スペースシップ☆ユートピア

永遠の時を旅する2人の少女の愛の物語
千葉生まれのTさん
千葉生まれのTさん

46話・9年目・酒乱ガール

公開日時: 2021年8月16日(月) 23:10
文字数:3,102



私は、気が付いたら宇宙にいた。




「ん?この感じ、前にもあったような…?」


ああ、そうだった。

眼下に地球が見えるこの光景、前にも一度経験があるぞ。

この世界はかなりリアルな夢の中の世界。

明晰夢、ってやつだっけ?

何年か前に見た夢の内容に、非常に酷似している。


「…んっと確か、あの時は変な人に会って、色々と話してたような…?」


「変な人とは、随分な言い草だね。

ま、確かにこの姿じゃあ否定は出来ないけどさ。」


うわ、出た。

全身真っ黒でモヤモヤしてる、影人間。

前に会った時と変わらず、姿と声じゃ老若男女が一切判別出来ない不思議で不気味な存在。

そもそもこの人が、人類の範疇に収まっていればの話だけど。


「…あ、ど、どうも。」


「うん、久し振りだね。

とは言っても、まだ6年ほどしか経ってないけど。」


「6年、かぁ…。もうそんなに。」


「いや6年なんて、大した期間じゃないさ。

普通の人間ならともかく、キミならねえ?」


「うん、まあ…。」


相変わらず、奇妙な人物だ。

表情も感情も、何もかもが読めない。



「で、今回は何しに来たの?」


「え?いや、特に用は無いけど。」


「えぇ?」


「…まあ、君が元気にやっているか、少し様子を見に来たってとこかな。

それ以上でも、以下でもないよ。」


「……。」


だったら、とっとと帰って欲しい。


「分かった、帰るよ。」


「うぇッ!?」


心の中、読まれた!?


「元気でやってるみたいで安心したし、これからもそうしてくれると、ワタクシとしても嬉しいよ。

では、また。」


言いたい事だけ言い終わったのか、影人間は霧のように消えてしまった。




「さて…。」


影人間についてこれ以上深く考える事もせず、私は目が覚めるまでの間、宇宙空間をふわふわ漂って遊んでいた。

どうせ、ここは夢の中なのだから。

この空間も、あの影人間も全部、現実とは異なるものでしかない。

私の脳が作り出した虚像に過ぎないのだから、深く考える必要なんてどこにもない。













◆◆



「んぅ…ぐっ…!」




息苦しい。



視界も悪いし、妙な感触もする。

なんだ、何が起きてる?


変な夢から覚めて早々に、変な現実が待ち構えていた。


「え?カイちゃん?」


私はどうやら、カイちゃんに抱きつかれていたようだ。

その所為で、彼女の胸に無理矢理顔を埋めさせられて、危うく窒息しかけていた。

まあ、別に不変力で死にはしないけど、普通に息苦しい。


しばし感触を堪能した後、ベッドからのっそり出ると、全裸のカイちゃんが涎を垂らして気持ちよさそうに熟睡していた。

外からは心地良い鳥の囀りが朝の訪れを知らせていて、実際気持ちいいくらいの晴れ空だった。




……で、なんでこの女は素っ裸で寝てんだ?

私は……下着姿だ。あまり人の事は言えないぜ。


「何これ、俗に言う朝チュンってやつ?」


って事はなんだ、私は知らないうちに、カイちゃんと一線を超えてしまったのか?

うん、こういう時にこそ、冷静に……




あくまでも、冷静に………








「なれる訳ねーだろバカーーッッ!!」


「あえあ゛ッ!?」


有り得ない現実を直視してしまい、思わず力任せにベッドのシーツをカイちゃんごとひっくり返してしまった!


カイちゃんは綺麗に空中トリプルアクセルを決めて、床に顔面から思いっきりダイブした。



「おはよう、カイちゃん。サイッコーの目覚めだなぁ!!」


「…ぅえ?お、おはよう白狐ちゃん?どうしたの、そんな怖い顔して?」


「なあカイちゃん、私は昨夜の事はよく覚えていない。

だけど、お互いのこの格好を見てみれば、何があったのか容易に想像がつくよな?」


「んん?格好って…?」


カイちゃんが、寝惚け眼のまま自分の格好を確認する。






「………白狐ちゃんのエッチぃ。」


「あ゛あ゛?」


「ごめんなさい、冗談です。」


ふざけた事を抜かしやがる女はともかく、なんで私はカイちゃんと一緒に寝てたんだ?

そして、本当に私は一線を超えてしまったのか?



