「よっし着いた!」
「……。」
私がカイちゃんを連れて来たのは、近所の海岸。
沖縄の海岸と比べると見劣りはするものの、シーズン中は立派な観光地だ。
勿論今はオフシーズン、真冬の海岸に女二人、修学旅行の時と同じ水着姿で立っている。
海岸沿いに車は数台停まってはいるけれど、水着で外に出てる奇人は私達だけだ。
寒そうに見えるけど、不変力によって体温を不変にしているから、どんな寒さもへっちゃらだい!
「こんな寒いのに水着なんて、アタシ達じゃなかったら狂気の沙汰だよぉ。」
「まあまあ、こういうのは雰囲気が大事なんだから。」
「そんな事言って、実際の所は合法的に外で服を脱ぎたいからじゃないの?」
「……何を馬鹿な。カイちゃんみたいな変態淑女じゃあるまいし。」
ハッキリ言って、図星である。
修学旅行で海水浴を楽しんだ際に私は、海でなら合法的に服を脱げるという事に気付いてしまった。
元々服嫌いで露出癖のある私が、野外で露出する事に禁断の興奮めいたものを微かに感じてしまった瞬間だった。
流石に近所をパンイチで練り歩くような犯罪行為はしないものの、海岸で水着になるくらいなら特に違和感も無く肌を露わに出来るので、たま〜に水着姿で海に行き、目立たないように一人遊びしている。
カイちゃんを含む、他の誰にも秘密の趣味だったから、バレたらなんか嫌だ。
別に悪い事をしてる訳じゃないのに、なんか嫌なんだ。
「でもまあ、カイちゃんにはあんまり隠し事したくないからなぁ。
白状するよ、私最近、水着で一人遊びしてるんだよね。たまにだけど。」
「そうなのッ!?アタシも誘ってよー!」
「いや、なんか、あまり人に知られたくなかったというか…」
「ウフフ、同じ変態同士、秘密は共有しましょうねー。」
「変態じゃねーって言ってんだろが!」
いつもと趣向を変えてカイちゃんのお腹を抓ろうとするも、スタイル良過ぎて抓れる贅肉が見つからず、不発に終わった。
このプロポーションお化けめ!
「さてと、お戯れはここまでとして、本題に入ろうか。」
「うん。正直言って、白狐ちゃんがここで何をするのか、皆目見当もつかないんですが。」
「フッフッフッフ、ならばこれを見て驚くがいいッ!」
「そ、それはッ!?」
ペッペカペーと効果音でも鳴りそうな感じで私が取り出したのは、ついさっき砂浜で拾ったガラスの破片だ。
元々はワインか何かの容器だったのか、薄汚れてはいるものの、ほんのり緑色で透き通っている。
「……それは?」
「俗に言う、シーグラスってやつだな。
海岸に落ちているガラスのゴミを拾い集めて、綺麗に洗浄、加工して、ネットなんかで売る仕事。
この仕事なら、基本的に人と関わる事が無いし、拾う時に合法的に外で服を脱ぐ事が出来る。
まさに、私にとって天職だと思うんだよ。」
「……!」
カイちゃんが、フルフルと震えている。
私の完璧な人生設計に、感動して打ち震えているんじゃないのかな?
「……白狐ちゃん。」
「ん?どしたん?」
突然、カイちゃんが絶望的な表情をしながら、私の肩を叩いた。
「白狐ちゃん、それは流石に世の中舐めすぎだよ。」
「はァ!?」
「あぁ、なんか急速に白狐ちゃんの将来が不安になってきた…。」
「いや、ちょっ、どういう意味じゃいッ!」
カイちゃんの目は、私の事を本気で心配している目だ。
クソッ!やめろ!そんな哀れみを込めた目で私を見るんじゃないッ!
居た堪れない気持ちになっちゃうだろ!
「どういう意味も何も、そのまんまの意味だよ。
白狐ちゃん、もう少し真剣に将来の事について考えよう?」
うぬぅ、なんかおふざけ無しの真剣な空気がこの場を支配している…!
でも、私にだって言い分はあるぞ!
「カイちゃん、確かにカイちゃんの言う通り、シーグラス拾いを本職にするのはあまり現実的じゃないかもしれない。」
「うん、まずはちゃんとした大学に進学するか、もしくは就職するか…」
「でも!よーく考えてみて欲しい!
