「はぁ……」
私は、憂鬱という概念を煮詰めて蒸留したような溜め息を吐いた。
ミニスカ巫女服に、狐耳カチューシャと狐尻尾を付けた珍妙な格好で。
それも、自宅近所の神社の境内で。
嫌そうに顔を顰めている私に対して、カイちゃんはそんな私を一眼レフのカメラで何度も何度も激写している。
「いいねー!いいよー白狐ちゃーん!
そういう嫌がってる顔も逆に高得点ですぞー!サイコー!」
「……いつまでこの格好してればいいの?」
「あともうちょっと!もうちょっとだから!」
カイちゃんに、神社の境内でコスプレ撮影会したいという超罰当たりなお馬鹿要望に応えて、さっきからこんな事をしている。
コスプレ自体するのは悪くないんだけどさ…
むしろ、可愛い格好を出来るのは内心嬉しいしな。
でも、もう撮影会開始から2時間くらいは経ってるぞ。
流石にしんどくなってきた。
てか神社でやるなし。
「もうちょっと!もうちょっとだからねー!」
「………。」
無言の圧を飛ばす。
「ごめんもうちょっと!」
「あーもー!もう終わりッ!いい加減腹減ったわ!」
「きゃうんッ!?」
狐耳カチューシャをもぎ取り、カイちゃんの顔面に投げつけた。
気持ち良さそうだ。
「狐の格好してたら、油揚げ食べたくなった。
きつねうどん食べよう!」
「いいね!美味しそう!」
元の私服に着替えようとしたけど、面倒だからそのままの格好で神社を出て行った。
さて、今現在、私達の町の状況はと言うと、正直私達にも、これからどうなるのかよく分からん。
まず、20年前に地球が完全に崩壊した。
昔から言われていた仮説通り、太陽の崩壊に巻き込まれるような形で、不変力の影響を受けた土地だけを残して、地球という惑星は宇宙から一瞬にして消え去った。
末期の地球は何もかもが荒れ果てていて、とても生物が住めるような環境じゃなかったなぁ。
ま、過ぎた出来事に思いを馳せても今更どうにもならない。
これからは未来の事を積極的に考えていくべきだ。
とは言え、別に私達に出来る事がある訳でもない。
私達が立っているこの大地は、地球という母体を失った事でひたすらに宇宙を彷徨っている。
夜に空を見上げると、星々が少しずつ過ぎ去っているのが分かる。
つまり、それなりのスピードで宇宙空間を移動しているのだ。
正確に言えば、地球崩壊時の衝撃で延々と吹っ飛ばされている。
どこに向かってるのかは全然分からないけど。
ちなみに、太陽も月ももう無いのに、昼間は陽光が、夜は月光が変わらずに降り注いでいる。
これも不変力の影響によるものだ。
どっからどう見ても不自然な光景だけど、こういうものだと割り切ってしまえば多少は気が楽になるのだ。
◆◆
「……ん?」
その日の夜の事だった。
妙な違和感を感じて、ベッドで寝かけていた私はハッと目を覚ました。
窓から外を見てみると、違和感の正体に気付いた。
「……なんだあれ?」
真っ暗な星空の向こうに、鈍色に輝く丸い天体が見える。
そのサイズは、かつて地球から見えていた月のサイズと同じくらいか。
目も冴えてしまったので、一旦外に出て確認してみる事にした。
◆◆
「白狐ちゃーんッ!もう大変だよー!」
「空のあの星だろ?私も今さっき気付いた。」
外に出た瞬間、慌てたカイちゃんがウチの庭まで来ていた。
「うん!そうなんだけど!
1時間くらい前にもあの星見たんだけど、明らかにその時より大きくなってるんだ!」
「えぇ?」
そう言われて、再び夜空を見上げる。
ほんの数分前に部屋から見たばかりだから鈍色の星のサイズはほぼ変わらないけど、別の違和感には気付いた。
他の星が、いつもに比べて殆ど動いていない。
「おかしいな、この土地自体が高速で動いてるから、いつもなら星が過ぎ去ってくのに。」
「白狐ちゃん、多分あの星の重力に吸い寄せられてるよ。」
……重力?