「ってか、やけに酒臭いんだけど?」


「ん〜?そうかなぁ?」


怒っている私を前に、よく見ると目が虚ろなカイちゃん。

床にはビールや焼酎の缶がいくつも散乱している。


「最悪だ!最悪の酔っ払いだコイツ!」


「うへえッ!?なんなのいきなりッ!?」




そうだ、徐々に昨夜の記憶が蘇ってきたぞ!

確か昨日は、カイちゃんのドラマ出演が決まって、そのお祝いに2人で自宅宴会をしてたんだ。

私はお酒が苦手だからジュースだったけど、カイちゃんは反対でかなりの呑兵衛。

おまけに酒癖が悪く、酔うたびに何かしら問題を起こすレベルだ。



「あー、くそ!記憶が戻ってきたぞ!

折角の記念だからと、酒を飲ませたのが失敗だった。」


そう、悪酔いしたカイちゃんが私にグイグイ絡んできたんだ。

抵抗しようにも、身体能力はカイちゃんの方が圧倒的に上!

無力な私はカイちゃんにされるがままでベッドに押し倒され、服を全部脱ぎ捨てたカイちゃんに、力ずくでキスされそうになったんだ!


「そうだ、私は必死に抵抗して…!

それで、キスされる寸前にカイちゃんが寝ちゃって…!」




……ん?

キスされる寸前に寝たんなら、一線超えてないんじゃね?


「ああ、そうだ。カイちゃんが寝てから、クタクタになった私も意識が朦朧としてきて…」




そうだ、多分それで私も寝ちゃったんだ。

良かった、私の純潔はまだ奪われてなかったようだ。安心安心。



「良かったー!」


「なんかよく分かんないけど、白狐ちゃんが嬉しそうでアタシも嬉しいよ。」


「うるせー馬鹿ぁ!このクソ酒乱めッ!二度と酒飲むなッ!」


「理不尽ッ!?でもそこが良い!」


二度と酒飲むなは流石に言い過ぎだけど、飲む量だけはちゃんと調整して欲しい。

高校の頃から、飲食に関する部分が色々と緩過ぎるのが、この子の良くない所だ。

まあ、食事に関してはだいぶ自制出来るようになったけど、成人してから酒を飲み始め、今度はそっちの制御が問題視され始めている。

今後大きな問題を起こさせない為にも、どうにかしてやらないといけないな。












◆◆



数日後。



「白狐ちゃん!今日は良い天気だねぇ!」


「………そーだね。」


今宵は、世の新一年生がピカピカになるという、桜舞い散る4月。

フン、最初は皆ピカピカしてても、時と共に輝きはくすんでいくんだよ。

そんなひがみは置いといて、部屋の窓から見ても立派なピンク色の桜が見事に咲き乱れていて、それはもう素晴らしい光景。

だけど、こんなにも春の陽気が溢れる気持ちいい朝だというのに、私の心は一向に晴れない曇り空。

私は元気なカイちゃんに背を向けて、ベッドの中にアルマジロめいてうずくまっていた。




「白狐ちゃん!今日は最高のお花見日和だねぇ!」


「やだー!お花見行きたくないー!死ぬー!」


「……そんなにお花見行くの嫌なの?」


「花見行くくらいなら、ここで舌を噛み切って死ぬ!死んでやるッ!」


「それほどッ!?」


私の決意は固い。花見なんて絶対に行くもんか!


「行きたいなら、カイちゃん一人で行ってきてよ。」


「ええ〜!白狐ちゃんと一緒に行きたいよー。

野茂咲さんと新藤君も来るんだよ?白狐ちゃんも一緒じゃなきゃ。」


「花見じゃなかったら行ってたよ!

いいか、私は花見とバーベキューだけは絶対に行かないって天地神明に誓ってるんだ!

あんなん陽キャの陽キャによる陽キャの為の祭典じゃねーか!陽キャフェスじゃん!

私が行ったら膨大な陽キャオーラに当てられて溶けて死ぬから行かん!

これは正当な自己防衛であるからして、よって私は家で引きこもって終日ゲームしてます!」


「そんな〜。」


うん、これでいい。

いくら旧友達が出席するとはいえ、自分の命を守る方が最優先事項だ。

楽しみにしていたカイちゃんには悪いが、私には自害の趣味なんざ無い。

よーし、今日は進めてたゲームのストーリーも佳境に入ってきたし、一気に進めたるぞー!



⚪︎2人に質問のコーナー


カイちゃんの苦手な飲み物は?


「んー、特に無いかな。食べ物も飲み物も、大好きだよ。」

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

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