「リグリーさん、ねぇ…」
「気軽に呼び捨てで構いませんよ。」
「あ、はい。」
そう言って、影人間こと宝石の女性ことリグリーなる人物は、柔らかな笑みをこちらに向ける。
何となく、大人の女性って感じだ。
「ワタクシは、あの地下施設で主任研究員を務めていた科学者なのです。
主に宇宙開発の分野で研究を進めていました。」
「ほえ〜、科学者さん。」
「それも主任を冠するのならば、謂わばリーダー的存在。
かなりのエリートという事になるね。」
ツジの言葉に、リグリーは「いえそんな…」と手を振って謙遜する。
つくづく、あの影人間と同一人物とは思えないな。
目の前の美人異星人は、とんでもない大ボラ吹きなんじゃないかと思えてきた。
「まず、現在この町が停泊しているこの星について、どこまでご存知ですか?」
リグリーの質問に、私達は揃って首を傾げる。
まず最初に口を開いたのは、ツジだった。
「そうだね……取り敢えず把握している分だと、地球と同じくらい強い重力を持っている事。
そして、平均気温が300度を超えている高温の環境だという事。
不変力が無ければ、マトモに探索すら出来なかっただろう。
そして何より、あの地下帝国かな。」
そうだ、今のところはそのくらいだ。
「では、辻音さん。
聡明な貴女なら、この星が何という星か、もう目星が付いているんじゃありませんか?
あ、星なだけに。」
「えぇ…」
突然のしょうもない洒落に脱力するも、ツジだけは真剣な表情で黙考している。
「まあ、そうだね。
我が家の図書館に残されている文献とは、多少食い違いはあれど、心当たりはある。
ここは恐らく、太陽系の惑星だろう?」
「ええ、その通りです。」
太陽系、か。
確かに地球が崩壊してからまだ20年しか経ってない訳だし、そこは別に不思議ではない。
太陽系の範囲も広大なんだし、ちょっとやそっとの年月で出れる程のもんでもないだろう。
てか、ちょっと待て。
太陽系の惑星って言うのなら、ひょっとして私達も知っている有名な星なのか!?
「太陽系の惑星で、且つ高温で地球に似た形質の星と言われて真っ先に思いつくもの。
ここは、〝金星〟なのだろう?」
「ええッ!?」
私、カイちゃん、レンちゃんの3人は、驚きの声を上げる。
いやだって、金星にいるとは思ってなかったからさ!
「そうです、ご明察です。
長い年月の経過により、昔とは多少環境は変わっていますが、金星です。
我々の言葉では、惑星ウールと呼んでいますが。」
まだまだ謎は沢山残されているのに、序盤でなかなかの衝撃を受けた。
つまりはリグリーは金星人で、私はずっと金星人と夢の中でコミュニケーションしてたって事か。
なんかもう現実味が無いな。
「ウール……?羊毛?」
現実味が無くて、つい空気の読めない呟きをしてしまった。
「いえ、ワタクシの故郷の言葉で、〝豊穣〟を意味しています。」
「豊穣?あの星が?
