スペースシップ☆ユートピア

永遠の時を旅する2人の少女の愛の物語
千葉生まれのTさん
千葉生まれのTさん

2話・1年目・恋愛なんてもんは!

公開日時: 2021年3月31日(水) 16:39
文字数:2,991



恋愛?そんなの意味が分からない。

何故貴重な自分の時間を費やしてまで、他人の為に気を遣ったり、遊園地や水族館にデートに行ったりしなけりゃならないのか。

結局あれだろ、相手とえちえちな事したいだけだろ。

そんな動物的本能に身を任せただけの脳死的な行動をするより、自分の時間をいかに自分の為に使うか考えた方が、遥かに有意義で、自分らしく、そして自分の為に生きていると言えるのではないだろうか。

故に、私は恋愛というものが分からない。

あんなにも非合理的で面倒な事など、私には到底理解出来ない。



まあ、要は何を言いたいかというと…。



「お願いします!一目惚れなんです!付き合って下さい!」


このクラス一のマジモテギャルに、愛の告白をされるという、この状況。

これ、どう対処すればよろしいんでしょうか?

私なんかの矮小な脳味噌じゃあ、まるで分かんないやエヘヘ。



「どどどどどうなんですか!?ああアタシの気持ち、受け止めてくれるんですかッ!?」


いやだからお前が吃るな!そして汗ばんだ手で私の両手を握るな!

必死なのは分かったから!

今この場で一番パニックなのは私なんだよォ!


「う、受け止めるってそんな。大体なんで私なんか…。

そう、理由を教えてよ理由。どう考えても、山岸さんが私を好きになる理由なんて、一つも思い浮かばないよ。」


興奮状態の山岸を宥めるように、私は諭すように言った。

なんか相手が熱くなり過ぎてる分、私は多少冷静になれたみたいだ。

さっきと立場が逆じゃないか、オイ。


「…そうだね、ごめんなさい。深呼吸、深呼吸。」


スー、ハー、と深い深い深呼吸を三回。

ふうッ、と息を吐き出してから、少しは落ち着いてくれたようだ。



「…アタシが尾藤さんを好きになったのは、入学式の日、クラスでの自己紹介の時。

キョドりながら過呼吸気味に自己紹介をしていた貴女を見て、見惚れてしまい、思ったの。」


え?今のどこに見惚れる要素あった?

つーかあれは私にしたらマジモンの黒歴史なんだよ!

コミュ障に30人のクラスメイトの前で自己紹介させるなんて、打ち首獄門にされて生首晒された方がまだマシだわ!喋らなくて済むし。

担任の正気を疑うね。



「この人は、アタシの理想の幼女だとッ!」




「あ?」



「そして、アタシの事を思い切り踏み付けて罵ってくれる、理想のSだとッ!」




「あ゛ぁ?」




おっとしまった、思わず低音ボイスで返事してしまった。

うーん、今日の私は随分と聞き間違いが多いなぁ。

この歳で難聴の疑い有りなのかな?



「アタシねッ!尾藤さんみたいなッ!超絶可愛いロリっ娘にッ!イジメられるのがッ!昔からの夢だったのッ!

フゥ〜、フゥ〜、だからッ!お願いだからアタシの恋人になって、毎日毎日アタシを罵倒して欲しいのッ!鞭でしばき回されて、尾藤さんの惨めな愛玩動物になりたいのォ!」



いやいやいやいやオイオイオイオイ!

ヤバいヤバいって鼻息荒いし!何なんだコイツはぁ!?

さっきより興奮してるぞ!

え?この人本当にあの山岸海良だよね?カーストトップの!

そっくりさんじゃないの!?ドッキリじゃないの!?

イメージ総崩れなんですけど!?



ただのドMじゃねえか!



「ていうか幼女ってなんだオイ!」


私はお前と同じ高校生だよ!と心の中で思ったつもりが、声に出ていた。

しかも、手も出ていた。


「あひんッ!」


私に頭を引っ叩かれ、犬みたいな動作で地面に横転する山岸海良。

それも、恍惚そうな表情を浮かべて…


「もっと、もっと下さいィ…!」


とか言ってやがる。

いい加減にしろ、私はそっち側の人間じゃない!



「はぁ?もっと下さいじゃねえよ。

そもそもお前、犬だろ?ご大層に日本語喋ってるんじゃねえよ!

