「…君達の町、だって?」
「うん、私達の住んでる町。
少し距離はあるけど、安全で快適な旅を約束するからさ。」
私の提案に、ツジとレンちゃんは何かを考え、カイちゃんは驚いている様子だった。
「白狐ちゃんがそんな風に誘うなんて、珍しいね!」
「いやさ、2人の話を聞いてたら、招待したくなってさ。
それに、長い間私とカイちゃんで2人ぼっちだったし、たまにはお客さんを招くのも悪くないかなと思って。」
「そうだね!アタシも賛成!」
カイちゃんも喜んで同意してくれた。
「…まさか、君達も2人きりで暮らしているのかい?」
ツジが、目を見開きながら聞いてきた。
「まあ、そうなるのかな。」
ツジとレンちゃんは、2人揃って沈思黙考している。
先に口を開いたのは、レンちゃんだった。
「正直、白狐と海良の住んでる町ってのには興味はある。
ワタシ達は、この群馬から出た事が無いから。
知的好奇心ってやつが疼くんだ。」
レンちゃんは、嘘は言ってないのだろう。
その声色から、群馬ジャングルの外に興味を持っているのはひしひしと伝わってくる。
しかし、表情が暗い。
「でもさ、あまりにもリスクがデカ過ぎる。
外の世界は汚染が酷いし、汚染が薄いエリアには武装した危険な野盗がウヨウヨいる。
食糧もどれだけ必要か分からないし、そもそも移動手段が……」
「フッフッフ!」
突然、カイちゃんが不敵な笑いを浮かべた。
ツジとレンちゃんは、何事かと顔を顰める。
まあ、笑いたい気持ちは私にも分かるけど。
この2人には、まだ私達の情報を、不変力以外は殆ど教えてなかったからな。
「…どうした?」
「レンちゃん、ワタシと白狐ちゃんが、どうやってここまで来たか教えてあげよっか?」
「……何か、良い移動手段があるのか?」
「ついさっき、白狐ちゃんが言ったでしょ?
安全で快適な旅を約束するって。」
「…安全……快適……」
「百聞は一見に如かず!
今度はアタシ達がレンちゃん達をビックリさせる番だよ!」
ずっと怪訝そうな顔をしているツジとレンちゃんだけど、結果的に私達の移動手段を自分達の目で見極めてから、来るかどうか判断するという結論に行き着いた。
◆◆
「…いやはや、これは驚いた。
まさか、君達がこんな隠し玉を持っていたとは。」
外に出て、ツジとレンちゃんをスーパーキャンピングカーを停車している場所まで案内した。
予想通り、2人は唖然として驚きっぱなしだった。
その驚き具合は、先程保全シェルターの図書館を見せられた時の私達に匹敵してるな。
「……凄い、カッコいい。」
「アッハハ……いや〜、全くとんでもないな。
見事な意趣返しをされてしまったよ。
車なんて、今までスクラップしか見た事なかったからね。」
「まあ、これは車の中でもかなり特殊な種類だけどね。」
「この車、私は知っているよ。
確か、キャンピングカーとかいう物だろう?
以前、日常ものの美少女4コマ漫画を読んでいた時に、主人公達が使っていたね。」
「美少女4コマって……
なに、あの図書館ってそんなのも置いてあるの?」
「勿論!この国で出版された本なら全て置いてあると言っただろう。」
そりゃそうか。
あの図書館の威圧感と荘厳さの所為で、お堅い書物しか置いてないみたいなイメージがあったわ。
「そして私は、本なら何でも読む!
