スペースシップ☆ユートピア

永遠の時を旅する2人の少女の愛の物語
千葉生まれのTさん
千葉生まれのTさん

115話・2205年目・もしかして疑われてる!?

公開日時: 2022年5月2日(月) 21:10
更新日時: 2022年6月26日(日) 21:52
文字数:3,066



「我々の故郷である村は、確かに10年ほど前までこの近くにあった。

数十人規模の小さな集落だったが、ある日野盗の襲撃を受けて呆気なく滅んだよ。」


昔を懐かしむような物言いのツジに、私とカイちゃんは衝撃を受けた。


「…や、野盗なんているの?」


「おや、君達の住んでいる場所にはいないのかい?」


「あ、いや、まあ……」


「?」


しまった、これも失言だったか。

私達の生活圏が汚染地帯のど真ん中にある安全地帯だと知られたら、色々と厄介な事になりそうだ。

ツジは頭良さそうだし、下手すればちょっとしたキッカケで不変力の事とかがバレかねない。


「それより、話の続きを聞かせて。」


なんとか話題を元の軌道に戻す。


「ふむ、露骨な話題逸らしのように聞こえるが、それはまた後で聞くとしよう。」


ギクリ。


「呆気なく滅んだ……と言うのは少し語弊があるかな。

実際には激しく抵抗した。

住人全員が総動員で戦い野盗側にも相当な被害が生じたが、結果的に住人は全員死んだ。

臆病風に吹かれて、当時まだ赤ん坊だったレンちゃんを連れて逃げた、私達2人を除いてね。」


「…ツジ姉は臆病者なんかじゃない。」


「…フッ、ちょっとお喋りが過ぎたかな。」


場の空気が、更に微妙な感じになる。

軽薄そうに見えるツジだけど、思ってた以上に重い過去があるみたいだ。


「まあ、その戦いの結果、この周辺の野盗も殆どいなくなり、平和にはなった。

この山林は四方を汚染地帯に囲まれているから、外から不埒者が入ってくる事も無いからね。

私とレンちゃんの2人で、平穏を享受させて貰っているよ。」


そうか、ここも私達の町と同じような環境下にあるのか。

周囲が汚染されてるからこそ安全だなんて、本当に皮肉な話だ。


「そうだ、質問の続き。

2人が集落出身なのは分かったけど、今現在はどこに住んでるの?」


私の質問を聞いて、レンちゃんは再び不機嫌そうな表情に戻り、ツジは「ふむ。」と顎に手を当てて何か考えている。




「……そうだね、雲の上に住み、霞を食んで生活している……と言えば信じてくれるかな?」


「いや、信じる訳ないだろ。」


仙人かよ。

どうして急にそんな嘘をつく。


「だろうね。

申し訳ないけど、その質問については黙秘権を行使させて貰うよ。

別の質問に切り替えてくれたまえ。」


「え!?」


どういう事だ?

あんなに質問ウェルカムだったのに、何故か住居を秘密にしようとしている。

理由が不明だ。

自宅に何か見られたくない物でもあるのか?


