三葉虫によく似た生き物……ひとまず三葉虫(仮)としとこうか。
あんまり手掴みのままにしておくのも可哀想なので、カイちゃんに言って逃がしてあげた。
よく見たら、この辺りの磯場に何匹もいるみたいだ。
それらしき生き物が、コソコソと蠢いているのが分かる。
「なんかダイオウグソクムシみたいで可愛いね、三葉虫(仮)。」
「その意見には同意するけど、今は取り敢えず先に進んでみようか。
他にもどんな生き物がいるのか気になるし。」
「そうだねー。」
ちょっと名残惜しいけど三葉虫(仮)達の棲家を後にし、陸地へと歩を進めていく。
◆◆
「何なんだこの木や草は!?
凄い!見た事のない植物ばっかりだッ!」
海沿いからすぐの森林地帯に足を踏み入れるも、見慣れない植物が生い茂る未開のジャングル地帯が一面に広がっており、レンちゃんが興奮している。
私も勿論興奮している。
植物の見た目は……何と表現すればいいのか困ってしまう。
強いて言うならば、原始的な見た目の植物と言えばいいのだろうか?
昔、図鑑で見た古代植物みたいなのが、そこら中にわんさかと繁茂している。
グルグルした感じのとか、モコモコしてたりギザギザしてたり。
「ふむふむ、生き物のみならず、植生についても非常に興味をそそられるね。
私の記憶が正しければこれらの植物は全て、遥か古生代頃の地球で活躍していた植物達だ。」
「……やっぱりそう思う?」
実に不思議だ。
地球はとっくの昔に崩壊した筈なのに、何故こんな最近出来たばっかりの宇宙の星に、大昔の地球の生態系が再現されているのか。
「……単なる収斂進化による偶発的な空似なのか?
それとも、全く別の要因による必然的な現象なのか?
むむぅ、何にしろデータをもっと収集しなければ、何とも……ブツブツブツ。」
またもやツジが自分のワールドに入ってしまった。
「確か収斂進化って、場所は違っても環境さえ似てれば生き物は似たような形に進化するってやつだよな?」
「うん、そだねー。」
そりゃあ、この星の環境は大昔の地球とそっくりだ。
図鑑やテレビで見たのと酷似している。
「でもだからと言って、これは似過ぎだろ。
さっきの三葉虫(仮)といい、この植生といい、偶然にしちゃあまりにも…」
「あ、白狐ちゃん危ない!後ろ!」
「ん?ぶふぇッ!?」
カイちゃんの警告を受けて後ろを振り向いた瞬間、何か巨大な物体が顔面に衝突した。
その勢いで、盛大に尻餅をついてしまった。
「…な、なんだよ一体!?」
「白狐ちゃんに奇襲を仕掛けた不届きもの、かくほー!」
よろよろと起き上がろうとする私の視界の外で、カイちゃんが何かを捕まえたようだ。
「おおー!」
「凄い凄い!」
と、他の皆も感嘆の声を上げている。
何なんだよホントに。
「ったくもう、カイちゃん何を捕まえ……うおッ!?」
カイちゃんが両手で鷲掴みにしている衝突事件の下手人の正体を見て、私も驚かずにはいられなかった。
「それってさ………トンボ、だよね?」
「うん、超デカいトンボでした!」
そのトンボの体躯は、想像以上のビッグサイズだった。
小柄な私の身長の、半分くらいはあるんじゃなかろうか。
そんなヘビー級チャンピオン昆虫が、カイちゃんに捕まって大人しくしている。
「そ、そそそのトンボはまさかッ!メガネウラッ!」
メガネウラ、その名前は聞いたことある。
「メガネウラって確か、大昔の地球に生息してたっていう巨大トンボだよな?
地球史上最大サイズの昆虫で有名なやつ。」
「そうさ!間違いない!