漫画や小説は然り、歴史書に図鑑、自伝や絵本も何だって読み漁る、雑食系女子だ。」
「えと、それを雑食系女子と呼ぶのかは不明だけど、流石は書痴を自称するだけはあるな。」
私は基本漫画ばっかり読んでて、たまに小説を読む程度。
良い機会だし今度、あの図書館に行って色んな本でも読んでみるのも悪くないかな。
「しかし、いくらこんな凄い車を持っていると言っても、君達はどうやって汚染地帯を……
いや、まさか…!」
「うん、そのまさか。
さっき私が見せた不変力で、このキャンピングカーと私達自身を不変にして、汚染地帯を突っ切って来た。
そうすれば、汚染物質なんてへっちゃらだからな。」
「…いや、成る程。改めて凄い能力だね。
世が世なら、神にもなれそうな能力だ。」
「確かにそうかもしれないけど、私は名声も富も興味無いからな。
毎日平穏にぐうたら過ごせればそれで充分。
面倒ごとにも巻き込まれたくないから、不変力の事は基本的に秘密にしてる。」
「そうか、ではその秘密を明かしてくれた我々は、特別な存在という訳なんだな!」
ツジが嬉しそうにそう言っている。
まあ、面倒だからそういう事にしておこう。
それに、何となくこの2人は信用出来そうな気がしたしな。
根拠は無いけど。
「それじゃ、そろそろ行こっか。
3人とも、乗って乗って。」
カイちゃんに促され、私達はスーパーキャンピングカーへと乗り込んだ。
何気に、レンちゃんも終始興奮しているようだった。
◆◆
車での移動中は、正直言って楽しかった。
たまたま車内に使い古したトランプがあったので、私とツジとレンちゃんの3人でババ抜きや7並べ、大富豪をして盛り上がった。(ルールは私が教えた)
運転していて参加出来なかったカイちゃんが嘆いていたけど、到着したら改めて4人で遊ぼうと約束したら喜んでたな。
で、例の如く楽しい時間というのはあっという間に過ぎ去ってしまい、凶悪な汚染地帯を抜けて私達の住んでいる町へと帰って来た。
「おおッ!……凄い、夢にまで見た光景だ。」
「………。」
キャンピングカーの窓から身を乗り出すようにツジは興奮し、レンちゃんは驚きのあまり絶句している。
「あの民家も、電柱も、舗装されたコンクリートの道路も!
全て本の中に登場する〝普通の町〟そのものじゃないか!
嗚呼、今こそ人生最大の感動の瞬間なのかもしれない!」
「………うぅ、生きてて良かった。」
おおぅ、なんか予想以上の感動っぷりで、逆にこっちもビックリしちゃうな。
2人とも瞳に涙を浮かべて、私達にとっては見飽きた町並みを前に感激で震えている。
きっと私の場合に置き換えたら、大好きなゲームであるコーラルアドベンチャーズの世界にでも迷い込んでしまったくらいの感動なのだろうか。
「うんうん、ここまで感動して貰ったら、こちらとしても連れて来た甲斐があったってもんだ。」
「いやはや、実に感謝感激の極みだよ!
しかしながら、汚染地帯のど真ん中にこんな太古の町並みが残っているという事は、これも不変力の影響という訳かい?」
「イエス。」
「…そうか、くどいようだけどやはり凄いな。
町一つという規模でも、不変にしてしまえるのか。」
「白狐ちゃんの力に、限界は無いんだよー!」
「それ、言い過ぎ!」
「言い過ぎかー。」
そんなこんなで、私達の乗る車は私の自宅前に到着した。
ここを出発した時には、まさか新たな友人を引き連れて戻る事になるとは、思ってもなかったな。
「ここが、一応私の家。
取り敢えずは、ここでゆっくりしてって。」
「おお!ここが尾藤ちゃんの!
随分な豪邸じゃないか!」
「うーん、そうかな?
そっちのシェルターの方が豪勢じゃない?」
「うむ、そうだね。我々のシェルターの方が豪華度は高いかもね。」
「うわ正直。」
ま、変なお世辞言われるよりも、ツジみたいにハッキリ本当の事を言ってくれた方が、私としては好ましいかな。
「よーし、折角招待した訳だし、私がご馳走でも振る舞うとしよう!」
「え!?白狐は料理出来るのか!?」
レンちゃんが食いついて来た!
「意外かもしれないけど、私は料理の腕には自信があるのだよ。
楽しみに待っててな。」
そう言えば、いつの間にかツジとレンちゃんに対して、臆せず喋れるようになってるな、私。
⚪︎2人に質問のコーナー
カイちゃんの好きなハンバーガーは?
「白狐ちゃんと同じで照り焼きバーガー大好き!」
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