「白狐ちゃん、別の質問してあげよ?」


「…あぁ、うん。」


「気を遣わせてしまって済まないね。」


自らの辛い過去はあっさり吐露したのに、住居については固く口を閉ざすという謎の姿勢を不思議に思うも、カイちゃんに諭されて追求するのはやめておいた。

誰にだって、秘密にしたい事はあるもんな。

空気を読んでおこう。レンちゃんの視線が怖いし。




「えっと……じゃあ、2人は普段何食べてるの?」


3つ目の質問になって、ツジはニヤリと笑った。


ていうかミスったな。

3つ目の質問なんて特に考えてなかったから、つい当たり障りの無い質問になってしまった。


「そうだね、この群馬の森には、実に多くの生物が生息しているのだが、主に獲れる動物と言えば、兎や鹿、猪あたりだね。

普段から主食として、それらをステーキにして美味しく齧り付いているよ。

あとは、この辺は植生も豊富だから、山菜も沢山採れるね。

今度、オススメの山菜を教えてあげよう。」


「ほほう、なるほど。」


ステーキか、ジビエ料理は美味しそうだ。

山菜もあんまり食べた経験が無いから、ちょっと楽しみだ。


「ちなみに動物を狩るのはレンちゃん担当で、私は山菜集めに精を出しているよ。」


ふむふむ、実に面白そうな話ではあるけど、もっと大事な事を聞くべきだったな。




「さて、そろそろ我々が質問する番でも構わないかな?」


「あ、はい。」


多少は情報を聞き出せたし、まあいいか。


「聞きたい事は山ほどあるけども、まずはこれだな。

君達は、本当に南の方から来たのかい?」


いきなり、私達の素性を探る為の質問だった。

ま、そりゃあ気になるわな。


「そうだよ。」


カイちゃんが答えた。


「私が子供の頃、南方から私の住んでた集落に移り住んで来た住人が居てね。

彼が言うには、南の〝チバ〟なる地域は特に汚染地帯の拡大が酷く、とても人が住めるような状況ではないらしい。

まさか、そんな魔境から遥々やって来たというのかな?」


「……。」


流石のカイちゃんも、答えづらそうにしている。


「ふむ、どうやらお互いに重要な隠し事があるみたいだね。

まだ話すつもりは無い、と?」


「それは…」


カイちゃんが、助けを求めるような視線を私に送ってくる。

私達が千葉県のど真ん中に住んでいると明かすのは、イコール不変力の存在を明かす事にも繋がりかねない。

あんな所、人間どころかあらゆる生物が近付く事すら出来ないもんなぁ。


でだ、カイちゃんが私にアイコンタクトで救援要請している理由は、不変力の事を明かすかどうかの決定権が私にあるからだ。

だから、ツジとレンちゃんに正直に話すかどうか、決めてくれという事だろう。


私の答えは既に決まっていた。





「分かった、話すよ。

ただし、条件がある。」


「ほほう?」


私の言葉に、ツジは興味津々なご様子だ。

さっきまでずっと此方を睥睨していたレンちゃんでさえも、少し興味を持ったかのように真剣に聞いている。


「私達の秘密を明かす交換条件として、そっちの秘密も聞かせて欲しい。

じゃないとフェアじゃないでしょ?」


「うむ、確かにその通りだ。

そちらの秘密とやらが、我々のと比較対象になればの話だがね。」


…なんか、秘密自慢合戦みたいになってきたな。

取り敢えず、どっから話すべきか。










◆◆



結局、不変力についてはカイちゃんが説明してくれる事になった。

マイ彼女の理路整然たる完璧な説明を聞いても、やはりと言うか2人は理解出来ていない顔をしている。

口頭だけで伝えるのは流石に無理があるので、私が実演してみせる事にした。


「ほら、こんな感じです。」


遥か昔、カイちゃんに初めて見せた時みたいに、私はレンちゃんから借りた石槍の先端で、自身の腕を傷付ける。

多分頭のいかれた変態女だと思われたかもしれないけど、それも一瞬。

みるみるうちに塞がる傷を見て、ツジもレンちゃんも絶句していた。


「これでも軽い方だよ。

もっと不変力を強めると、傷すら付かなくなるから。」


「……驚いた。

いきなり不変力だなんて眉唾な事を言い出すから、気でも狂ったのかと思ったけど……いやはや。」


「……有り得ない。なにかトリックがある筈だ!ペテン師め!」


感心するツジとは裏腹に、レンちゃんは不変力を目の前にしても信じず、攻撃的に疑っている。


ペテン師呼ばわりは流石に傷付くなぁ。


「白狐ちゃんはペテン師じゃないッ!」


「五月蝿い黙れ!非科学的なんだよッ!

そんな便利でご都合主義な能力、現実にあってたまるか!」


「なにを〜!」


「まあまあ、どうどう、2人とも落ち着いて。」


「そうだ、今は話し合いの場だよ。

我々は文明人、暴力沙汰は御法度だ。」


一触即発な雰囲気のカイちゃんとレンちゃんを、私とツジの2人で宥める。

こんなに感情的になってるカイちゃん、初めて見た。

私の能力を否定されたから怒ってくれるなんて、可愛い奴め。

2人とも大好きな相手に宥められたからか、睨み合いながらも大人しく退いてくれた。






「…さて、しかしレンちゃんの意見にも一理あるのは確かだ。

疑惑の目を向けるようで心苦しいが、尾藤ちゃんが稀代の大奇術師という可能性も捨て切れない。

もう少し確定的な証拠が欲しいというのが正直な意見だね。」



⚪︎2人に質問のコーナー


白狐ちゃんが行ってみたい景勝地は?


「景勝地って、景色が良い所だよな?

王道だけど、ウユニ塩湖とか一回見てみたいな。」

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