「うわぁ……」
とある日の昼下がり、私は自宅の廊下で発見してはいけないブツを発見してしまった。
私の部屋を出て左に真っ直ぐ進んだ先の廊下の床に、〝それ〟は落ちていたのだ。
「何なんだよ、カイちゃんのか?これ。」
私はその落とし物を、指二つで摘み上げる。
それは、どっからどう見てもパンツだった。
女性用ので、黒いレースのやつ。
こんな大人っぽいのは私の趣味じゃないし、カイちゃん以外に我が家を訪れる人間はほぼいない。
いたとしても宅配便の人くらいだし、その人達を家に上げた記憶も無い。
そもそも、その人達が私の家にパンツを置いていくなんて意味不明過ぎる。
高度な変態かよ!
つまり、必然的に高度な変態であるカイちゃんが犯人として疑われる運命なのだ。
「にしても、謎のパンツを人んちにただ置いてくだけとか、無駄に不気味なんだよなぁ。
もしかして、私がどんな反応をするのか見て楽しむっていう愉快犯的な犯行なのか!?」
まあ、そもそも犯行どころか、遊びに来た時に事故でパンツが脱げた可能性も捨て切れない。
いや、パンツが脱げる事故ってなんなんだよ!
「待てよ?だとすると……ッ!?」
私はハッとして、周囲を見渡す。
もしも犯人の目的が私の反応目当てならば、この近くに隠しカメラや盗聴器の類が仕掛けられている可能性があるからだ。
「ムムぅ…、でもカイちゃんは…!」
カイちゃんはずっと昔、盗聴器や隠しカメラを私の部屋に仕掛けた前科がある。
そして私にバレた際に、二度とこんな事はしませんと誓ったのだ。
いくら重度の変態ロリコン女と言えど、流石に恋人同士となった私との約束を、こんな簡単に破るような人でなしだとは思えないし、思いたくもない。
私は彼女を信じるのだ!
まあでも、念の為仕掛けられてないかチェックしてみたけど、特に何も見つからなかった。
金属探知機を使っても、何の反応も無かった。
ひとまずその点では安心する。
「私の様子を窺うのが目的じゃないのか?
だとしたら、いよいよ動機が分からなくなってきたな。」
私は顎に手を当てて、思考と推理を巡らせる。
今こそ美少女名探偵・白狐ちゃんの真髄を発揮する、絶好のチャンスなり!
うん、めっちゃキモい事件だけど、ちょっとテンション上がってきたぞ。
「それじゃあまずは、犯行時刻を割り出すところから始めてみよう。
昨日はカイちゃんが夕方に遊びに来て、その少し前……つまり、昼過ぎ頃にここを通った際には、何も無かった筈だ。」
こんな目立つパンツが床に落ちてたら、嫌でも気づいちゃうもんだしな。
「そう言えばカイちゃん、ウチに来た時に缶チューハイ1缶だけ持って来て飲んでたような気がするな。
少し酔ってたような感じもするし、もしかしてそれが原因か?」
ん?
だとしたら、もう事件解決か?
謎解きの楽しさなんて皆無のスピード解決だな。
「ま、どうせ今日も夕方にカイちゃん遊びに来るし、その時に聞いてみればいいだろ。」
◆◆
という訳で、夕方。
「ヤッホー白狐ちゃん!
お待たせ!貴女のカイちゃんだよ!」
テンション高めのカイちゃんが、私の部屋の扉をバーンと勢い良く開けて入って来た。
いっつも元気な娘だこと。
「はいはい、チミは今日も楽しそうだねぇ。」
「うーん……ん?」
カイちゃんが、いつも通りパンイチでゲームしている私の姿を見て、眉を寄せるような複雑な反応を見せている。
「え?なに、ジッと見つめて。
私の体に虫でも付いてんの?」
「…あっ、いや、そうじゃない!そうじゃなくてね!
えっと…白狐ちゃんの格好は今日もエロいなって。」
「うっさいわほっとけ!
