スペースシップ☆ユートピア

永遠の時を旅する2人の少女の愛の物語
千葉生まれのTさん
千葉生まれのTさん

97話・124年目・君と見る夜景

公開日時: 2022年2月5日(土) 13:34
文字数:3,040



豪華客船のプールは、まあ楽しかった。

いつも私が遊ぶのは、殆どの場合カイちゃんしかいなかった為に、彗星の如く現れたエリザベちゃんの存在は大きかった。

彼女は素直で、上品で、無邪気で、子供さながらの好奇心やハツラツさは持ちつつも、ちゃんと加減を分かっていて非常にしっかりとしている。

ちょっと本気で、私とカイちゃんの子供になっても悪くはないと、一瞬思ってしまった。


「…ああ、いや、それはダメだ。色々とダメだろ。」


「え?ダメって、何が?」


「あ、何でもないです、はい。」


キョトンとした表情で聞いてくるエリザベちゃんに、私は下手に誤魔化した。


「ささ、あっちにはジェット噴射ゾーンがあるみたいだし、行ってみよ!

ほらほら!」


「おお、珍しく積極的な白狐ちゃん。」


「アッハハハ!変な尾藤さん。」


ヤバい、楽しい。

エリザベちゃん、ガチで養子になってくれないかな?











◆◆



プールでの楽しいひと時は終わりを告げ、私達は解散した。

なに、名残惜しくなんてない。

エリザベちゃんとは隣りの部屋同士だし、別れ際に連絡先だって交換した。

まさか私が、カイちゃん以外に、一緒に居て心地良く感じる人物が存在していたなんてな。

いや、一番はやっぱりダントツでカイちゃんなんだけどさ。

こんな事言ったら、本気でカイちゃんが嫉妬しそうで怖いわ。


それで現在はと言うと、カイちゃんと2人で部屋でのんびりと過ごしてる。


「んーと、次の目的地ってどの国だったっけ?」


私はふかふかベッドで寝転がって携帯ゲームをしながら、側で旅行のパンフレットに目を通しているカイちゃんに聞いた。


「えっとね、次はシンガポールだねー。」


「なに!?シンガポールだとッ!」


「え?どうしたの?」


「シンガポールと言えば、中国に勝るとも劣らない、派手派手な街並み!

派手な街には、多くの若者が集まる!

そして、そんな街に集まる若者と言えば、その殆どがウェイ系なパリピリア充どもの巣窟!

そんな恐ろしい国にこの私が降りなくちゃいけないのかッ!?」


「もう、大丈夫だって。

白狐ちゃんに危害を加えてくる人なんていないだろうし、いたとしてもアタシが守ってあげるから。」


恐怖に慄く私に、カイちゃんが苦笑いしながらフォローしてくる。


そうか、カイちゃんが守ってくれるのか。


「……本当?」


「本当に決まってるよ!