こんな大きなお化けトンボが他にいてたまるか!」
衝撃的な発見が立て続けに起こった所為か、珍しくツジが冷静さを欠いている。
「まあまあ、落ち着いて。」
「ちなみにメガネウラの名前の由来に眼鏡は関係無く、メガース|(大きい)とニューロン|(神経)を合わせた言葉なのだー!」
冷静さを欠き過ぎて、ちょっとした蘊蓄を披露し出した。
「あーもう落ち着け落ち着け。」
「ちなみに、ネギトロの名前の由来はネギとトロではなく、マグロの中落ちから身を〝ねぎ取る〟のが訛ってネギトロという名前になったのだー!」
全然関係無い蘊蓄まで披露し始めた。
こいつは重症だ。
「いい加減、落ち着けぇぇ!!」
そう叫んだのは、私ではなくレンちゃんだった。
そう叫びながら、レンちゃんはツジの襟とズボンの裾に手を掛けて、思いっ切り背負い投げをぶちかました。
「えぇッ!?」
驚く私達。
背負い投げられたツジは少し離れた位置に自生している珍妙な形の木に叩きつけられ、ミシミシという不穏な軋み音と共に、ドサッと地面に倒れた。
「うわ〜……」
不変力のお陰で怪我はしてないだろうけど、痛みはしっかりと感じる筈だ。
めっちゃ痛そう。
「暴走状態のツジ姉は、こうでもしないと止まらないから。」
両手をパンパンと叩きながら、慣れた様子でそう言ってのけるレンちゃん。
いやそうかもしれないけど、流石にこれはやり過ぎなんじゃない?
「うぅ……ぐぐ…ありがとうレンちゃん。
お陰で目が覚めたよ……フフ。」
薄ら笑いを浮かべながら、足をガクガク振るわせつつなんとか立ち上がるツジ。
改めて言うけど痛そうだ。
それでも必死に取り繕おうとしている様は、やはり見ていて痛々しい。
「それにしても、ワタクシもツジさんと同様にこの星の生態系には大いに興味をそそられますね。
先程の三葉虫(仮)にメガネウラ、それにこの植生。
古代の地球に関してはワタクシも保全シェルターで知識くらいは学びましたが、その知識と合致する点があまりにも多いと思われます。」
「それには同感。
ほら、先に進んでもっと情報を集めよう!」
「わーい!」
◆◆
探索を始めてから数時間。
情報はいやという程見つかった。
と言うのも、やはりと言うか、見つかる生き物がどれも古代地球の生物図鑑に載っている生き物ばかりなのだ。
道中で発見した生き物を全てスマホで撮影し、一旦町に戻り、そこから更に移動する事にした。
そう、情報の宝庫である群馬の保全シェルターに。
「ようこそおいでませ、我が家へ。」
ツジが恭しくお辞儀をする。
ここへ来た回数も数え切れないほどなのに、飽きずに丁寧なお出迎えを心掛けているそうだ。
「ん、お邪魔します。」
「お邪魔しまーす!」
「あ、お邪魔します。」
それぞれ挨拶をして、中に入る。
長い廊下を抜け、図書スペースへの扉を開けた。
もう何度もここへは来てるけど、やはりここの景色は圧巻の光景と言えるだろう。
と、そんな事よりも目的を果たそう。
「さて、今回皆が我が家へ来た目的はズバリ、古代の地球に生息していた生き物の調査だ。
それらの本が多く集まっているエリアは、そこの通路を真っ直ぐに進み、突き当たりを右に曲がって更に進んだ先だね。」
「やっぱ凄いなツジちゃん、すぐに位置が分かるとは。」
流石は長い時間ここで司書を務めているツジだ。
ガイド端末や書類を参考にしなくても、求めている蔵書の位置を全て完璧に把握している。
でもまあ、何百億年もここで過ごしていれば、いやでも憶えるか。
「この図書館の本は、日本十進分類法によって分類されているからね。
本の数は膨大だけど、配置自体は意外と簡単に憶えられるよ。」
「………まあ、実は私もそこそこ憶えちゃってるんだけどなぁ。」
私も本を読むのは好きだから、ちょくちょくここへは遊びに来てるからな。
静かで広くて本も山ほどあるから、読書の環境としては最高クラスなのだ。
「さて、そんじゃ探すとしますか。」
⚪︎2人に質問のコーナー
カイちゃんが好きな虫は?
「蟻の巣観察好きかなー。
いつまでも見てられるよね!」
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