自分の部屋なんだから、私がどんな格好してようと私の自由だろ。」
「あ、うん、そうだね。ごめんごめん。」
「うん?」
カイちゃん、明らかに様子がおかしい。
目が泳いでるし、どうも落ち着きが無くて挙動不審だ。
いつもならもっと変態的な発言をして、私をドン引きさせてる筈なのに。
この女、私以外の人の前ではポーカーフェイスの達人で世渡りも上手いのに、こと私に関する事になると、それら全てがダメダメになってしまう。
つまりこの子は、私に隠し事をする事がまず出来ない。
100%顔に出ちゃうからな。
「カイちゃんさあ、なんか私に隠し事してるでしょ?」
直球で聞いてみた。
「おげッ!?
いいいいや、そんな馬鹿な!アタシが白狐ちゃんに隠し事なんてする訳ない……」
おげッ!?ってアンタ…
「それじゃ私の目を見て、それでも隠し事ないって言える?」
視線を逸らすカイちゃんを、真正面から見据える。
「………ッ!」
「カイちゃんさっきから明らかに挙動不審だし、絶対何か隠してるじゃん。
折角私もカイちゃんを恋人として見れるようになったのに、そんな事されたら寂しいなぁ…」
今度は上目遣いで甘えるような猫撫でボイスで攻める。
「ごめんなさいッ!アタシが悪かったです!」
「よし!」
うん、やっぱ一発でいけたわ。
「で、カイちゃんの隠し事って、やっぱこれか?」
私はさっき廊下で拾った黒レースパンツを取り出した。
カイちゃんに見られないように、自室の押し入れにしまっておいたのだ。
「あぐッ!?
……はい、その通りです。」
「んじゃ、廊下に置いてった犯人もカイちゃんなんだな?」
「はい、その通りでございます。」
申し訳なさそうに土下座するカイちゃん。
別にそこまでしなくてもいいのに。
「うーん、予想通りカイちゃんが犯人だったか。
私としては、もっと意外な犯人だったり、この事件の奥に更に巨大な陰謀が隠されてたりとか、そういう超展開を期待してたんだが。」
「期待に応えられず申し訳ございません!」
「いやだから、そんな謝らなくていいよ。
なんかこっちが悪いみたいになるから。」
ってか、私がゲームのやり過ぎなだけだ。
事実は小説よりも奇なり、なんて事は実際には殆ど有り得ない。
現実における真実ってのは大抵、平凡なもんだ。
「ごめん…」
「あれか、昨日ウチ来た時に酔っ払ってたのが原因か?」
「…うん、半分はそう。」
「半分ですと?」
「昨日はそんなに酷く酔ってなかったから、半分酔い、半分悪ノリ……みたいな?」
「おいおい……どゆこと?」
「もしも自分のパンツを置いていって、翌日白狐ちゃんがそれを穿いてたら……っていうのを検証したくて……」
「………はあ?」
うん、いや、ちょっと、すっごく嫌な予感がするなぁ。
「……あ、アタシがついさっきまで穿いてたパンツを、もしも白狐ちゃんが穿いてたら……物凄く興奮すると思うから…ッ!」
「………。」
私の視線が一気に冷ややかなものになるのも構わず、カイちゃんは一人で勝手にハイになっていく。
「ね、ねぇ白狐ちゃん!
厚かましいお願いかもしれないけど、アタシのパンツ、穿いてくれない?」
「……よくもまあ、私にこんな視線を送られて、そんなお願い出来るよな?」
「うぐッ!」
「…カイちゃんの変態性は重々承知してたつもりだったけど、まさかここまでとは。
今までで一番ドン引きしたかも。
恋人辞めていいですか?」
「ごめんなさいー!もうしませんー!」
「マジでキモいし恐怖を感じた。」
「ご、ごめん…本来守るべき白狐ちゃんを怖がらせてしまうなんて、山岸海良、一生の不覚!
でも、キモがられるのは正直嬉しい!」
「キッッッッッモいッッッッッ!!」
「ありがとうございますッ!」
本当にこの子は、どうしようもないな。
でも、こんなにも変態でお馬鹿で、どうしようもない人間だからこそ、カイちゃんの側には私がいてあげなきゃいけないのかもしれない。
私が隣で手綱を握って、ちゃんと制御しといてやらないとな。
⚪︎2人に質問のコーナー
カイちゃんの好きな楽器は?
「うーんと、クラリネットかな?」
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