私は、普通の人間と違うんだよ!不変の力で歳を取らないんだよ!
それ即ち、人外の域にいるって事!
いつまでも見た目の変わらない人間が、表立って仕事なんて出来るわけないだろ!?」
「でも…ッ!」
「ましてや私は見た目がまんま小学生並み。
こんな幼女を働かせるなんて、職場の皆さんにも迷惑を掛けかねない。そうだろ?」
「うう…ッ!」
よし、押し返せてる!
適当に思いついた正論もどきの言葉だけど、カイちゃんには効果があったみたいだ。
あともう一息だし、折角だから必殺技を使ってやる!
「カイちゃんッ!」
「うひえッ!?」
私は、おもむろにカイちゃんに抱き付く。
顔は見えないけど、めっちゃ動揺してるのが手に取るように分かるぜ!
「えッ!?なになにいきなりどうしたの白狐ちゃんッ!?」
このまま、涙目プラス渾身の上目遣いで、カイちゃんの顔をゆっくりと見上げつつ、必殺の台詞を言い放つ!
「私、いっつも強がってるけど、本当はカイちゃんがいないと生きていけないのッ!
お願いカイちゃん、社会に適合出来ない私を養って!」
私の実家は素封家だけど、お金に関してはシビアな面がある。
だから、大人になったら一人暮らしでもしながら働けとよく言われているのだけれど、実際のところ私には労働意欲など微塵も無い。
本音だと、永遠にぐうたらニート生活を満喫してたいのだ!
そして、不変力さえあれば、それが簡単に実現出来る!
「はい、喜んでッ!」
さっきまでの真面目な雰囲気はどこへやら、私の想定以上にクリティカルヒットしたらしい。
カイちゃんはキラキラと瞳を輝かせ、一筋の鼻血を垂らしながら、私を養う事を受け入れた。
しっかし、なんて幸せそうな顔してやがるんだ。
これなら私も、養われがいがあるってもんだ。
我ながら駄目人間過ぎる将来設計だと思ったけど、お互いにハッピーになれるんなら、それはそれで良いんじゃなかろうか?
「アタシが白狐ちゃんを養えるなんてッ!
なんて素敵なシチュエーション!最高の人生設計ッ!
一人で生きていく力の無い白狐ちゃんが、アタシだけを頼りにしてずっとそばに居てくれるなんて…ッ!
デュフフフ、おっとまた鼻血が。」
完全に妄想の世界にダイブしてしまい、一人でキモい笑いを浮かべている。
少し不安を感じるけれど、養って貰えるなら問題ない。
さて、学校の進路希望調査で、なんと書こうか。
◆◆
シーグラス拾いの次の日、私とカイちゃんはまた、昨日と同じように私の家でゲームをしていた。
「ねえねえ、白狐ちゃん。」
「んー?」
「アタシと一緒に、東京で暮らさない?」
「んー………んゔんッ!?」
突然のカイちゃんからの申し出に、飲んでいたお茶が喉の変な所に入って咽せた。
「ゲホッ、ゴホッ、ううぅ…、なんなのいきなり?」
「いやー、実は最近、東京にある有名なタレント事務所から、所属しないかってお誘いがきまして。」
「うそッ!?凄いじゃんッ!」
カイちゃん、マジか。
夢への道を着実に前進してるな、コイツぁ。
「うん、ありがとう。
それで、白狐ちゃんが良かったら、アタシと一緒に上京して欲しいなー、なんて。」
「ああ、オッケー。」
「…だよね。こんな事急に言われても、無理に決まってるよね。
アハハ、ごめんね白狐ちゃん。今のは忘れて。」
「は?オッケーって言ったじゃん。」
「え?」
「え?」
カイちゃんの目が点になりながら、ポカンとアホみたいに口を開けている。
「いや、軽いッ!」
私の軽さにビックリしたカイちゃんが、座っていた私のベッドから転げ落ちた。
⚪︎2人に質問のコーナー
カイちゃんの好きな偉人は?
「白狐ちゃん!」
「いや、だから偉人を…」
「白狐ちゃんッ!」
「……。」
読み終わったら、ポイントを付けましょう!