アタシが命に変えても、白狐ちゃんを守るよ。」


「ハハ、死なないくせに。」


不変力でな。


「もー!それくらい気合い入ってるって事ですー!」


珍しくむくれるカイちゃん。


「それに白狐ちゃん、シンガポールは日本と同じくらい治安が良くて、世界最高クラスに安全な場所だから、安心して回れるよ。

ただ代わりに、色々と規制は厳しいみたいだけどね。」


「へぇ?」


「例えば、ガムは持ち込み禁止らしいよ。

噛んでたら、捕まっちゃうんだって。」


「うっそ!なんで!?」


「吐き捨てるのを防止する為らしいよ。

街の景観維持の為で、国内では製造も販売もしてないんだって。」


「ほえ〜、それはちょっと怖いな。

他にもNG行動がないか、今のうちに予習しとくか。」


「オッケー!」


その後は、カイちゃんと2人でシンガポールについてのちょっとした勉強会が催されたのであった。

逮捕なんてされたくないしな。










◆◆



「シンガポール、着いた!」


「うん、着いたな。」


シンガポールに着いた。

昔から続く徹底した治安維持、景観維持政策により、道端にゴミ一つ落ちてないウルトラクリーンな街並みだ。

とても綺麗ではあるけど、なんか物足りない感じもする。

もっとこう、ゴチャゴチャしてた方が人間の街感があるというのだろうか。

ゴミがあり過ぎるのは勿論問題だけど、無さ過ぎるのもどうかと思えてしまうなぁ。


「やっぱ警官が多いなぁ。

私達、明らかに観光客だから、目付けられてるかもな。」


「だね。まあ、予習した事にさえ気を付けておけば、何も問題ないよ。」


そうだな、その為の予習だもんな。


「それじゃ、まずはスタンダードにマーライオン見に行こっか?」


「よっしゃ!」









◆◆



という事で、マーライオンがあるという公園までやって来た。

以前からたまにテレビや本で見てきたマーライオンだけど、実物を現地で見るのは当然初めて。

上半身がライオンで下半身が魚類な像が、水を吐き出し続けている。


「あのさぁカイちゃん?」


「ん、どうしたの?」


「マーライオンって、なんであんなキメラってるんだろうな?」


「キメラってるって……

一応これ、ライオンとマーメイドを合体させて、マーライオンってなったそうだよ。」


「ほほう、ライオンと人魚をねぇ。

想像上の生き物である人魚を、既知の生物と融合して更に進化させたって訳か。

水陸両用で動けるようになって、便利そうだな。」


「なるほど、白狐ちゃんらしい意見だね。」


「でも、そんなに便利で強そうなのに、ただひたすら口から水を吐き続けてるだけってのが、ちょっとシュールだな。」


「あー、言われてみれば。」


「もうちょいこう、最先端の技術を駆使して改造してさ、口から破壊光線出したり、脚を生やして途轍もない腕力で外敵を捩じ伏せたり出来るようにして、シンガポールの新たな守護神にすべきだと私は思うんだよね。」


「……なるほど、それも実に白狐ちゃんらしい意見だね。」


マーライオン魔改造計画、アリだと思います!











◆◆



「うあー、またプールかぁ。」


「白狐ちゃんの水着姿が、こんなにも間を置かずに見れるなんて!至福!眼福!」


カイちゃんが一人で興奮してるのには構わず、私は目の前の光景を網膜に焼き付ける。

こんなの、普通じゃ絶対に見られない光景だしな。


「やっぱ、テレビで見るのと実際に見るのとじゃ、えらい違いだな。

これが、世に聞く屋上プールってやつか。」


私達は今、豪華客船のプールの時と同じ水着を着て、シンガポールのとあるプールに来ていた。


ただ、普通のプールではない。

地上50階以上の高さに位置する、有名な超高層プールである。

この建物はシンガポールを代表する高級ホテルで、ここに宿泊すると、このプールに入る権利を得られる。

そこで早速カイちゃんが金にものを言わせて、この摩天楼が如きホテルに1泊する事になったのだ。

まだ豪華客船の出航までには時間があるしな。



カイちゃん曰く、このホテルは世の女性達の憧れなんだそうな。

…まあ、確かに私も女子の端くれである以上、少しはその気持ちも分からなくもない。

周りを見渡してみれば、そこには色とりどりのホログラムネオン光に彩られた夜のプール。

そしてその向こう側に広がる、一面の光の海にも見間違えかねない程の大都市の夜景。

思わず溜め息が出るほどの絶景だった。


「こんな景色、思わず独り占めしたくなっちゃうな。」


「お、白狐ちゃんもそう思う?」


「そりゃあね。

やっぱり海外旅行って凄いよなぁ。

日本とは全然スケールが違うって言うかなんと言うか。」


日本は日本でまた赴きがあって良いんだけどな。



「そうだ!いつか白狐ちゃんと一緒に、大陸横断の旅とかしてみたいな!

ほら、たまにテレビとかでやってる、リヤカーで家作って、それを引いて歩くやつ!」


「リヤカーハウスか。

流石にそれはダルい。」


「そっかー、ゲームも出来ないもんね。」


「それが一番の問題だな。

ただ、リヤカーハウスの中でゲームを出来るようにして、カイちゃんが終始引っ張ってくれるなら、考えておこう。」


「やったー!アタシ頑張っちゃうよ!」


「……いや、流石に冗談だって。」


冗談とは言え、私の鬼畜な提案を疑いもせず笑顔で受諾するカイちゃんに、一縷の不安めいたものを感じるのであった。



⚪︎2人に質問のコーナー


白狐ちゃんが学生時代得意だった科目は?


「うーん、国語とか好きだったかもな。懐かしい。」

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