夜、大浴場に行こうと入浴グッズを手に部屋を出たら、待ち構えていたカイちゃんに捕まった。
しかも、やたらと鼻息が荒くて目もギラギラしている。
「ロリコンと一緒に風呂に入るという行為に、ただならぬ身の危険を感じる。」
「ええッ!?白狐ちゃん、家だといつもパンイチなのにッ!」
「それとこれとは話は別なの。
大浴場と自宅の部屋とじゃ、感じる羞恥心の質が変わってくるから。」
「羞恥心の質って何ッ!?」
「それと、今のスーパーロリコン状態のカイちゃんが私と一緒にお風呂入ったら、他の人達から間違いなくドン引きされるよ。
分かってるだろうけど、私と2人きりって訳じゃないんだからね。」
「…あ、はい、でも、そこはちゃんと我慢するので…」
「自分の胸に手を当てて、ついさっきまでの自分の鼻息の荒さを思い出してみな。」
「おぐッ!?」
痛いところを突かれたとばかりに、痛烈なアッパーカットでも食らったかのような吹っ飛びを披露するカイちゃん。
精神的ダメージを負わせてでも、この子を私と一緒のお風呂に入らせたら駄目だ。
お互いに今まで積み上げてきたものが、全て崩れ去る恐れがあるからな。
でも、それらは全て、他人の目がある場合に限った話だ。
誰にも見られてなければ、カイちゃんがいくら欲情しようと、少なくとも私以外に迷惑を掛ける心配はない。
「…まあ、あれだ。遅い時間に、人が少なければ一緒でもいいよ。」
「えッ!?」
私の提案に、カイちゃんが目をパチクリとさせた。
「消灯時間が夜の11時だから、その少し前に入るんならいいよ。あんま人いないだろうし。」
「白狐ちゃん優しいッ!」
「ええい抱きつくなッ!」
涙目で歓喜するカイちゃんが抱きついてくるのを、引っ叩いて払い除ける。
「だから、こういう場所でそういう事をするのをやめろっての!」
「…ごめんなさい。」
◆◆
約束の時間より少し前、大浴場の入り口の前でカイちゃんを待つ。
幸いにも我が校の生徒は良い子が多いようで、ほぼ全員が入浴を終えたみたいだ。
なんか、こうしてカイちゃんとお風呂に入るのを待ってるんだと改めて考えてみると、無性に恥ずかしい気持ちになる。
あぁ、もうクソ、どうしてこうなった。
ていうか、私はとことんカイちゃんに甘いな。
あの子に自重しろだの我慢しろだの色々言っておきながら、その反面、カイちゃんの言う事なら何でも叶えてやりたいと思っている自分がいる。
そして実際、こうしてあの子の要求に応えようと、消灯時間ギリギリまでお風呂に入るという、本来の私なら絶対にしないようなお馬鹿な行動をしているのだ。
果たしてこれは、彼女の為になる事なのだろうか?
う〜む、どうも思考回路が保護者的なそれになってしまう。
「白狐ちゃん!お待たせ〜!」
「ん?ああ。」
壁に寄り掛かりながら沈思黙考していたら、すぐにタイムリミットが訪れた。
「どしたの?難しい顔して。」
「んあ?いや、カイちゃんの教育方針についてちょっと。」
「親かなッ!?
あ、でも、白狐ちゃんの事だから、教育っていうのはそのまんまの意味じゃなくて、加虐側が被虐側に与える苦痛に対する隠語的な意味合いの…」
「私の事だからってどういう意味だオイッ!
お馬鹿な事言ってないで、とっととお風呂入っちゃうぞ。時間も限られてるんだし。」
「はいは〜い。」
◆◆
「ねえ、カイちゃん。」
「……は、はい?」
「まさか、服着たままお風呂に入るつもりじゃなかろうな?」
「そそそ、そんな非常識な事、する訳ないざんしょォ、オホホホ…。」
「いやテンパリすぎ。」
更衣室で着替えてるんだけど、私は一瞬で服を全て脱ぎ去った。
いつも自宅ではパンイチで、カイちゃんが遊びに来てても同様なので、女子同士だし裸を見られるのにあまり抵抗は無い。
だから、私にとって滅多に無い公衆の面前での露出も、あまり躊躇なく出来た。
だけど、意外にもカイちゃんは逆なようだった。
いや、むしろ私の前だからこそ、なのかな?
服を脱ごうか脱ぐまいかと、もじもじしている女が目の前にいる。
「いつまでもそこでまごついてるんだったら、先に一人でお風呂入っちゃうぞ。」
「そんなご無体な〜!」
「じゃあ早く脱げッ!このッ!」
あまりにも焦ったいので、こうなったら実力行使だ!
他に人がいないのをいいことに、私はカイちゃんの服を無理矢理脱がしにかかった。
「あ〜れ〜、おやめ下さい〜。」
「グフフフ、良いではないか、良いではないかー!」
ヤバい、楽しい。
カイちゃんは抵抗しているように見えてその実、非力な私でも服を脱がせられるほどに無抵抗だ。
「よし、脱がし完了!」
「うぅ…フフフぅ。」
カイちゃんの服を全て剥ぎ取り、すっぽんぽんになったドM女が、恥ずかしさ半分、恥ずかしさからくる気持ち良さ半分といった表情で、悦に浸っている。
「ほら、気持ち悪い顔で気持ち良くなってないで、お風呂入るぞ。」
「は、はいィィ。」
うーん、やっぱ裸に剥いてみても想像通り、完璧なプロポーションだな、コイツは。
平均的な高校生よりも一回り成長している大人びたナイスバディに、世の男性はメロメロなのだろう。
私?
いや、私は女だし、コイツとはただの友達だから。
カイちゃんじゃないし、決して友達をイヤらしい目で見てたりはしないから。
……うん、決して。
⚪︎2人に質問のコーナー
白狐ちゃんの好きな動物は?
「セイウチ!可愛いでしょ!」
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