『深海』
「おっ、溺れ……ないよな、大丈夫だよな!」
「だから大丈夫だって。」
相変わらずフルホロのクオリティが高過ぎて、ホログラムだと分かってはいても錯覚がヤバい。
「にしても、深海ってやっぱ神秘的だなぁ。」
「うん、そうだね。
あ、白狐ちゃんの足元に、なんか変なのいるよ。
これ、生き物?」
カイちゃんが指差す先にいるのは、白くて格子状の体を持つ、奇妙な形状の生物。
「おお、これってカイロウドウケツじゃん!」
「…カイロウ……なんて?」
「カイロウドウケツだよ。テレビとかで見た事ない?」
「うーん、どうだろう?」
「じゃあ、仕方ない。
白狐ちゃんのワクワク、生き物の事教えちゃうタイムー!」
「…え、何?なんか始まった…!」
「コホン、さっきも言ったけどコイツはカイロウドウケツっていう海綿の仲間でな、細かい説明はめんどいから割愛するけど、要はこの中は空洞になってて、ドウケツエビっていう海老がオスメスつがいになって入ってるんだ。」
「ええッ!この中に海老が入ってるの!?」
「そうそう、そいつらはカイロウドウケツに引っ掛かった餌なんかを食べて、一生この中で2人きりで過ごしていくんだ。」
「ほへぇ〜、なんかロマンチック。愛の巣じゃん!」
「ちなみに、昔は結婚式の贈り物で、しばしばカイロウドウケツを渡す事もあったそうな。」
「白狐ちゃん物知り!
ていうか、ずっと2人きりで過ごすなんて、今後のアタシと白狐ちゃんの関係みたいだね!」
「………。」
「なんでノーコメントなのッ!?」
「あと、カイロウドウケツって名前は、四字熟語の偕老同穴からきてるぞ。」
「露骨に話を逸らしたッ!?」
慌てふためくカイちゃんは放っておいて、私は改めて周囲を見渡す。
「そう言えばカイちゃん。」
「ん?」
「随分前になるけど、いつか不変力を使って海底に行くって言ったの覚えてる?」
「…ああ、うん。江ノ島の水族館に行った時だよね。」
「この景色も良いけど、いつか本当の深海に行こうな?」
「……うんッ!もちろん!」
『都会』
「おおー!都会じゃん都会!超都会!
ってか、日本の都会じゃないよな、ここ?」
次に都会を選択したら、巨大な歓楽街の大通りに移動した。
時間帯は夜なんだけど、ビルのド派手なネオン群や、ギラギラした大掛かりなライトアップのお陰で、まるで昼間のような明るさだ。
日本の都会の夜景とは、どことなく派手さの種類が違う。
そこら辺の文字も英語ばっかだし、通行人も外国人ばっかりだ。
「あー、ここってラスベガスだね。」
「ら、ラスベガスぅッ!?
あわわわ、初めて来たぞ怖い怖い。」
「だから白狐ちゃん、本物じゃないって。」
「ああ、うん。でも、ラスベガスっておっかない街のイメージが強いからさ。
カジノとか、マフィアとか。」
「あー、確かに白狐ちゃんは、こういう街って苦手そうだよね。」
「もち、苦手中の苦手。
それより、なんでカイちゃんはここがラスベガスって分かったの?」
「ラスベガスなら昔、芸能界いた時に海外ロケで一回だけ来た事あるからねー!
カジノめっちゃ楽しかった!」
「……あぁ、そういえばそんな事もあったね。
ポーカーで勝ちまくって、ぼろ儲けしたんだっけ?」
ずっと前に、カイちゃんが1週間ぐらいアメリカにロケに行って、帰って来たら目玉が飛び出る程の大金プラス大量のお土産を持って帰って来た事があった。
番組のオンエアも見たけど、カイちゃんのポーカー捌きは凄まじかった。
普段の私へのデレデレ感は微塵も見せずに、冷静沈着且つ虎視眈々と相手の手の内を読み、勝負どころを的確に見極めて勝利を掴む。
カイちゃんのゲーム強さは、そういった場でも遺憾なく発揮されていたのだ。
「あの時のカイちゃんは、マジでカッコ良かった。」
「惚れ直しちゃった?」
「はいはい、じゃあ次はお江戸ね。」
「うわーん、いけずー!」
『江戸』
「おおう、やっぱラスベガスの直後に江戸の町に来ると、ギャップが凄いな。」
「うん、まさに正反対だよね。」
江戸の町は、よく時代劇なんかで見るような町並みそのもので、なんとも質素というか、それでいて味があるというか…
派手派手なラスベガスよりも、どちらかと言うとこっちの方が私は落ち着く。
まあ、日本人だしね。
「…はふぅ、和の雰囲気がここまで有り難く思えたのは初めてだ。」
「白狐ちゃん、ロシアと日本のハーフだよね?