ほら、這いつくばってキャンキャン馬鹿みたいに喚いてればいいんだよ、お前みたいな雌駄犬はッ!」


「キャッ、キャウーン!キャンキャーン!」


フン、本当に頭の弱そうな駄犬みたいに喜んでやがる。




……あれ?

私は今、何を言ったんだ?

自分でも信じられない程、山岸を罵倒する台詞がスラスラと出てきた。


「いや、違う!私にはそんな才能なんて…!」


「あるのッ!それを見抜いたからこそ、アタシは尾藤さんに惚れたの!」



……頭が痛くなってきた。

何なんだよその理由!どこでどうやって見抜いたんだよ!


「…返事は、今すぐじゃなくてもいいから。

でも、どうか、前向きな検討をお願いします。」


緊張が戻ってきたのか、山岸の声が尻すぼみに小さくなっていく。

そのまま俯き気味に走り去ってしまった。



「あぁ……。」


一人取り残されてしまった私は、巨大台風で何もかも吹き飛ばされた町の跡地に立ち尽くすかのような気分で、しばらく放心状態になっていた。










◆◆



「あぁ……。」


学校から家に帰るまでの記憶が、非常に曖昧だ。

山岸の一件で私の脳は山岸色に塗り潰され、今日起こった他の記憶がポーンとすっ飛んでいる。


興奮状態のアイツの目は恐ろしかった。

雌駄犬どころじゃない。発情期の大型野犬だ。

怖いしキモいし、ドン引きだった。


けど…




「…滅茶苦茶可愛かったな。」


ポツリと呟いた言葉に気付き、ハッとする。

いやいや、そりゃあ可愛いのは当然だよ。カーストトップのイケイケ陽キャJKなんだから。

無頓着な私と違って、お洒落やらメイクやら流行やら、色々きちんとしてるんだろうし。


だから今のは、「リンゴは赤い」って言うのと同じで、ごくごく当たり前の事を自然に呟いただけに過ぎない。だからノーカン。

私もアイツに惚れたとか、そういうのじゃないから!全然!


そもそも、もし仮に私とアイツが付き合ったとしても、住む世界も価値観も違い過ぎるだろ。

何度も言ってるけど、山岸はクラス一の人気者でアルティメット陽キャ。

片や私は、ちんちくりんのコミュ障陰キャのヲタク。


上手くいくビジョンが見えなさ過ぎる。



「あぁ……。」


私は自分の部屋の扉を開け、手早く制服を脱ぎ散らかしてパンツ一丁になる。

これぞ私のフォーマルスタイル!ドドンッ!


「……。」


気分転換に、甘い物でも食べながらパンイチでゲームしてよう。

そうして余計な雑念を振り払い、全てを忘却の彼方に追いやってしまおう。



「さて、ゲームゲーム。」


今日は、今進めてるRPGのレベル上げでもしよう。

と、ひたすらゲームに没頭する。

今日は学校では何も起きなかった、いつも通り平和な一日だったなぁ。


いつも通り授業を受けて、休み時間は寝て、ホームルームも適当に聞き流して、山岸に告白されて、SMプレイをして…



クソッ、どうしてもあの女が思考回路を侵食してくる!

駄目だ駄目だ、気が散るゥゥゥ!!



「があァァァァッッ!!」


気が付いたら、ゲームのコントローラーを放り出して、床に転がりながら悶絶していた。


「あーもう、何なんだよアイツは…!

頭の中から出てけよ馬鹿ぁ!」


行き場の無いモヤモヤした感情を少しでも発散する為か、クッションをボスボスと殴る。



今まで感じた事のない、この感情の正体は、一体何なのか?

世間一般で言うところの、〝恋〟ってやつなのか?


馬鹿馬鹿しい、今日初めて話した相手だぞ!

第一私は、恋愛なんて面倒なものに、露ほどの興味もない!


「うん、明日キッパリと断ろう、そうしよう。」


私なんかに一目惚れなんて、どうせ一時の気の迷いに違いない。

悪いけど、私は一人で居たいんだ。



それに私は、大事な人というのを極力作りたくはない。

そんな事をしたら、後で絶対に後悔する羽目になる。

絶対に辛い気持ちになる。



だから…




だから……ッ!



⚪︎2人に質問のコーナー


山岸さんの好きな食べ物は?


「コンビニスイーツとか好きだなー。あと牛もつ煮込み!」

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