地上はただの荒野だったし、地下帝国(仮)もボロッボロだったから、全然イメージと違うぞ。」
というレンちゃんの意見には私も同意する。
「そうですね。
確かに今は不毛の廃墟ですが、遥か昔は自然に溢れた豊かな星だったのです。
地球で人類が誕生するよりも、ずっと昔の話になりますけどね。」
「ウソでしょ?金星が?」
そんなの、今まで聞いた事ないぞ。
太陽系の惑星で、地球以外にそんな星があったなんて、俄かには信じられない。
「信じ難いかもしれませんが、事実なのです。
ワタクシの祖先はそんな自然の中で発生し、進化し、知性を高め、地球人が打製石器でマンモスを狩っていた頃には、我々は既に高度な科学文明を築いていました。」
「ま、マジか……」
これまた信じられない話。
事実だとすると、私達地球人の常識を凌駕するようなトンデモ技術を持ってるって事か。
それこそ影人間なんかが良い例だ。
「惑星ウール……いえ、金星は、争いも無く平和でした。
ワタクシの同胞である金星人は、その殆どが温厚な性格で、ひたすらに科学の追求に邁進していく事を至上の喜びとしていました。
……あの事件が起こる、あの時までは。」
「ん?事件?」
なんだかきな臭い話になってきたな。
「金星の地表に、一つの隕石が落下してきたのです。」
リグリーが、顔を俯けながらそう言う。
どうやら、あまり話したくない話題を口にしようとしているみたいだ。
「えっと…あのさ。
あんま話したくない事なら、無理して話さなくてもいいぞ?」
一応、そう聞いてみる。
リグリーの表情を見てると、こっちも辛くなってくるからなぁ。
「お気遣いありがとうございます。
ですが、話させて下さい。
この情報は、貴女こそが知り得るべき事なのです。」
そう、真剣な眼差しで私を見つめてくる。
そうか、そういう事情なら聞くしかないな。
「そっか、分かったよ。
それで、その隕石の衝突の影響で、地下帝国(仮)は滅んだのか?」
「いえ、そういう訳ではありません。
隕石はごく小さな物で、衝突による被害はほぼ無いに等しいようなものでした。」
「じゃあ、どうして?」
「問題は、隕石の中に内包されていた、とある物質です。」
「ほほう?」
「隕石の残骸を持ち帰った調査班は、その中から発見された2種類の鉱石をワタクシに渡してきました。」
2種類の鉱石ねぇ。
「白く光る鉱石と、黒く光る鉱石。
それらの研究を、皇帝から直々に依頼されたのです。」
「白と黒の光?……あれ?」
何だか、身に覚えがあるような……?
「その2種類の鉱石には、不可思議で未知のエネルギーが宿っていました。
研究を進めていくうちに、白い鉱石の光には物質や生物、更には概念的な存在まで、あらゆるものの状態を保ち続けるという効果。
黒い鉱石の光には、白い光の効果を緩和、もしくは打ち消す効果があるという事が判明しました。」
「え?いや、それってまさか……!」
瞬時に理解して、その場の全員が息を呑む。
「そのまさかです。
その鉱石こそが、不変力の源となった物質なのです。」
私達は衝撃を受けた。
不変力の正体……いや、具体的な部分についてはまだ分からないけれど、その出所については分かったのだ!
「まさか、宇宙から飛来した力だったとは…」
「結果的に言うと、いくら研究を進めても、不変力がどういったものなのかは、我々の技術を持ってしても解明する事は叶いませんでした。
ですが、その成分を鉱石から抽出し、応用する事はなんとか可能だったのです。」
「よく分からない力だけど、使えそうだから使ってみたってとこか。」
「昔、人類が麻酔を使ってた時のノリと一緒だねー。」
カイちゃんの言葉通り、こういう部分は人間と同じなんだなぁと、少し安心する。
「まあつまり、あれか。
そうやって不変力を金星人が実用化させたって訳か。」
「……実用化と言える程、立派なものでもありませんが。
我々では不変力本来の力を殆ど出し切れず、せいぜいあの地下施設を不変にするだけで精一杯でした。
都市を不変にするのはおろか、生物を不変にする事も出来ませんでした。」
「え?それちょっとおかしくない?
私の不変力は、基本何でも不変に出来るぞ?」
リグリーの言う不変力と、私の不変力とじゃ、何故か効能が矛盾している。
「ええ、それは貴女が、不変力の適合体だったからです。」
「適合体?」
なんか、カッコいい響きだ。
もしかして私って、選ばれし存在だったりする?
「不変力を体に宿し、そのポテンシャルを十全に引き出し、活用出来る知的生命体の事です。
我々金星人は1人も適合しなかったのですが、地球人はその8割以上が適合体として適した肉体を持っていたのです。」
「……ほえ?8割?」
「……随分と多いね。」
何だよ、全然選ばれし存在じゃないじゃん。
ガッカリ。
⚪︎2人に質問のコーナー
カイちゃんが好きなお酒は?
「やっぱりビールかな!サイコー!」
読み終わったら、ポイントを付けましょう!