ロシアの方には何か思い入れはないの?」
「いやいや、私こう見えても日本生まれの日本育ちだし、ロシアには一度も行った事無いから全然。
せいぜい、お母さんがたまに祖国の料理を作ってくれたくらいかな。
ボルシチとか、ビーフストロガノフとかさ。」
「おお!美味しそう!
今度、ロシア料理のお店行こう!」
「うん、そうだな。
私も久々に食べたくなってきた。」
マッマの作る母国料理は、それはそれはとても美味しかった。
おふくろの味、とはいかないけれど、同じ国の料理をたまに味わうというのも悪くはないな。
「それじゃあ、次で最後にしよっか?」
『砂漠』
「いやー、砂漠だな。」
「うん、どっからどう見ても砂漠だね。」
そのどう見ても砂漠な場所は、一面見渡す限りの大砂漠だった。
強烈な日差しが私達を焼き殺さんばかりに照らしている。
遠くの方にピラミッドらしき建造物が薄っすら見えるので、恐らくエジプトの映像なのだろう。
「日差し凄いけど、流石に映像だから全然暑くはないな。」
「むしろ白狐ちゃんの部屋の方がクーラーが効いてるから、涼しいくらいだよね。」
「全くだ。」
多少雰囲気ぶち壊しで、砂漠はそこまで楽しめなかった。
いや、だからって暑いのが良いって訳じゃないんだけどね!?
◆◆
「……ふぅ、凄かったねー、フルホロ!」
「ああ、想像を遥かに越えて素晴らしかった。
人類の技術の進歩を垣間見れて、かなり有意義だったよ。」
色んな光景を投影する事で、自宅に居ながら旅行気分を味わえる。
出不精気味な私にとっては、かなりお得なツールかもしれないな。
「けど、これまでの機能はあくまでも、前座に過ぎないのだよ。
本番はここから始まる。」
「いよいよゲームだね、ゲーム。」
そう、無礼ステーション13はただのフルホロ投影機ではない。
本業はゲーム機なのだ、ゲーム機!
「本日は、ブレステ13専用ゲームソフトである新作、『アルカナイーターズ』というゲームを買って参りました!」
「アルカナイーターズ?」
「東京の街の地下空洞から突如出現した謎の怪物達!
そいつらは群れを成して地上に這い上がり、人々を襲い、瞬く間に東京の街を廃墟に変えた!
怪物達を倒せるのは、奴らの体内に潜む弱点である部位『アルカナ』の位置を視認出来る特殊な才能の持ち主、『アルカナイーターズ』と呼ばれる者達のみであった!
っていう設定のFPSゲームだな。」
「FPS?」
「…カイちゃんにも分かりやすく言うと、要は銃を持って戦うゲームだな。
そいつで怪物どもをガンガン撃ち抜くのだ!」
「イエスイエース!」
カイちゃんもノリノリっぽいので、私は早速ゲームを開始した。
◆◆
「うひィッ!?」
フルホロによって、周囲に広がる崩壊した東京の街並み。
その影から突如奇襲してきた怪物の攻撃を喰らい、瀕死だった私は致命的ダメージを受ける。
「……よくも……よくも白狐ちゃんをォォォ!!」
ゲームだというのに、ドン引きするレベルの気迫で怪物の群れをバカスカ撃ち殺していくカイちゃん。
持ち前の天才的ゲームセンスも相まって、まるで鬼神の如き強さだ。
「……2人プレイなのに、私いらないだろ。」
この後、私があっさり殺されてしまい、怒り狂ったカイちゃんが初見にも関わらず、余裕で全ステージクリアしてしまった。
⚪︎2人に質問のコーナー
カイちゃんの好きな猫の種類は?
「ヒマラヤンかな。上品な感じが良いよね。」
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