「あッ!それってヤバくない?」
「ヤバい……かもしれないね。」
そうだったな、まだその点に於いては対策してなかったな。
一度別の星の重力に引き込まれてしまった以上、今更不変力を使っても遅いし、あの星が厄介な星でない事を祈るしかないか。
「もしかしたら、不時着になると思う。」
「そっかー、あの星にぶつかるまでまだ時間ありそうだし、ツジちゃん達にも気を付けるように連絡しとくねー!」
「あぁ、うん。お願いするわ。」
とは言っても、大地丸ごとで他の星に着陸するなんて初めての出来事だから、どうなるのかなんて分かったもんじゃない。
一応、出来る限りの対策は講じておくべきだろう。
◆◆
ドーーーンッッ!!
と、物凄い音が周囲に鳴り響いた。
この轟音が、私達の町が未知の星へと不時着した衝突音である事は、言うまでもないな。
当然、部屋にいた私は激しい衝撃に襲われた訳だけども、事前に大量の布団を重ねて出来た塊に包まってダンゴムシ状態になっていた私は、壁に思いっきりぶつかったものの、布団アーマーが衝撃を吸収してくれたので、痛みも無く事なきを得た。
しかし……
「くっそ〜、部屋がグッチャグチャだよもう…」
元々ゴチャゴチャしていた私の部屋は、更に悲惨な状態になってしまった。
不変力の影響を受けているから大事な物が壊れたりはしていないものの、後で片付けるのが面倒だなぁオイ。
「まあいいや、それよりもカイちゃんの安否確認して、それから探索に行こう!
未知の惑星の探索とか、大いなるロマンの塊だぞ!」
久方ぶりにドキドキワクワクしてきた私は、少し小走りになりながら着替えてカイちゃんの元へ向かった。
◆◆
「白狐ちゃん大丈夫だった!?」
玄関から出た瞬間、既にカイちゃんが目の前にいた。
どうやらちょうど私の家に来たとこらしい。
「ナイスタイミングだカイちゃん、私の事は心配ご無用。
それよりも、これから未知の惑星の探索に向かうぞ!」
「イエーイ!探検隊結成だねー!」
「フッフッフ、我々の宇宙船たる大地が不時着したのは、未だかつて誰も足を踏み入れた事のない、人跡未踏の謎の星!
さあ、私達を待っているのは夢溢れるロマンなのか!?
それとも、凶悪な原生生物や有害物質による絶望への旅路なのか!?
果たしてどっちなんだーッ!?」
「フゥー!白狐ちゃん盛り上がってるー!」
そりゃあ、普段はクール女子なこの私もテンション上がっちゃうってもんよ!
「早く行こう!もう行こう!
なんかこう、探索するってなったら居ても立ってもいられなくなってきた!」
「うん!白狐ちゃんとならどこへでもー!」
◆◆
「………こ、これは……!」
「うわぁ……これはまた見事に……」
私達の眼前に広がるのは、何も無い不毛の荒野。
本当に何も無い。
草木も水も雲も何一つ存在しない、無味乾燥な生命の無い乾涸びた世界。
こんなの初めて見る。
一面に灰色の荒野が広がっているだけの光景。
滅びかけだった末期の地球でも、流石にここまで無の世界ではなかった。
でもこの星は、文明や生命が滅んだ訳でもない、最初から何もない世界なのだ。
はっきり言って、面白味の欠片もない。
「まあ、現実はこんなもんかぁ。」
「生き物がいない理由は多分、この星の気温が300度超えてるからっぽいね。」
そう言って、カイちゃんが特別な温度計を見せてきた。
確かに300度超えてる。
こんな過酷な環境じゃ、不変力で体感温度と周囲の温度、そして体温を一定にしている私達くらいしか生存出来ないだろう。
「取り敢えず、周辺だけでも軽く探索してみますか。」
「うん!もしかしたら何か発見があるかもね!」
複雑な気持ちを胸に抱いたまま、私とカイちゃんは未知の惑星への第一歩を踏み出した。
⚪︎2人に質問のコーナー
カイちゃんが気になる髪型は?
「うーん、今はポニテかなー。女の子っぽくて可愛いよねー。」
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